リクエストSS『とある二大クランの日常』
(=ↀωↀ=)<リクエストSS
(=ↀωↀ=)<ただ、書き始めた理由は今週のマガジンのシャンフロ読んだから
□【聖騎士】レイ・スターリング
「気軽にTSする<エンブリオ>とかどっかにいませんかねー」
「急にどうした?」
ある日のこと。本拠地の食堂で都合のついたメンバーで昼食を摂っていると、マリーがそんなことを宣った。
ちなみに本日はマジックアイテム版自動調理器の試食会でもある。
ガチャから出てきたが、説明によればレジェンダリア産。折角なので、食堂に設置した形だ。
なお、出てくる料理の味はデンドロにしては普通というか、夏祭りの屋台くらいのクオリティ。どうやらあまり凝った料理や高DEX&高スキルレベルは再現できないらしい。
とはいえ、材料と【レシピ】を入れておけば自動で作ってくれる便利アイテムなので味はこれで十分とも言える。俺的にはネメシスが腹減ったときに使うのがメイン用途になるだろう。
で、話はマリーの発言に戻るが……。
「TS?」
聞き慣れない単語だったのか、フィガロさんが不思議そうな表情をしている。
隣のハンニャさんは「それ聞くの? ヴィンセント?」みたいな顔をしている。
「性転換のことですねー。男性器が付いたり取れたりしますよ」
「着脱可能なパーツだったっけ? 肉体置換型のアームズ?」
「神話とかでは度々……」
「なるほど。そうした神話をモチーフにした<エンブリオ>ならありえるね。まだ体験したことがないな」
フィガロさん、真面目に考察しなくていいんですよ?
隣のハンニャさんが形容し難い顔をしている。「まだ外れたら困るわ」は生々しいのでちょっと……。
「で、どうしてそんな話を?」
「いえね、午前中にふじのんちゃん達と執筆作業してたんですけど」
あ、ふじのん達がビクッとした。
付き合い長くなったからかマリーはその辺がオープンになってきているが、ふじのん達はまだできるだけ隠そうとしている節がある。
高校の後輩にも似たような趣味嗜好の奴はいたし、別に気にしないが……。
「こちらで描いているのかい?」
「専用のアイテムがあればアウトプットできますし、三人の練習にもなりますからねー」
フィガロさんの質問に、マリーが答える。
絵師系統の《絵画》は《料理》と似たタイプのセンススキルであり、スキルレベルとDEX次第で『思った通りの絵を描く』ことができる。
無論、センススキルを通しても絵の出来は脳裏に思い描く本人のイメージ次第なのだが、逆に言えば『自分のイメージ通りに描くにはどうすればいいか』を脳に覚え込ませることができる。
それゆえ、リアルの技術学習のためにセンススキルを伸ばす人達も一定数いる。『デンドロで美大に受かりました!』という人までいたらしい。
「で、創作活動に勤しんでいましたが、こう……クラン内カップリングがマンネリ化してきたんですよねー。ですので、ここは性別でも変えて描いてみるかと」
「待てや」
創作活動はともかく、自分自身がネタにされるとなるとまた少し感触が違う。
前に半裸のイラストとかも描かれたけど、マリーは仲間をどんな目で見てんの?
……そういえばふじのん達がマリーを師と仰ぐようになったのも、マリーが【記者】としてクエスト参加中に『暇だから』と俺やルークをスケッチしてたのを見てのことだ。
あのときの絵、俺は見てないんだよな。……何が描かれてたんだ?
「ただ、各々のTSイメージがわりとバラけましてねー。いっそTSの<エンブリオ>とかあったら資料として最適だなーっと」
もしその使い手が見つかったら性転換させられるのか?
