ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ⑧
(=ↀωↀ=)<作者、少しずつお引っ越し作業中
(=ↀωↀ=)<思ったよりも多かった積みプラモの数に驚愕
□■ロボータについて
【群狼王 ロボータ】。
元々、彼は普通の【ティール・ウルフ】だった。
親から生まれ、群れに属し、兄弟や同世代と共に狩りを学び、【パシラビット】をはじめとした獲物を狩る。
ただ、彼らは自然界では決して強い存在ではない。
群れで動き、人間を含む強者を相手にも狩りをするが、返り討ちに遭うことも多いからだ。
近年では死んでも死なない存在である<マスター>が増加し、序盤のレベル上げに最適な彼らが狩られる頻度も増えた。
ロボータの兄弟も死んでいるし、同世代で残った仲間も一頭だけだ。
そのことは仕方がない。自然界での狩って狩られては当たり前のことだ。
ただ、ロボータも群れの仲間が減ることは悲しかった。
そんな彼が<UBM>になった経緯には、何のドラマ性もない。
落ちていたモノを食べたからだ。拾い食いである。
群れの縄張りの森に落ちていたのは、なぜか自分の本能に訴えかけてくる代物だった。
それは森の中を訪れる人間の一部が、左手につけているものによく似ていた。
彼らの住まうエリアに入ってくる人間の多くは左手に紋章を刻んでいたが、それに似た『卵』をつけている人間もいる。
彼は丁度おなかも減っていたので、フラフラと誘われるようにそれを丸呑みした。
その直後に彼は変化する。
管理AI四号ジャバウォックによるデザインと適合し、<UBM>へと進化した。
そうして生まれたのが、【群狼王 ロボータ】である。
ロボータはデザイン型のありふれた<UBM>だったが、少しだけ違う点があった。
本来ならば、外付けのリソースで大幅に強化されるはずの身体は、むしろサイズダウンによって弱体化していたのだ。
SPやLUCは上昇していたが、それらのステータスは基本的に戦闘力に寄与しない。
そしてロボータのスキルは有用だったが、配下がいなければ機能しないタイプだった。
つまり、配下がいないロボータだけのタイミング……この進化直後は誰でも倒せる史上最弱の<UBM>と言える。
むしろ、そんな最弱の存在の配下に誰がなるのか。
倒してしまえば自分が強い力を得られるのだ。
誰でも倒せる<UBM>。人でも獣でも、彼を狩るだろう。
はっきり言って、ジャバウォックの設計ミスである。
『あわわわ!? あわわわわわであるー!?』
進化直後のロボータはひどく動転していた。
ちょっとだけ知恵が増したので、自分の現状も辛うじて理解できていた。
自分がとっても美味しい獲物であることも。
もしかすると、同族から見てもそうかもしれない。
進化した自分の姿はもう【ティール・ウルフ】ではない。
群れの仲間でなくなったと判断されて、排除されるかもしれない。
ロボータは怖くて怖くて泣きだしていた。
『ワオン?』
そんな彼の傍に、近づいてくるものがあった。
彼と同世代で唯一の生き残りである【ティール・ウルフ】だった。
その【ティール・ウルフ】は不思議そうな顔でロボータを見ていた。
縄張りにいる、見覚えのない弱そうなモンスター。
けれど、匂いは自分がよく知る仲間のもの。
不思議に思って近づいた【ティール・ウルフ】に、ロボータは泣きながら事情を話す。
それは『何か食べたら姿が変わってスキルが使えなくて配下が必要ででも配下なんていなくて』という要領を得にくい説明であった。
『ワオン(とりあえず落ち着いてください。冷静に冷静に)』
『はっ! そ、そうであるな。Be Cool、Be Cool、吾輩はきっと大丈夫……』
それから【ティール・ウルフ】は落ち着いたロボータから何とか事情を聞き、最終的にこう結論付けた。
『じゃあ私でそのスキルを試せばいいんじゃないですか?』、と。
もしも同世代の仲間がいなければ、ロボータはモンスターか人間に狩られて終わっていただろう。
だが、同世代最後の仲間が……部下一号がいたことが彼の幸運であり、転機だった。
その後も幾つもの幸運に恵まれて、彼は<Infinite Dendrogram>の中で生き続けてきた。
◇◆
しかし、数多の幸運で命を繋いだ彼の命運も、【塊竜王】というあまりにも巨大な敵の前で尽きようとしていた。
◇◆
ロボータが<UBM>になってから今までは一年も経ってはいない。犬として見てもようやく成犬といった頃合いだ。
今、街ごと彼を見下ろす【塊竜王】の二〇〇〇年とは比べるべくもない。
(……短い犬生でも色々なことがあったのである)
【ティール・ウルフ】として生まれたこと。
