Dead by Eyesight ③
(=ↀωↀ=)<二話分くらいになったけどそのまま投稿してしまえ
□■<トライ・フラッグス>三日目朝・王国某所
エトヴァスの首が宙を舞う。
エトヴァスの首を落としたのは、リアルの彼と然程変わらない年頃の少年。
この戦争で既に十を超える皇国の準<超級>を葬った、準<超級>の中の規格外の一人。
王国最速――“断頭台”【抜刀神】カシミヤ。
エトヴァス同様、カシミヤは遊撃戦力として皇国の猛者を狩り続けてきた。
カシミヤのやることは変わらない。
《神域抜刀》の速度を得た《鮫兎無歩》で肉薄し、一斬で以て確かめる。
これが勝負の相手となるか、奇襲で倒されるだけの敵であるかは一斬の後に分かること。
かつて講和会議で交戦したクロノのような相手を、カシミヤは求めていた。
しかし、そんな手合いは多くない。殆どは一斬で【ブローチ】を割られ、続く二撃目で首を斬られ、そこで初めて自分が襲われたことに気づく。
そして、エトヴァスも不適格と言えた。
エトヴァスにとって不幸だったのは、先に王国のパーティと遭遇していたことだろう。
一方的な蹂躙劇だったが、拓けた場所での攻防は遠くからでもカシミヤにはよく見えた。
僅かに見えた光景から相手をかつて天地で交戦した【式姫】の《式神:笑顔姫》……前方照射型呪術に近いものと看破。
さらに被害者の状態からその条件が視認であることも把握できた。
ゆえに、カシミヤは死角から接近し、エトヴァスはそれに気づけず、背後から超々音速で肉薄されあっさりと首を切断された。
その結果はこれまでカシミヤに斬られてきたものと同じだ。
他の者との違いは、エトヴァスが【ブローチ】を着けていなかったことくらいだ。
二十四時間以内に既に壊れていたのか、あるいは扶桑月夜達のように何らかのポリシーで装備していないのか。
どちらにせよ、左の一太刀で彼の首は断ち切られた。
必殺の眼はカシミヤの姿を見ることなく、エトヴァスの首は落ちる。
彼自身の身体を衝立にして、首はカシミヤと反対側へ。
落ちる首が回ろうと、身体に遮られてエトヴァスの視線がカシミヤを捉えることはない。
ゆえに、これで皇国最後の準<超級>は退場する
――はずだった。
『――――』
直後、首なしの肉体が動いて手にした杖で地面をトンと突く。
「!」
カシミヤが僅かに目を見開く。
【死兵】の《ラスト・コマンド》とて、首が切断されれば何もできないはずだ。
天地では度々見るそのスキルをも無効化できることから、斬首は最良の一手でもある。
だが、エトヴァスは今その前提を塗り替えた。
(これは……)
呪術師系統スキル、《カース・オブ・マリオネット》。
呪った対象を傀儡として操るスキルであり、自分自身もその対象にできることでも知られている。
そのスキルで、彼は自らの身体を動かしている。
まだ、首が繋がっていなくとも《ラスト・コマンド》で生きているから……自分の身体を呪いで遠隔操作して動かしている。
しかし、呪術師系統が自身に呪術を掛ける場合は、耐性スキルの影響で時間が掛かるはずだった。
それには、とある理由がある。
彼が使ったスキルは正確に言えば《カース・オブ・マリオネット》ではない。
《傀儡の魔眼》と呼ばれる同一効果の……視認によって発動する魔眼スキルだ。
【魔眼王】は呪術師系統と【斥候】や【鑑定士】など視覚強化系ジョブの合計レベル一定以上で就ける複合上級職【魔眼師】の超級職。視覚依存状態異常スキル……魔眼に特化している。
そして【魔眼王】の常時発動奥義、《零の魔眼》の効果は魔眼スキルの耐性無効化。
