双胴白鯨討滅戦
(=ↀωↀ=)<更新再開ー
(=ↀωↀ=)<タイトルからお察しと思いますがまだ『結』じゃないです
(=ↀωↀ=)<内容としてはここまでの『遥かなる渇き』と
(=ↀωↀ=)<『彼にとっての<Infinite Dendrogram>』の読了が推奨されます
□■<北西境界海域>
<SUBM>の出現が伝えられた後、白鯨との会戦によって戦死したカイナル・グランライトの遺した記録が届けられた。
その記録を基に四大船団合同の対策会議が開かれ、即座に討伐艦隊の結成が決定された。
詳細な戦闘記録から敵の能力特性を解析し、打倒可能と目されるプランが練り上げられ、討伐艦隊はグランバロアを出港。
討伐艦隊を構成するのは軍事船団の運用可能艦船の八割。
貿易船団所属の<GFRS>から供出された新兵器群。
プランに合わせて選出された<マスター>達。
そして、二人の<超級>
【盗賊王】ゼタと……討伐艦隊旗艦の甲板で彼女の隣に立つ男だ。
「…………」
【大提督】醤油抗菌。
【モビーディック・ツイン】と最初に会敵した<マスター>の一人。
その事件を経て<超級>に至り、死したカイナルから超級職を引き継ぎ、【モビーディック・ツイン】と同時期に発生した<第四海底掘削城>の事件を即座に解決した。
今、グランバロアで最も強い男だ。
(……随分と雰囲気が変わりましたね)
ゼタもチェルシーと幾度か決闘した醤油抗菌のことは見知っている。
しかし、違う。
今と昔。ゼタから見て同一人物なのは間違いないが、気配はまるで違う。
かつて決闘で仲間達と遊んでいた彼だが、今の顏に『遊び』は一切ない。
口元を引き締め、眼光鋭く水平線の先を睨んでいる。
(軍事船団の先代船団長が亡くなったのでしたね……)
ゼタは、想像する。
もしもバルタザールが【モビーディック・ツイン】に殺されたならば、と。
結論は、彼ほどの振れ幅はないだろうが自分も似たような気持ちだろうと思った。
あまり悲しまないのではなく、……元より彼女の気持ちが陰に近いというだけのことだが。
「……やれるか?」
そんなことを考えていると、彼の方からゼタに話しかけてきた。
何を『やれるか?』と聞かれたのかはすぐに察せられた。
「無論。あなたと軍事船団がアタッカー。私はサポート。やり遂げます」
【モビーディック・ツイン】は恐ろしい怪物だ。
いくら体を欠損させても、海水で欠損部分を埋め合わせる。
さらには海水から無尽蔵に兵器を作り出す。
攻防一体。海がある限り、水がある限り、かの怪物は不死身。
だからこそ、ゼタは自分なら問題ないと確信していた。
「進呈。作戦の前にこれを装備しておいてください」
ふと、とある問題に気づいてゼタは醤油抗菌に護符のようなアクセサリーを手渡した。
「これは……」
その護符は潜水士などが用いるもの。
酸素を確保し、ある程度までの気圧水圧の変化から身を護る装備。
ゼタが常用している装備の予備だった。
「必須。艦隊ならともかくアナタには要るでしょうから」
「……会議で決めた以上のことをやる気だな」
「肯定。お互いに」
二人がそんな言葉を交わし終えた頃、艦隊は決戦の海域へと辿り着いた。
◇◆
見渡す限り陸も文明も見えない大海原。
大海の蒼に染まらぬ『白』が存在した。
双胴船の如き巨大な鯨は、あえて体の上部を……人間の兵器を模した武装パーツを鮫の背鰭の如く海上に露出しながら大海を征く。
それこそは、【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】。
第二の<SUBM>にして公的に観測された最初の<SUBM>である。
この怪物は投下されたポイントから、ひたすら真っすぐにグランバロアを目指していた。
これは【グローリア】のような管理AIとの契約の結果ではなく、己自身の意思。
この海洋の人類を一人でも多く滅ぼさんとして、海上の都市船へと侵攻している。
理由は、人類に対する自然界の復讐と言うのが正しいだろう。
人類の兵器によって家族と半身を殺されたモノが力に目覚め、かつて自分達を滅ぼした人類の力を手にして逆襲に来る。
映画の世界で探せば両手の指以上には見つかるありふれた筋書きだ。
ただし、ありふれていることは……この存在の脅威を軽減させる要因にはならない。
