ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ⑭
(=〇ω〇=)<……
(=〇ω〇=)<複数のソシャゲとモンハンの同時進行&次々巻プロット作業でスタミナが尽きます……
□■<ニッサ辺境伯領>
ヴィジャボリオンという偉大な強敵を撃破したロボータ達。
彼らに待っていたのは、大きな変化だった。
『これは……』
【バーストライカ】は自身のステータスが大きく上昇したことを感じ取った。
レベルアップ、そしてランクも逸話級から伝説級に格上げされている。
AGIは一万五千に達し、STRとENDも一万近い。さらには耐性なども上昇しているように感じた。
これにロボータの強化が加われば、もはや<超級>に比肩する一大戦力である。
『ボス。私も伝説級に……?』
だが、【バーストライカ】よりも大きな変化を迎えていたのは……ロボータだ。
そのシルエットは大きく変わっていた。
身体には赤く気品のあるマントを羽織り、
権威を示す王笏が傍に浮かび、
そして頭部には大王であることを示す王冠が載っている。
そう、これこそが古代伝説級【群狼大王】へと進化したロボータの姿である。
……まぁ、オプションが増えただけで本体はいつものロボータだった。
言葉を飾らずに言えば、飼い主にコスプレさせられたポメラニアンにしか見えない。
『……そのおもちゃ、私が死闘を繰り広げてる間に拾ったんですか?』
『ち、違うのである! なんだか体がぺカーと光って気づいたらこんなだったのである!』
慌ててジタバタするロボータだが、どういう訳か王冠は頭から落ちず、王笏は触れない程度の距離で浮いている。
『……というか、ボスの名前変わってますね』
『あ、マジである。ついに進化したのであるー!』
伝説級にランクアップしたときも進化まではしていなかった。
<UBM>となって以来の進化現象に、ロボータはワクワクしたが……。
『……あれ? SPとLUC以外のステータス全然変わってないであるな?』
そのステータスは、ほとんど据え置きだった。
相変わらず本体はリーチ差で子供に負けそうな脆弱さである。
『こ、これじゃあほとんど見た目だけの変化なのである……!?』
『その見た目だと正体隠してご飯貰いづらくなるのでは?』
『えぇ!? 困るのである……! これ要らんのである!』
進化して得た威容だったが、美味しいご飯の方がロボータには大事だった。
そんなロボータの心情に配慮したのか、王冠と王笏とマントはふっと消えてしまった。
『あ。消えた……。《忠犬偽装》の範疇で消せるのであるな』
ペットに偽装するスキルの効果が増えていた。地味強化である。
『ボス……何か劇的に変化したことはありませんか?』
『え? 見た目と名前以外で?』
『見た目と名前以外で。特に《王の群れ》をはじめとしたスキルの強化です』
コメディから離れられないボスを見下ろしながら、内心で【バーストライカ】は焦っていた。
死闘の末にヴィジャボリオンは倒したが、まだヴィジャボリオンの仲間……格上の竜が付近の山に陣取っている。
そのプレッシャーは増すばかりであり、【バーストライカ】達の位置も把握している様子だ。
群れの仲間を倒された者がすることは逃走か、報復。
そして、この気配の主が逃走を選ぶことはありえないと……【バーストライカ】は察している。
進化を果たしてもこれほどの力を持った竜に勝てるかは怪しい。
いや、【バーストライカ】だけでは無理だろう。
ゆえに、何者かは分からないが山中で竜と戦う者がいる間に加勢して竜を倒す以外、ロボータ・ファミリーに生存の道はない。
『スキル確認スキル確認。んー、こういう作業久しぶりであるなー。前はギデオンで変な事件に巻き込まれる前で……』
『お早く』
しかし今が群れにとって最大の窮地だと、肝心のロボータが理解していなかった。
むしろヴィジャボリオンを倒して安堵したのか、常より駄犬面……のんびりしている。
が、ビビらせすぎて失神されると本当にどうしようもなくなるので説明はしない。
