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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- Another Episode  作者: 海道 左近


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34/82

拾話 同盟締結

(=ↀωↀ=)<デンドロ連載前から住んでた場所よりお引っ越し


(=ↀωↀ=)<引っ越しと16巻初稿締め切りのダブルパンチでとても疲れた一週間でした……


(=ↀωↀ=)<しかし引っ越しても荷解きが済んでおらず


(=ↀωↀ=)<インターネットの開通工事も来月なのでAPEXとバトオペができませぬ


(=ↀωↀ=)<癒しは新規プロット作成とウマ娘とポケカ新弾


(=ↀωↀ=)<ちなみに今回は過去話ですが


(=ↀωↀ=)<今回を除いて三、四話で今のエピソード終わる予定なので


(=ↀωↀ=)<今月中に終わるかどうかという感じです

 □■吸血氏族について


 吸血氏族とは吸血鬼系統のジョブに就ける適性を持つ者達の総称である。

 吸血鬼系統はティアンでも一部の者にしか適性がない系統だが、両親が吸血鬼系統であれば子孫に遺伝しやすいという特性もある。

 また、通常の食事以外に血を吸うだけで生存できるようになる性質もあり、二〇〇〇年前の混乱期には生存競争で優位にも立てた。

 そうした特性を持つ吸血氏族のコミュニティは新たに吸血鬼系統の適性を持つ者を捜しながら、長い時間をかけて少しずつ勢力を拡大していった。

 その結果、吸血氏族はレジェンダリアにおいて強い権勢を誇っていた。

 レジェンダリアに数多存在する部族の中でも能力が高く、数も多い。エルフや妖精と並ぶ有力な部族であり、『妖精郷の夜を担う』とまで言われていたのだ。


 だが、吸血氏族繁栄の歴史にも凋落の時はきた。

 一〇〇と数十年前、レジェンダリアの吸血氏族の領地に近い場所で地脈利用特殊魔法兵器開発実験が行われた。

 しかしその実験は失敗……通称『六門事件』と呼ばれる災厄となり、当時の【鮮血帝】をはじめとする多くの吸血氏族が命を落とし、さらに彼らの領地も滅んだ。

 吸血氏族の住んでいた領地は<常夜の地>という名称であり、その名の通りに昼がなく常に夜。それゆえに吸血氏族が多くのメリットの代わりに背負ったデメリット……日中での能力低下も関係なく生きていられたのだが、その領域は失われた。

 レジェンダリアの部族にとって、自分達が力を発揮できる領地は極めて重要だった。

 種族としての力の激減、さらに<常夜の地>でしか育たなかった農作物は移住した地……どの部族も棲まない寂れた土地では枯れ果てた。

 災厄以上に、その後の苦境で吸血氏族は勢力を大きく弱めていく。

 その苦難を乗り越えるため、各部族の代表が集まる議会で救援を求めた。

 