時折、【モビーディック・ツイン】の進路を遮るように、他のモンスターや討伐を目論む人間が立ちはだかる。
モンスターは縄張りを荒らされたことに怒ったモノ。
人間は軍事船団に先駆けて初の<SUBM>を討伐しようと逸った者や他国の者だ。
だが、それらが【モビーディック・ツイン】を倒すことは決してない。
幾多の攻撃を受けても、白鯨の進路は変わらない。
攻撃を回避することはなく再生する身体で受け止め、直進と砲撃によって敵を蹂躙。
白鯨は海と同じだけの生命力と弾薬を持つ怪物。
超物量戦の権化に対抗するには、相対した者達はあまりにも脆弱だった。
仮にこの海でこの白鯨を倒さんとするならば……それは最大最強の個しかなしえない。
しかし、【海竜王】と【モビーディック・ツイン】が相対することはない。
遥か昔から海を遮る最古の超存在を、同じく古の存在である【モビーディック・ツイン】は知っており、絶対に境界線を超えない。
<外海>には入らず、<境界海域>を泳ぐのもあれが通らない時期だけだ。
【海竜王】の境界線の先に復讐対象はいないため、踏み込む理由は全くない。
ゆえに、この【モビーディック・ツイン】の脅威を払うのは最古の力ではなく、今この海で生きる者達以外にありはしない。
『――――』
【モビーディック・ツイン】は、水平線の先にいる存在を感知している。
自らが目指す海上の都との間に陣取った、人類の大艦隊。
都市船を護り、自らを討滅するために集った最後の堤。
それを理解していても、【モビーディック・ツイン】は進路を変えない。
敵陣に進み、全て滅ぼして突破する。
それまでと同じように決断を下した【モビーディック・ツイン】は、水平線の先の艦隊を視界でも捉え、
――巨大な炎に呑み込まれた。
◇◆
至極、単純な話だ。
【モビーディック・ツイン】はグランバロアに向け、不死身の再生力任せで障害物や敵を避けもせずに直進する。
それはグランバロアの<エンブリオ>やソナーでも観測できている。
ならば進路予測は容易であり……罠を仕掛ければ確実に掛かる。
ゆえに醤油抗菌は、【モビーディック・ツイン】の進路上の海域に時間を掛けて『爆薬化』を施した。
アブラスマシのスキルで爆薬に変じた液体は、『着火で燃え上がる』という性質以外は臭いも色も成分も元のままであり、嗅ぎ分けることも見分けることもできはしない。
広範囲の海を全て爆薬に変えた後、海流・液体操作の<エンブリオ>やジョブを持つ者を複数動員し、海水が留まるように調整する。
そうして出来たのがこの巨大な『燃料だまり』……爆薬海域。
この爆薬海域こそが、【モビーディック・ツイン】討伐の第一段階である。
『…………!』
爆発によって海水が焼失した海の底に、【モビーディック・ツイン】が着底する。
海域一つ分という膨大な爆薬の炸裂。その衝撃と熱量は、<SUBM>である【モビーディック・ツイン】のHPも大幅に削るだけの威力を発揮した。
全身の体表が焼け焦げ、四つある眼球のうち三つは白濁し、上部にあった艤装も破壊されている。
だが、仕留めきるには海域二つ三つ分は足りない。
これまでの数多の損傷と同じく、死ななければ回復可能な代物。
【モビーディック・ツイン】は海中において不死身の怪物。
今は爆発で海底を晒すほど海水が吹き飛んでいるが、間を置かず再び海水が流れ込むだろう。
そうすれば、即座にこのダメージは全快する。
【モビーディック・ツイン】はそう考えていた。
『…………?』
しかし実際には、海が流れ込んでくることはなかった。
いまだ機能する眼球で彼方を見れば、海が壁のように反り立っている。
否、海が流れ込んでくるのが……堰き止められているのだ。
「――隔離」
必殺スキル《天空絶対統制圏》を発動したウラノスによる、超広範囲の空気壁。
そこにサポートする海流・液体操作の<マスター>達が助力し、その壁に掛かる海水の圧力を限界まで軽減している。
これにより、【モビーディック・ツイン】を中心として囲うように、空気の堰堤が形成された。
それがある限り、【モビーディック・ツイン】を修復する海水は流れ込んでこない。
海ある限り倒せないならば、海そのものを遠ざける。
空気堰堤。【モビーディック・ツイン】討伐の第二段階である。
「討伐対象、【大提督】の攻撃により重大な損傷発生!」
