ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ⑪
□■<ニッサ辺境伯領>
その光景に、ニッサの兵と<マスター>達は見入っていた
鉱物の巨竜が放った岩塊によって街壁は大きなダメージを受け、魔力式砲座は八割が機能を停止した。
その惨事の中で瓦礫の中から仲間を救出していた彼らは、遠目に状況の変化を目撃した。
まるで巨大な建築物の最後のように、ボロボロと崩れていく巨竜。
しかしそれを舞台とするかの如く、二つの輝きが軌跡を描いて乱舞している。
それは炎の輝き、紅と金に彩られた爆熱の人狼。
それは竜の輝き、《竜王気》を迸らせた神域の人竜。
崩壊する巨竜を戦場として二つの輝きが激突し、離れ、またぶつかる。
居合わせた人々の目で追うにはあまりに速く、光の軌跡でしか戦いを見ることが叶わない。
そう、それが戦いであることは……人にも分かる。
激しい激突音と共に、命を絞り出すような獣の咆哮が届いているから。
それは人界と隔絶した獣達の――生存競争。
ゆえに、もう人は手を出せない。
手を出す術がなく、何よりも……『手を出してはいけない』と心が訴えかけていた。
◇◆
『AWOOOOOOOO!!』
咆哮と共に、【バーストライカ】が燃える爪を振るう。
【烈火迅狼 バーストライカ】の力は、<UBM>としてはとてもシンプルなもの。
固有スキル《バーンスター・ストライク》は、自らの攻撃に炎熱の追加ダメージを付与する。
攻撃を実行した際のAGIと同量の炎熱ダメージを加算する仕組みであり、その炎熱が自身を焼くこともない。
シンプルで扱いやすく、それでいてAGIをそのままダメージに加算できるスキル。
その発動によって、【バーストライカ】単体でも与ダメージは一万を優に超え、一撃で上級職を殺傷できるほどの高威力を発揮できる。
そして、ステータス依存のスキルであるがゆえに、《王の群れ》の強化がそのまま乗る。
一撃のダメージは十数万に跳ね上がり、かの【破壊王】に準ずる破壊力を持つ。
それこそ炎爪の一撃だけで純竜クラスの残骸ドラゴンを殺傷し、巨竜体の脚を砕けるほどに。
――だが、《竜神装》を纏ったヴィジャボリオンは炎爪でも砕けない。
炎爪を振るえば甲殻に傷はつくが、逆に【バーストライカ】の爪が砕かれる。
(END偏重! その上で、AGIも今の私以上……!)
ロボータの強化と自身のスキルも重ねた【バーストライカ】の攻撃力を上回る防御力。
それは《竜王気》を圧縮したためか、それともヴィジャボリオンだからこその性質か。未知であるがゆえに【バーストライカ】にその判断はつかない。
そして未知と言うならば……<UBM>に進化した後にステータスで上回られた経験が【バーストライカ】にはない。
当然と言えば当然だ。神話級以上のステータスの怪物と容易く出くわす世界なら、人類は既に衰退している。
しかし奇しくも、今このニッサにはそんな存在が集まっていた。
(傷はつけられる! 折れた爪もボスの《王の群れ》の回復効果で再生できる! 相手の致命傷を受けずに、攻撃を当て続ければ……!)
《王の群れ》のステータス上昇以外の効果は、《病毒系状態異常無効》と《自動修復》。
時間経過によって、【バーストライカ】の傷は癒える。
だが……。
『――――』
『ッ!』
《竜神装》ヴィジャボリオンの猛攻は、【バーストライカ】に傷を癒す猶予を与えない。
超硬質化した神体の手足を、超音速機動で叩きつけてくる。
その動きはこのサイズの近接格闘戦……人間の技術をよく研究したものであり、【バーストライカ】の獣の本能を以てしても完全な回避は難しい。
(~~! 人に近いカタチになったのはこのためか!)
同じく人と獣の中間のカタチ。
しかし【バーストライカ】が人狼へと進化したのは戦闘のためではないが、ヴィジャボリオンが自らの《竜神装》を人竜としたのはこのサイズでの戦闘経験の蓄積した結果だ。
莫大な《竜王気》を圧縮して物質化する《竜神装》。
それゆえに、《竜神装》のサイズは元の《竜王気》の総量に比例する。
《竜王気》で巨竜体をも動かすヴィジャボリオンでさえ人間大の《竜神装》が限界だからこそ、彼はその体格でのベストを研鑽したのだ。
二〇〇〇年間、モンスターと人を見続けてきたヴィジャボリオンの答えが……モンスターの力と人の武術の融合だ。
そしてその研鑽は今、【バーストライカ】を圧倒していた。
《自動修復》を加味しても、【バーストライカ】のダメージが目に見えて増加していく。
(……ドラゴン、怖っ……!)