エトヴァスは落下して回る首で自分の肉体を直視し、奥義で自身の耐性を貫通させ、《傀儡の魔眼》によって首なしの肉体を即座に操った。
「――――」
ならば次に起きることは何か――を確認するよりも先に“断頭台”は二度目の抜刀態勢に入っている。
何かが起きる前にカシミヤは左手で大太刀を抜き放つ。
狙いは杖を握る腕の手首。
先刻断った首同様、可動部ゆえに装甲が薄くなっている隙間を狙って刃を走らせる。
狙い過たず、杖は手首ごとエトヴァスの身体から切り離された。
だが、そのときには最初に地を突いたときの結果が齎される。
手首の切断と同時に地面から黒色の杭が伸び――エトヴァスの身体を貫いた。
「!」
伝説級特典武具、【禍不単杭 パイルオン】。
杖を突く動作を起点に、『状態異常罹患者のみを攻撃可能』な特典武具。
本来、カトブレパスや魔眼スキルで弱った相手に止めを刺すために使う武具。
しかし今、カシミヤは状態異常に罹患していない。
状態異常に罹っているのは、首を切断され、自らの魔眼で操られているエトヴァスのみ。
自爆でしかない攻撃。
なぜ、不意を突ける貴重なワンアクションをそんなことに使ったか。
その答えは、杭によって打ち上げられたボールのような何か。
貫かれた体とは違い、軽さと小ささゆえに地面から伸びた杭の勢いのまま弾かれたように上空へと打ち上げられたもの。
――エトヴァスの首だ。
黒杭によって、一瞬の内にエトヴァスの首はカシミヤの刃届かぬ高さにまで弾かれた。
王国最速だろうと届かぬ、空中という間合いの外。
(ここは――僕の距離だ)
しかし――彼にとっては射程内。
(首を斬る手口、間違いなく……王国の決闘二位)
自分の首が落とされた時点で、他者より思考に秀でるエトヴァスは自分を殺したのが王国の【抜刀神】カシミヤであることを察していた。
(この戦争でも多くの皇国の<マスター>が倒されて……見逃せばより多くを殺されてしまう……!)
だからこそ、ここで王国屈指の戦力である彼を倒すために己の戦術の全てを費やすと即座に決断した。
(僕にできる全てで奴を倒す……!)
既に散った友に代わり、友の望んだ未来のために。
(友達と一緒に、勝つために……!)
空中数十メテルで廻る首。
既にヘルメットのスリットは開かれ、カトブレパスの力は開放されている。
ミラーボールのように回る首が、機能停止を齎す視線を巡らせる。
遮蔽物などなく、頭上からの必殺スキルの照射を阻む術はない。
……否、遮蔽物はある。
この場において、カシミヤが使える唯一の遮蔽物。
エトヴァス自身の串刺しになった首なし死体。
それを頭上に掲げれば、視線を遮る遮蔽物となる。
あるいは、カシミヤの神速ならば視野角を見切って視界から外れることも可能かもしれない。
だが、それらの回避方法をこの状況に仕切り直したエトヴァスが許すはずもない。
打ち上げられた首と違い、外套ごと串刺しにされた肉体。
その肉体を貫く【パイルオン】の黒杭の表面が――鏡のように光を反射し始める。
それは黒杭に留まらない。
黒杭を伝い、地面や草までもがミラーコーティングされていく。
それはエトヴァスの着こんでいた鏡面処理の施された外套、【繊鏡施 ミラーハウス】。
光を一〇〇%反射する伝説級特典武具。
だが、その真価は――接触物への鏡面の伝播、《鏡面世界》。
かつて、とある洞窟を鏡の迷宮へと変えていた<UBM>の力の具現。
本体と同じ光を一〇〇%反射する鏡面処理を接触点から周囲一帯へと拡大する。
生前と違い、短時間で効果は解除されるが――拡大速度は極めて速い。
鏡と化した大地が、映した空へとその見え方を変える。
