電遊研の日常 文化祭準備編
(=ↀωↀ=)<七月七日はレイ君の誕生日
(=ↀωↀ=)<この日は電遊研SSを投稿するのが恒例になってきた気がする
□椋鳥玲二
夏の暑さも終わり、涼しくなってきた十月。
うちの高校では来月の文化祭の準備が推し進められていた。
うちは学生が主体となって出店や出し物をするよくある文化祭だ。
なので、電遊研も部内で文化祭について相談しているのだが……。
「リアル脱出ゲーム! 脱出できなかったら地獄の罰ゲーム!」
「敷地の割り当ては人数比だ。七人しかいない我々では、大規模なアトラクションに適したスペースは貰えないだろう。何よりお客さんを苦しめようとするなフォレスター」
「デッキ構築占いはどうかしら」
「部長……それは部長しかできませんので部長がフルタイムになりま「やめましょう」……はい」
「…………」
「副部長、なぜ射的の企画書類に描かれた的が人型目標なのでしょうか? あと、その手に持っている銃はまさか実物ではありませんよね……?」
「キス屋しかありますまい」
「風紀を考えろ加田」
部内の奇人変人達の挙げる謎企画が棟上先輩に切り捨てられていく。
……うん。来年の部長はきっと棟上先輩だな。この部で一番しっかりしてる。
ともあれ、未だ問題のない企画は出てこない。
「……椋鳥と加賀谷は何かないか?」
他の部員の企画に頭を痛めていた棟上先輩は、まだ案を出していない俺とうららに話を振った。
「無難に食べ物系でいいんじゃないですか? お団子とか」
「うーむ……」
棟上先輩は俺の言葉になぜか悩み、加田とモリモリ先輩が『みたらしでござるかな?』、『みたらしアピールよね』と囁きあっている。
いや、アンコとか三色もあるだろ、団子。
「椋鳥の案は悪くない、悪くないのだが……あまり無難すぎてもダメなんだ」
「無難でダメって……何でです?」
「それは……」
「私達が電遊研だからよ」
棟上先輩への俺の質問を、部長が横から引き取った。
「うちの部はeスポーツに関しては国内最高峰の結果を残しているわ。それこそ、学校が宣伝に使うくらいに」
「そうですね」
二年前に部長が立ち上げた後、電遊研は国内どころか世界大会でも結果を残した。
個人種目に関してはプロにも勝っている。
「うちの部が有名だと文化祭で何が問題なんですか?」
「有名だからこそ、ある程度は面白みがないとダメなのよ」
面白み?
「先進的とか独創的とか、言い方は色々あるけれど。私達くらい有名だとそういうのも外から求められるの。ほら、文化祭の様子とかホームページに載せるでしょう? SNSで拡散もされるでしょうし」
「あー……」
所謂、有名税という奴か。
「なるほど……。ちなみに去年はどうしたんですか?」
「部員の得意ゲームで挑戦する催しを開いたわ。生徒なら『勝てたら入部を許可する』ってルールでね」
eスポーツの強豪らしいと言えばらしい催しだ。
しかし、それで入った部員はいないので、結果は死屍累々だったのだろう。
「今年もそれじゃダメなんですか?」
「……ゲームイベントはeスポーツ部が先に申請してしまってな」
「そもそも、うちは去年混雑しすぎて捌ききれなかったのよ。それもあって通らなかったのよね」
まぁ、そういうのは人数多い部活の方が滞りなく進められそうだよな。
部長のあれこれを考慮しても通らないということは、去年は本当に大変だったのだろう。
それなら仕方ない。
あと、eスポーツ部が先に申請していたというのも分かる話だ。
「連中、また対抗心出してきたわね……」
モリモリ先輩が溜め息を吐くが、俺も似た気持ちだ。
なにせ、電遊研はeスポーツ部に目の敵にされているからだ。
先に述べた通り、電遊研は設立一年目から部長と副部長が華々しい結果を出したため、この部に入ることを望んでこの高校に入学した生徒も二年や一年には多い。
しかし、電遊研は部長が少数精鋭……という名の遊び相手しか入れなかった。
その選り好みが許されるだけの実績とバックと話術を部長が持っていたので、電遊研の部員は二年経った今でも俺達七人のみ。
そのため、eスポーツの道を志しながら電遊研に入れなかった生徒達は、自分達でeスポーツ部を新設したのである。
人数はあちらの方が何倍も多く、チームプレイを要求されるゲーム大会ではあちらの方が結果を残している。元々eスポーツに本気な生徒も多いので強いのだ。
そんな彼らは、今でも部長に入部を蹴られたことを根に持っている。
なので部員の俺達は睨まれるし、挑まれる。
