電遊研の日常 デスマッチ編
(=ↀωↀ=)<本日レイ君のお誕生日
(=ↀωↀ=)<今年もお誕生日イラストいただいたので
(=ↀωↀ=)<「此方も書かねば……無作法というもの……」
(=ↀωↀ=)<って心境で日付変わってから書いた
□椋鳥玲二
「椋鳥、ジュース買ってきなさいよ」
一年の二学期が始まって少しした頃。
放課後、電遊研の部室でカードゲームのパックを開封していると、モーリー・フォレスター先輩がイライラした様子でそんなことを宣ってきた。
「すぐに後輩をパシらせようとするのはどうかと思いますよ、モリモリ先輩」
「こっちは延々同じ作業とチェックの繰り返しで目と指が疲れてきたのよ。偉大な先輩を労って甘い飲み物買ってきなさい」
「俺も同じ作業してますからね?」
一パックずつ丁寧に開封し、レアカードをスリーブに入れ、種類ごとに分別する。
時間も掛かるし地味に疲れる作業である。
なお、俺達が開封しているカードは全て星空部長の私物だ。
曰く、『ネット通販で新弾を10ボックス注文したつもりだったけれど、間違えて10カートン注文していたわ』とのこと。
このカードゲームは1カートン12ボックスなので、いま部室の机は120ボックスものカードに占領されている。量販店の入荷量の如しだ。
なお、代金も当然十二倍だが部長は気にしていない。
夏休みにお邪魔したときには理解していたが、部長の実家はお金持ちである。そのせいか気軽にガチャで爆死する。
ただ、そんな部長もこの量を開封して仕分けるのは嫌だったらしい。
部長は『自分で開けるのは十箱くらいでいいのよね』と述べ……。
「何でワタシがこんなことを……」
「負けたからじゃないですか?」
先日の部内パーティーゲーム大会で一位になった部長が獲得した各部員への『一日命令券』により、俺とモリモリ先輩は開封作業に従事することになったのである。
「クッ! あのときぶっとびカードで明後日の方向に行かなければ……!」
「部長のミニボンビーが先輩についた途端キングになりましたね……」
そのときのモリモリ先輩は加田が「配信したいくらい面白い顔ですな」と褒める(?)ほどアレだった。
「…………」
そして、この大量のカードを部室まで運んだのは棟上先輩であり、今は疲れ果てて倒れている。
肉体労働のためにこの部にスカウトされた疑惑のある棟上先輩である。
ちなみに本日、部長自身は部活連の会議、左右田副部長はバイトで不在、加田は配信者のイベントに出向き、新入部員のうららは美容室の予約が入っていた。
結果、残った俺達がこの山のようなパックの処理に回されたという話だ。
「兎に角、ジュースが飲みたいのよ」
「だから自分で買ってくればいいじゃないですか」
「イヤよ。だからね、椋鳥。ここはワタシ達らしく……ゲームでケリをつけましょう!」
ゲームで決着をつけるのはたしかにうちの部らしいし、それ自体は構わない。
しかし……。
「遊んでたら開封終わりませんよ」
今は作業が山積みで、このままでは日が暮れる。
余計なことに時間は割けない。
俺がそう言うと、モリモリ先輩はニヤリと笑う。
「ええ! だから開封作業とゲームを並行するのよ!」
「並行……まさか」
「ええ! TCGの歴史ある決闘法……『パック開封デスマッチ』よ!!」
パック開封デスマッチ。
カードのレアリティごとにポイントを設定し、一箱の中身のパックを二人が交互に開けていき、最終的により多くのポイントを獲得した方の勝利となるルールだ。
なお、敗者には恐ろしい罰ゲームが齎される。
まぁ、今回はジュースだけだからマシ……。
「そしてデスマッチをするからには厳しい罰ゲームも追加されるわ!」
「何故に地獄を追加するので?」
「それが古式ゆかしい作法だからよ!」
そうかな……そうかも……。
「敗者は部長とワタシで作った罰ゲームボックスからお題を一枚引くことになるわ!」
先輩はそう言って部室の棚から一つの箱を持ち出した。
よくある手を突っ込むタイプの四角い箱であるが、中身には罰ゲームの内容が書かれた紙を部長と先輩が思いつく度に放り込まれている。
時々、倫理を投げ捨てて青春の一ページを黒く塗り潰すために設定されたような罰が飛び出す恐怖の箱だ。
しかし、往々にしてその被害担当は……うん。
「…………」
「椋鳥、何で勝負の前から憐れみの視線を向けているのかしら?」
「オチが読めたので」
追加の罰ゲーム持ち出したってことは、またこの人が自爆して負けるんでしょ?