その空には雲があり、太陽があり、そしてエトヴァスの首がある。
上空の首と大地鏡の間に、カシミヤはいる。
そう、大地を巨大な鏡に変えての両面焼きこそがエトヴァスの詰め。
カトブレパスはTYPE:ルール・アームズ。眼窩に収まった置換不能の義眼が本体だが、同時にその義眼から放ち相手に押し付ける機能停止の理もまたカトブレパス。
そしてその理の媒介は、義眼より発せられる光。
かつて半透明の羽やサングラスで軽減できたように、カトブレパスのスキルは光の性質を持ち、光の減衰によって効果を弱めていた。
それはつまり、カトブレパスの理は光の性質を持ち、反射もするということ。
そして鏡と化した大地と草木は彼の視線を反射する媒介物。
もはや死角など消え失せて、周囲一帯全てをカトブレパスの魔眼で塗り潰す。
仮にエトヴァスの肉体を掲げて遮蔽物にして直視を阻んだところで、大地鏡に反射した光が息の根を止めるだろう。
そしてもはや、《鮫兎無歩》だろうとこの大地鏡の反射範囲から逃げる猶予は無い。
攻撃不能の高度、回避不能の《鏡面世界》。
首を斬られながらも、エトヴァスはカシミヤを追い詰めた。
あと数十度、廻る首が下方に向けばそれでカシミヤは終わりだ。
一秒もあれば、それは現実となる。
一秒で、エトヴァスはカシミヤを相討ちに持ち込める。
一秒、それだけでいい。
「――――」
一秒、一秒、一秒
そう、たったの一秒――されど一秒。
王国最速の前では……長すぎる。
カシミヤは、鏡と化した大地に気を取られてはいない。
彼の意識は足元にも、エトヴァスの肉体にも向いていない。
彼は打ち上げられた瞬間から、ただエトヴァスの首だけを見ていた。
それは相手の視野角を見切って、《鮫兎無歩》で避けるためか。
否、彼は兎であれど、脱兎ではない。
彼こそは首切兎、相手の息の根を止めるために刃を振るう天地の修羅の一角。
ゆえに今も逃げるためではなく――勝つために相手を見計る。
『――【魔眼王】、確認候』
そしてカシミヤの左手が握るのは、《瞬間装備》で掌中に移動した赤鞘の大太刀の柄。
それこそは、【試製滅丸星刀】。
斬れぬものを斬る、《防虚殺し》の理を宿す刃。
「――今」
――その刃をカシミヤは真上に向けて抜き放つ。
エトヴァスの首には届かない。届く訳がない。
そして廻るエトヴァスの首が、カトブレパスの眼が、カシミヤへと向けられるより一瞬早く……神速で抜き放たれた刃は何もない空間を通り過ぎた。
ただそれだけの、空振りにしか見えぬ一斬。
しかしその直後、エトヴァスが視たものは――右手で次の刀を握るカシミヤ。
『……ェ?』
エトヴァスの思考に満ちる疑問。
それはありえない光景、あってはならない光景。
何故なら今、エトヴァスはカトブレパスを晒し、その目で世界を視ている。
ならば、視界の中で肉体を晒したまま動けるはずがない。
(どうして……!? まさか、MP切れ!?)
視界の端でステータスを確認するが、いまだエトヴァスのMPには余裕がある。
間違いなく、然程高くはないHPのカシミヤを機能停止させることは可能。
『ならばどうして』とエトヴァスが自らの状態を確認したとき……気づく。
《視難くも/
/美止い世界》
(――――?)
自らの必殺スキルの表記が、狂っている。
まるで何かに両断でもされたかのようにスキル名が分かたれ、文字も色を失っている。
いや、スキルの文字が色を失ったこと自体は過去にもある。
かつてケイシーのメデューサにスキルを封印してもらったときだ。
だからこれが意味することもエトヴァスは理解でき――戦慄する。
(僕のスキルそのものを斬った……!?)