 しかし、彼らの訴えは却下された。


 いや、訴えることも許されなかったのだ。

 議会に参加できるのは各部族の代表のみ。

 吸血氏族の掟で【鮮血帝】以外は彼らの王になれない。

 そして、【鮮血帝】は吸血鬼系統の数が一定以上でなければ転職のための試練自体が発生しない。

 『六門事件』で吸血氏族が大きく数を減らしたために、誰も【鮮血帝】に就けない状態になっていたのだ。

 ゆえに議会への参加資格がないのだと……吸血氏族の臨時代表は門前払いを受けた。


 実際は、大きな力を持っていた吸血氏族が他の部族にとって邪魔だったのだ。

 議会内の権力闘争の相手であるエルフや妖精にとっては、特にだ。

 それゆえに理由をつけて吸血氏族を権力構造から排し、その上で彼らの持っていた権益を仲間内で分け合う算段をしていたのである。


 そうして、王のいない吸血氏族は落ちぶれていく。

 かつて吸血氏族の領分であった仕事も、他の有力部族に奪われた。

 レジェンダリア内部での生活の糧までも減っていった吸血氏族は、外国で勢力を伸ばすしかなかった。

 それはカルディナでのカジノ経営や、他国の貴族に家臣として仕えて繋がりを持つことだった。

 そこで得た糧をレジェンダリアの同胞に送り、何とか吸血氏族の命を繋ぎ、数を増やす。

 それは長い苦難の日々だった。

 やがて吸血鬼系統の数が増えて【鮮血帝】の試練が解禁されたが、試練自体の難易度の高さゆえに誰もクリアできずにいた。

 それこそ、再び試練の扉が閉ざされるまで数が減るほど、彼らは挑んで、負け続けた。

 【鮮血帝】の座は、彼らにとって蜘蛛の糸よりもか細い希望だった。


 もはや救いはないのかと思われたとき、状況に変化が生じた。

 <マスター>の急増、そして吸血鬼系統の増加だ。

 ティアンでは稀な吸血鬼系統も、万能の適性を持つ<マスター>ならば容易に就ける。

 むしろ様々な創作物から『吸血鬼』という言葉に憧れを持つプレイヤーは多く、その数を一気に増やしたのである。

 やがてレジェンダリアが王国と皇国の争いの影響でざわついた頃、再び試練が解禁され……一人の男が試練を突破して【鮮血帝】の座に就いた。


 男の名はブラッド・O。

 <マスター>であり、<超級>だった。


 <エンブリオ>との兼ね合いで吸血鬼系統に就き、とある縁で知り合ったニッサ辺境伯……その家令である吸血氏族から吸血氏族そのものの苦境を聞いた。

 そして試練のことも聞き、『超級職に就く』という自分にとってのメリットと、『【鮮血帝】の存在』という吸血氏族のメリットを考えて試練に挑戦。

 <超級エンブリオ>の力で試練を突破し、長年空位だった【鮮血帝】に就いたのだ。


 オーは<マスター>だが、そんなことは吸血氏族にとっては問題ではない。

 【鮮血帝】のジョブこそ彼らの王の証であり、それこそが重要だからだ。

 ゆえに吸血氏族は彼を歓迎した。

 自分達の苦難もこれで終わる、と。

 王を得たならば、かつての繁栄も僅かばかりでも戻ってくるだろう、と。

 そうしてオーに頼み、共にレジェンダリアの議会へと向かった。

 部族の代表を得た今ならば、自分達の訴えも無視されないはずだから。


 しかし、議会はオーを認めなかった。


 既に他の部族のものとなった吸血氏族の権益を返さないためだ。

 それゆえ、表向きは<マスター>であることを理由に議会への参加を認めなかった。