女装は嫌だぞ。高校時代の罰ゲーム文化祭を思い出すからな……。
……うららにメイクされた俺と加田にミスコンの点数負けたモリモリ先輩、元気かな……。
「男性器の有無だけだと目に見える範囲は変わらないんじゃ?」
「ファンタジーでTSするとなぜか骨格や顔貌まで変わるのが定番ですね」
「興味深いね。TSして手足の長さが変わるなら慣れるまで十全に動けない。だとすると、戦術的に有効かもしれない。特殊状態異常……いや、そもそもデバフと見做されずに素通しかな」
フィガロさん。これまでの人生であまり創作物に触れられてこなかったからか、こんなアホ話に真面目かつバトルジャンキーな反応を……。
ハンニャさんはもうどういう感情か分からない顔をしている。
「人を子供にする<エンブリオ>があるんだからいると思うんですよね、TSの<エンブリオ>。ギリシャ神話なんていくつもTS事案あるからモチーフ困りませんし」
「ギリシャ神話ってそういうとこありますよね!」
「もぐぁ!? 風評被害はやめてほしいのだが!?」
イオの追従はうちの天罰神(fromギリシャ神話)的には食事中断してツッコむくらいNGだったらしい。
「私のアトラスもギリシャ神話ですね」
「巨人おっさんの石化とかニッチジャンル過ぎますよねー」
『ブチ殺すぞ』
「モチーフをつつくのやめません?」
「どうしたのルークー?」
マリーの発言にビースリー先輩が一瞬でバルバロイ化し、流れが危険と悟った大淫婦の<マスター>ルークはそう述べた。然もありなん。
「しかし、実際にTS<エンブリオ>の使い手がいるなら、一体どんなパーソナルをしてるんだ……?」
「モチーフからのパーソナル読みはマナー違反ですねー。まぁ、普通にリアルの性別変えたい人じゃないですか?」
「それは多分私と似た理由でいないと思うよー」
「レイレイさん? それってどういう……?」
「私は言葉の壁を気にしてたけど、ここは翻訳が完全だから入った時点で悩みが解消されたのよー」
そういえばそんな話を聞いた気がする。
結果、耐性の壁をなくす最凶の<エンブリオ>が生まれた訳だ……。
「それでね、そのことがパーソナルになるくらい思い悩む人なら、新しい自分になれるここに来た時点でなりたい性別のアバターを作ると思うよ?」
「それで悩みは解決して、パーソナルを読むとしても何か違った形の発露になる、と。たしかに一部の人はリアルとこちらで性別を変えることもありますね」
「そうですね」
俺の言葉に、ルークは誰かを思い出したように頷いた。
「となると、どういう人がTSの<エンブリオ>を持つかは分からないな」
探したいわけではないけど、どのような形で存在するかは気になる。
……まぁ、とはいえマリー達が求める用途なら他の<エンブリオ>でも代用できそうに思えるが。
◇◆◇
□■【大教授】Mr.フランクリン
「あら?」
オーナーとしての事務作業が一段落したので本拠地の食堂に顔を出すと、なぜか人集りができた。
うちのクランで人が集まるのは新作の設計会議やテスト時なので、食堂に集まるケースは少ない。
「じゃあBFちゃん! 次を頼むぜ!」
「は、はい!」
見ると、一人の<マスター>を中心に囲んでいるようね。
囲んでいる人間は何かの図案を中心の子に掲げて見せている。
「いきます!」
そして、中心の子は金属製のマッチ箱からマッチを一本取り出して、箱の側面で擦る。
「『もしもこの追加装備を【マーシャルⅡ】にくっつけて動かしたら!』」
彼女の発言と共にマッチが燃えて、その上に【マーシャルⅡ】の立体映像が浮かび上がる。
映像の【マーシャルⅡ】の背中には、先日開発プランが提出されたカニのような装備が接続されている。
しかし装備を背負った【マーシャルⅡ】はとても動きづらそうで、動き出すとすぐに仰向けに倒れてしまった。
一分ほどジタバタする映像が流れた後、マッチの火が消えて映像は途切れた。
「こ、こんな感じみたいです」
「あー、まずウェイトバランス見直さないとダメかー……」
「見たかったのは海中でのサルベージ作業が実際にできるかだったのにそれ以前の問題だったな」
映像を元に、集まったメンバーが検討を始める。
ああ、思い出した。
彼女……BFは新人で、マッチ売りの少女がモチーフの<エンブリオ>、【空想描赭 デン・リレ・ピー・メ・スウォルスティガネ】の<マスター>だ。閣下のルンペルより読みづらいから逆に覚えているわ。
マッチ箱型のTYPE:アームズ。今の第二形態では一日に十本生成されるマッチ棒を擦ると、一分間……『もしも』で設定したシチュエーションの立体映像が浮かぶ。進化したら確実にカリキュレーターにいくタイプね。
創作部門が「逸材がいる!!」と豪語してきて、勢いで加入を認めさせられた覚えがある。
けれど、今は設計部門の人間に囲まれている。
……まぁ、察しはつくわね。
あれ、『もしも』のシミュレーションをして映像化する<エンブリオ>でしょう。創作の役にも立つでしょうけれど、それ以上に設計ツールとして優秀すぎるもの。
見れば、少し離れた場所で創作部門の面々が『早く返せよ』という視線を送っている。人気者ね。
「しかし良い<エンブリオ>だよな。どういうパーソナルだとこうなるんだろう?」
「待ちな。<エンブリオ>からのパーソナル読みはマナー違反だぜ」
「大佐!」
……食堂にいたのね、大佐。存在感が空気になってたから今まで気づかなかったわ。
「<エンブリオ>は本人を映す鏡だからよ。迂闊にその本質に踏み込んじゃあいけねぇな」
「たしかに……」
戦車型だったのに同乗する相手がいないせいで戦車消えた人は言うことが違うわね。
「いえ、あの、そんな大層な話ではなくてですね……」
あ、BFは自分で由来に察しがついているタイプなのね。
「デンドロを始める少し前に、大好きな漫画が最終回になりまして……」
…………うん?
