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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- Another Episode  作者: 海道 左近


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33/82

ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ⑪

 □■<ニッサ辺境伯領>


 その光景に、ニッサの兵と<マスター>達は見入っていた 

 鉱物の巨竜が放った岩塊によって街壁は大きなダメージを受け、魔力式砲座は八割が機能を停止した。

 その惨事の中で瓦礫の中から仲間を救出していた彼らは、遠目に状況の変化を目撃した。


 まるで巨大な建築物の最後のように、ボロボロと崩れていく巨竜。

 しかしそれを舞台とするかの如く、二つの輝きが軌跡を描いて乱舞している。


 それは炎の輝き、紅と金に彩られた爆熱の人狼。

 それは竜の輝き、《竜王気》を迸らせた神域の人竜。


 崩壊する巨竜を戦場として二つの輝きが激突し、離れ、またぶつかる。

 居合わせた人々の目で追うにはあまりに速く、光の軌跡でしか戦いを見ることが叶わない。

 そう、それが戦いであることは……人にも分かる。

 激しい激突音と共に、命を絞り出すような獣の咆哮が届いているから。


 それは人界と隔絶した獣達の――生存競争。


 ゆえに、もう人は手を出せない。

 手を出す術がなく、何よりも……『手を出してはいけない』と心が訴えかけていた。


 ◇◆


『AWOOOOOOOO!!』


 咆哮と共に、【バーストライカ】が燃える爪を振るう。

 【烈火迅狼 バーストライカ】の力は、<UBM>としてはとてもシンプルなもの。

 固有スキル《バーンスター・ストライク》は、自らの攻撃に炎熱の追加ダメージを付与する。

 攻撃を実行した際のAGIと同量の炎熱ダメージを加算する仕組みであり、その炎熱が自身を焼くこともない。

 シンプルで扱いやすく、それでいてAGIをそのままダメージに加算できるスキル。

 その発動によって、【バーストライカ】単体でも与ダメージは一万を優に超え、一撃で上級職を殺傷できるほどの高威力を発揮できる。

 そして、ステータス依存のスキルであるがゆえに、《王の群れ》の強化がそのまま(・・・・)乗る。

 一撃のダメージは十数万に跳ね上がり、かの【破壊王】に準ずる破壊力を持つ。

 それこそ炎爪の一撃だけで純竜クラスの残骸ドラゴンを殺傷し、巨竜体の脚を砕けるほどに。


 ――だが、《竜神装》を纏ったヴィジャボリオンは炎爪でも砕けない。


 炎爪を振るえば甲殻に傷はつくが、逆に【バーストライカ】の爪が砕かれる。


(END偏重! その上で、AGIも今の私以上……!)


 ロボータの強化と自身のスキルも重ねた【バーストライカ】の攻撃力を上回る防御力。

 それは《竜王気》を圧縮したためか、それともヴィジャボリオンだからこその性質か。未知であるがゆえに【バーストライカ】にその判断はつかない。


 そして未知と言うならば……<UBM>に進化した後にステータスで上回られた経験が【バーストライカ】にはない。

 当然と言えば当然だ。神話級以上のステータスの怪物と容易く出くわす世界なら、人類は既に衰退している。

 しかし奇しくも、今このニッサにはそんな存在が集まっていた。


(傷はつけられる! 折れた爪もボスの《王の群れ》の回復効果で再生できる! 相手の致命傷を受けずに、攻撃を当て続ければ……!)


 《王の群れ》のステータス上昇以外の効果は、《病毒系状態異常無効》と《自動修復》。

 時間経過によって、【バーストライカ】の傷は癒える。

 だが……。


『――――』

『ッ!』


 《竜神装》ヴィジャボリオンの猛攻は、【バーストライカ】に傷を癒す猶予を与えない。

 超硬質化した神体の手足を、超音速機動で叩きつけてくる。

 その動きはこのサイズの近接格闘戦……人間の技術をよく研究したものであり、【バーストライカ】の獣の本能を以てしても完全な回避は難しい。


(~~! 人に近いカタチになったのはこのためか!)