カシミヤは何をしたのか。
それは言葉にすれば一言で済むが、理解を拒みたくなる現象。
即ち、カシミヤはカトブレパスの理を――光を斬った。
無論、不意に照射されればカシミヤでも対処は不可能だっただろう。
如何に彼とて、光より速く刀を振ることはできない。
だが、打ち上げられた首……照射位置は明確であり、廻る速さでタイミングも丸分かり。
それだけ揃えば、カシミヤはその瞬間に合わせられる。
視線が届くだろう位置と瞬間に抜刀のタイミングを合わせ……先んじて刃を振るうことで《防虚殺し》で光を斬った。
難易度は筆舌に尽くしがたいほどの差があるが、理屈としてはリズムゲーム、あるいはバッティングセンターだろう。
しかしカシミヤにしてみれば、リソースの流れを把握するよりは……難易度が低かった。
そして、自らの理を乗せた媒介を斬られたがゆえに、カトブレパスの理は一時的な機能停止に陥ったのだ。
(在るならば……)
視線を媒介して飛んでくる理ならば、間違いなくそこに在る。
そして……。
(――在るならば、僕は斬れる)
刃を振るう彼は、自身の為したことに一切の疑問を挟まない。
刹那でも逡巡すれば、実現しなかった絶技。
彼が己を……己の見てきた曾祖父の剣技を疑うことはない。
エトヴァスがリアルで見て心に刻んだのは動かぬ自分を憐れみ蔑む人々の視線。
カトブレパスは自分の絶望を再現して他者の心身に刻みつけるため生まれた力。
カシミヤがリアルで見て心に刻んだのは幼い自分に曾祖父が見せた至高の剣技。
イナバは自分の理想を再現して己の心身に刻み直すため生まれた力。
お互いの見てきた世界を、パーソナルを反映した結果。
闇を視て生まれた<エンブリオ>と、光を視て生まれた<エンブリオ>。
あまりにも異なる経緯で生まれた<エンブリオ>の戦い。
その結果は、イナバを振るうカシミヤの勝利となる。
だが……。
『――MぁだdAッ!!』
――戦いは<エンブリオ>のみで決する訳ではない。
たしかに彼がこの世界で生まれ持ったのは<エンブリオ>だ。
しかし、彼がこの世界で友達と培ってきたのはそれだけではない。
(《呪毒の邪眼》!)
必殺スキルを失った両目から放たれるのは魔眼のジョブスキル。
それだけではなく、【傀儡】状態のままの肉体も半壊したパワードスーツの出力を上げ、黒杭を圧し折りながらカシミヤの動きを阻害すべく動き出す。
《ラスト・コマンド》の効果終了まであと数十秒。
己の最大の武器を封じられようと、エトヴァスは止まらない。
『<エンブリオ>が無効ならば準<超級>の中でも弱い方』、『対策すれば勝てる』。
そんな言葉で評されるエトヴァスだが、カトブレパスを封じられながらも彼は勝利を……カシミヤの撃破を諦めない。
それは、友と過ごした日々があるから。
ケイシー、シビル、ヘルダイン、イライジャ、ドミンゴス。
彼の友達だって、最後まで己にできることをやり切ろうとしたはずなのだから。
ならば、友と共に歩き出せたエトヴァスも……ここで止まる訳にはいかない。
今の彼には、自らの意思で動く力がある。
(僕だって……やるんだ!!)
闇を見続けてきた彼の心に、今は光がある。
その変化は、<エンブリオ>だけを視れば彼を闇に在るよりも弱くしたかもしれない。
しかし間違いなく……彼は一人の人間として強くなった。
「っ……」
カシミヤの口の端から血が零れる。
【呪毒】がその身を侵し、命を削る。
超級職だろうと、MPの少ないカシミヤではこの継続ダメージは脅威。
本来であれば即座に【高位霊水】による解呪を行うべきだ。
相手は既に致命傷であり、《ラスト・コマンド》が切れれば死ぬだけだ。
脅威であったカトブレパスを封じたならば、このまま状態異常とHPの回復に努めれば、そのまま勝てると……普通は考える。
「――――」
だが、カシミヤが右手に握るのは回復アイテムではなく刀。
首切兎は自らの回復よりも相手の撃破を望む。
何より……この相手を前に命を長らえようとする逃げは、即ち敗北に繋がる。
それは心の敗北であり、戦いの敗北。
【呪毒】は強まり続けている。今ここで退くことはより命を削ることに等しい。