「再生、確認できず! 空気堰堤、健在!」
「海を押し留めている者達も、十分はもたせてみせる、と!」
重大なダメージを負い、回復源である海から切り離され、さらに露出した海底に打ち上げられて身動きもままならない。
三重苦を負った【モビーディック・ツイン】に、更なる追撃が加えられる。
「目標【モビーディック・ツイン】に対し、全砲スタンバイッ!」
「全艦に通達! 全砲スタンバイ!」
「――撃ぇ!」
それは空気堰堤の外側にL字に展開した軍事船団の艦隊。
【大提督】の《無敵艦隊》で強化された全ての艦の砲が、静止目標と化した【モビーディック・ツイン】に十字砲火を浴びせかける。
グランバロアの最新鋭の砲が、最大のクランが試作した強力な兵器が、長距離攻撃型の<エンブリオ>の必殺スキルが、【モビーディック・ツイン】の身体を抉っていく。
『…………』
それらの攻撃は既に重大なダメージを負っていた【モビーディック・ツイン】にとっては危険なものだった。
しかし、【モビーディック・ツイン】に焦燥はない。
「ッ!? あれは……!」
降り注ぐ砲弾と必殺スキル。
しかし、次第にそれらの攻撃の効果は薄くなっていく。
なぜならば……焼け爛れていたはずの【モビーディック・ツイン】の体表が、いつしか強固な装甲に置き換わっていたからだ。
【モビーディック・ツイン】の持つ固有スキルの名は、《蒼海置換》。
水を自らの肉体や武装に変換するスキル。
そして、生物の体内に最も多く含まれるものもまた、水。
【モビーディック・ツイン】は自らの身体の重要な器官を残し、皮や肉を小型化しながら、余剰分の体液を強固な装甲に変換して体表に回したのだ。
この時点で一点、白鯨は人類の想定を超えていた。
欠損したモノを補うどころか、どこまで削っても問題ないか把握できるほどに『傷つき方』を熟知している。
この海で、最も傷ついた生命体であるがゆえに。
『…………』
【モビーディック・ツイン】は防御どころか、装甲の隙間から小型の砲までも突き出し、堰堤や艦隊に向けて砲撃まで実行し始める。
この程度で自分を完封したと思い込んだ人類を、嘲笑うかのように。
「攻撃の効果、大幅減!」
「目標からの砲撃により、水流操作要員二名死傷!? 艦隊司令、このままでは……!」
「くっ……」
【モビーディック・ツイン】の撃破よりも先に、堰堤の崩壊が来る。
その予感に艦隊に緊張が走ったとき……。
『――俺が引っぺがす』
そんな通信と共に、堰堤に囲われた海底へと降り立つ姿があった。
鎖で繋がった巨大な『甕』を引きずりながら走る、赤と黒のツーブロックの髪。
その男の名を、全員が知っている。
「コーキンッ!」
◇◆
【大提督】醤油抗菌は独り、砲弾降り注ぐ地獄の戦場を走っていた。
「ああ、そのくらいはやると思ってたさ……」
見据えた先には、装甲に覆われた巨大な鯨の威容。
あの日、あの時、彼の友人の命を奪った仇敵の姿。
それは接近する彼に向けて砲を向け始めていたが、
「だからこそ俺が……ブチ砕く」
直後、彼の足元が爆発する。
水たまりを爆発させ、耐爆装備により耐え、爆風によって飛翔する。
文字通りの爆発的加速で醤油抗菌は白鯨との距離を詰める。
「――フォームシフト」
瞬間、彼の『甕』――アブラスマシが二つに割れ、巨大な手甲となって彼の両腕に装着された。
そして飛び込んだ勢いのまま、両の拳をハンマーのように装甲へと叩きつける。
金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、同時にアブラスマシの力が装甲の内まで及ぶ。
「瘡蓋が邪魔だ、クソ野郎」
怨嗟の籠った言葉を吐き捨てると同時に、彼は手甲の内で指を鳴らす。
オーダーメイドの手袋から生じた小さな火が装甲の隙間に入り込み……着火。
血肉が爆炎を発し、装甲を内側から弾け飛ばした。
『……!?』
「まだだ」
驚愕の様子を見せる白鯨に、彼は冷酷に……しかし熱量をもって告げる。
「――肉片一つ遺さず灰にしてやる」
――絶対に殺してやる、と。
◇◆
醤油抗菌の奮戦により、装甲は少しずつ失われ、そこを狙って艦隊の砲撃が飛ぶ。
膨大なHPを持っていた【モビーディック・ツイン】も、その命が徐々に死へと近づいているのを実感した。