 だが、長きに亘り塗炭の苦しみを味わってきた吸血氏族がそれで納得する訳がない。

 首都の議会場前で、議会での発言権の復活と一部だけでも……吸血氏族がレジェンダリアで生きていけるだけの権益返還を望んだ。

 弱体化した吸血氏族にとっては重要な訴え。

 他国の人間の視点では平和的なデモ活動であっただろう。


 それに対する議会の返答は――オーの指名手配(・・・・・・・)である。


 吸血氏族のデモを戦闘系超級職率いる軍で鎮圧(・・)して参加者を逮捕又は殺害、議会に対する反乱(・・)の首謀者としてオーを国際指名手配にしたのだ。

 これまでは何も怖くない廃れた弱小部族と見られていたが、オーという王を得たことで再起の芽がある内乱の素と認識した。

 不死身の<マスター>を“監獄”に収監すれば、【鮮血帝】が世に出ることは永劫にない。

 かつての権勢を知るからこそ、今は部族自体を再起不能に追い込まんとしたのである。


 あまりにも悪辣な仕打ちに、吸血氏族は嘆き、絶望し、そして悔やんだ。

 自分達のせいで折角現れた王にあらぬ罪を背負わせてしまった、と。

 そんな吸血氏族に、彼らの王は……。


「向こうがその気ならば抗うしかないさ」

 吸血氏族と共に、今のレジェンダリア議会と戦う道を選んだ。


 臣下である吸血氏族を責める言葉はない。

 オーにとって成り行きで就いた王の座だが、自分を頼る者を……仲間や身内を見捨てられる性格でもない。

 何より、議会の非道な対応には彼も怒りを燃やしていた。


 だが、いかに<超級>といえども一人で国を相手には戦えない。

 国に属する<超級>にも協力は仰げない。

 【呪術王】は子供にしか興味がない。吸血氏族は『転職によって転化する』性質上で子供が少なく……そもそも子供を餌にHENTAIを釣るのはオーも二の足を踏む。

 【超力士】は闘技場でのプロレスに熱心であり、政治的意図の絡む事態には触れない。

 そして【忘却王】は一連の吸血氏族への圧政にも関わっているため、論外である。


 また、地球のマイノリティのように世界に訴えても意味はない。

 この世界の国々は地球ほど他国の弱者を手助けする余裕はない。レジェンダリアを除く西方の二ヶ国など、戦争状態になっている。

 まして、吸血氏族はここ一〇〇年で他国の裏社会に根を張っていた集団。レジェンダリアの不条理について他国に窮状を訴えても、取り合う国はないだろう。

 王国のニッサ辺境伯領を治めるキュオンは【鮮血帝】となる前からの友人であったが、国を跨ぐ重大なトラブルには巻き込めない。


 あまりにも味方が少ない状況。

 このまま手をこまねいていれば吸血氏族は遠からずレジェンダリアにすり潰される。

 追い詰められていく中、オーは一計を案じた。


 完全な味方を増やすのではなく、敵の敵(・・・)と協力しよう、と。


 この国ではオーよりも前に指名手配を受けた<超級>達がいる。

 彼らが指名手配された理由は災害、遊び、事故、蒐集など様々で、オーのように政治的思惑によるものではない者もいる。

 だが共通事項として……レジェンダリアの敵(・・・・・・・・・)である。

 三人の【魔王】を含む、今に至るまで一度も討伐されていない猛者の中の猛者。

 そんな彼らと同盟を組めれば、レジェンダリアに対抗できるかもしれない、と。


 それは毒を以て毒を制す賭けだったが、オーは一縷の望みを託し……動き出した。


 ◇◆◇


 □■二〇四五年三月初旬


