Before Franklin’s Game
(=ↀωↀ=)<16巻発売記念SS
(=ↀωↀ=)<Twitterキャンペーン予定だったものですが色々な理由でこちらに掲載
(=ↀωↀ=)<時系列は本編前ですが
(=ↀωↀ=)<16巻か本編の蒼白Ⅱ読了後推奨です
(=ↀωↀ=)<あと元々特典用だったので〈〉が半角です
↓
(=ↀωↀ=)<誤字報告機能で対応してくれた人がいたので他のWEB版同様の全角になりました
■二〇四五年三月上旬
皇都ヴァンデルヘイムの郊外には巨大な工場施設がある。
それは皇国最大のクラン、<叡智の三角>の本拠地だ。
敷地にはいくつもの研究棟と実験棟があり、所属する生産職が各グループに分かれて新型機の開発を行っている。
また、漫画やアニメのような二次創作物の作成に勤しんでいる者もいる。
<魔神機甲グランマーシャル>をはじめとするそれらも、皇国内での<マジンギア>のアピールには都合が良いためクラン活動の一環として認められている。
昼夜を問わず、多種多様な創作活動が行われているのが<叡智の三角>というクランだ。
郊外には彼らの本拠地と併設するように……もう一つ巨大な工場施設がある。
その施設は一辺が一キロにも達する巨大な立方体であり、更には虫のような脚と竜の如き頭部が生えている。
それこそは、【魔獣工場 パンデモニウム】。
<叡智の三角>のオーナーであるMr.フランクリンの<超級エンブリオ>である。
あまりにも巨大な<エンブリオ>。
しかしこれでも皇都内で日照権の問題を起こさないように展開位置には気をつけ、普段は脚を畳み、首を竦め、可能な限り邪魔にならないようにもしていた。
最初は不気味で畏れられた存在だが、幾らかの配慮と皇国最大クランの所有で敵ではないという情報から、次第に皇都の住民も慣れていった。
「ん……」
そんなパンデモニウムの内部、自分用の研究スペースでフランクリンは図面を前に唸っていた。
傍らには、フランクリンの手足となって機体を作成しているモンスター達がいる。
工業機械に手足を生やした奇怪なモンスター群だが、それらがいるからこそフランクリンは一人での生産活動を可能としていた。
代わりにモンスターと機体の素材で莫大なコストが掛かるため、収入が増えた今の彼女だからこそやれる手法ではある。
「外部装甲はこのまま神話級金属とミカル鉱石の合金で……」
フランクリンがチラリと横目で確認した先には、白い金属塊があった。
本来は緋色の神話級金属が、他鉱石との合金によって白く変色したもの。
それを同質の加工機械やレーザー工具を使って、モンスター群が削りだしている。
整えようとしているその形は中世のフルプレートメイルのようだったが……その体格は人間用のそれではない。
それらは……<マジンギア>に着せるためのものだ。
神話級金属は一キロで一〇〇〇万リルという超高級素材であるため、それで<マジンギア>を作るというのは中々に馬鹿げた話である。
それでも、フランクリンはそれを実行していた。
「…………」
フランクリンの前にある図面……それは彼女自らが作成している新型機のものだ。
コストを度外視し、持てる技術の全てを注ぎ込んだ現状最高の機体。
フランクリン製試作型マジンギアシリーズ……【MGFX】の二番機。
正式な銘は――【MGFX-002 ホワイト・ローズ】という。
「駆動時の損耗が大きい内部フレームは従来のパーツを使って……代わりにメンテナンス機構を……」
コストを度外視すると言っても……コストを落とした方が都合の良い場合もある。
メンテナンス性の向上。損耗の多いパーツを現場でも修復可能にするための工夫。
しかしそれは……本来ならば必要ではない。
「豪勢な機体ですね」
ふと、フランクリンに背後から声をかける人物がいた。
この研究スペースに入れる者は決して多くはなく、とある<マスター>がクランを脱退した後はフランクリン以外では一人しかいない。
「……ホールハイム」
「皇国からの指示書をお持ちしました。お時間のあるときにご確認ください」