海が自らの傍にないゆえに傷は癒えず、武器も足りない。
このまま削られていけば、遠からず死ぬだろう。
『――――』
――このままならば、の話だが。
とある前提の話をしよう。
高位の<UBM>ほど複数のスキルを持つ者が多い。
それは一つだけのスキルでは対応しきれず、成長過程のどこかで死ぬ可能性が高まるからだ。
海がある限り不死身かつ無尽蔵の火力を持つ【モビーディック・ツイン】だが、それを封じられればこの通り。
ゆえに当然――第二スキルも保有している。
第二スキルの名は、《紅海置換》。
それは名が示すように、普段用いている《蒼海置換》の逆だ。
周囲の液体を自らの肉体や艤装……固体に変える《蒼海置換》とは違い、《紅海置換》は自らの体液を気体に変える。
【モビーディック・ツイン】が傷を負った際に飛び散った体液が少しの時間を置いて揮発し、無色・無味・無臭・無害の気体となるのだ。
気体は呼吸と共に周囲の敵対者の体内に取り込まれる。
そして一定量を超えた瞬間に――敵対者の全身を液体に変える。
血肉の全ては紅い液体となってこの海に流れていくだろう。
ダメージを負うほどに散布される探知不能の超猛毒。【モビーディック・ツイン】の切り札である。
しかしこのスキルは普段ならば不活性である。
なぜなら体液が飛び散った時点で即座に海に溶けるため、揮発しない。
気体を一定量吸ったときにのみ効果を発揮する《紅海置換》は、液体の状態では無害。
《紅海置換》は海から切り離された上で、白鯨が痛めつけられた状態でのみ効果を発揮する。
――つまり、今である。
既に攻撃によって傷つきはじめてから数分が経過し、大量の気体が発生している。
白鯨自身にも感知できない毒ガスだが、既に充満して堰堤からあふれ出しているはずだ。
『…………』
今、白鯨に肉薄して攻撃している醤油抗菌は溶けていない。
それは身に着けた……ゼタに持たされた装備のお陰であり、気体を吸っていないからだ。
そのことは白鯨も分かっているし、問題にもしていない。
気体は周囲の艦隊へも届いているだろう。
艦隊にいる者達が溶けてしまえばこの壁も消え、海が届き、【モビーディック・ツイン】は完全回復する。
そうなれば、醤油抗菌は問題にもならない。圧倒できる。
ゆえに、今か今かと白鯨は艦隊の人間達が溶けるのを待って……。
『…………?』
一向にそのときが訪れないことを疑問に思った。
それは海水が流れ込んでこないことに気づいたときと、同様の疑問であり……。
「――《コードNull:ファラウェイ・ホーム》」
――下手人も同一であった。
◇◆
そもそもゼタが醤油抗菌に潜水用の装備を持たせたのは、【モビーディック・ツイン】の手口を読んでのことではない。
自分の戦術に巻き込まないためである。
(大気組成。問題なし)
《天空絶対統制圏》で広範囲に空気堰堤を形成しながら、もう一つある操作を行っていた。
それは堰堤の内側の大気のコントロール。
とある環境に寄せるためのものであり、具体的な数値で言えば次のとおり。
大気圧:0.75kPa。
大気組成:二酸化炭素95%、窒素3%、アルゴン1.6%、他成分極微量。
大気中の水分:0.03%。
その数値の羅列が示すのは、【モビーディック・ツイン】の知らない世界の大気。
<Infinite Dendrogram>とも、地球とも違う世界。
彼女のウラノスが、最も作りやすい環境。
――彼女の世界の大気である。
『……!?』
【モビーディック・ツイン】は強靭な肉体を持ち、長時間の深海への潜航も可能な存在だ。
ゆえに海を奪われたことのみに気を取られ、周囲の大気の激変に今まで気づかなかった。
大気のコントロールの影響で、自分の第二スキルも全て無力化されている。
気づかれもしないままに切り札を潰され、さらに肺が新たな空気を取り込むこともない。
海底に残っていた僅かな水分さえも、乾ききった世界に霧散して消えた。
この海で頂点に近い生命体が絶望的な異世界に苦しめられている。
その様を、ゼタはひどく冷たい目で見下ろしていた。
◇◆
最初の頃、ゼタはテラフォーミングを能力とするウラノスが生まれたのは、母親達の夢を継ぐ意志ゆえのことだと思っていた。
同時に、地球と同じ大気を持つ世界では意味がないと思われた。
だから大気操作能力を何とか応用して、小器用に万能性を上げていった。