 オーが吸血氏族を治めてから、数ヶ月が過ぎた頃。

 レジェンダリア北西部にある吸血氏族の隠れ里の領主館、最奥の広間には黒い円卓が置かれていた。

 円卓には十の椅子が並び、その内の六つには人が座っている。

 六人は、一人を除いて立体映像(・・・・)だ。

 それはかつての【匠神】が作ったマジックアイテム。子機となるアクセサリーを持った人間の姿と声をこの円卓に映し出し、円卓の映像と音声もあちらに伝わる。

 言うなればテレビ会議システムのようなもの。

 数こそ少ないが、利便性が高いアイテムなので極めて高値で取引されている代物だ。

 各地の指名手配の<超級>に連絡を取り、子機を渡し、この会議にこぎつけた。

 そして今、このレジェンダリアでも十指に入る戦力……その内の六人が通信越しとはいえ一堂に会していた。


 吸血氏族の王、【鮮血帝】ブラッド・O。

 放浪する災害、【暴食魔王】ディス・サティスファクタリィ。

 違法クラン<アンダーグラウンド・サンクチュアリ>オーナー、【嫉妬魔王】ジー。

 大規模魔力消失事件の犯人、【怠惰魔王】ZZZ。

 邪妖精の支配者、【蔵書王】ISBN。

 邪教の生き神、『象徴(シュンボルム)』。


 やり方次第だが、七大国家も攻め落とせる戦力である。

 この数ヶ月、オーは自分の目で彼らと協力できるかを確かめてきた。

 意思疎通が難しい者も、探すのに手間取った者も、戦った者もいる。

 それでも時間をかけて少しずつ彼らとパイプを繋ぎ、同盟結成の話し合いに漕ぎつけたのである。


『何て言うか、何と言うか……』


 オーから渡された子機を手の中で玩びながら、【嫉妬魔王】ジーが生暖かい目をオーに向ける。


『物凄く、『悪の組織の幹部会議』だわ。昔テレビで見たわ。オー、あなたって形から入るタイプなのね。そのコスプレみたいね』

「……吸血鬼が吸血鬼の格好をしても、コスプレにはならない」


 オーの格好は如何にも貴族の吸血鬼を連想するものだったが、彼の趣味ではない。

 だが、臣下が求める王の姿の希望に寄り添っているのだ。


「さて、此処に出席した面々はいずれも私の申し出に応じてくれた者達だ。お互い、主義主張は違うが……本当にバラバラではあるが……『私達同士の潰し合いよりもレジェンダリアとの抗争』に集中したいという意見は合致した」

『……敵は少ない方がベターベターなのでー……。ベトベト敵まみれは嫌です……』


 オーの言葉に【怠惰魔王】ZZZが寝ぼけたような声で応じた。

 彼は保護している羊毛種族がレジェンダリアの他部族から狙われている。

 それを護るために余計な敵はいない方が良いし、敵の敵は多い方が良い。

 本人としてはひたすらに寝ていたいだけだが、羊毛種族を見捨てる気もなかった。


『テコ入れね! コラボね! 私だけよりも<超級>揃いの犯罪者カルテルの方がハッタリが効くもの! 再生回数も増えるもの!』


 様々な犯罪行為や領土制圧活動をクランで実行し、動画で撮り、公開しているジーはウキウキとした声でそう言った。

 彼女曰く、「これも一種の創作活動ね! 兄さんへの対抗ね!」だそうだ。

 完全に遊びで国への敵対行動をしているが、彼女はそれを気にする世界派(タイプ)ではない。


『こちらの警戒領域が減り、あちらの警戒対象が増える。蒐集活動(・・・・)がやりやすくなるからこちらとしては不満もないよ。ちょうど、アムニール関連でエルフとドライアドから集めたい(・・・・)ところだったからね』


