遥かなる渇き 起
(=ↀωↀ=)<現在書き下ろし17巻作業中
(=ↀωↀ=)<締め切りは八月
(=ↀωↀ=)<でも七月の内には下読み用書き上げて一回身内にチェックしてもらって修正と改善をしたい
(=ↀωↀ=)<そんな事情から本編更新はしばらくお待ちいただくことになりますが
(=ↀωↀ=)<休載期間中は代わりに数話分の外伝SSを投稿していきます
(=ↀωↀ=)<七章十三話読了後推奨です
□■彼女の環境について
2020年代後半。
某国が人類史にとって極めて大きな転換点となるプロジェクトを発表した。
それは……火星への殖民計画。
異なる惑星への移住プロジェクトである。
人類の新たな居住地として、火星を開拓するというプランは前世紀から存在した。
火星の地球環境化のために様々な計画が立てられ、環境開発のための研究も行われ続けている。
火星開発のために如何なる手立てを実行するかを、世界中の機関と研究者は長年に渡って模索していた。
その中に、火星までの片道切符で向かうというプランがある。
作業従事者が地球に戻る事を考えなければコストは軽くなり、運搬での利点は多い。火星表面からの大気圏外への脱出という最も難易度の高いミッションも行う必要がない。
火星軌道に辿り着き、降下艇で火星表面に降り立ち、母船から降下させた資材で生活拠点とプラントを組み、必要な物資があれば母船が地球と往復して再び降下させる。
それら他の工程全て含めても、火星から再び飛び立つことと比べれば低いハードルだ。
そうして火星表面に人類の生存可能な施設……ひいては都市を建設し、火星の調査と開拓を進める。
『現行技術で可能』な方法としては、ほぼ唯一と言ってもいいプランだった。
無論、その現行技術は管理AIをはじめとする発達した情報処理技術や各種技術開発能力の向上、それに端を発するロボット技術やレーザー推進技術に由来するものである。
もしもそれらがない世界であれば……この方法でも実現は困難だったかもしれない。
『人道的ではない』、『半ば人体実験ではないか』といった他国の反対も押し切り、某国は2030年に火星への植民を実行に移した。
第一陣では少数の人間を火星に下ろし、彼らが火星表面でプラントを拡大しつつ、自給自足可能な規模となるまでの経過を見るというもの。
プロジェクトの中でも特に実験的であり、人柱のような役割だ。
それでも、二度と地球に戻れないという条件にサインしてまで火星に向かう者は……「驚くほどに」という言葉が出る程度には多かった。
とある女性もそうして志願した作業従事者の一人であった。
彼女は自ら志願し、プロジェクトの選抜を通り、火星へ降下する六名の片道スタッフの一人に選ばれた。
そして、彼女は国民に見送られて仲間達と共に宇宙へと旅立った。
しかし、――火星に向かう船内で彼女の妊娠が発覚した。
誰かと情を交わしたのが地球を発つ直前だったのか、あるいは船内の誰かと恋仲になったのか、事前の検査では母親の妊娠は確認されていなかったのに。
しかし船は引き返すことはできない。それはプロジェクトの破綻と某国の威信の失墜にも繋がる。
まして、その原因となった者達がどうなるかも分からない。
それを理解していたからこそ、女性自身も含めてスタッフは計画の続行を望んだ。
結論から言えば……火星への旅路、そして降下においてそれ以外の問題は起きなかった。
宇宙船は火星へと辿り着き、彼女は無事に出産を行った。
◇◆
計画は片道降下という乱暴なものであり、妊娠・出産という最大級のイレギュラーもあったが、準備自体は入念に進められたものだった。
彼らの降下前に、ロボットの手によって資材が組み上げられ、火星表面での生活空間が建設されていた。空気と水の循環プラントも建設済みで、『畑』を作ることにも成功している。
降下スタッフ達がチェックを行った際にも、大きな問題は何もなかった。
これら一連の成功は、ある意味では出産以上の奇跡と言える。
無論、未だ目的である『火星上人類の資源消費量を資源生産量が上回る』の達成には遠い。
そのため軌道に乗るまでは物資の追加補充は必要だったが、それも問題はなかった。
地球との通信環境――情報データをパッケージングして送り合う非リアルタイム通信――も問題なく整い、彼らは自分達の近況を本国へと伝えることもできたからだ。