臆せば折れる。退けば死ぬ。
そして結果が両者死亡の引き分けならば、カシミヤにとっては負けだ。
ゆえに、己の全霊を以て挑んできた強敵に……カシミヤは刃で応える。
左手は既に動かない。
【星刀】も手元にない。
《視難くも美止い世界》を斬ると同時に、左手はその光を浴びて機能を停止した。
力を失った左手から【星刀】は抜け落ち、今は離れた地面に突き立っている。
斬れぬものを斬る刀はなく、両手による連続抜刀の我流魔剣もない。
そして恐らく二度抜刀する猶予はない。
早急に相手をもはや魔眼すら使えぬ状態に追い込まねば、命削られ骸を晒す。
されど、未だ魔眼は空中に在り、迫る肉体を両断しても呪いは止まらない。
カシミヤに許されるのはただ一度の抜刀。
その一度で、何を為すか。
答えは――同じ。
空中に在るエトヴァスの首を見据えながら、何もない空間への抜刀。
手にする刃は【星刀】ではなく、神話級金属製なれど特異な効果などない代物。
無論、視線を斬ることなど叶わない。
だというのに、カシミヤの選択は先刻と同じ虚空への空振りであり、
――その後の結果までも同じだった。
『……ぁ……』
グシャリ、あるいはバキン。
肉と金属の潰れる音が響く。
音源は、エトヴァスの首。
彼の頭部を覆うヘルメットが潰れ、歪み、血が溢れる。
その原因は――突き立った刀。
そう、だから同じなのだ。
カシミヤの掌中から大太刀が抜けた。
音速の数十倍での神速の抜刀の最中に緩めたために射出された大太刀が、空中のエトヴァスを貫いたのだ。
『――――』
そして、止まる。
【傀儡】の肉体も、魔眼も、止まる。
物理的に脳を破壊されたことで……それらの行使が叶わなくなったからだ。
間もなく、大太刀に貫かれた首は鏡の地面に落ちて……光の塵となって消えていった。
皇国準<超級>最後の一人……【魔眼王】エトヴァス・アンダーレスの退場であった。
◇◆
「…………」
消えていくエトヴァス。剥がれていく大地の鏡面。
戦いの終わりを告げる光景をカシミヤは【高位霊水】を服用しながら……苦い顔で見送る。
殺し合いの後の彼が、こんな顔をすることは珍しい。
だが、カシミヤの心境を思えばそれも無理からぬことだった。
《神域抜刀》での加速を乗せた刀の投擲。
技としての名は、《変異抜刀・飛穿》。
しかしそれの使用はカシミヤにとっても最後の賭けに近いものだ。
刹那の誤差なくタイミングを合わせられた先刻の抜刀術とは違う。
なぜならこの技は樫宮流ではない。
<K&R>の仲間……狼桜の思いつきで編み出された隠し技に過ぎないのだ。
【抜刀神】の編み出したスキルとして登録はされているものの、精度は普段の抜刀術と比べるべくもない。
むしろほんの少しのミスで加速が止まるリスクすらあった。
命中率も低い。光を斬るタイミングで使わなかったのはあのときの高度では成功しないとカシミヤ自身も思っていたからだ。
むしろ、成功させたときですら、失敗のリスクがあった。
そもそも、相手が空中にいるのでもなければ……《飛穿》の射程距離と《鮫兎無歩》の抜刀術の間合いに大差はない。普段は使う意味がないスキルである。
それでも、今回だけはこれを成功させていなければ……自分も死んでいたことをカシミヤは直感している。
(勝敗を分けたのは……運です)
カシミヤは思う。
《飛穿》が成功したことだけではない。
ほんの少し、打ち上げられた首の向きや廻る速度が違えば結果は変わっていた。
タイミングを見切るだけの猶予があったからこそ、光を斬れた。
そして運良く最後の一撃が成功したからこそ、カシミヤは生きている。
ゆえに、自分は仕合に勝ったのではなく……博打に勝っただけであり、彼我の勝敗を分けたのは技量ではなく運に過ぎない。
他の者がどう考えるかは別として、カシミヤは強くそう思った。
「……いつか、正面から仕合いたいです」
これほどの猛者であるならばPKとして奇襲で首を斬ってから始めるのではなく、準<超級>としての仕合……万全での殺し合いをしたかった。
そして自分がどれほど不利になろうと、その形式で挑まなければ今回の苦い勝利は拭えないだろう。
