SS 税制と歴史
(=ↀωↀ=)<本編準備中なのでSS投稿
(=ↀωↀ=)<質問への回答をベースに色々情報足してSS化
□【聖騎士】レイ・スターリング
「そういえば、王国の税金ってどうなってるんだ?」
ある日のこと。
本拠地の食堂でみんなと雑談をしていた俺は、ふと気になった疑問を口にした。
「税金ですか?」
俺の言葉にふじのんが問い返し、イオ達も首を傾げる。
俺も彼女達もリアルでは日本の学生。消費税くらいしか税金に縁はない。
しかし、このアルター王国で生活していて消費税を取られたことはない。
それでも国である以上、どこかで税金を集めなければ成り立たない。
税金とは国という巨大組織の食事であるからだ。
『食事……』
ネメシス。いま正に昼食の真っ最中なのに心の声に反応してよだれ垂らすな。
と、話を戻そう。
「俺達も今はこんなデカい本拠地構えてるけど、税金払えって言われたこともないしさ。どういう風に税金集めてるのかなって思ったんだよ」
住民税とか取られないんだろうか?
「基本的に<マスター>は免税事業者ですよ?」
そんな俺の疑問に、マリーがあっさりとそう述べた。
「へー……って免税事業者!? <マスター>って事業だったの!?」
あと収入デカい人も多いと思うけど免税でいいの!?
「まぁ、ちょっと違うんですけどねー。税金を払わなくていいというか……労役で払っているので」
「労役?」
「モンスターの討伐っていう命の危険がある仕事に嬉々として参加してるじゃないですか」
「あー……」
普段のレベル上げや素材集めが国的には過酷な労役扱い、と。
言われてみれば<マスター>でなければ死んでたってパターンも多い。
「でも<マスター>がみんな戦ってばかりじゃないだろ?」
戦うのが苦手で生産や商売だけしてるって人もいるし。
「それでも基本的には免税ですね。これが莫大な金額を動かす商売や、ティアンを大量に抱えた商業クラン運営なんかだと話は別ですが」
「ああ……知り合いに一人、そういう立場になった人がいますね」
マリーの言葉に先輩が「エルドリッジ、また仕事増えていそうですね」と遠い目をしながら呟いている。
ティアンを抱えた商業クランか……フランクリンあたりもそのパターンかな。そもそも兵器産業にがっつり絡んでる奴だし。
「そもそも<デスピリ>は生産に従事しているのが一人しかいませんしティアンも関わっていませんから縁遠いですね」
「一人?」
「ポップコーン」
「あー……」
そうか……。兄のあれはたしかに直球の生産&商業活動だった。
流石にポップコーンで莫大な金額というのも難しいだろうから税金は取られていないだろうけど。
しかし住んでいても多少商売していても税金が掛からないとは、随分と<マスター>が優遇されている。
「そんな訳で、王国で普段生活する分には税金を気にする必要はないですね。商売を始めるときには関連したギルドから色々説明がありますけど」
「なるほどな。……ちなみにドロップの売却は商売になるか?」
さっき莫大な金額を動かす商売は話が別と言っていたが、俺も鯨から入手した金属の粉を魔王骨董品店に売ったらヤバい額になったんだが……。
「戦闘行動で得たものは金額が大きくても免税の範疇ですね」
「セーフ!!」
後からデカい追徴課税掛けられる心配はなかったらしい。
ドロップ品無税なら今後も何かあればあそこに売ることは可能なようだ。
そういやあの店主さん、「私達も作ってみたいものがあるので丁度良かったですね。あとは動力炉があればいいんですけど」とか言ってたな。
商人以外に生産系のジョブも持ってたのかな?
「王国含めて大体の国の<マスター>関連の税制はこんな感じです」
「ちょっとガバく見えますね!」
「そうだな」
イオの言葉に頷いてしまう。助かってはいるけれど。
やろうと思えばティアンがマネーロンダリングに<マスター>を利用することも可能な気がする。
「とはいえ、王国に限らずデンドロの税金徴収は健全且つ正確ですよ。関連した計算を行うジョブもありますし、脱税もできませんからねー」
俺達の疑問に答えるようにマリーはそう述べた。
「それって《真偽判定》か?」
「はい。意図的な所得隠しは速攻でバレますからね。あと複雑な申告も関連したジョブスキルで半自動的に行われますし」
戦闘系以外のジョブスキルって便利なの多いよな。
まぁ、リアルでも最近の確定申告は会計ソフト会社の管理AIが自動的にやってくれるらしいけど。
ともあれ不正はやり辛いしすぐバレるようだ。……リアルみたいに所得や赤字隠しの粉飾決算事件みたいになりそうだな。
「まだまだ穴はありそうですけどね。<マスター>関連の法自体が一応用意していたものを使ってる段階ですし」
「そういえば、ティアンにしてみれば数年前のサービス開始から急に<マスター>が増えたんだものな」
それ以前は推定ベータテスターなトムさん達くらいしかいなかったそうだし。
……これも多分、料理とかと同じでマスターが馴染みやすいように予め流布されたものの一つなんだろうな。遊戯派などは税金のことまで考えてプレイしたくはないだろう。
それにデンドロのプレイヤーは幅広いので、リアルに寄せすぎると小学生でも確定申告に追われることになる。……迅羽あたりなら普通にできそうだが。
「今後また時間が経てば税制含めて改革されるかもしれませんけどねー」
「住民税あたりもいずれ変わるかもな」
「ですね。ただ、<マスター>ってモンスターが徘徊する世界でも平気で街々を移動するし、頻繁に住居変えるし、リアルと行き来したり長期ログアウトしたり引退したりでその辺の税金も掛けづらそうですけどねー」
「まぁ根本的にこの世界にルーツがない根無し草だからな……」
俺も暫くは宿屋暮らしだった。
<マスター>に住民税が掛からない理由はそれもあるか。
しかし特定の街に根付く<マスター>も増えているのだろうし、変化はいずれ来るだろう。
「というかですね。レイさんはまずギャンブルで儲けた分の税金掛かるのでは?」
……………………やっべ。
「……王国の一時所得っていくらまでだ?」
「いくらだとしてもレイさんの儲けならぶっちぎってますよね?」
マジかよ。これからギャンブルの追徴課税くるの?
