ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ⑬
(=ↀωↀ=)<本日二話目です
□■<ニッサ辺境伯領>・<スリーブ山>
ニッサの近郊で何者かと交戦していた土塊の巨竜が、音を立てて崩れている。
しかし、その崩壊は巨竜の死や戦力の低下を意味しない。
巨竜以上のプレッシャーを放つ何かが、同じ場所に出現していたからだ。
(何だ、この気配は……?)
『ほぅ、【塊竜王】が《竜神装》を使うか。どうやら想定外に楽しい相手がいたらしいなぁ』
(《竜神装》?)
【凍竜王】が漏らした言葉は、オーの知らない単語だった。
しかし重要なのはその単語ではなく、彼女の口ぶりからこの気配が【凍竜王】側の戦力のものであること。
(……あちらはまだ手札を増やすか)
戦力差がさらに広がったのを実感し、焦りは増す。
まして、もう【キル・キル・バ】が限界だ。このままならば、二分と掛からず死ぬ。
もはや現状の手札で勝負をかけるしかないのかと、オーが思考したとき……。
ガチリという鈍く硬い音と共に、オーの身体が何かに引っかかった。
『!?』
オーが音のした場所……自らの右足を見下ろせば、そこに在ったのは獣の歯だけ象った氷像。
この瞬間、いわゆる『トラバサミ』に似た氷像がオーの右足と……【キル・キル・バ】の左後ろ足を捉えていた。
それこそは、《晶永冷瓏》。
金属以上の硬度を持つ氷を自在に生成し、操る【凍竜王】のスキル。
『ようやく掛かったか』
【凍竜王】は《晶永冷瓏》を師である【塊竜王】が《黒城地獄》で行ったのと同様に地中を伝わせて配置していた。
そして、幾つか設置した『トラバサミ』をオーと【キル・キル・バ】が同時に踏んだ瞬間に作動させたのである。
同時であったのは、両者共に一度見せれば二度は通じぬと悟っていたから。
罠を張って待ち、最適の瞬間に実行した結果……今、両者共に足を封じられた。
防御不可能の《渦静銀雅》と濃淡圧縮展開した《銀施戒》に相手の神経を集中させておきながら、《晶永冷瓏》を用いた原始的なトラップこそが本命。
このトラップは、断頭台に括り付けるためのもの。
間もなく――断頭台の刃が巡りくる。
『ちぃッ!』
その後の展開を左右したのは、行動の速さ。
オーが囚われた右足首を血液に戻して離脱するのが最も早く。
【キル・キル・バ】が囚われた後ろ足を噛み千切ろうとしたのが最も遅く。
間に、《渦静銀雅》の周回が挟まった。
つまりオーは逃れ――【キル・キル・バ】は首を落とされた。
『…………』
断面の凍りついた剣歯虎の首が、鳴き声一つ漏らすことなく凍土に落ちる。
少し遅れて、【キル・キル・バ】を捉えていたトラバサミが両断される。
発動までにタイムラグがある《致命創》が、【キル・キル・バ】の死後に発動していた。
けれどもはや、意味はない。
【キル・キル・バ】の切り離された首と身体が……同時に光の塵へと変わった。
『くっ……!』
状況はオーにとって最悪。
アタッカーにしてターゲット分散の相手が消えた。
加えて、右足を欠損した状態では回避も鈍る。
『《ブラッディ・チェーン》!』
ゆえに、距離を取って最初に行った行動は回復行為。
《疾蒼》の一部を血液に戻して鎖に変え……戦いを遠巻きに見ていた<編纂部>メンバーの一人に括り付けた。
「え?」
そのままチェーンを縮め、<編纂部>メンバーとの距離をゼロにして首を掴み、
『――《ブラッドサッカー》』
――その命を飲み干した。
接触でHPはゼロになり、血を失って干からびて、灰のように崩れた後に光の塵になる。
オーの発動したスキルは【鮮血帝】の固有スキルであり、上級職【血戦騎】のスキルである《バイタル・スクイーズ》の上位互換。
物理攻撃力に応じて接触対象のHP、MP、SP、そして血液を吸う強力なドレイン攻撃。
『成功』
オーは【凍竜王】と戦いながら、周囲の状態も探っていた。
誰が物理防御力の低い魔法職、支援職か。
カウンター型の<エンブリオ>を持っていないか。
【ブローチ】を身に着けていない、あるいは既に失われているか。
それらの情報を戦いながらリストアップして……戦闘で傷を負った際の回復要員を見繕っていたのである。
回復と輸血の甲斐あり、欠損した《疾蒼》の右足はその形を取り戻している。
「な、何をするんだ……!?」
『文句は受け付けない。ニッサをこんな状況に追い込んで、俺が戦わなきゃならなくなったのは君達の都合だから』
仲間をデスペナルティされた<マスター>の言葉に、オーは反論する。
それは事実であったので、<編纂部>も押し黙るしかない。
MPKという最悪の戦術をぶつけ合った結果が今の混沌とした状況とニッサの危機であることは、彼らも重々理解していた。
内心、「これ大丈夫なのか?」と……二人のオーナー含めて全員が思っていた。
(回復はできたが……このままでは)
ちらりと視線を視界端の青色――フルに近い状態まで戻っているバー――に向けてから、【凍竜王】に向ける。
オーが回復しても状況は悪化の一途を辿っている。
ニッサ近郊の敵は強大化し、【キル・キル・バ】が死んだ。
どうすればこの窮状を打破できるのか。
『…………?』
だが、オーは奇妙なことに気づく。
【凍竜王】の動きが止まっているのだ。
【凍竜王】のコアは黒い氷塊であり、表情など分かるはずもない。
それでも周囲の雪結晶の動きが単純化しているといった些細な変化で、何か考え事をしているのだと察せられた。
(何を考え……そうか。モンスター間のリソース移動。ISBNの言っていた、<UBM>討伐によるランクアップ現象……!)