 【蔵書王】ISBNの意見はZZZと同じようなものだったが、あちらが防御を考えた受け身のものだとすれば、こちらはレジェンダリアを攻めることを考えた意見だった。

 『知識を集める』という行為のために国一つ敵に回しても気にしない猟書家(ビブリオマニア)である。


『…………』


 【暴食魔王】ディス・サティスファクタリィ――レジェンダリア最強の犯罪者は無言。

 口元の布製マスクに書かれた『For Meal(食事用)』の文言通り、口は食事にしか使う気がないのかもしれない。

 しかし手元にある文字入力式のマジックアイテムを操作し、空中に言葉を映し出した。


『私が入っちゃいけない場所には、ちゃんと看板を設置しておいて』

『警告なしで矢を射る人が多くて困っている。……この国は旅人に優しくない』

『そういうルールを整備してくれるなら、助かる』


 風体よりも理知的、しかし意味は通じにくい言葉だった。

 だが、危険度だけはこの場の全員が理解している。

 レジェンダリアに数多くある部族の禁足地。長い歴史の中で続いてきた不文律であり、周囲に住まう者にとってのタブーであり、<マスター>の多くは知らない事柄。

 それゆえに足を踏み入れた際に警告なしで襲われてデスペナになった者や、指名手配で“監獄”に落ちた者もいる。

 レジェンダリアで犯罪者とされる<マスター>が増えた一因だ。

 だが、ディス・サティスファクタリィはそれら全てを食い破り(・・・・)、滅ぼしてきた。

 <マスター>の脅威度が知られていない内に起きた事件の一部である。

 遭遇し、敵対すれば滅ぼされる災害のような<マスター>……それがディスだ。

 逆に……今この場のように敵対しなければまだ接しやすい人物とも言える。


『…………』


 ディスに続く最後の一人も無言だった。

 全身をローブで覆い隠し、両手は金属のグローブで隠され、顔は何らかの装備効果によるものか影で隠されている。

 徹底的に正体を伏せられ、名前さえも《看破》できず、『象徴』と呼称される人物。

 『象徴』は読んで字の如く、<求誓教団>と呼ばれる邪教の象徴(・・)である。

 信者は『求めるものの在処』を教えられる代わりに、教団に生涯の忠誠を誓うという教義。ハイリスクハイリターンだが、藁にも縋る思いのティアンが何百名も在籍している。

 この人物については、オーが声をかけたわけではない。

 オーの後に指名手配され、あちらからオーの試みである指名手配者の同盟に参加したいと打診してきたのだ。

 秘密裏に進行していたスカウトの動きをどうやって掴んだのかは不明。

 だが、拒否した場合のリスクと受け入れた場合のリスクを考えた結果、オーは受け入れることに決めた。


『うむ。我らが象徴もこの同盟には強く同意している』


 そして無言の『象徴』の代わりに、傍らの……奇妙なものがそう述べた。

 それは本当に奇妙で、近い者を言えば子供が演じる『シーツおばけ』だろうか。

 『シーツおばけ』は人間の手に乗る程度の大きさであり、『象徴』の傍に浮いている。

 この会議中……どころか初対面のときも『象徴』は言葉を発さず、常にこの『シーツおばけ』が話している。

 『シーツおばけ』は被った布の影響か《看破》も効かない。

 『シーツおばけ』は『象徴』の<エンブリオ>、テイムモンスター、召喚獣、あるいは側近の妖精種族と様々な可能性があるが、答えはオーも知らない。

 オーが知っているのは、『象徴』と<求誓教団>がレジェンダリアに指名手配され、尚且つ実力と組織力を兼ね備えているということだった。

 であれば、謎が多くとも同盟相手として不足はない。


 オーを含め、この六人が今回の会議の参加者だった。


 ◇◆


 癖の強い面々ばかりの会議だったが、会議自体は円滑に進んでいた

 想定よりも滞りなく進み、同盟を締結するに至るまで何も問題は起きない。

 オー以外の<超級>達も……意図が読み取れない者もいるが……レジェンダリアと一人で戦うのは避けたがっていたからだ。