「舐めんじゃないわよ! 部長や副部長には負けるけど、アンタや加田にまで負けてる訳じゃないんだから!!」
まぁ、たしかに。
麻雀やパーティーゲームでは自爆の目立つ先輩だが、お互いの得意分野以外のゲームを一対一で対戦したときはそこそこ強い。
運の絡まないゲームなら万能型の棟上先輩の次に強敵だ。
……何でこの人は部長に対して運の要素が強いゲームでばかり挑むのか。
「今回はサシの勝負! 先輩より優れた後輩はいないと思い知らせてやるから!」
「その理屈で毎度部長と副部長に負けてるのでは?」
「うっさい!」
モリモリ先輩は積まれている箱の一つを手に取り、開封してパックを並べる。
通常のパックが30パック。加えて、ボックス購入特典のボーナスパック……SR以上確定のパックが付いている。
「ボーナスパックの扱いはどうします?」
「30パック開封時点で負けてる方が開けることにしましょう。逆転要素があった方が勝負は面白くなるわ! ただし、ボーナス込みで同点なら30パック開封時に勝ってた方が勝ちよ!」
「了解。レアリティのポイントは?」
「SRが1点、URが2点、シクとレリーフが3点、ホロが4点、プリシクが5点よ!」
通常、基本パックはSRが6枚、URが3枚、シークレットレアとアルティメットレア(レリーフ)が1枚ずつ。そして箱に入っているか不確定なホログラフィックレアや、シークレットレアの代わりに出てくるプリズマティックシークレットレアがある。
つまりボーナスパックを除けば、一箱あたり18から22、あるいは24点を奪い合う形になる。
「30パック開封時点で同点の場合は?」
「ジャンケンで勝った方がボーナスパックを開ける。つまり勝ちね」
「あと確率的にはプリシクよりホロの方が出現率低いですが」
「ワタシの好みよ!」
「了解」
そしてルール確認が終わり、デスマッチが始まる。
「ワタシの先攻!」
モリモリ先輩はそう言って、次々にパックを手に取り始める。
手にとっては戻しを繰り返し、一つずつ手に乗せていく
「先輩?」
「ちょっと静かにして椋鳥。今、指先に神経集中してるから」
「……まさか重さの違いで高レアリティを引こうとしてますか?」
このカードゲームの高レアリティは、加工が施されている分だけノーマルや通常レアよりも重いと言われている。
しかし、それも小数点以下……0.1グラム程度の差だ。
電子秤ならともかく、人の指で分かる重さじゃ……。
「まずはこれね!」
先輩はその宣言と共に一パック目を開封する。
中身は……シークレットレア。
「マジか……!」
まさか初手から3点先取されるとは……。
「アッハッハ! どうよ椋鳥! こんなのロシアンルーレットに比べればちょろいものね!」
「先輩、どこでなにしてたんです?」
ともあれ、これはマズイ。
いきなり先制されてしまった。
ここで俺も同じく3点枠のレリーフか、ホロやプリシクを引かなければ……。
「ドロー! ……っ! SR……!」
得点は入ったが、一ターン目は二点の差をつけられる形となった。
「貰ったわ! これよ!」
そして先輩は続く二ターン目にレリーフを引いてみせた。
これで、点数は1対6。
「くっ……!」
何とか追い縋るべく、俺は二パック目に手を伸ばした。
◇
そして五分後、勝敗は明確な形で表れていた。
現在の点数は……7対11。
「…………」
「大したもんだったわよ。勘と運だけでここまで詰めるなんてね」
自分の15パック目を引いた先輩が勝ち誇ったように笑う。
お互いの結果は、次の通りだ。
・一ターン目
先輩:シークレットレア 合計3点
俺:SR 合計1点
・二ターン目
先輩:レリーフ 合計6点
俺:UR 合計3点
・三ターン目
先輩:UR 合計8点
俺:UR 合計5点
・四ターン目
先輩:SR 合計9点
俺:SR 合計6点
・五ターン目
先輩:SR 合計10点
俺:SR 合計7点
・六ターン目
先輩:SR 合計11点
俺:対象なし 合計7点
・七ターン目以降
両者追加点なし
六ターン目で、点獲得の対象となる高レアリティ……SR6枚UR3枚シクとレリーフが枯れた。
それも、先輩は点数の高いレアリティから順に引き当てている。
十中八九、先輩は最初にパックを持った時点で完全にパックのレアリティを把握していた。
先輩はこれまで続けていた開封作業中に各レアリティのパックの重さを指先で把握し、覚えていたのだろう。
加えて、先攻を取ったことも戦術。
ただの開封であれば先攻後攻にさしたる差はないが、高レアを把握できる先輩ならば話は別。
ホロが入っていない基本のレア枚数は、SR6枚UR3枚シクとレリーフが1枚ずつの計11枚……奇数。
仮に俺が今回のように運良く連続で高レアを引けたとしても、先攻の先輩は先んじて奇数枚のレアカードを取って有利に立てる。
つまり、全ては先輩の掌の上。
このデスマッチ自体が、先輩の領分……騙し合いの範疇だった。
恐らくは……単純作業に飽き、俺に罰ゲームを受けさせて遊ぼうと考えた悪巧みだ。
結果は、圧倒的。
「くっ……」
人間業ではない精密性が齎した、圧倒的な点差。
俺も何とか連続して高レアリティを引けたが、二ターン目までの猛攻には追いつけなかった。
だが、まだ分からない。
俺にはもう一パック残っている。
シクが出ている以上プリシクはないが、まだ……。
「ふふん、ホロの可能性は残ってるって?」
俺の心を読んだように、先輩はそう述べる。
そう、ここで4点のホロを引けば、11点で同点。ジャンケン勝負に持ち込める。
「ないない。あったら真っ先にワタシが引いてるもの。しかもそれが最後まで残るなんてドラマチックもありえないわ」
「――それでもゼロじゃない」
先輩のミス、偶然の連続、小数点の彼方でも可能性があるならば……そこに賭ける!
