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<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- Another Episode  作者: 海道 左近


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31/88

拾話 或る地竜の一生

(=ↀωↀ=)<昨日はクマニーサンの誕生日でした


( ̄(エ) ̄)<二〇二一年だと三歳クマー


(=ↀωↀ=)<ちなみに漫画版が明日更新予定です

 ■【塊竜王 ドラグランプ】/ヴィジャボリオンについて


 一〇〇〇年以上前。

 人類への報復に動いていた【金竜王】が死に、南征中の地竜全軍に撤退命令が下されたときのこと。

 ヴィジャボリオンは、長き戦友である一体の【竜王】と言葉を交わしていた。


『ヴィジャボリオン、オラァは、このまま砂漠に残ろうと思うだよ』

『ギガレウム。理由を聞いても構わないかね?』


 ギガレウム……【巨竜王】という銘を後付けされた友人が零した言葉に、ヴィジャボリオンは驚いていた。


『山を下りて分かっただ。こっちの方が広ぇ。ここなら、オラァも邪魔にならないだ』

『邪魔などと。君は地竜王配下でも筆頭格ではないか』

『だども、オラが食う飯が浮けば、他の地竜が何百体も餓えずに済むだ』


 そう言うギガレウムは、極めて巨体だった。

 それこそ、『都市の一つも背中に乗る』のではないかというほどの超巨体。

 人間が抱えられる程度の大きさのヴィジャボリオンと、都市よりも巨大なギガレウムだったが、不思議と【地竜王】配下の中でも気が合い、友人関係になっていた。

 ただ、それでも考えが異なることはある。

 それが……この別れのときだった。


『飢え死にするかもしれねえし、邪魔に思われて討たれるかもしれねえ。それでも、居座るだけで仲間達や若い連中を飢えさせる山の暮らしよりは……心が軽いだよ』

『そうか……。君がそう決めたのならば、否定はすまい』


 ヴィジャボリオンは、巨体だが心優しい友の悩みについても知っていた。

 弱く小さい者達の生存を圧迫する……生きること自体が悩みのタネだったのだ、と。

 絶対強者でありながら、常に弱者を気にかける。

 それは小さく弱く生き、強くなってからは強者として生きた……状況に応じて生き方を変えてきたヴィジャボリオンとは異なるものだ。


『山のことは、おめさんに託すだよ』

『ああ。【地竜王】陛下にも……まぁ、上手く伝えておくとも。……さらばだ、友よ』

『あんばよぉ。今までありがとうなぁ、ヴィジャボリオン』


 そうして、当時の【地竜王】配下最強であった【巨竜王】は、<厳冬山脈>に帰らず……砂漠を放浪する生き方を選んだ。


 ◆


 地竜の下山と出奔を許す決まりができたのは、この後のことだ。

 元より、<厳冬山脈>の環境は地竜が繫栄するには厳しすぎた。

 それゆえに、地竜達が山を下りて他の地に棲家を移すことを【地竜王】も許したのだ。


 その後、下界に残った友が<イレギュラー>に到達し、【漂竜王】と銘を変えたと知った。

 さらに、その背中に人間の街を乗せて共存していることも。

 それでも、ヴィジャボリオンは会おうとはしなかった。

 人間と共存する生き方を選んだ理由を、問いただそうとも思わない。

 自分とギガレウムが友人ではあったが、生き方はまるで違うと知っていたから。


 ◆


 それからまた時が過ぎて……百余年前の<厳冬山脈>。

 ある夜更け、ヴィジャボリオンはとある竜の一団と向き合っていた。

 一団の代表にも見える細長い……骨でできた蛇のような竜が言葉を発する。


『それでは師よ。我らはこれにて山を下りまする』

『ああ』


 ヴィジャボリオンを師と呼ぶ竜の名は、【外竜王 ドラグメイル】。

 今宵、彼が率いる外竜(メイル・ドラゴン)一党は<厳冬山脈>を出て、下界に生息域を移す。