ホールハイムと呼ばれた女性は<叡智の三角>の経理部門のトップであり、サブオーナーだ。
今では大口のスポンサーとなっている皇国との折衝の多くも彼女の仕事である。
そして何より、彼女はフランクリンの友人である。
「ああ、後で目を通しておこうかねえ。まぁ、どうせ辺境村落配備用の【マーシャルⅡ】の追加発注と、例の『計画』についてだろうけどねぇ」
「ええ」
ホールハイムはフランクリンの言葉に頷いた。
彼女と話すときも、フランクリンは常と同じ口調。
(……変わりましたね)
かつては友人同士の会話であれば素の口調で話すことも多かった。
しかし、もう一人の友人……親友の『裏切り』とも言える脱退騒動があった。
その後のフランクリンはホールハイムを含めた他の人物に対して壁を作り、フランクリンとしてのロールを強固にしていた。
何より、以降のフランクリンの行動は苛烈と言っていいものだ。
資金や技術資料集めのため、ほぼ個人戦力でスポンサーの望む戦争に参戦し、今回のような『計画』にも参加している。
また、敵も増えた。<叡智の三角>の躍進を妬んだ旧【マーシャル】……機械甲冑系の技師連合から『警告』された際も、正面からその喧嘩を買っている。
連合に依頼を受けた決闘二位の【機甲王】バルサミナに暗殺された後は、『顔を覚えさせた小型の暗殺用モンスターに四六時中狙わせる』という手法でリスポーンキルを続けていた。
機械甲冑着用が前提の超級職であるがゆえに鎧を纏わないタイミングや、再ログイン直後で【ブローチ】を付け直していない瞬間を狙われれば脆かった。
連合も自分達が依頼を出した相手の惨状に怯え、さらには<叡智の三角>のスポンサーである宰相経由の制裁で随分と規模を縮小している。
敵を作り、さらには敵に対して容赦がなくなったフランクリン。
だが、<叡智の三角>のメンバーに対しては、以前と変わりない気さくで面倒見のいい趣味人のように接している。
しかしそれも、他のメンバーよりもフランクリンに近しい位置にいたホールハイムの視点では、明らかに壁を作ったものだ。
(まったく……AR・I・CAも厄介な問題を残していきましたね)
今となってはフランクリンの壁を崩せる例外は、たった一人しかいない。
そしてそれは……ホールハイムではない。
「この機体は妹さんの?」
「その通り。よく分かったねぇ」
作りかけの機体を見て、ホールハイムはそれがフランクリンのリアルでの妹……姉同様に男性アバターを用いているユーゴー・レセップスのための機体だと気づいた。
壁を作った今のフランクリンが、それでも拒絶できない相手のためのもの。
「いつ頃に完成ですか?」
「こっちの時間で三週間、といったところかねぇ」
「では『計画』には間に合うのですね」
『計画』とは、現在の敵対国家であるアルター王国でのテロ計画だ。
王女が来訪した際にギデオンを襲撃し、イベントで有力な<マスター>が集まった闘技場を封鎖。妨害を限りなく減らした上で、王国内部の寝返り組を扇動。
さらにはフランクリン自身、それに状況次第では西方三国最強の【獣王】を含めた精鋭で王女誘拐を達成する。
準備は既に整えている。皇国の闘技場を研究し、闘技場設備の掌握も実行可能だ。
そして、有力な<マスター>にとって天敵となる戦力もいる。
フランクリンの妹であるユーゴーの<エンブリオ>、コキュートスだ。同族殺傷数に応じて問答無用で【凍結】させる力は、決闘参加者の多いギデオンで猛威を振るうだろう。
そこにこの新型機を組み合わせれば、『計画』の成功率は飛躍的に高まるはずだ。
だが……。
「この機体をあの子にあげるのは『計画』の後にするつもりだよ」
「それはなぜ?」
「誕生日プレゼントにはまだ早すぎるからねぇ」
「…………」
フランクリンは冗談めかしてそう言った。
が、無表情のまま変わらないホールハイムの視線に根負けしたのか、理由を口にする。
「……今度の『計画』であの子の<エンブリオ>のスキルは極めて有力だよ。だから私も協力をお願いしたとも。動員しないと王国との内通を疑われかねないほどに相性が良いからねぇ」
フランクリンは「だけど」と言葉を続ける。