兄弟や同世代の仲間と一緒に狩りを教わったこと。
兄弟と仲間が減ってしまったこと。
落ちていた何かを拾い食いしたら<UBM>になったこと。
とても小さくて弱くなってしまったこと。
それでも、部下一号が配下になってくれたこと。
それから沢山の配下ができたこと。
<果樹園>で【デミドラグワーム】の群れに遭遇して死にかけたこと。
<ノズ森林>で火災に巻き込まれて死にかけたこと。
部下一号達と一緒にあちこちを彷徨ったこと。
伝説級にランクアップして正体を隠せるようになったこと。
ギデオンに安住の地を求めたこと。
ギデオンで誘拐されて辛くも逃げ延びたこと。
ギデオンでテロに巻き込まれて死にかけたこと。
レーザーを撃つおっかない奴から、なぜか部下Xの卵を貰ったこと。
部下Xと一緒に空を飛んだこと。
空を飛んでたら銀色の馬に乗ったおっかなくて怖くてやばい奴に絡まれたこと。
部下一号が強くなったこと。
部下達との生活が安定してきたこと。
なぜかニッサに来てしまったこと。
ニッサでぐうたらしていたこと。
今、巨大なドラゴンに見下ろされていること。
『くーん……』
記憶が現在に至って、ロボータは自分が走馬灯を見ていたのだと気づく。
あんまりにも絶望的過ぎて、パニックにもならない。
巨大なドラゴンは確実にロボータを見据えている。<UBM>だとも見破っている。
そして、殺すつもりだとも理解できる。
<UBM>同士だが、これはアリと象の戦いだ。
いや、それは戦いにならない。アリ一匹で象に勝てるわけもない。
だからもう、駄目だった。
『…………』
ロボータは自分を抱えている商人を見上げた。
商人は衛兵の指示で北門の方に避難しながら、迫るドラゴンに怯えている様子だった。
しかしそれでも、震える手でロボータを撫でて……謝っていた。
「……すまんなぁ。オラがこの街に連れてきてしまったから巻き込まれちまって……」
詫びるようにロボータを抱きしめる。
『それは違う』とロボータは思った。
自分が勝手に竜車に潜り込んだのだ、と。
そして、あのドラゴンの目当ては自分なのだ、と。
「なんとか、飼い主のところに戻してやりたいだば……」
こんなときにも自分を心配してくれるこの人間は、とても優しいのだとロボータは感じた。
この人間だけではない。この街で会った人は、みんなロボータを可愛がってくれた。
昔は、人に飼われる生き方に憧れたこともあった。命の危険がない悠々自適のペット暮らしを望んだ。
奇しくも、その夢は叶っていたのかもしれない。
けれどその夢も終わり。
自分はどう足掻いてもペチャンコにされて死んでしまうと、ロボータは悟っていた。
自分も商人も、街の人みんながペチャンコにされて死んでしまう。
それが……とても怖かった。
『……!』
「お、おい……!?」
ロボータは懸命に身じろぎして、商人の腕から飛び出す。
そして地面に下りて、避難する人達に踏まれないように気をつけながら走り出す。
商人はロボータを追いかけようとするが、人波に遮られてしまう。
その間に、ロボータの姿は路地の陰へと消える。
そうしてロボータは短い手足で、けれど狼の速さで走る。
体格は小さくとも、AGIのステータスは【ティール・ウルフ】のままなのだ。
一生懸命に路地を走って、ニッサの東門へと辿り着く。
モンスターの迫る南門以外は避難用に開放されてはいるが、人々は北門から逃げようとしているので人通りはほとんどない。
そして東門を駆け抜けて、ロボータはフィールドへと飛び出した。
『ワオーン!』
ロボータは泣きながら逃げ出した。
都市の中ではなく、都市の外へ。
そして、恐怖で涙をポロポロと零したまま、鳴いている。
『ワオーン!』
狼の遠吠えで、『自分はここにいるぞ』と巨竜に主張する。
明確に自分を狙っている巨竜が、ニッサから離れるようにと。
その声に反応したのか、あるいはロボータの姿をずっと捉えていたのか、巨竜は街壁を攻撃する小竜のみを残し、ニッサから東のフィールドへと転進していた。
街を潰すのは余禄に過ぎず、本命は<UBM>であるロボータの命なのだから。
ゆっくりとした動きに見えるが、巨体ゆえにロボータよりも遥かに移動距離が長い。
逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
それでもニッサを潰す寸前だった巨竜が、街から離れた。
『ワオーン!』
ロボータは迫る巨竜が怖くて、逃げた。
自分と自分を可愛がってくれた優しい人々の死が怖くて、逃げた。
その行動に至った意思は怯えであり……勇気でもあった。
◇◆
『ワオーン!!』
何度目かの遠吠えをする頃には、【塊竜王】はロボータに追いついていた。