「その漫画の最終回が、あの、非常に受け入れ難いと言いますか……、いえ、主人公がああなってしまうことはまだいいんですけど、もうちょっと、救いというか、礎というか、遺したものが欲しかった感じで……」
ここからでもとても感情が鬱積してるのが見て取れるわね……。
よっぽどその漫画のラストが腑に落ちなかったのかしら?
「……もしかしてブルー・フォカロル?」
「それです! 分かってくれますか!?」
「分かるってばよ……」
「あれはなぁ……」
一部のメンバーが分かりあっている……。
あ、「わたし単行本派なんだけど!? 何があったの!?」って嘆いてる奴もいるわね。
「それで他のエンディングが見たいと思ってたときにちょうどデンドロを始めたので、その影響が強いんじゃないかなーって自分では思ってます……」
「「「なるほどなー」」」
実際にどうかは分からないけれど、本人はそう認識してるってことね。
まぁ、何にしてもクランに有用な良い新入りだわ。
「ただ、自分でブルー・フォカロルの色んな『もしも』を見てみるんですけど、原作の最終回より心に刻まれるというか、心が刻まれるものは出てこなくて……やっぱりあの最終回が一番なんじゃって気も……」
「折れるなBFちゃん!」
「最高のエンディングを見せてくれ!」
……熱が入ってるメンバーも多いわね。
そんなに面白いなら読んでみようかしら。最終回のネタバレ食らった後に一話から読むのもアレだけれど。
「ちょっと男子! そろそろBFちゃん返してよ! マッチは設計部門の割り当て二本! 私達創作部門の割り当て三本! BFちゃんの私用が五本の取り決めでしょ!」
「分かってるよ。はい、BFちゃん。今日の代金」
「あ、ありがとうございます!」
そんな取り決めあったのね。
「じゃあ次は私達ね! 今日のお題は決めてきたのよ!」
「何でしょうか?」
「カップリングの新たな境地! BLからのTS百合よ!!」
何言ってるの?
「心から求め合うからこそ! 身体の形状に囚われず愛を貫く! これよ!!」
「これなんですか!?」
違うんじゃない?
いやまぁ、うちの皇王陛下とかはわりとそんな感じだけれど。同性が好きなんじゃなくて好きになった相手が同性だったタイプ。
「という訳で第一弾はオーナーと大佐の<超級>TS百合!」
……うん?
「マッドサイエンティストと軍人! 知と力! 同じ国の<超級>同士で元々人気のあるカップリングだけど、TSで更なる境地を――「《喚起》」――ぎゃああああ……!?」
あー、なぜか食堂の地下から飛び出したワームがうちのメンバーをー(棒)。
「ああ!? 部門長が喰われた!?」
「ごめんねぇ。うっかり放しちゃってさぁ」
「いたんですかオーナー!? あとバチクソに《真偽判定》が反応してますよオーナー!?」
「すまねぇ。俺も目を離していて止められなかったぜ」
「《真偽判定》パートツー!?」
私は大佐と視線を交わし、頷き合う。
まったく。ユーとの本といい、創作部門は油断も隙もないわ。
……でもこれって止めなかったらどういう姿で出たのかしらね、ネナベのTS。
To be continued
・マリーに文芸部三人娘が弟子入りした時の話
・レイのガチャ
・他国の<超級>の日常(一回目)
〇【空想描赭 デン・リレ・ピー・メ・スウォルスティガネ】
(=ↀωↀ=)<読みづらい名前ランキング更新(マッチ売りの少女の原題)
(=ↀωↀ=)<下級から露骨にカリキュレーター方向になってる奴
(=ↀωↀ=)<ちなみにデータが少ないときや『もしも』すぎる場合はイメージ映像だけど
(=ↀωↀ=)<設計部がやってたようにマッチ箱の周囲に関連データ置いておくとシミュレーション映像になる
(=ↀωↀ=)<『他人も見られる』ことにリソース割いた予測系の<エンブリオ>