(あの竜に挑む前に、何かボスのスキルに強化があれば……勝率が上がる)
逸話級の【バーストライカ】が古代伝説級最強に勝てたほどのロボータの強化。
それが、パワーアップしていれば勝ち目は……。
『えーっと、《王の群れ》の強化倍率は据え置きであるな』
『…………終わった』
一番の頼みの綱が切れて、【バーストライカ】は膝をついた。
今の【バーストライカ】を十倍するだけでも大戦力だが、敵が強すぎてこれでは勝てない。
『代わりに呪怨系状態異常も無効化できるようになったのである! さらば、おばけが怖い夜!』
『……それ今は意味ないですね』
『今? 今も夜であるが……』
どう考えても凍気を武器にする相手に、その耐性は要らない。
『あと耐性だけなら消費無しになったのである。これで前みたいに省エネして睡眠薬食べちゃっても大丈夫である』
『……食べたのはボスだけで、私達は巻き込まれですけどね』
それも有用な強化だが、今はあまり意味がない。
何か起死回生の一手がなければ、群れの命運は……。
(こうなったら、一か八か私が……)
『あ、スキルが一個増えてるのである』
『それ早く言ってくださいよ!?』
のんびりしたロボータに、【バーストライカ】は悲鳴のようなツッコミを入れた。
『それで! どんなスキルなんですか!?』
『えーっとであるな、スキル名は……』
ロボータは急かされながら、新たに獲得したスキルの名前を読み上げる。
その名は……。
『――《群狼総進撃》』
◇◆
そして、スキル名と効果を聞いた直後。
【バーストライカ】は<スリーブ山>へと跳び……【凍竜王】に一撃を見舞った。
◇◆
□■<ニッサ辺境伯領>・<スリーブ山>
【バーストライカ】はランクアップと強化で得た莫大なステータスによる高速移動の勢いのままに、割れかけた黒氷のカバーごと【凍竜王】を蹴りつけた。
十万近いSTRに十五万のAGIと同量の熱量攻撃を加えた。
トータルダメージ二十数万ダメージにも及ぶ一撃は……しかし【凍竜王】の護りを突破しない。
『足癖の悪い狼だ』
不意打ちに対して瞬時に《晶永冷瓏》による数枚のガードを挟み、【バーストライカ】の突撃力と速度を低下させていた。
(やはり、操作速度が格段に違う……)
ギリギリまで分析を重ねるオー。
彼の視界内で【凍竜王】は亀裂の中から指を振り、
――直後に数十枚の《渦静銀雅》が【バーストライカ】、そしてオーに殺到する。
それらは小振りだったが、しかし威力は不変。
触れれば凍結切断の法則は一切変わらないまま、数を増やした死の雪結晶。
(……想定よりさらに強い!)
全方位から襲い掛かるそれらに対し、【バーストライカ】は冷や汗を流す。
しかしその上で、AGI十五万のステップと獣の柔軟性で潜り抜けて死地を離脱した。
高速移動するその体は《バーンスター・ストライク》で超高熱を発し続け、ある程度は《銀施戒》の効果を軽減している。
それこそ、圧縮した凍気の中でもENDとの合わせ技で耐えて動ける程度には機能していた。
オーもまた、必殺スキルの発動を中断して回避に専念し、躱し切る。
(ふむ。先ほどの【鮮血帝】は何か使いかけたな? この状況を打破できる手があるか? それに、この人狼のスキルは熱量の持続性が高い。動き続ける限りは熱が発生し続けるか。あるだけ冷やせば終わりの火属性魔法よりも、《銀施戒》の中では有用なようだ)
指先一つで数十の死を操りながら、【凍竜王】は微笑む。
今の【バーストライカ】のステータスは神話級でも高い。
その上で、固有スキルの相性も決して悪くはない。
しかし……そんな【バーストライカ】が全力で不意打ちをしても、【凍竜王】は無傷。
(……手強い)
(割れる前から<超級>と比べても強すぎるんじゃないかと思っていたが……。これで神話級なら<SUBM>や、ISBNが言っていた<イレギュラー>はどういうレベルだ)
【バーストライカ】もオーも、弱音を口には出さない。
