リクエストSS『Long Shot / Wrong Shot』
(=ↀωↀ=)<リクエストSS
(=ↀωↀ=)<内容は一般<マスター>+???
□■二〇四三年九月某日
<マスター>がモンスターを狩る基準には性格が出ると言われる。
ここに二種のモンスターを例に挙げよう。
一つ目は、サイに似た亜竜。
温厚であり、砂漠のサボテンを食んで生きている。
人間を見かけても自分から襲ってくることはなく、傍でモソモソとサボテンを食い続ける呑気な種族だ。
ドロップアイテムは肉もツノもそれなりにいいお値段になる。
二つ目は、小型の肉食恐竜に似た亜竜。
獰猛で狡猾、自分より弱そうな人間は見かけただけで襲って捕食しようとする。
ドロップアイテムは爪や皮だが、あまり値段はつかない。
これら二種のモンスターがおり、強さも同程度だとして。
どちらの方が、倒すハードルが低いか。
これについてアンケートを取ると、面白いほどに分かれる。
前者の方が隙だらけであり、ドロップアイテムも高価であるため、利益だけを考えるなら前者になる。
だが、前者は何となく倒しづらいという印象を持つ<マスター>が少なくない。
穏やかで牧歌的なモンスターを自分から攻撃して殺めることへの罪悪感があるのだ。完全なリアリティと現代の倫理観が生む現象である。
だが、そうした者達も後者……襲ってくる肉食モンスターならば普通に倒せるというパターンは多い。
彼らにとっては、能動的に人を襲ってくるモンスターの方が心理的負担は小さいのだ。
なお、襲ってくるモンスターへの恐怖に耐え切れない者は非戦闘職になるか、そもそも引退している。
また、そこまではいかずとも能動的に襲ってくるモンスターが怖いからと受動的なモンスターを狙う者もいる。
単に労力への対価だけで選ぶ者もいる。
このように、どんなモンスターを狩るかという点において、<マスター>の中でもスタンスはバラける。
これがこの世界に生きるティアンならばもっと分かりやすく、防衛を担う者でなければ前者一択になる。
結局のところ、自身が死ぬ恐怖や生命が危ぶまれる貧しさとはまず無縁の<マスター>だからこそ、余分な判断基準を多数設けることができるとも言えた。
生殺与奪の判断基準、あるいは良心の呵責の軽重。
奪う命に対してどう感じるのか。
ある意味では傲りとも言える命の天秤。
それは、モンスターの討伐に限る話でもない。
◇◆◇
砂漠の中心に、一人の<マスター>が立っている。
引き締まった筋肉をした青年であり、まるで世紀末に拳法で戦っていそうな見た目をしている。
しかし、そんな彼のメインジョブは見た目のイメージに反して魔法職である。
マスターはアバターの見た目とジョブ選択が自由なので、そういうケースもままある。
彼のジョブは【紅蓮術師】。サービス開始からリアルで二ヶ月が経過した現在、『見つかってる魔法職で一番火力出るぜ!』と評判のジョブだ。
なお、だからといって彼の筋肉は完全な飾りではない。
彼の場合はサブ下級職で魔法職以外に前衛系もとっており、ステータスでの対応力も上げている。
ソロで動く魔法職のマスターはこのようにバランス取りに走りやすい。
ガードナーやパーティ枠を割いた従魔など前衛を任せられる存在がいるなら別だが、そうでなければソロで火力一辺倒の魔法職ビルドは博打が過ぎる。
そのため、多少の体感時間の速さとある程度の肉体強度、そして魔法スキルの火力を求めるバランス型がソロには好まれる傾向にある。
「…………」
しかし、ここにいる彼はそんなビルドであっても、特化型に劣らぬ火力を有している。
それは彼の右手を埋め込むようにして接続された長大な杖……彼の<エンブリオ>によるもの。