 外竜は塊竜から分化した種族だ。

 塊竜は必要に応じ、地属性魔法を使って周囲の鉱物で自らを鎧う。

 だが、外竜は予め生物のドロップアイテムを加工して外骨格を作り、纏い、地属性魔法で動かす種族。

 この世界の仕様変更に適応した種族であり、塊竜よりも種族としての戦闘力は高い。


 しかしその在り方ゆえ、彼らが<厳冬山脈>を出るのは当然の帰結だった。

 この地は、彼らの外骨格にとって有効な素材が少ない。

 怪鳥共は堅固な外骨格の素材に向かない。

 他の獣は少なく、骨よりも皮や肉を多く残す。

 最適な素材は地竜の甲殻だが……この山脈での共食いは首を絞める。

 それゆえに外竜一党はこの山を下り、山脈外の地竜として生きていく。

 様々な事情で生息域を移すのは、生物としては当然の在りようと言えた。


『結局、師の技術を会得することはできませんでしたな』

『ホッホッホ。気にするな。君の技術は守破離の一つだとも。私にもできないことだ』


 【外竜王】は適した素材に自らの《竜王気》を練り込みながら精錬することで、『魔法を遮断する』特性を付与することに成功した【竜王】である。

 効果を長時間保持させる技術はヴィジャボリオンも持っていなかった。

 自分のように超速の鉱物操作は出来なくとも、新技術を身に着けてモノにした【竜王】。

 これも一つの適者生存かと、ヴィジャボリオンは素直に感心したのである。


『ご謙遜を。……師よ、師は山から下りぬのですか?』

『ん?』

『師ほどの御方ならば、この<厳冬山脈>でなければ一大勢力を築けましょうに。そうお望みになれば、私も配下につきましょう』


 そう述べる【外竜王】に、ヴィジャボリオンは内心で『何百年振りかに聞いたな』と懐かしい気持ちになった。

 彼の実力と来歴を知る弟子には、よくそう言われるのだ。

 それこそ、弟子であり仕える主である【凍竜王】にさえも言われたことがある。

 『【塊竜王】は欲がなさすぎる。もっと上を目指す気はないのか』、と。

 だが、答えは変わらない。


『私はこれで良いのだよ。私は君達と違い、もはや繁栄も成功も求めていないからな』

『求めて、いない?』

我が同種(塊竜)は、繫栄するには弱すぎる。種としての成功は望めない。

 私自身は、求め欲する心がもう枯れている』


 先々期文明崩壊直後。

 全生物が生存に必死だった時代を生き延びたヴィジャボリオン。

 だが、その地獄を生き延びた後はおまけ(・・・)のようなものだ。

 【竜王】として君臨した過去も、【地竜王】に忠臣として仕える現在も、惰性……あるいは慣性(・・)でしかない。


『長命の生物が生きた先には、幾つかの流れがある』


 アルマジロに似た短い指で、ヴィジャボリオンは提示する。


『生に執着し、生を延長するために手段を選ばぬ者』


 これは人間範疇生物由来の長命種やアンデッド、それと一部のドラゴンに多い。

 自分の命の主観的価値が高いから、失われるのが怖いのだ。

 まだ若い、とも言える。


『長き生を賭して、何らかの目的を果たそうとする者』


 何人か見た人間範疇生物の研究者。

 特に、二代目フラグマンと名乗ったハイエルフが彼の記憶に残っている。

 誰かの遺志を継いだらしく、自分の代で少しでも次代に遺そうと足掻いていた。


『生きる喜びや意味を見つけ、楽しみ生きる者』


 【天竜王】。

 三大竜王の一角であり、数少ないヴィジャボリオンよりも長き時を生きる存在。

 あれは楽しみを見つける天才だと、内心で尊敬すらしている。

 世界を眺めることで何千年も楽しんでいるのだから。


 それに、友であったギガレウム……【漂竜王】も今はこれに含まれるのだろう。


 そして……。


『ただ、流されるように生きているだけの者。

 そう。私は……流されてここにいるだけの者なのだ』


 彼には何も無い。

 既に、彼からは意欲というものが枯れている。


 生きるために、弱い存在として雌伏の時を過ごした。