しかし、次第に彼女は自覚していく。
人々と触れ合い、火星以外の世界で暮らし、どうしようもなく……理解する。
理解、してしまう。
これは、そんな綺麗なものではないと。
そもそも、テラフォーミングと言うならば空気操作だけでは不十分。
水も土も改良しなければ、テラフォーミングはなしえない。
空気だけを操ってもテラフォーミングは実現できないのだから。
では、何ならば実現できるか。
あの日、あの時、<Infinite Dendrogram>に初めて足を踏み入れた瞬間。
ゼタは心の底からこの世界を否定したかった。
水や空気に溢れた世界を……母親達が命と人生を擲ってまで守ったものを、ありふれた低価値と扱う世界を。
そんな全く常識の異なる世界を、否定したかった。
自分の境遇と価値観を叩きつけてやりたかった。
ウラノスはそれを彼女以上に受け取って、理解して、そう生まれた。
ゆえに、始まりから全てが逆だったのだ。
ウラノスは託された希望や未来ではなく――彼女の昏い衝動の権化。
ウラノスは開拓の夢を継ぐために生まれたのではない。
彼女の世界を異世界で塗り替えるための力ではない。
彼女の世界で異世界を塗り替えるためのもの。
彼女の世界を、異世界の連中に味わわせるための力。
ゆえに今、この使い方でこそ……ウラノスは真価を発揮する。
◇◆
【モビーディック・ツイン】は恐ろしい怪物だ。
いくら体を欠損させても、海水で欠損部分を埋め合わせる。
さらには海水から無尽蔵に兵器を作り出す。
攻防一体。海がある限り、水がある限り、かの怪物は不死身。
この能力についての説明を聞いたとき、ゼタは思った。
――随分と甘えた仕様だ、と。
ゼタが行使したスキル、《コードNull:ファラウェイ・ホーム》。
基本形にして最終形、最も省力にして広範囲。ウラノスの本質。
その力によって、【モビーディック・ツイン】を中心とした閉じた世界は今、<Infinite Dendrogram>でも地球でもない。
遥かなる渇きの星……彼女の世界そのものなのだ。
『水や空気があることを前提に存在する生物』が、力を発揮できるはずもない。
「…………」
ゼタの視線の先で、【モビーディック・ツイン】は砕けていく。
砲火を浴びて爆ぜ、さらには醤油抗菌のアブラスマシによる直接殴打で体そのものが爆薬に改変されて内から消し飛ぶ。
傷を癒す術は、火星にはない。
敵を倒す術も、火星にはない。
だから、もう……コレは死ぬ。
「…………ふふ」
何もできぬままに滅びていく水の怪物を、ゼタは昏い喜悦と共に見送った。
そして、再び自覚する。
――『やっぱり……自分を抑えるのはそろそろ限界ですね』、と。
◇◆
この日、グランバロアは【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】を討伐。
公的には<SUBM>を討伐した国となり、そのMVPには二人の<超級>が選ばれた。
To be continued
○ゼタ
(=ↀωↀ=)<分かる人にだけ分かる彼女のたとえ
(=ↀωↀ=)<木星帝国
○【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】
(=ↀωↀ=)<水がある環境なら不死身
(=ↀωↀ=)<尽きない火力で相手が死ぬまで戦う
(=ↀωↀ=)<状態異常だろうが即死だろうが機能停止したパーツ全とっかえで復活する
(=ↀωↀ=)<ただし、今回は手札全部潰されたのでほとんど何も出来なかった
(=ↀωↀ=)<ロックデッキに完全にロックされて哀れな死に方した<SUBM>
(=ↀωↀ=)<でも醤油抗菌が<超級>になったので
(=ↀωↀ=)<【グレイテスト・ワン】より仕事はした<SUBM>
(=ↀωↀ=)<……しかし後の【アビスシェルダー】にも言えるけど
(=ↀωↀ=)<『ボス特効の<超級>がいて、尚且つ大戦力集めて連携取れてないと無理』
(=ↀωↀ=)<みたいなレイドボス出てくるグランバロアって難易度高いね……
○<SUBM>
(=ↀωↀ=)<でも振り返ると
(=ↀωↀ=)<ここまでの二体がわりと問題なく倒されてしまったからこそ
(=ↀωↀ=)<次が【グローリア】になった気がしないでもない