彼は自身の<エンブリオ>である杖を大砲のように構えている。
この<エンブリオ>の効果は魔法の効果上昇。シンプルで使い勝手のいいアームズだ。
今しがた第三形態に進化して射程延長が使えるようになったため、これから試し撃ちというところだ。
「《クリムゾン・キャノン》!」
<エンブリオ>によってカスタマイズされ、名前の変わった【紅蓮術師】の奥義を放つ。
放たれた火球は本来の射程距離を大きく越え、地平線の向こう……地表から見たのでさほど遠くはないが四キロ以上は飛んだだろう。
そして着弾からたっぷり十秒以上かけて、ドカンという爆音が彼に届いた。
「あ、レベルアップした」
射程距離を測るために特に目標もなく遠くまで飛ばした魔法だったが、どうやら経験値をくれる何かに当たったらしい。
彼は「運がいいなぁ」と思いながら、正確な距離の確認とドロップアイテム回収のために着弾点へと向かった。
そこで何が起きているかも知らず。
◇◆◇
□■【紅蓮術師】エドガー・ロング
「…………」
ここは砂漠のど真ん中。
右見て砂丘、左見て砂丘、後ろも砂丘。
サハラ砂漠に来たみたいでテンション上がるなー。役割的にはどっちかというとシルクロードのタクラマカン砂漠だけど。
「…………」
いやー、右も左も後ろも全部砂だけどここまで広大な砂漠の中心にいると壮観だぜ。地元の砂浜とは違うな!
「…………ちら」
前と現実を見ると、大破した砂上艇とティアンの死体。
美麗なCGで描かれた船体の前半分は、まるで砲撃の直撃でも喰らったかのように吹っ飛んでいる。
酷い……誰がこんなことを……!
…………。
……………………。
はい。俺が犯人です。
「こ、殺すつもりはなかったんだ……!」
我ながら誰にドテンプレな言い訳しているのか。
……まぁ、実際問題殺すつもりはなかったのだ。
プロメテウスが第三形態に進化して射程が延びたので、どこまで届くか撃ってみたら地平線の果てまで飛んでいった。
そしたらレベルが上がったので、モンスターに当たったと思ってドロップアイテム回収のために着弾点に近づいたらこんなことになっていた。
「ちゃうねん……」
誰が好き好んでティアン狙うかい。リスクデカすぎるわ。
しかもカルディナは商人狙う輩に厳しくて検挙率も高いというのに。
目撃者もいないだろう砂漠の犯行でもなぜか指名手配されるのだと、監獄落ちした<マスター>が掲示板に書いていた。
『犯罪行為とかリスク高すぎだろバッカでー』と思っていたが今は俺が犯罪者である。
「どうする、どうする、君ならどうする……」
監獄は嫌だ……監獄は嫌だ……。
しかし過失致死とはいえやっちまったのは俺である。
ファンタジーにしては法整備されてるので、このままではお縄になる。
ハードを手に入れて一ヶ月。
コツコツ頑張ってきたがこれからは“監獄”で頑張ることになるだろう。
…………それはちょっと嫌だな!
「いっそ開き直るかぁ!」
幸い、他国との国境に近いしこのままレジェンダリアに高跳びするのも手だ。
人生は切り替えが肝心。ここからは官憲とのレースの始まりだぜ!
そうと決まれば逃走資金の確保だ! この死体と砂上艇から金目のものを頂く!
まぁオープンワールドRPGなら死体から剥ぎ取ることなんてよくあるよくある。
……いや、死体まで美麗CGなのはともかく持ち上げた時に重さ感じるのメンタルきっつ。臭いはギラギラに日が照ってる砂漠だからか速攻乾燥しててそんなでもないけど。
ダイブ型だとこうなるのかー、知りとうなかった。
まぁいいや、アイテムボックス漁ろ。
「んー、持ち物はちょっとのお金と回復薬とナイフと毒薬と殺傷系のジェムと首輪と契約書と……おやおやおやおや」
この死体、持ち物が物騒じゃありませんこと?