 あまり意見を出さなかった“食欲”と“無欲”についても、不可侵条約を結ぶことに異論はなかった。それ以上の協力関係は個別に結べばいい。


「それではここに同盟を締結し、レジェンダリアに布告する便宜上の名は<デザイア>とする」

『意義なーし。問題なーし』


 偶然なのか、それともレジェンダリアの命名センスなのか、この場にいる六人の内の五人に“欲”という二つ名がつけられていた。

 “食欲”、“睡眠欲”、“貪欲”、“知識欲”、“無欲”と。

 そして、同盟の<デザイア>という名は、『あちらが欲と名付けたならばあえてそう名乗り、抗ってみせよう』という意思表示だった。

 不可侵条約を定め、同盟の名も決まった。

 今後も彼らの行動に変化はない。同盟は敵を減らし、時と場合によっては協力できる相手を作る行為に過ぎないからだ。

 オーはこれからも吸血氏族の復権のために動き、他の者もそれぞれのスタンスを貫く。

 ディスは放浪し、ジーは陣取りゲームで領土を掠め取り、ZZZは眠り、ISBNは知識を求めて侵略し、『象徴』は信者を集めるのだろう。

 レジェンダリアには災難だが、オーとしては上出来だった。

 ここまでは。


『じゃあ次にオーの二つ名を決めないとね! ネーミングね!』


 切っ掛けは、“貪欲”のジーがそんなことをのたまったこと。


「……何?」

『だってほら、私達って“貪欲”とか“知識欲”だけど、オーだけ違うじゃない。仲間外れじゃない』


 ジーの言葉は間違いではない。

 オーも指名手配はされていたが、二つ名はない。

 きっと、“○欲”という命名規則が思いつかなかったのだろう。

 そもそも、本来ならばオーは犯罪者ではないのだ。


『私達は<デザイア>って同盟だから、やっぱり“欲”じゃないとね! 仲間だもんね!』

「それはそうだが……んん」


 二つ名など自分で決めるものではないし、できれば目の前で決めてほしくもない。

 しかし同盟の連帯感を上げるためと考えれば……その提案を無下にもできない。

 基本的に、オーは真面目だったし人が好かった。

 そして貧乏くじを引く人間だった。


『ZZZ! 何が良いと思う? 案募集!』

『ぐーぐー。もう食べられないよ……』

『死ぬほどベタな寝言を聞いたわ! 前世紀のコミックだわ!』


 会議の途中から寝ていた“睡眠欲”のZZZは、その提案もノーコメントだった。

 こんな有り様だが、配下のティアンに対してはオーと似たような立ち位置であるし、この中では比較的まともな人間である。


『ディスと……えーっと、名前分かんない奴は? “無欲”は? ZZZみたいに寝てるならお返事してね!』

『…………』

『…………』

『……ねえ、無言やめてよ、私が滑ったみたいじゃない……』


 “食欲”のディス・サティスファクタリィと“無欲”の『象徴』。

 ディスは口元をマスクで隠したまま何も言わず、『象徴』は口元どころか頭から爪先までをローブで覆い隠して無言。

 というか結局『象徴』自身は会議の間中、一言も喋っていない。今も僅かに首肯するだけに留めた。

 対して、同じ無言でもディスは少し考えて……。


『“禁欲”』

『真面目そうだから』


 手元にある文字入力式のマジックアイテムから、空中に言葉を映し出している。


『えー、でもそれって“無欲”とちょっぴり被らない? 能力ともズレるし』

『そうだね。じゃあ、案ないよ』

「…………」


 彼女達がやっている二つ名決定会議を、オーは何とも言えない顔で見ていた。

 なまじ自分のことだから口出しできない。


『じゃあ本命、アイは?』

『“性欲(・・)”』

「はぁ!?」


 だが、“知識欲”ISBNから出てきた発言に対しては、声が出てしまった。

 ISBNはこの<Infinite Dendrogram>の<マスター>でも屈指の知識量を持つと噂される人物だが、何をどうしたら“性欲”が二つ名になるのかと、オーは混乱する。