「それはあの子が『したいこと』とは相反するからねぇ。優しい子だし……メイデンが孵化している時点で<Infinite Dendrogram>への思い入れも強い」
「優しい子でも<エンブリオ>が処刑人のような仕様になるのですね」
「…………」
ホールハイムの言葉にフランクリンは苦笑するだけだった。
納得もするし、そのような<エンブリオ>になってしまった理由も察しがつくからだ。
「『計画』にあの子の力は有用でも、あの子の望む道ではない。そんな残酷な道を促しながら、あの子の慕う姉からの贈り物まで添えて実行させるのは……ねぇ」
「そこで躊躇う以前に、矛盾している気もしますが」
「自覚しているとも」
より本心を言えば、フランクリンは『計画』の途中でユーゴーが裏切ることも想定している。
今の自分では愛想を尽かされることもありえる、と。
それを『構わない』とまでは思っていないが……『仕方ない』とは覚悟していた。
フランクリン自身、妹の心理的負担が少なくなるように提示したプランが失敗したときを想定して……さらに酷なプランを幾重にも用意しているような人間だからだ。
『負けたくない』、『失敗したくない』、『折れたくない』という思いが、妹への配慮を超えてしまっている。
――親友との別れで随分と臆病になったとフランクリンも自覚していた。
そんな自分を知っているから、新型機を妹にはまだ渡さない。
『計画』の前に渡しても、妹にとって枷にしかならない。
それくらいならば……全てが綺麗に片付いた後の誕生日のお祝いか、あるいは自分を見限った妹への餞別にした方が良いと考えた。
『計画』のベストではないが、慕ってくれる妹への譲れない一線でもあった。
「……ああ、それでメンテナンス性を上げているのですね」
そんな友人の内心を察してか、図面を見ながらホールハイムが呟く。
全てを特殊なパーツで作らないのは、このクランを脱退した後にユーゴー一人でも機体のメンテナンスができるように配慮したためだろう、と。
「私のやり方を否定するかい?」
「いえ、クランの経費で作ったならまだしも、あなたのポケットマネーで作った機体をどうするかまで口出しする権利もありませんから」
経理担当のサブオーナーは、あっさりとそう言ってフランクリンの選択を認めていた。
「それにしても、あなたが専用機を作ると別離が待っていますね」
「……あの子のことはまだ分からないけれど、ね」
フランクリンはそう言ってから、ふと思いついたようにホールハイムに尋ねた。
「ホールハイムも専用機いる?」
「私は自前の船だけで十分です」
親友からの意味深な問いかけに、ホールハイムは即答した。
「それに、私はクランが財政破綻でもしなければ去りませんよ。お金が好きなので」
「……よく言うわ」
クランが成功する前、貧しさに喘ぎながらロボット制作を続けていたときでさえもクランや自分から離れなかった友人に……フランクリンは少しだけ素の口調で応えた。
◆
この後、ギデオンにて『フランクリンのゲーム』とも呼ばれる一大テロ事件が起きる。
そしてフランクリン自身が危惧したように、妹との別れが待っていた。
けれどそれは、いつかの親友との別離と違って……温かいものだった。
Episode End
○ホールハイム
(=ↀωↀ=)<<叡智の三角>の共有資金を管理してる人
(=ↀωↀ=)<各グループや設計者達が新作のための予算を彼女にアピールするのが恒例行事
(=ↀωↀ=)<オーナー兼技術者部門トップがフランクリン、経理部門トップが彼女
(=ↀωↀ=)<そしてテストパイロット部門トップがAR・I・CAでした
(=ↀωↀ=)<三人は結成当初から一緒で仲が良かったのですが
(=ↀωↀ=)<グローリア事件の少し後にAR・I・CAが脱退ついでに色々やらかした
(=ↀωↀ=)<フランクリン三大トラウマ最後の一つにしてブレーキ破壊の元凶
( ꒪|勅|꒪)<AR・I・CAは何したんだヨ……
(=ↀωↀ=)<その内に蒼白で
(=ↀωↀ=)<ただ強いて言うと、あいつ某ゲームで分類すると『混沌・悪』だよ