「ドロー!!」
そして、俺の十五パック目は……。
「…………」
「ほらね?」
得点の対象外……ただのレアだった。
「ほらほら、さっさとジュース買ってきなさい椋鳥! 罰ゲームボックスも忘れずにね!」
「くっ……!」
罰ゲームを受けること以上にこの人の掌の上で完敗したのが悔しい……!
だが、負けた以上は仕方ないと、先輩の差し出す罰ゲームボックスに手を伸ばし……。
「……待て」
「「?」」
そのとき、俺達に声を掛ける人がいた。
「まだ勝負は……終わっていないぞ」
この部室にいた三人目の人物、運搬作業で体力を使い切って倒れていた棟上先輩である。
「何言ってんのよ棟上。ワタシの圧勝で終わったでしょうが。ていうかあんたも起きたなら開封手伝って……」
「まだボーナスパックが残っている」
「!」
その言葉に、俺はハッとする。
そう、まだ決着ではなかった。30パックの開封が終わった後、負けている方が引けるボーナスパックがあったのだ。
「いやいや、何言ってんのよ棟上。ワタシは椋鳥に四点差つけてるの。ボーナスで同点になってもワタシの勝ちなんだから、椋鳥が勝つにはプリシクを引くしかない。でも、いくらSR以上確定のボーナスパックでもプリシクが出る確率なんて「あ、プリシク出た」なんでぇぇええええええ!!?」
俺にとっての最後の希望、ボーナスパックにはプリシクが入っていた。
これで俺の点数は12点。
12対11で俺の逆転勝利である。
そしてプリシクを見せる俺に対し、モリモリ先輩はムンクの叫びみたいな顔をしていた。
「何で!? 何でこんなことに!? 圧勝してたのに何で最後に捲られるの!?」
「可能性がゼロじゃなかったので」
「あんたそれ言えば済むと思ってない!? あっ! 出現率的にホロが5点でプリシク4点にしない!?」
「ダメです。罰ゲームどうぞ」
「ちくしょおおおおお!!?」
先輩は絶叫しながら、俺の差し出した罰ゲームボックスに手を突っ込んだ。
◇
それから一時間後。
部活連の会議を終えた部長が部室に戻ってきた。
「開封作業ご苦労様。片付いたみたいね」
その声とカメラのシャッター音は同時に聞こえた。
言葉は部室の様子……卓上に整理されたカードの山と、幾つもの燃えるゴミの袋に入った箱とパックの山……を見てのもの。
シャッター音は、部長の手の中の携帯端末から発せられたもの。
カメラのレンズの向かう先は、モリモリ先輩だ。
なお、今の先輩の装いはうちの学校の制服ではない。
「ところで、貧乳の痴女が自販機でジュース買ってたって噂になってたけど……」
部長は『バニーガールになる(帰宅まで)』と書かれた紙を前に突っ伏した痴女……もといバニーパイセンを微笑ましげに見ている。
なお、シャッターは切り続けている。
「イッソコロセ……」
この後に痴女姿で家に帰るバニーパイセンは死んだ目でそう呟いた。一生物の恥である。
しかし、今回も自分で用意したルールと罰ゲームの煽りを自分で食らったな、この人……。
「でも前の乳首隠しリボン(加田談)よりはマシだと思いますよ」
「椋鳥、それは慰めにはならない」
「今度私もデスマッチしてみようかしら?」
「イッソコロセ……」
◇
かくして今日も電遊研の日常は過ぎていくのだった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<何書こうかと思ったが
(=ↀωↀ=)<近頃の作者がパック開封しまくってたのでこんな話になった
(=ↀωↀ=)<最近はデジカにも手を出し始めた模様
( ꒪|勅|꒪)<何刀流だヨ……
◯モーリー・フォレスター
(=ↀωↀ=)<息をするように悪巧みする女
(=ↀωↀ=)<手先の技術力に秀でており、技術の介在するギャンブルなら超強い
( ̄(エ) ̄)<青年誌の特殊ギャンブル漫画に出てきそうクマ
(=ↀωↀ=)<なお、電遊研の中では負けまくっているし罰ゲームもちゃんと受ける