『ぷっ、あははははは!』


 何が可笑しいのか、ジーは大爆笑している。

 ディスもマスクの内側で笑う気配を見せ、『象徴』は変化なしだが……『シーツおばけ』がクツクツと笑っている。


『Zzz……』


 ZZZは言うまでもなく寝ていた。


『ねぇ、何で? 何で“性欲”? ムッツリスケベ? 吸血鬼がエロ系ってこと?』

「……理由を聞こうか」


 ジーが楽しそうに、オーが感情を押し殺した声で尋ねる。

 ここで怒りと混乱のままに騒げば同盟自体がご破算になりかねないと、歯を食いしばって理由を聞く。


『人間の三大欲求。“食欲”と“睡眠欲”はあるけど、“性欲”がまだ埋まってない』

「それだけで……」

性欲(libido)は繁殖に関する欲望だけではなく、生物の根元的欲望(・・・・・・・・)という意味もある。この<デザイア(欲望)>の発起人である君には相応しい』

「…………っ」


 それらしい理屈をつけられてしまい、オーは反論に窮する。

 自分でも「なるほど」と思ってしまったのが悔しかった。


『加えて、これは漢字限定の意味になるけれど……』


 ISBNは一冊の本を取り出し、その中の白紙のページに漢字を書く。

 間を空けて、『性』と『欲』の二字。


『君の<エンブリオ>は……』


 ISBNは二字の間にもう一文字を書き足し、新たな言葉を作る。


『――性能(・・)欲する(・・・)。そういうモノだろう?』

 ――『性能欲(ステータス)』、と。


「…………」


 反論したい。

 とても反論したい。

 ちょっとドヤ顔のISBNの立体映像にモノを投げつけたい。

 だが、それなりにネーミングに筋が通っている。

 加えて、同盟の連帯感を考えても意味はあった。


「…………分か、った」


 結局、オーは折れ……彼は“性欲”になった。


 ◆


 このような顛末で、罪人同盟<デザイア>は発足した。

 なお、二つ名は面白がったジーと<アンダーグラウンド・サンクチュアリ>の仲間達によって、レジェンダリア中に広まった。

 妖精郷の表も裏も<デザイア>と……“性欲”ブラッド・Oの名を口にする。

 『二つ名になるなんてよっぽどのスケベ野郎に違いない』などという流言と共に。

 それを知ったオーの怒りの咆哮は領内に響き、怒りのパンチは山を砕いた。

 吸血氏族は王の怒りに恐れおののき、以降、領内でオーの二つ名は禁句となった。


 To be continued

(=ↀωↀ=)<小学校のあだ名が『スケベ』とか『ムッツリ』になるようなもんです


(=ↀωↀ=)<ティアン含めて何十、何百万人にも知れ渡りますが


( ꒪|勅|꒪)<ひっでエ



〇オーと吸血氏族


(=ↀωↀ=)<ニッサ辺境伯家の家令も外国に出た吸血氏族です


(=ↀωↀ=)<オーが吸血氏族の王になる試練を受けたのは家令からの情報提供ですが


(=ↀωↀ=)<そもそも家令と知り合ったのは


(=ↀωↀ=)<前回の戦争で辺境伯家の当主であるキュオン兄が死に


(=ↀωↀ=)<跡を継ぐキュオンが叔父の手勢に暗殺されかかったのを助けたからです


(=ↀωↀ=)<なので、前回戦争からのドミノ倒しでレジェンダリアがこうなっているとも言えます


(=ↀωↀ=)<……どこかの誰かの読み通りに



〇“無欲”


(=ↀωↀ=)<全身を《看破》や《鑑定眼》を妨害する超高性能ローブに包んでます


(=ↀωↀ=)<幹部集団によくいる一番ミステリアスな奴ポジション


(=ↀωↀ=)<見た目はミ〇トバーン



〇<デザイア>


(=ↀωↀ=)<スタンスと立場は結構バラバラです


オー:

自分を頼る吸血氏族の復権、及び知人友人への助力。

配下は吸血氏族。


ディス:

気ままにレジェンダリアを旅しているが、降りかかる火の粉は全て呑む(・・)

配下なし。


ジー:

兄(【光王】エフ)と似て非なるトラブルクリエイター。

正体を隠していた兄と違って仲間と一緒にフルオープン。

配下はクランメンバーと支配地域のティアン。


ZZZ:

寝ていたい。ついでに狙われている羊毛種族の保護。

配下は(戦力にならない)羊毛種族と自作のスラル。


ISBN:

知識が欲しい。そのための他部族侵略も辞さない。ジーとはよく協力する。

配下は邪妖精。


『象徴』:

不明。信者は増やしている。その過程でレジェンダリアとも争っている。

実は『象徴』は代を重ねており、今代は就いたばかりらしい。

配下は<求誓教団>。



〇レジェンダリア


( ꒪|勅|꒪)<結局レジェンダリアってなんなんだヨ


(=ↀωↀ=)<<マスター>にHENTAIが多くて


(=ↀωↀ=)<ティアンがカルディナより黒い国だよ


(=ↀωↀ=)<ちなみに同盟締結と布告直後に議会の首相だったハイエルフが暗殺されて


(=ↀωↀ=)<「お前達の仕業じゃないか!?」「また濡れ衣かよ! ふざけんな!」


(=ↀωↀ=)<と対立がより深刻になる

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ガードナー獣戦士理論読み返しましたが、慣習で就いていたレジェンダリアの部族でロストジョブになっていたとありますが、獣王はその部族の代表者の証だったりしますか?
[一言]  オーは<マスター>だが、そんなことは吸血氏族にとっては問題ではない。  【鮮血帝】のジョブこそ彼らの王の証であり、それこそが重要だからだ。 ↑ オーのプレイヤーにリアルで何かあってデンドロ…
[一言] そのジョブの人数が一定人数以上じゃないと超級になれないっていう条件って結構メジャーなのかな
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