【バーストライカ】にしてみれば生涯最高最強の敵を倒した後に軽く上回る相手が出てきた状況で、オーにしてもこれまでギリギリ善戦していた相手が段違いに強くなったのだ。
同じ状況で、生物の99%は心も膝も折れるだろう。
だが、この人狼と吸血鬼は違う。
絶望的な相手の強さを確かめた上で……しかしそれでも勝たなければならない。
この勝敗に自分だけでなく、より大切な者の未来が掛かっているから。
その思いは共通であり、
『共闘を求めます』
『承諾した』
――短い言葉で手を組むと決めた。
【凍竜王】との戦いでも邪魔にならないのは勿論、何よりお互いの目に折れぬ心と、『勝たねばならない』という意思を見た。
『まずは時間稼ぎを』
『理由は?』
『こちらの準備が整います。最低でも、隙は作れます』
『信じよう。こちらの切り札はそのタイミングで切る』
『期待します』
モンスターから人に寄った人狼と、人からモンスターに寄った吸血鬼。
似て非なる両者だが、しかしこの場ですべきことはどちらも理解していた。
共闘相手を信頼し、力を合わせて最強の敵に全力で立ち向かう。
それができて初めて、この神域の怪物との勝負が成立する。
(手札は――整った)
【凍竜王】の手札を減らし、晒し、【キル・キル・バ】とは違う完全な共闘者を得て、オーはこの戦いの勝機を見た。
【バーストライカ】も、想定より物分かりの良い共闘者の存在に勝機を見る。
『――愉快よなぁ』
――そんな両者に【凍竜王】は笑う。
それは嘲笑ではない。
本当に、『この戦いが楽しい』という笑い方だ。
<厳冬山脈>の中にこんな戦いはなかった。
初めて顔を合わせた強者の中の強者達が、自分こそを倒すべき最強の敵と見定めて、手を組んで全身全霊で向かってくる。
それが楽しくて、堪らない。
三番目ではなく……一番であることも含めて。
『さぁ、楽しもうかぁ!』
まるで初めて遊ぶゲームに夢中になる子供のように、【凍竜王】は死闘に興じた。
氷の白、炎の赤、蒼い血が――乱舞する。
◇◆
「…………いや、これほんともう、どうなってるんです? どうしろってんです?」
三種の人外の戦場と化す前に必死で逃げて、遠巻きの観戦者の一人にシフトしたパレードが愚痴をこぼす。
観戦と言っても三者の攻防が速すぎて、もうパレードの目にすら何も見えない戦いになってしまったが。
「まぁ、でも、見てるしかないですよねぇ?」
自分が呼んだ……呼んでしまった【凍竜王】は楽しそうだ。
ご機嫌なので、自分が呼んだせいでお仲間の【竜王】が死んだことも、もしかすると許してもらえるかもしれない。
とてもご機嫌なので、戦いが終わったらニッサに被害を出さずに帰ってくれるかもしれない。
そう、【凍竜王】がニッサに被害を出した場合、<トライ・フラッグス>のルール的にパレードはデスペナ必至なのだ。
もっとも、【凍竜王】がこの戦いの後にパレードの希望に沿うかは……全くの不明だ。
「ご機嫌じゃなければご危険ですからねぇ……。<王国支部>の<UBM>も倒したし、どうかこのまま残りの敵も倒して日付が変わり次第お帰り願いましょうそうしましょう。それでお終いですよぉ」
うんうんと、この惨状の元凶オブ元凶は自分を納得させるように独り頷いた。
――否、独りではない。
「――ああ、俺達の戦いは此処で終わりだ」
パレードの後頭部に金属……銃口が押し当てられる音と感触があった。
「ぇへ?」
恐る恐る振り返ったパレードが見た者は……全身を血塗れにしたコートの男。
<王国支部>のオーナー、【氷王】アット・ウィキだった。
「うぃ、うぃうぃうぃうぃ、ウィィィキくん!? 生きてたんですかぁ!?」
“氷晶宮”で《晶永冷瓏》の怪物達に襲われ、その後の崩壊で死んだとばかり思っていた。
だが考えてみれば、死亡は確認していない。
「死にかけたが、氷に埋まっていた。生憎、寒いのは得意だ。【凍竜王】の凍気が直撃でもしなければ、耐えられる」
今代の【氷王】は冗談のようにそう言ったが、目と口元は全く笑っていなかった。
「さて、パレード。勝敗は、どちらかのデスペナルティで決まるが……」