それともこれがカルディナの商人のマスト装備なんです?
ともあれ、金銭的には物足りない。他には何かないだろうか?
「ん?」
船は前部の操縦席を中心に半壊しているものの、後ろ半分はまだ形を保っている。
そして、そこには外から施錠された船室の扉らしきものが見えた。
……おかしくない? 何で稼働中だった船の船室が閉ざされてんの?
そんなに貴重なものを仕舞ってるんです?
気になるので開けてみよう。
鍵開け技能ないけど火属性魔法で熔かしたらいけるやろ。
……うーん、こっちの汗が出るくらい熱してるけど全然溶けねーや。この鍵、超頑丈。
ファンタジーの鍵って魔法対策されてんだなぁ。勉強になるぜ。
鍵がないと開かないっぽいけど、さっき死体漁りしたときには見つからなかったしなぁ。
俺が吹っ飛ばしたときにどっかいったのか壊れちゃったのか。
しゃあない。切り替えよう。
「火属性魔法で、直線照射で、角度はこう」
プロメテウスを右手に装着して、船室の屋根部分に照準。オッケーオッケー。
「《クリムゾン・バスター》!」
プロメテウスを介してカスタマイズされた【紅蓮術師】の奥義が、船の屋根を消し飛ばす。
鍵がないなら屋根を壊せばいいじゃない。
これで中の物も漁り放題だぜ、ヒャッハー!
俺は意気揚々と露天になった船室に上から侵入し……。
「…………」
「…………」
なんかこっちを見上げる薄着の女の子と目が合った。
……他にも乗員いたのかよ!?
え? 顔見られた? 強盗殺人の目撃者なんです?
流石にこんな子をアレして口封じするのは心が痛むので嫌だぞ俺は。
流れ弾で死んだ人? ……どんな見た目かもしらんし。
兎にも角にもこうなったら速攻でケツまくって退散するしか……!
俺は女の子に背を向けようとして……。
「あなたが私を助けてくれたのですね……!」
そんな言葉を投げかけられた。
……ぱーどん?
◇◆
俺は逃走を中止して、詳しい話を聞くことにした。
薄着のお嬢さんの話によると、彼女はここから少し離れた都市の豪商の娘であるらしい。
しかし父親が犯罪組織に目をつけられ、娘の彼女は誘拐。
娘の身を盾に父親に身代金を要求したそうだ。
なんと分かりやすい営利誘拐だろうか。
しかし、見張り役の下っ端が下心を出す。
見目麗しい彼女を売り払えば一財産になると考え、連れ去ってしまう。
そうして、彼女は奴隷として他国に売り渡される寸前だった。
ところが、下っ端が俺の流れ弾でデデーンしたという訳だ。
理解理解。
つまり……。
「…………セェーッフ!!」
「せぇふ?」
セーフ! セーフ! ノーカンノーカン!
誘拐犯ぶっ倒して攫われた人助けただけなのでこれはセーフです! 犯罪ノーカン! 無罪確定! 無罪確定! 俺が法律だぁあああ!!
「<マスター>様のお陰で、囚われの身から解放されました」
俺が人の道を外れずに済んだ(?)ことを喜んでいると、お嬢さんはそう言って頭を下げる。
「でも、あなたはどうして私を助けてくれたのですか……?」
「何……人として当然のことですよ」
俺はキリッとした表情でお嬢さんに答える。
そう! 誘拐犯を倒す(誤爆)のも犯罪の証拠集め(死体漁り)も閉じ込められた女の子を助けること(器物損壊)も人の道を外れちゃいないんだ!!