その中で、生まれた赤ん坊は火星生まれの地球人第一号として、世界中のニュースで取り上げられた。プロパガンダの一種でもあるだろう。
イレギュラーな事態ではあったが国としてはこれ以上ない宣伝でもある。
『我が国は火星上で子供を出産し、育てることができるほどに先進しているのだ』、と。
その宣伝に乗って国民や資産家からの寄付も増えていたこともあり、問題なく火星への物資輸送は続けられることになった。
もっとも、このプロジェクト自体が国際協定を破ったやり方であったため、以後の火星への追加人員の降下は認められなかったが。
なお、子供の名前は、降下艇のスタッフに次ぐ火星の七番目の住人という意味合いや、火星での出産という例を見ない状況での奇跡的な確率での出産が成功したことから……『ゼタ』と名付けられた。
◇◆
急遽増えた人員であったゼタだが、環境に恵まれていたおかげで古典SFのような『冷たい方程式』にはならずに済んだ。
もっとも、火星における人類の橋頭保という他に類を見ない環境を恵まれていると言っていいかは疑問であったが。
ともあれ、彼女は健やかに育っていったのである。
地球と異なる重力の影響も、拠点内に敷設された当時最新の加重ブロックによって最小限に抑えられている。
そして彼女は生まれた場所以外は普通の赤子として育ち、幼児となって少しずつモノを学び、子供として成長した。
産んだ母親は当然として、彼女は六人のスタッフに我が子として愛されて育てられた。
環境に拘わらず、それは健やかな少女時代とも言えるだろう。
「学習」
文字が読めるようになると、ゼタは教材データを用いて一人で学ぶようになった。
彼女が学びに使うのはコンピュータ端末。彼女の出産が知られた後に地球から贈られたものだ。
そこには絵本や図鑑、様々な創作物のデータが詰め込まれていて、彼女は黙々とそれを読んで学習していった。
大人達はプラントの増設や資源開拓、火星での研究で忙しくしていたため、手を煩わせたくなかったこともある。
自分の置かれた状況を理解し、弁え、邪魔にならないようにしていたのだ。
子供としては異常なほど早熟であるが、周囲に同年代の子供がいない彼女はそれが普通だと思っていた。あるいは、この環境における『普通』ではあったのかもしれない。
ただし、彼女が学ぶデータは全て地球で生み出されたものであり、地球を基準としている。
それゆえ、『地球』を体感したことがない彼女には本質的に理解できない。
確かな情報を集めた図鑑でもフワフワとした夢物語と大差ない代物でしかなかった。
健やかに育ちながら、『地球』という星の実感だけがゼタにはなかった。
「いつか、ゼタは地球に帰れるといいわね」
時折、母親はゼタにそう言っていた。
自分達は片道スタッフであり、生きている間に火星を離れることはないと思っている。
しかしゼタの世代になれば……技術が進歩すれば火星から飛び立てる可能性もある。
覚悟を決め、使命感と共に火星に降り立った者達だが……それでも望郷の念は生まれる。
だからこそ、自分達の夢を娘に託していたのかもしれない。
(…………不可解)
当の娘には……理解できないことだったが。
彼女にとって故郷は火星であり、地球は未知の……夢物語の世界だ。
ゆえに、母親たちの願いはゼタにとっては『いつか魔法の国に帰れるといいわね』と言われるに等しいあやふやで不確かで……不安なものでしかない。
(私は、母様達とここで生きているのに)
それでも聡い彼女は自身の考えを口にせず、母親達が望むように微笑んでいた。
◇◆
そうして、ゼタは異常な環境なれど健やかに……愛されて育った。
しかし、彼女が十歳になった頃、その運命は変転する。
彼女を育てた親達、彼女を除く火星の住人六名。
――その全員が死亡したために。
To be continued
(=ↀωↀ=)<ゼタのオリジン編
(=ↀωↀ=)<……七章十三話時点で予測してる人が結構いたという
(=ↀωↀ=)<ちなみに前に一度投稿しようとして「まだ早い」と引っ込めたけど
(=ↀωↀ=)<今回は「グランバロア編まで待つべきか、いや今でいいか」と投稿
○リアルの科学技術
(=ↀωↀ=)<二章の頃からガードロボットとかの記述もあったけど
(=ↀωↀ=)<本来の地球より細かいところで技術が発達している
(=ↀωↀ=)<理由は『齎された情報処理技術』と『ジャンル違い』達のせい