【キル・キル・バ】が討伐されて消滅したことで、そのリソースがMVPである【凍竜王】に流れ込んだのだ。
今は、その確認を……ランクアップの成果を把握しようとしているのか。
(……いや?)
しかし、オーは『違う』と考えを改める。
【凍竜王】のプレッシャーに、変化がないためだ。
何より、【凍竜王】から少しの困惑が伝わってくる。
(ランクアップに足りなかった……のか?)
その奇妙な沈黙をオーが推し量ったとき、
『『!』』
更なる状況の変化があった。
それは、オーと【凍竜王】が同時に感じ取ったもの。
彼らが察知したのは【塊竜王 ドラグランプ】……ヴィジャボリオンの死。
ニッサ近郊で《竜神装》を纏い戦っていたヴィジャボリオンが、敗れて死んだ気配だった。
それはオーと【凍竜王】の心中に、僅かな変化を齎す。
オーは護るべきニッサに迫っていた強大な敵が消えたことへの安堵と、『これで眼前の【凍竜王】のみに全力を注ぎ込める』という決意。
(……逝ったか、師であった者)
【凍竜王】は師であった古き竜の死に際しての、僅かな感傷。
長い時を共に過ごした相手への一瞬の黙禱。
その瞬間、【キル・キル・バ】が動いた。
地を蹴るのではない。
既に四足は存在しない。
――【キル・キル・バ】の犬歯であった二本の刃だけが飛んでいた。
刃は両者に生じた一瞬の隙を、見逃さない。
黒紫のオーラを纏い、オーと【凍竜王】の命目掛けて突き進む。
両者が自分達に迫る攻撃に気づいたとき、オーは《装紅》に変化しながら咄嗟に急所を庇って両腕を動かし、【凍竜王】は《渦静銀雅》と《晶永冷瓏》で撃ち落とさんとした。
『ッ……!?』
一本目の刃は首を庇ったオーの右腕に刺さった。
『……ふむ』
もう一方は《渦静銀雅》を回避し、《晶永冷瓏》を貫き、《銀施戒》さえも切り裂いて……
――【凍竜王】のコアに直撃した。
直後、一つの現象……あるべき法則が適用される。
【キル・キル・バ】の固有スキル、《致命創》。
傷つけられた者の末路に、例外はない。
オーの右腕が切断され……【凍竜王】のコアに巨大な亀裂が走る。
黒く堅牢であったはずの黒い氷が真っ二つになって、ズレて、崩れていく。
『――――』
そこで力を使い切ったかのように二本の刃からはオーラが消えて、凍土に落ちた。
被害を受けた両者だけでなく、遠巻きに見ていた<マスター>達……【キル・キル・バ】をこの場に誘導した<王国支部>のメンバーですら何が起きたか理解できていない。
『《ブラッドサッカー》』
そんな中、オーは再び目星をつけた<マスター>を吸い殺して右腕を回復しながら、状況を把握しようとする。
そして自分に重傷、【凍竜王】に致命傷を与えた刃を見て理解した。
『そうか。魔獣ではなく、エレメンタルやアンデッド。……妖刀の類だったか』
妖刀とは、物品に怨念が宿り、持ち主の意思や体を奪って殺戮を働く呪物。
【キル・キル・バ】の本体は、その一種だった。
獣の身体は、刃に操られていたモノ。
刃の影響を受けて変質・強化された体だったのだろうが、獣だけ倒しても【キル・キル・バ】を討伐したことにはならない。
だからこそ、神話級を倒してもリソースが移動しないことを【凍竜王】が疑問に思っていた。
しかし、獣の身体の消滅を見てオーも【凍竜王】のどちらも、【キル・キル・バ】の存在を既に外してしまっていた。
そんな意識の隙を、本体が突いたのだ。
【キル・キル・バ】……獣を着る殺意の刃として。
(ああいった類は殺し合いの盛んな天地に多いらしいが、どこから流れてきたのか。……いや、今の問題は)
既に機能停止状態にある【キル・キル・バ】の考察を切り上げて、オーは【凍竜王】を見る。