 同じく人と獣の中間のカタチ。

 しかし【バーストライカ】が人狼へと進化したのは戦闘のためではないが、ヴィジャボリオンが自らの《竜神装》を人竜としたのはこのサイズでの戦闘経験の蓄積した結果だ。


 莫大な《竜王気》を圧縮して物質化する《竜神装》。

 それゆえに、《竜神装》のサイズは元の《竜王気》の総量に比例する。

 《竜王気》で巨竜体をも動かすヴィジャボリオンでさえ人間大の《竜神装》が限界だからこそ、彼はその体格でのベストを研鑽したのだ。

 二〇〇〇年間、モンスターと人を見続けてきたヴィジャボリオンの答えが……モンスターの力と人の武術の融合だ。

 そしてその研鑽は今、【バーストライカ】を圧倒していた。

 《自動修復》を加味しても、【バーストライカ】のダメージが目に見えて増加していく。


(……ドラゴン、怖っ……!)


 【バーストライカ】には分かっている。

 これほどの実力者であってもなお、南の山から気配を発しているドラゴンよりは弱い(・・)のだ。

 今まで見たこともないほどの強者の、さらに上がいる。

 その事実に、正直に言えば怖気づき、


(――でも、やるしかないんですよね)

 同時に――そんな連中からボスを護らねばならないと再度決意する。


『ガァッ!』

『――――』


 ヴィジャボリオンの放った貫手に皮膚を抉られながら、クロスカウンターで炎爪を避け辛い胸部に叩き込む。

 血が噴き出し、爪が折れるが、《竜神装》の胸部にも灼けた傷跡を刻み込む。


『こふっ』


 その咳と吐血は、【バーストライカ】ではなくヴィジャボリオンのもの。

 《竜神装》内部にいる本体が血を吐き、《竜神装》の傷跡から血が漏れる。


『今、……!?』


 だが、その間隙に勝負を掛けようとした【バーストライカ】に、意図しない方角からの攻撃が直撃する。


 それは、岩の弾丸。

 砕けた巨竜体が超音速の質量弾となって、【バーストライカ】に飛翔する。


『~~!?』


 【バーストライカ】はそれが《竜神装》を纏う前の攻撃と同質だと悟る。

 全ての《竜王気》を全身(アバター)に変えてもなお、《竜神装》そのものにヴィジャボリオンの《黒城地獄》の特性が残っている。

 踏み出す一歩に、振るう一手に、圧縮された《竜王気》が込められ、それが爆発燃料のように地属性魔法を発動させ、岩塊を超音速の質量兵器へと変えたのだ。

 ヴィジャボリオンが砕けて地に落ちる岩塊の中を、四方八方に跳ね回った。


 ――そして今、ヴィジャボリオンが踏んだ足場全てが武器に変わった。


 これもまた、ヴィジャボリオンの研鑽の結果。

 《竜神装》の真髄はステータス増強に非ず。

 神話級と呼ばれる怪物達と同様に――世界を捻じ曲げる法則そのものが物質化しているのだ。


(咳も、こっちの油断を誘ってこの連続弾を当てるため? 老獪すぎる……!)


 驚愕と共に、【バーストライカ】は殺到する超音速弾を辛うじて回避する。


(まずい! 地属性魔法と本体のコンビネーションで来られたら捌き切れない……! 強い……! これが本当の神話級……!)