【バーストライカ】には分かっている。
これほどの実力者であってもなお、南の山から気配を発しているドラゴンよりは弱いのだ。
今まで見たこともないほどの強者の、さらに上がいる。
その事実に、正直に言えば怖気づき、
(――でも、やるしかないんですよね)
同時に――そんな連中からボスを護らねばならないと再度決意する。
『ガァッ!』
『――――』
ヴィジャボリオンの放った貫手に皮膚を抉られながら、クロスカウンターで炎爪を避け辛い胸部に叩き込む。
血が噴き出し、爪が折れるが、《竜神装》の胸部にも灼けた傷跡を刻み込む。
『こふっ』
その咳と吐血は、【バーストライカ】ではなくヴィジャボリオンのもの。
《竜神装》内部にいる本体が血を吐き、《竜神装》の傷跡から血が漏れる。
『今、……!?』
だが、その間隙に勝負を掛けようとした【バーストライカ】に、意図しない方角からの攻撃が直撃する。
それは、岩の弾丸。
砕けた巨竜体が超音速の質量弾となって、【バーストライカ】に飛翔する。
『~~!?』
【バーストライカ】はそれが《竜神装》を纏う前の攻撃と同質だと悟る。
全ての《竜王気》を全身に変えてもなお、《竜神装》そのものにヴィジャボリオンの《黒城地獄》の特性が残っている。
踏み出す一歩に、振るう一手に、圧縮された《竜王気》が込められ、それが爆発燃料のように地属性魔法を発動させ、岩塊を超音速の質量兵器へと変えたのだ。
ヴィジャボリオンが砕けて地に落ちる岩塊の中を、四方八方に跳ね回った。
――そして今、ヴィジャボリオンが踏んだ足場全てが武器に変わった。
これもまた、ヴィジャボリオンの研鑽の結果。
《竜神装》の真髄はステータス増強に非ず。
神話級と呼ばれる怪物達と同様に――世界を捻じ曲げる法則そのものが物質化しているのだ。
(咳も、こっちの油断を誘ってこの連続弾を当てるため? 老獪すぎる……!)
驚愕と共に、【バーストライカ】は殺到する超音速弾を辛うじて回避する。
(まずい! 地属性魔法と本体のコンビネーションで来られたら捌き切れない……! 強い……! これが本当の神話級……!)
ロボータのブーストで神話級に踏み込んだ【バーストライカ】にとって、眼前の相手は完全に自らの格上……本当の実力者に思えた。
その考えは正しく、今のヴィジャボリオンの戦闘力は確実に神話級の<UBM>と同格以上にまで跳ね上がっている。
それでもなお、ヴィジャボリオンは神話級とは認定されなかった。
なぜなら彼は技術の研鑽の果てに《竜神装》の扉を開き、踏み込んだが――
『ご、ふっ……』
――その領域に留まることはできなかったからだ。
『え……?』
再び、ヴィジャボリオンが咳込み、《竜神装》の亀裂からは夥しい血が流れる。
隙を作るためのブラフの咳……ではない。
ヴィジャボリオンは本当に、致命的な咳をしていた。
仕込んでいた岩塊弾を今のタイミングで使ったのは、それで牽制しなければ致命的な隙となりうるからだ。
今このとき……否、《竜神装》を纏った時点でヴィジャボリオンは死にかけている。
《竜神装》……高密度に圧縮・物質化した《竜王気》はそれ自体が莫大なエネルギーの塊。
身に纏う者にはエネルギーの奔流に耐えるだけの強さが要求される。
それこそ、最低でも神話級の肉体強度が必要になるだろう。
しかし、他の使い手と違い……ヴィジャボリオンにそれはない。
本体が小さく、儚く、脆弱という塊竜の生来の欠点。
二〇〇〇年前の混迷期を適者生存で生き抜いた彼の身体は……しかし強すぎる力である《竜神装》には耐えられない。
《竜神装》のエネルギーで肉体が灼け、超膂力・超音速で動く神体の反動は内に収めた本来の肉体を砕く。
概算で、三分。
万全のヴィジャボリオンが、《竜神装》を纏ってから――死に至るまでの時間である。
ヴィジャボリオンが手にした神話級と同等以上の力。
しかしそれは、彼の身体では命を天秤に載せなければ発揮できない。
人間範疇生物にとって超級職の最終奥義にも等しい。
諸刃の剣どころか……柄すらも刃の剣と言えよう。
『…………』
『……まさか』
【バーストライカ】も理解する。
あんなにも饒舌に話していた竜が、《竜神装》を纏ってからは最初の言葉……自分への忠告以降はずっと無言だった。
それは話す余力もないほどにダメージを受けているからだ、と。
思えば、纏う段階で既に声は苦しげだった。
それでも……秘された力の存在を示し、今ここで【バーストライカ】と相対している。