 生きるために、【竜王】として君臨した。

 生きるために、敵わないと分かっていた【地竜王】に下った。


 だが、そこまでして生きても……すべきこと(・・・・・)は何もなかった。


 同族の塊竜は弱く、繁栄は望めない。

 <UBM>としての強さも、とうに頭打ち。

 今は、地竜王統の命に従って生きているだけだ。


 長き時を生きたヴィジャボリオンは、然程生に執着できなかった。

 死ぬ理由がないから流されるままに生きている。

 何のために生まれて、何のために生きるのかも分からないまま。

 されど、生きる意味を追い求める強い熱も彼にはない。

 二〇〇〇年の日々の、恐らくは早い段階で彼は達観してしまっていたのだ。


 『生きているから生きている』、と。


『強いて言えば、未知の事柄や弟子の変遷には少しだけ心が動く。それくらいだとも。ゆえに、私は下界での繁栄と成功を求めない。求める資格がとうにない』

『…………そう、ですか』


 【外竜王】は説得が叶わないと知って、その後に幾つか言葉を交わして去っていった。

 それが今生の別れとなることを、ヴィジャボリオンは薄々察していた。


(【外竜王()】は、自分の命が惜しい。ゆえに、自分の命を奪う可能性のある者を許容できない)


 この<厳冬山脈>を離れる理由も、種族の生態ゆえという理由をつけていたが……実際は地竜王統の上位三体が恐ろしいのだ。

 もしかすると、ヴィジャボリオンも入っているかもしれない。


(いつか、自分の天敵となりうる存在を見つけたとき、排除しようとして返り討ちに遭う……ということもあるかもしれませんな)


 このときのヴィジャボリオンの予感は、百年以上の時を経て的中する。

 人々の間で『ガイリュウオウ事件』と呼ばれた出来事の中で、【外竜王】は死ぬのだ。


 ◆

 

 ギガレウムとの別れから外竜一党との別れまでの間に、似たようなことは幾度もあった。

 幾度も同胞達を見送り、それでもヴィジャボリオンは<厳冬山脈>に棲み続けた。


『…………』


 ヴィジャボリオンは、代わり映えのない氷雪に覆われた<厳冬山脈>の景色を眺める。

 ここは【地竜王】が根を下ろしてから、ずっとこんな風景だった。

 四季はなく、多少の地形の変化など雪と氷が覆い隠してしまう。


 雪景色が美しいと人は言う。

 けれどそれは、何もかもが隠された……『何もない』ゆえの美しさではないだろうか。

 『何もない』ことが美しいなどと、ヴィジャボリオンは思わない。


『……何もないまま終わるのは、嫌ですなぁ』


 寂寥とした山々を眺めながら、ヴィジャボリオンはポツリと呟いた。

 二〇〇〇年近くを生きて、ただ生き続けて。

 もはや生きる理由が『今生きている』以上になくなった生物ではあったが……。

 それでも、最期に何もないまま終わるのは寂しく感じた。

 だからこそ、思う。


 もしも、自分が死ぬときは――。


 To be continued

〇ヴィジャボリオン


(=ↀωↀ=)<長生き


(=ↀωↀ=)<ていうか黒幕連中や一部例外除くと【天神】と並んで最高齢組


(=ↀωↀ=)<そのため色んな人物や事件にも対面しています



〇【外竜王】


(=ↀωↀ=)<彼の活躍はクロレコの2巻と3巻でね!

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― 新着の感想 ―
おじいちゃん好きになった
[気になる点] 二代目フラグマンって長命種なら行き急がずにじっくり化身関連の研究を進めた方が良いような…… 何か事情があったんですか? [一言] 【黒水晶】作って自滅?したフラグマンはハイエルフだった…
[一言] 【塊竜王】の話を聞いていると創作物によくある何千年も生きているキャラクターとかが少し悲しく見えてきました。
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