「……!!」
アットの言葉に、パレードはビクリと震える。
このままでは自分の敗北と、クラン統合後の収益化プランが壊滅する。
パレードは目の前が真っ白になりかけて……。
「そちらの勝ちでいい」
「……ほへぱち?」
アットの言葉の意味が分からず、とても間の抜けた声を出した。
「合併後のオーナーは、お前で良い」
「へ、あ、はい、それはどうも」
銃口を突きつけられながら勝利を譲られて、パレードは困惑していた。
もう【ブローチ】もないから頭蓋を銃で弾けば終わるのに……何で撃たないの、と。
その理由は、すぐにアットの口から述べられた。
「代わりに、戦争中も王国につけ。お前達の情報と、お前自身の力も含めてな」
「……えぇ!?」
勝利の代償は、裏切り。
それも情報と人材丸ごと移動する特大の裏切りだ。
「いやまぁ、直接戦闘するんじゃなくて、情報と移動だけならセーフかもしれませんけどね? それでも皇国が勝った場合は睨まれちゃうかもしれませんし……流石にそれはちょぉっと」
「そうか」
パレードの返答に、アットはゆっくりと引き金を絞る音を聞かせて……。
「あ、裏切りまーす……」
再び未来のプランが真っ白になりかけたので、パレードはあっさり裏切ることにした。
「なら、これにサインだ」
そう言ってアットがパレードの前に投げたのは、今の条件が書かれた新たな【契約書】だ。
ただし所々にアットの血が染み、それも凍りついている。
「この【契約書】……埋まりながら書いたんですか? 何でそこまで必死に負けるんで?」
「…………、俺のせいだからだ」
パレードの言葉にアットは少し沈黙してから、理由を口にする。
「……今回、俺達のせいでニッサ……王国は甚大な被害を被った。ともすれば、街一つが消える事態になってもおかしくはなかったんだ」
実際、それは十二分にありえた未来だ。
もしもロボータが恐怖と勇気で【塊竜王】を自らに引き付けていなければ。
もしも【バーストライカ】達が駆けつけるのが遅ければ。
ニッサという町は既に存在していなかったかもしれない。
あるいは、今の戦いの顛末次第ではまだそうなるかもしれない。
その元凶の一人は、最初に<UBM>を戦争に持ち込んだアットなのだ。
「それを詫び、報いるためなら……俺の利益は捨てる」
「……ウィキ君」
もう一人の元凶であるパレードは、アットの心からの言葉を聞いて……。
「なんかナイーブですねぇ」
ざっくりとした感想しか出てこなかった。
もしも彼のリアルを知る者がいれば、「お前本当に漫画編集者だったのかよ」とツッコミを入れたかもしれない。
「……もう少し言葉を選んでくれ」
「まぁ言葉は選びませんが行動は選びますので、サイン完了!」
そして【契約書】へのサインを済ませ、パレードは勢いよく立ち上がった。
「じゃあそうと決まったら逃げましょう! どうせもうできることありませんし! こんな大怪獣バトルに巻き込まれたらデスペナっちゃいますからね! ああ、何より私が死ぬと【凍竜王】殿下が勝ったときにお帰り願えませんからああああああ!!」
そして早口に捲くし立てながら、AGI型のステータスを活かして脱兎の如く山を駆けおりていった。
他の<皇国支部>メンバーの生き残りもそれに気づき、困惑しながらもパレードに続いて逃げ出している。
「あいつ……」
今後自分がサブオーナーとして支えることになってしまった男の背中を見ながら、とても疲れた声で呟いた。
だが、パレードの言葉は正しい。
もはやこの戦いでは、アット達にできることは何もない。
「……後は頼む」
聞こえないと思いながらも、【凍竜王】と戦う人狼と吸血鬼にそう言葉を残して……アットもまた生き残りと共に山を下りた。
結局敗北になってしまったことを仲間に詫びることと、これから自分達にできることを考えながら……。
◇◆
「?」
そうして山を下りる最中、アットは奇妙なものを見た。
それはアット達が後にした人外の戦場へと向かう……狼やゴブリンの群れだった。
To be continued