背中に魔力式砲座の砲撃が放たれるが構わず、ロボータの頭上で踏み潰すために足を上げる。
『…………』
【塊竜王】は眼下の小さな獣を見下ろす。
それは<UBM>とは思えないほどに弱い生き物だった。
ステータスに妙な偏りはあるが、戦闘に耐えうる存在ではない。
そして、泣きながら逃げる様も擬態ではない。
この白い獣は、<厳冬山脈>を襲った存在とは違うと【塊竜王】も確信している。
だが、それでも潰すことは変わらない。
【凍竜王】の命であるし、何よりも弱ければ食われるのが自然界の常だ。
今さら伝説級のリソースを得たところで【塊竜王】のレベル上限が上がる訳ではないが、倒さない理由はない。
何より――『この<UBM>は今倒しておかなければならない』と予感した。
(弱い生き物だ。かつての自分のように――かつての【地竜王】のように)
【塊竜王】が【地竜王】を知ったのは、あれが【地竜王】となるよりも前。
まだ【魔王】ではなかった従魔師に育てられているだけの、背中に木の実を生やしたどこにでもいる地竜だった頃から知っている。
だが、不思議な予感……ある【魔王】に言わせれば《審獣眼》に似た感覚で、当時から【塊竜王】は後に自らの主となる地竜の秘めた才覚を薄っすらと察していた。
かつて弱かったがゆえの経験が、竜としての長き生が、警鐘を鳴らしている。
この弱い生き物を生かせば……いずれ地竜王統さえも脅かす存在になりかねない、と。
(弱者は、成長する。かつての私がそうだったように)
ロボータに、頭上の巨大な足の影が掛かる。
走り続けて鈍った足では、もうそこから逃げきれない。
『…………』
【塊竜王】は、かつての自分を潰すような錯覚を覚えた。
しかし、強者としての今の自分はそれを踏み潰せる。踏み潰さねばならない。
『……すまぬな』
最後の一言と共に、巨大な足が踏み下ろされ……。
『――うちのボスを泣かすんじゃありませんよ』
――その一言分の猶予で、届いた。
◇◆
【塊竜王】の脚が地に着くと共に、再び巨大な地響きが起きる。
しかしそれに紛れて、何かが高速で擦れる音と幽かな熔解音が響く。
『!』
それはニッサの人間からは見えなかっただろう。
だが、この巨竜体の隅々までをコントロールする【塊竜王】は気づいている。
踏み潰そうとした瞬間に、何者かが地面からロボータを拾い上げた。
巨竜体の右足の裏に、深く、熱い傷跡を刻みながら。
『ッ』
耐久度を大きく減らした右足は自重に耐えきれず崩壊し、巨竜がバランスを崩す。
【塊竜王】は瞬時に《竜王気》を回して破損部位を再構成するが、視線と注意は一点に注がれている。
『まったく。安易に行動するからこういう目に遭うんですよ、ボス』
それは狼ではない狼だった。
狼頭と、通常の狼の五倍近い体躯。
しかし、四肢や骨格は人と獣の中間のカタチ。
体毛は燃えるような金と紅。太陽の如く輝いている。
それを一言で表現するならば――人狼。
『ぶ、部下一号~~!』
人狼の大きな手にすっぽりと……爪で傷つかないように丁寧に収められていたロボータが、安堵と共にその人狼の名を呼んだ。
『あー、もう。涙と鼻水でべしょべしょですよ。……なんか毛並みは良いですね。美味しいモノ食べてました?』
『ぎくっ』
『こっちはボスがいなくなってから大慌てで探して、ようやく探し当てた匂い辿ってここまで来たんですけどね? 食事もゆっくりできなかったんですが?』
『うぅう、すまんのである……』
さっきまで泣いていた弱い生き物が、まるで違う表情でしょんぼりと反省していた。
今も、【塊竜王】がすぐ傍に在るというのに。
もう安心とでも、言うように。
『じきにXと足の速い連中も来ます』
『部下一号が一番乗りであるか?』
『それはそうでしょう? 私はボスの部下一号ですから』
部下一号。
それは狼の名と在り方そのもの。
【群狼王】の最も古い配下。配下にして友。
だが、それの正式名称は異なる。
太陽の如き狼の銘は――。
『――ところで、あの岩トカゲは倒してよろしいんですよね?』
――逸話級<UBM>、【烈火迅狼 バーストライカ】。
To be continued
〇【烈火迅狼 バーストライカ】
(=ↀωↀ=)<キャサリン金剛という人がいます
(=ↀωↀ=)<素質のあるモンスターを育てていて
(=ↀωↀ=)<育てている内に<UBM>級に育った人です
(=ↀωↀ=)<同じ事はモンスターの軍団でも起こります
(=ↀωↀ=)<人にテイムされてないから<UBM>そのものになるけど
(=ↀωↀ=)<ちなみに名前はバースト(爆裂)+ストライク(攻撃)+ライカ(犬)
(=ↀωↀ=)<ところで伝説級の数倍が神話級なら
(=ↀωↀ=)<……逸話級の十倍ってどうなると思います?