(…………逃げて勝つことはできない)
それはあちらの方が速いとか、逃げようとした瞬間にロボータが狙われるといった状況を指しての言葉ではない。
今、命を懸けて格下と戦っている先達から逃げ出せば、その瞬間に決意も……ロボータの部下一号である誇りも何もかもが薄っぺらになる。
ゆえに、【バーストライカ】は逃げず……ただ体勢を変えた。
それは、極端な前傾姿勢。
致命傷を避けて長期戦で勝つための体勢ではない。
狼が獲物に飛び掛かるときのような、完全な攻撃の構え。
先刻のクロスカウンターと同様に、それ以上に、全身全霊を乗せた一撃で《竜神装》の防御を破るという決意の発露。
技比べでは敵わない。
だからこそ今の自身の力を、ロボータに託された力の全てを……一撃に込める。
『…………』
乾坤一擲の【バーストライカ】に対し、ヴィジャボリオンは無言。
だが、《竜神装》の内側で……楽しげに笑う。
自らの生きた意味を、実感するように。
『『――――』』
向かい合う、二匹。
崩れ続ける巨竜体。
それを取り囲むのは、自分達のエースを見守るロボータ・ファミリー。
そして……。
『部下一号……』
威圧感に震える身体で、しかし目を逸らさない一匹の小さな狼王もまた……最も信頼する部下の戦いを見守っている。
対峙する二匹が周囲全ての耳目を集める中、戦いの舞台である巨竜体にも変化があった。
巨竜体の崩壊が進み、首が罅割れ、砕けて、頭部が直径二十メテルを超す巨大な瓦礫となって地に落ちる。
落下軌道に二匹の姿はない。
だが、巨大な岩塊が地に落ちて、砕ける轟音は……。
『『――!』』
――最終ラウンドの闘鐘となる。
はたして、どちらが先に動いたのか。
一瞬後の両者の中間点には、狼と殺到する岩塊弾のどちらもが在った。
飛び交う数十発の岩塊弾。
人間も純竜も一撃で頭蓋を砕いて即死させる質量暴力の権化。
だが、それを前にしても狼は軌道を曲げない。
一歩、二歩、三歩。
ただ直進のみを実行し、脇目を振らず、最大加速で只管に前へ進む。
自らの肉体の限界速度を引き出し、筋肉繊維が千切れ、血潮が沸騰し、擦る空気が灼ける。
だが、一心不乱の疾走を果たすとき、狼の爪や脚ではなく――その全身が炎に包まれる。
それは最大加速による全身への炎熱付与。自分自身を紅蓮の矢に変えた最大攻撃。
接触する岩塊を、質量の直撃によって軌道を曲げられるよりも早く蒸発させる。
ダメージはある。傷は負う。着弾の衝撃で骨が何本砕けたか数える気にもならない。
それでも、進む道は曲げない。
ただ真っすぐに、紅金の軌跡を描き、全てを融かし貫いて、一匹の狼が駆ける。
その進撃を、一匹の竜が迎え撃つ。
岩塊弾は仕留めるための攻撃ではない。
狼の機動を視て、自分自身によるカウンターを当てるためのもの。
先刻の攻防の逆であり、今は竜がカウンターを狙っている。
だが、狼の愚直な直進という選択は、竜の予想を上回っていた。
狼の選択は竜のカウンターに一秒の百分の一以下の遅れを招き、
『――――』
竜は目を見開いて、少しだけ笑った。
そして、両者が交錯する。
狼の心臓を狙って放たれた竜の貫手は、胸の中央を――心臓の僅かに左下を貫いた。
竜のコアを狙って駆け抜けた狼の顎は、その牙の殆どを――竜の胸殻に折られていた。
『…………』
狼は、牙を折られて……。
『……ホ、ホ』
竜の、胸殻を嚙み砕いて……。
『ホッ、ホッ、ホ……』
胸の内にあった竜自身を……顎に捉えていた。
『――未来の、勝ちですなぁ』
――その言葉と同時に顎は閉ざされる。
若き狼の歯音と共に……老いた竜は生涯を終えた。
◇◆◇
※プレイヤー非通知アナウンス
【(非人間範疇生物による<UBM>討伐を確認)】
【(MVPは【烈火迅狼 バーストライカ】)】
【(古代伝説級【塊竜王 ドラグランプ】のリソースの一部を移譲)】
【(特殊処理挿入)】
【(獲得リソースの五〇%を【群狼王 ロボータ】に分配)】
【(【烈火迅狼】、【群狼王】のレベルアップ・ランクアップを確認)】
【(【烈火迅狼 バーストライカ】を伝説級に認定)】
【(【群狼王 ロボータ】を古代……)】
【(リソース供給に伴う進化処理挿入)】
【(――【群狼大王 ロボータ】を古代伝説級に認定)】
To be continued
(=ↀωↀ=)<今週末は作者が引っ越し作業で忙しく
(=ↀωↀ=)<引っ越し先のネット環境もまだ繋がっていないので
(=ↀωↀ=)<次回はお休みかもしれません