【キル・キル・バ】の一撃は完全な不意打ちだった。
ついにコアが直接被弾した【凍竜王】は、言葉もなく崩れ始めている。
どう見てもこれは、決着だった。
【キル・キル・バ】が【凍竜王】と差し違えたに近いカタチであり、強いて言えば生き残ったオーの勝ちとも言えるが……。
(……片付いたならば、巨竜も含めて言うことはない)
オーは努めて、本当に努めてある言葉を言わないように気をつけた。
が……。
「やられた!? 【凍竜王】がやられてしまったのか!?」
オーが言わないようにしていた言葉――「やったか!?」に限りなく近い言葉を、【凍竜王】の傍で頭抱えて伏せていたパレードが、狼狽しながら口にしていた。
『君、もう、いい加減にしてくれ……』
言葉一つで結果が変わる訳ではない。
だが、パレードの言葉は……セオリー通りの結果を呼んだ。
黒い氷の崩壊が、止まったのだ。
真っ二つに割れかけていたコアが動きを止め、少しずつその亀裂を塞ぎ始める。
オーは、その亀裂の奥に……。
「――――面白い。外気を浴びるのはどれほどぶりか」
――――自分と【キル・キル・バ】を見る、小さな瞳を見た。
『ッ!?』
衝動的にオーは真横に跳んだ直後、オーのいた場所が巨大な氷柱に呑み込まれる。
《晶永冷瓏》。
しかし、その生成と操作速度が先刻までとは桁違いに速く、強大。
まるでボトルネックが消えたかのように。
これまでよりダイレクトに、操作しているかのように。
(中に……いる!)
あの黒い氷は、コアそのものではなかった。
あれもまた《晶永冷瓏》、本当の【凍竜王】を隠すカバー。
だからこそ、【キル・キル・バ】の《致命創》も氷を両断するに留まり、内にいる命には届かなかった。
そして今、カバーが砕けたことで……【凍竜王】はより直接的に力を振るい始めている。
「ふふふ、我が護りを越えてくるのは大したものだが……詰めが甘かったな」
亀裂から細い――人に似た――腕が伸びて、力尽きた【キル・キル・バ】の片割れを摘まみ上げる。
見る間に刃の表面に霜がおり、小さな軋みが聞こえて、
「では、さらば」
陶器の音を聞くように【凍竜王】が指先で刃を弾く。
キィンと涼やかな音が鳴って――凍結した刃は砕け散り、微細な塵になって消え失せた。
神話級金属を超える強度を持っていたはずの【キル・キル・バ】の本体。
しかしその強度があっても、【凍竜王】の真の凍気には耐えられなかったのだ。
それは、相対する者を絶望させるには十分すぎる力の発露と言えた。
(相手の更なる戦力上昇、こちらは単騎、だが……!)
それでも、オーにとってこれは状況の好転。
相手のギミックが判明して他の敵も消えた今、オーは全力を注いで【凍竜王】と戦える。
『《暗黒神話・無相――』
ここが勝負所と、自らの必殺スキルを解放せんとし――。
『――横から失礼』
――超音速で飛来しながら【凍竜王】を蹴りつける……燃える人狼を見た。
To be continued
(=ↀωↀ=)<次回、本エピソードの最終ラウンド
〇妖刀
(=ↀωↀ=)<持つと人を切りたくなる、バーサーク状態になる、人格を乗っ取られる
(=ↀωↀ=)<いわゆる呪いのアイテムの分かりやすい例の一つであり
(=ↀωↀ=)<『地獄と殺人と冥王 その七』でペルセポネがちょろっと言ってた奴
「ああ。物品が怨念に冒されて呪いのアイテムになるパターンもあるな」
(=ↀωↀ=)<王国だとギデオンに似たようなの沢山あったけど、大半はレイ君に浄化された
(=ↀωↀ=)<ちなみに性能は本来より上がるものが多いので天地の名産
( ꒪|勅|꒪)<嫌な名産だナ……
(=ↀωↀ=)<あと製造過程違うものもあるけど追々