先日も格ゲーで挑んできた先輩の相手を俺が務めたが、10タテしたら『いつか絶対にアンタを倒して、そして……、そして…………、そ、その首洗って待ってなさいよ!!』と怒りに震えながらリベンジを誓われた。
そのくらいにうちの部は敵視されているし問題視もされているが、結果で黙らせているのが現状だ。
……まぁ、部長の方針に思うところはあるが、俺もこの面子の方が落ち着くので何とも言えない。
「つまり求められているのはゲームイベントの代替としてゲーム関連の部活っぽくて面白くて独創的でこの人数でも回せる企画案、ってことですか?」
「そうなるわね」
中々にハードルが高く、振り返るとモリモリ先輩案の脱出ゲームが案としては沿っていたことに驚く。加田はステイ。
さてどうしたものかと頭を捻っていると……。
「ミスコンとかどうかしらー?」
これまで沈黙していたうららが挙手と共に案を出した。
「「「ミスコン?」」」
俺を含めた数人が、鸚鵡返しに聞き返す。
それくらい、予想していなかった企画だ。
「ミスコンとなると……またモリモリ先輩の残念な乳首隠しリボンやバニーを衆目にお見せするので? 罰ゲームでは?」
「ぶっ殺すわよ加田ァ!!」
いつもの。
「そもそもミスコンはもう放送委員会の方で企画が出ているが……」
棟上先輩がそう言うと、うららは「チッチッチ」と指を振り……。
「実際の人間ではなくて、アバターのミスコンよん♪」
「アバター?」
「ほら、キャラクタークリエイトの自由度が高いゲームってあるじゃなーい?」
「まぁいくつか思い浮かぶな」
最近はキャラクリガチ勢がゲームごとにアバター作ってるのも横で見ていた。
『ファンタジーとかSFとか歴史物とか、ゲームごとに使えるファッションに違いがあるのよねー』と言いながら色んなゲームでクリエイトしていた。
「そ・こ・で♪ ゲーム問わず、自キャラのアバターの外見データ画像を応募してもらうわー。その画像を展示して、生徒の投票を集計。一番美しいアバターを決めるのよん。学籍番号で一人一票って感じねぇ」
着飾らせようと思えばある程度はゲームで遊ぶ必要もあるだろうな。
また、催し自体にはそこまで人手がいらないので俺達で回せるだろう。
ゲーム部らしく、面白みもある。
「投票で一位になった人にはトロフィーと……後日優勝したアバターをそこの3Dプリンターでフィギュア化して贈呈とかどうかしら? 彩色はあたしがするわん♪」
「うららは手先が器用だからな」
ネイルアートや小物も自作してるし。
「惚れ直しても良いのよん♪」
「一度目すらまだなんだが?」
直すも何もない。
そもそもお前は…………まぁそれはいいか。
「いけずねぇ……そこがいいけど♪」
「しかしアバターの出来の良さを競うならうらら殿の独壇場ではありませぬか?」
「だからあたしは殿堂入りねん。あたしのアバターが最も美しいのはこの世の摂理。勝負にならないものー」
自信満々だけど、言うだけのことはあるからなこいつのアバター。
キャラクリのスライダーの範疇のはずなのに美術品みたいに目を惹くというか。
「それで、どうかしらー?」
「……他に良い案もない。加賀谷の案で一度提出してみよう。構いませんか、部長?」
「ええ。面白そうだもの」
棟上先輩が頷き、部長もニコニコとした顔でOKを出した。
となると、恐らくこの案で決まるだろう。
そんなに忙しい展示にもならなさそうだし、これならクラスの方の出し物も問題なく手伝えそうだ。
高校生になって初めての文化祭は、思っていたよりも穏やかに楽しく過ごせそうだ。
◇◇◇
……まぁ、そんな想定が甘すぎたことを、翌月の俺は思い知ることになるのだが。
To be continued
〇椋鳥玲二
(=ↀωↀ=)<入学から約半年
(=ↀωↀ=)<既にあだ名が『みたらし』になっている
〇うらら
(=ↀωↀ=)<キャラクリガチ勢
(=ↀωↀ=)<アバターだけでなくリアルの自分の容姿にもとても気に掛けている
(=ↀωↀ=)<後の……
〇電遊研
(=ↀωↀ=)<一年三人はこの時点で結構仲良しトリオ
(=ↀωↀ=)<この後に留学生が加わってカルテットになる
〇eスポーツ部
(=ↀωↀ=)<学園ものだったら電遊研のライバルだった部活
(=ↀωↀ=)<色んな校内イベントで激突する
(=ↀωↀ=)<全員部長の被害者とも言えるが
(=ↀωↀ=)<一部は玲二くんやうららによる被害()も二重に受けている
〇文化祭
(=ↀωↀ=)<文化祭当日の様子はまたいずれー