「ああ。それなら大丈夫だよ。ギデオンの闘技場の払戻金は予め税金分が引かれたオッズだから。そもそもギデオン伯爵家は都市の生業である決闘関連の税金はあまり高くしていないしね」
「セーフ!!」
フィガロさんの補足説明に胸を撫で下ろした。
それはそれとして税金は安くとも、入場料金とボックス席なんかの特別料金と胴元と税金で多重に徴収してるあたりギデオン伯爵家も中々である。
西方交易の中心地なのもあって、お金持ちにもなるというものだ。
流石はギデオン伯爵家といったところ、……?
「どうしたんです?」
「いや、今の話とは関係ないんだけどさ。ギデオン伯爵家って何で伯爵家なんだろうな、って」
基本的に貴族階級は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵であり、王国もそれは同じ。
ギデオン伯爵家は領地の規模や経済力は王国でも随一で、経済面の対抗馬は港を持つキオーラ伯爵家くらいだ。
では歴史はどうかと言えば、建国以前から続く由緒正しい家柄であり、そもそも初代国王の正室が都市国家時代のギデオン家の姫……当時の【超闘士】である。
家の力も歴史も血筋も、アルター王家を除けば王国では最上位と言っていい。
なのにどうして公爵ではなく、貴族階級では上から三番目の伯爵なのかと疑問に思っていると……。
「公爵家だった頃もあるけど大昔にやらかして降爵されたって聞いたよ」
フィガロさんはあっさりとそう述べた。
「何があって二段階も!?」
「取り潰しじゃないのも謎ですね!」
イオと共に疑問を叫んでしまう。
おい、何があったんだよギデオン家。
「あー、それはですねー……。大昔に【超闘士】だったギデオン家の令嬢が当時王位継承権一位だった王子を攫って駆け落ちしたらしいですよ?」
「駆け」
「「「落ち……」」」
続くマリーの言葉に、聞いていた者は揃って呆気にとられる。
……大貴族の令嬢の方が王子連れて逃げたのか。
いやまぁ、アズライトやエリザベート見てるとそのくらいの行動力はありそうだが。
ていうか、また【超闘士】輩出してたのかギデオン家。
「流石に音沙汰なしにする訳にもいかない事件ですし、ギデオン家の方も自分達から厳罰を申し出て、結果として伯爵位への降爵になったと。まぁ、大問題とはいえギデオン家を潰すとさらに問題起きますし、ある程度の爵位は残さないと後が大変なのでそうなったというところでしょうね」
「あー……」
残されたギデオン家の人達は大変だったろうな。
……しかし、昔から苦労人の一族だったのか、ギデオン家。
「ちなみに駆け落ちした令嬢と王子は?」
「その後は見つかってませんね。この逸話をモチーフにした童話だと『二人は末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし』ですけど」
その絵本だと王家とギデオン家が悪者扱いになってそう……よく出版できたな。
「…………」
と、この話を聞いたルークは何かを難しい顔で考えこんでいるようだった。
「どうしたんだルーク?」
「……いえ、何でもありません」
そうか。
しかし、身近な疑問から住んでいる街の過去まで色々と明らかになったな。
俺もまだまだこの世界について知らないことが多い。
「落ち着いたらそういう情報ももっと仕入れないとダメかな……」
「そうだのぅ……」
俺がそう呟くと、ネメシスも隣で難しい顔をしていた。
そして……。
「とりあえずギデオンのまだ見ぬ美味しい食事処をリサーチしてほしい」
「お前は本当にブレないよな……」
いつものネメシスでオチがつき、俺はネメシスを連れて二度目の昼食に向かうことになった。
◇◇◇
(レイさんには、ああ言ったけれど……)
(駆け落ちしたのは当時の王位継承権第一位の王子)
(その血筋が現代まで残っていた場合……王位継承権はどうなるんだろう?)
(……杞憂で済めばいいのだけれど)
Episode End