 ロボータのブーストで神話級に踏み込んだ【バーストライカ】にとって、眼前の相手は完全に自らの格上……本当の実力者に思えた。


 その考えは正しく、今のヴィジャボリオンの戦闘力は確実に神話級の<UBM>と同格以上にまで跳ね上がっている。

 それでもなお、ヴィジャボリオンは神話級とは認定されなかった。

 なぜなら彼は技術の研鑽の果てに《竜神装》の扉を開き、踏み込んだが――


『ご、ふっ……』

 ――その領域に留まることはできなかったからだ。


『え……?』


 再び、ヴィジャボリオンが咳込み、《竜神装》の亀裂からは夥しい血が流れる。

 隙を作るためのブラフの咳……ではない。

 ヴィジャボリオンは本当に、致命的な咳をしていた。

 仕込んでいた岩塊弾を今のタイミングで使ったのは、それで牽制しなければ致命的な隙となりうるからだ。


 今このとき……否、《竜神装》を纏った時点でヴィジャボリオンは死にかけている(・・・・・・・)


 《竜神装》……高密度に圧縮・物質化した《竜王気》はそれ自体が莫大なエネルギーの塊。

 身に纏う者にはエネルギーの奔流に耐えるだけの強さが要求される。

 それこそ、最低でも神話級の肉体強度が必要になるだろう。


 しかし、他の使い手と違い……ヴィジャボリオンにそれはない(・・)


 本体が小さく、儚く、脆弱という塊竜の生来の欠点。

 二〇〇〇年前の混迷期を適者生存で生き抜いた彼の身体は……しかし強すぎる力である《竜神装》には耐えられない。

 《竜神装》のエネルギーで肉体が灼け、超膂力・超音速で動く神体(アバター)の反動は内に収めた本来の肉体を砕く。


 概算で、三分。

 万全のヴィジャボリオンが、《竜神装》を纏ってから――死に至る(・・・・)までの時間である。


 ヴィジャボリオンが手にした神話級と同等以上の力。

 しかしそれは、彼の身体では命を天秤に載せなければ発揮できない。

 人間範疇生物にとって超級職の最終奥義にも等しい。

 諸刃の剣どころか……柄すらも刃の剣と言えよう。


『…………』

『……まさか』


 【バーストライカ】も理解する。

 あんなにも饒舌に話していた竜が、《竜神装》を纏ってからは最初の言葉……自分への忠告以降はずっと無言だった。

 それは話す余力もないほどにダメージを受けているからだ、と。

 思えば、纏う段階で既に声は苦しげだった。


 それでも……秘された力の存在を示し、今ここで【バーストライカ】と相対している。


(…………逃げて勝つことはできない)