……うん、めちゃくちゃ安心したよね。良かったよ、正義が担保されてて。
…………自分で考えといてなんだけど正義が担保されるってちょっと哲学だな。
「それで、あの、厚かましいお願いなのですが……」
「フッ。言われずとも分かっています。貴方を家まで送り届けましょう」
「……! あ、ありがとうございます!」
格好つけたロールをしながら話す俺に、お嬢さんは頭を下げてお礼言ってくれてるけど……。
【クエスト【護送――フリージア・ヘルマイネ 難易度:四】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
まぁ、うん。実は言われる前からクエスト発生してネタバレされてんだわ。
へー、このお嬢さん、フリージア・ヘルマイネっていうのか。まだ自己紹介されてなかったのに個人情報バラされてら。
「……あ! 申し遅れました! 私はフリージア・ヘルマイネと申しま……「知ってる」……え?」
「いや、何でもない」
……ていうか、名字が知ってる街の名前だった。
思ったより大物なお嬢さんであるらしい。
これはクエスト報酬も期待できるぜ!
「それで、送り届け先はヘルマイネの街でいいですか?」
「は、はい」
「では、早速向かうとしましょう。街の方角は分かっています。失礼」
俺はそう言ってお嬢さんをお姫様抱っこで抱え上げる。
「え……!?」
ふふふ。俺の逞しい肉体に赤面しているな。
アバターをメイキングするときに設定したハリボテの筋肉だが、そこそこレベル上げたので年頃のお嬢さん一人なら余裕だぜ!
「脚部接続、風属性魔法、継続噴出、風防、姿勢制御」
俺は呟きながら靴を脱ぎ、砂の上に置いたプロメテウスに乗る。
間も無く、カシャリと音がして俺の足が固定される。スキー板とブーツみたいな感じ。
で。
「《エアロ・ブースター》」
魔法を発動させると、俺達の姿は空にあった。
プロメテウスは後部から風を噴出し、ジェット機のようにかっ飛ぶ。
気分は筋斗雲に乗った孫悟空。あるいは柱に乗った桃白白。
「はわわ……!」
お嬢さんは驚きで目を丸くしている。
ふふふ。うちのプロメテウスの便利機能だぜ。
ていうかリアル縮尺の砂漠を歩くとか絶対に嫌でござる。これなかったら面倒くささで詰んでた。
ちなみにこれまでに何回かしくじって地面や崖に突っ込んで死んでる。何事も練習って大事だよな!
……まぁ、今回は練習してたら誤射したんだが。
「…………今度から気をつけます」
「え?」
「独り言なのでお気になさらず!」
内心のドキドキと反省を顔に出さないようにしながら、俺はお嬢さんを抱え、格好よく――途中でMP回復休憩も挟みながら――ヘルマイネまで飛んで行った。
◇◆
なお、この後、お嬢さんの家を狙った犯罪組織との抗争に巻き込まれることをこのときの俺は知らない。
Episode End
〇エドガー・ロング
(=ↀωↀ=)<本名、江戸川一長
(=ↀωↀ=)<アバターネームは本名のもじりなのだけど
(=ↀωↀ=)<後になって「略すとエロじゃん……」と気づいて凹んだ男子中学生
(=ↀωↀ=)<十割ゲームだと思っている遊戯派オブ遊技派
(=ↀωↀ=)<オープンワールドRPGの延長線気分でデンドロをやっているので
(=ↀωↀ=)<特に交流のないティアンや悪党の命に関しては深く考えない(リスクあるので犯罪行為は基本しない)
(=ↀωↀ=)<という本編では少ないタイプ
(=ↀωↀ=)<あまり考えずにやってみるせいで色々トラブルに巻き込まれるというか起こす
(=ↀωↀ=)<毎度「どうしようどうしよう」とめちゃくちゃ感情掻き回されつつ
(=ↀωↀ=)<何だかんだで最終的には良い塩梅になる結果オーライの化身
(=ↀωↀ=)<かつての閣下よりアホだけど閣下ほどやらかしてない元一般<マスター>
( ꒪|勅|꒪)<……元?
(=ↀωↀ=)<現在の彼はビジュアル化されており
(=ↀωↀ=)<漫画版二巻第七話にてその姿を確認できます