カシミヤはそう考えながら……鏡面が消えて元通りになった平原を去っていった
◇◆◇
□■ドイツ某所・病院
「…………」
デスペナルティの後、エトヴァスの意識はリアルで浮上する。
ただ、起き上がれない彼の身体は、傍目には何も変わらない。
少しして、脳波の動きを検知して看護師がハードを外しにやってきた。
そのいつもの工程に対して御礼のメッセージを表示してから、エトヴァスは自らのベッドに取り付けられたモニターを見る。
脳波でカーソルを動かして起動したのは、メールアプリだ。
見れば何通ものメールが溜まっており、最初のメールはドミンゴスの「すまん戦争前に死んだ」だった。
他も友人達からは似たような内容のメールが幾つも届いており、彼らがどのようにしてこの戦争を戦ったのかを示すものもあった。
ケイシーからの「首だけになったけど【超闘士】のスキルを封じたよ!」というメールを見たときは、やはり自分達は少し似ているのかもしれないと思った。
「…………」
ただ、そうした友人達のメールを読み、返事を書いていると、エトヴァスの心にデスペナルティになった直後には抱かなかった……『終わったんだ』という実感が湧き上がる。
エトヴァスと友人達が死力を尽くした戦いは終わって……あとは<超級>達が齎す戦争の結果を待つだけとなった。
やり通せなかったことに、悔いはある。
しかし、自分の全てをぶつけて挑んだ。
友達と同じ方向を向きながら、全力を尽くした。
戦場で肩を並べることはできなくとも、自分達は確かに並んで共に進んでいたのだ。
それがこんな自分にもできたという事実が、エトヴァスには少し嬉しかった。
戦争の結果がどうなるかは分からない。
皇国という国の未来がどう進むのか。
けれど、どうなるにせよ、どうするにせよ。
『もう一度、あの国で友達と会いたいな』と……エトヴァスは強く思った。
「…………?」
そんな感傷を抱いていたエトヴァスは、不意に気づく。
戦争で戦って先に散っていった友人達のメールに紛れて……戦争に参加していないはずの友人からのメールがあった。
連絡が来ること自体が久しぶりの相手からのメール。
そこには、こう書かれている。
『――主役の帰還だ。向こうで会ったらよろしくな』
そんなあっさりとした内容の……しかし込められた意味は大きい言葉。
そのメッセージの送り主の名は――バルサミナといった。
Episode End
(=ↀωↀ=)<『両国の準<超級>トップクラス同士の戦闘シーンやりたいなぁ』
(=ↀωↀ=)<とかやったらカシミヤが本編と連続出演した問題
〇カシミヤ
(=ↀωↀ=)<本編に引き続き人外ムーブしてる天災児
(=ↀωↀ=)<でも本人的には光を斬るよりも抜刀して刀投げる方が曲芸度高い
〇【星刀】
(=ↀωↀ=)<本編に引き続きえらいもん斬ってる補助輪
(=ↀωↀ=)<でも本来は『理論上可能』くらいのものであって実現するかは別の話なんですよ……
〇エトヴァス
(=ↀωↀ=)<「まだだ!」したあたりから
(=ↀωↀ=)<どっちが味方サイドか作者も分からなくなりました
〇【禍不単杭 パイルオン】
(=ↀωↀ=)<状態異常罹患者を追い打ちする特典武具
(=ↀωↀ=)<元の<UBM>はハゲタカとモズを合わせたような怪鳥型
(=ↀωↀ=)<毒ガス噴き出す渓谷で迷い込んだ獲物を狙っていた
(=ↀωↀ=)<……まぁHPはそんなでもなかったので普通に視られて終わった
〇【繊鏡施 ミラーハウス】
(=ↀωↀ=)<元の<UBM>はトラップ型というか
(=ↀωↀ=)<地面、壁、天井を鏡のような状態にした洞窟の奥から
(=ↀωↀ=)<相手の位置を鏡の反射で把握しつつ
(=ↀωↀ=)<乱反射レーザーでぶち抜くという結構やってる奴だった
(=ↀωↀ=)<何で負けたかって?
(=ↀωↀ=)<レーザーの来た方向に視線向ければ鏡辿ってカトブレパスも届くからだよ
〇ケイシー、シビル、ヘルダイン、イライジャ、ドミンゴス。
彼の友達だって、最後まで己にできることをやり切ろうとしたはずなのだから。
ドミンゴス「……なんかごめんなぁ」