 それはあちらの方が速いとか、逃げようとした瞬間にロボータが狙われるといった状況を指しての言葉ではない。

 今、命を懸けて格下と戦っている先達から逃げ出せば、その瞬間に決意も……ロボータの部下一号である誇りも何もかもが薄っぺらになる。


 ゆえに、【バーストライカ】は逃げず……ただ体勢を変えた。


 それは、極端な前傾姿勢。

 致命傷を避けて長期戦で勝つための体勢ではない。

 狼が獲物に飛び掛かるときのような、完全な攻撃の構え。

 先刻のクロスカウンターと同様に、それ以上に、全身全霊を乗せた一撃で《竜神装》の防御を破るという決意の発露。

 技比べでは敵わない。

 だからこそ今の自身の力を、ロボータに託された力の全てを……一撃に込める。


『…………』


 乾坤一擲の【バーストライカ】に対し、ヴィジャボリオンは無言。

 だが、《竜神装》の内側で……楽しげに笑う。

 自らの生きた意味を、実感するように。


『『――――』』

 向かい合う、二匹。


 崩れ続ける巨竜体。

 それを取り囲むのは、自分達のエースを見守るロボータ・ファミリー。

 そして……。


『部下一号……』

 威圧感に震える身体で、しかし目を逸らさない一匹の小さな狼王もまた……最も信頼する部下の戦いを見守っている。


 対峙する二匹が周囲全ての耳目を集める中、戦いの舞台である巨竜体にも変化があった。

 巨竜体の崩壊が進み、首が罅割れ、砕けて、頭部が直径二十メテルを超す巨大な瓦礫となって地に落ちる。

 落下軌道に二匹の姿はない。

 だが、巨大な岩塊が地に落ちて、砕ける轟音は……。



『『――!』』

 ――最終ラウンドの闘鐘(ゴング)となる。



 はたして、どちらが先に動いたのか。

 一瞬後の両者の中間点には、狼と殺到する岩塊弾のどちらもが在った。


 飛び交う数十発の岩塊弾。

 人間も純竜も一撃で頭蓋を砕いて即死させる質量暴力の権化。


 だが、それを前にしても狼は軌道を曲げない。


 一歩、二歩、三歩。

 ただ直進のみを実行し、脇目を振らず、最大加速で只管に前へ進む。

 自らの肉体の限界速度を引き出し、筋肉繊維が千切れ、血潮が沸騰し、擦る空気が灼ける。

 だが、一心不乱の疾走を果たすとき、狼の爪や脚ではなく――その全身が炎に包まれる。

 それは最大加速による全身への炎熱付与。自分自身を紅蓮の矢に変えた最大攻撃。

 接触する岩塊を、質量の直撃によって軌道を曲げられるよりも早く蒸発させる。

 ダメージはある。傷は負う。着弾の衝撃で骨が何本砕けたか数える気にもならない。


 それでも、進む道は曲げない。

 ただ真っすぐに、紅金の軌跡を描き、全てを融かし貫いて、一匹の狼が駆ける。


 その進撃を、一匹の竜が迎え撃つ。

 岩塊弾は仕留めるための攻撃ではない。

 狼の機動を視て、自分自身によるカウンターを当てるためのもの。

 先刻の攻防の逆であり、今は竜がカウンターを狙っている。


 だが、狼の愚直な直進という選択は、竜の予想を上回っていた。

 狼の選択は竜のカウンターに一秒の百分の一以下の遅れを招き、


『――――』

 竜は目を見開いて、少しだけ笑った。


 そして、両者が交錯する。

 狼の心臓を狙って放たれた竜の貫手は、胸の中央を――心臓の僅かに左下を貫いた。


 竜のコアを狙って駆け抜けた狼の顎は、その牙の殆どを――竜の胸殻に折られていた。



『…………』

 狼は、牙を折られて……。



『……ホ、ホ』

 竜の、胸殻を嚙み砕いて……。



『ホッ、ホッ、ホ……』

 胸の内にあった竜自身を……顎に捉えていた。



『――未来(あなた達)の、勝ちですなぁ』

 ――その言葉と同時に顎は閉ざされる。



 若き狼の歯音と共に……老いた竜は生涯を終えた。



 ◇◆◇


 ※プレイヤー非通知アナウンス


【(非人間範疇生物(モンスター)による<UBM>討伐を確認)】

【(MVPは【烈火迅狼 バーストライカ】)】

【(古代伝説級【塊竜王 ドラグランプ】のリソースの一部を移譲)】


【(特殊処理挿入)】

【(獲得リソースの五〇%を【群狼王 ロボータ】に分配)】


【(【烈火迅狼】、【群狼王】のレベルアップ・ランクアップを確認)】


【(【烈火迅狼 バーストライカ】を伝説級に認定)】

【(【群狼王 ロボータ】を古代……)】

【(リソース供給に伴う進化処理挿入)】


【(――【群狼大王(・・・・) ロボータ】を古代伝説級に認定)】


 To be continued

(=ↀωↀ=)<今週末は作者が引っ越し作業で忙しく


(=ↀωↀ=)<引っ越し先のネット環境もまだ繋がっていないので


(=ↀωↀ=)<次回はお休みかもしれません

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロボータファミリーが大活躍したことと前から気になっていたモンスターが<UBM>を討伐した場合のアナウンスなどが書かれた事。 [気になる点] 全力を出せていた時期の【雷竜王】は《竜王気》への…
[良い点] ヴィジャボリオン、最期までかっこよかったです。こんな老兵と言った雰囲気のキャラも大好きです。
[良い点] バーストライカ氏、最後の最後潔く直線でぶち抜いていきましたね。無傷ではなく傷つきながら進むっていうのはめちゃくちゃ格好いいです! [気になる点] エンブリオには必殺スキルという物があります…
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