ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ⑤
(=ↀωↀ=)<また他の作業入ったら伸びたりお休みしたりするかもしれませんが
(=ↀωↀ=)<新刊も出たので試しの四日更新
□■<ニッサ辺境伯領>・<スリーブ山>
金属以上の強度を誇る氷晶を生成し操る《晶永冷瓏》は、【凍竜王 ドラグフリーズ】の最も基本的なスキルである。
シンプルな能力であるがゆえに、応用性も高い。
手足を作り、氷槍を飛ばし、ゴーレムを動かし、そして敵手を閉じ込める。
“氷晶宮”は【凍竜王】が会得している結界スキルも織り交ぜており、中から外への空間スキルも遮断している。
『GWOLL……!』
『逃がさない』という点に特化したこの処刑場は、同時に処刑器具でもある。
今、“氷晶宮”の大広間には【凍竜王】の首を落として一矢報いた【キル・キル・バ】の姿があるが、その姿は先刻までとは打って変わって無惨なもの。
自らの切り札による防御力低下もあるが、それ以上に【凍竜王】の手数が多い。
【キル・キル・バ】を閉じ込めた大広間、その壁や天井から常に氷の槍や竜が放たれ、【キル・キル・バ】を襲い、傷つけていく。
閉じ込めて、相手が死ぬまで波濤の如く攻撃を繰り返す。
神話級最上位の膨大な体力と魔力で、相手の息が止まるまで。
かつて地竜王統の領域に踏み込んだ人間達……超級職で編成された精鋭パーティを鏖殺したのはこの形態である。
そして今は、神話級の超獣を磨り潰さんとしていた。
『流石に頑丈だ。急所も外しておるようだしなぁ』
【キル・キル・バ】の抵抗を、【凍竜王】は別室……玉座の間から眺めていた。
玉座の間には“氷晶宮”の形成時に取り込んだビフロストが少し変わった芸術品のように置かれ、その傍には玉座がある。
だが、玉座に在るのは生物ではない。
在ったのは黒い氷晶だ。
光を通さない氷晶が、王か或いは置物のように玉座に鎮座している。
黒い氷晶は、“氷晶蛇”形態において、【凍竜王】の胸部にあったものだ。
それこそが【凍竜王】のコア。
頭部や手足は、《晶永冷瓏》で創った飾りに過ぎない。
そして今はこの“氷晶宮”が彼女の目であり、耳であり、手足である。
アットは“氷晶宮”を【凍竜王】の腹の中と評したが、正にその通りだ。
『♪』
【凍竜王】は“氷晶宮”における【キル・キル・バ】の抵抗を楽しみ、観戦している。
嬲っているのは【キル・キル・バ】自身の奮戦もあるが、『もう少し成長してくれた方が屠った際に得るものも多くなる』という【凍竜王】自身の考えもあるだろう。
なお、アットとパレードについてはさほど意識を向けていない。
耳目と言っても情報処理能力には限りがあるため、優先度をつけて見聞きしている。
『おや?』
だが、そんな彼女でも気に留める変化があった。
それは閉じ込めた三者ではなく……この玉座の間。
取り込まれ、安置されていたビフロストが開き、扉の向こうから何者かがやってくる気配があった。
この“氷晶宮”は逃がさない結界ではあるが、逆に拒むことはない。
ゆえに、ビフロストによるこちらへの移動は有効なままであった。
そうして、ビフロストから現れたのは……小さな生き物だった。
人間が抱えられるバスケットボール程度の、アルマジロに似た生き物だ。
『【塊竜王】か』
「左様でございます。おひい様」
アルマジロ……【塊竜王】は玉座の【凍竜王】に向けて、恭しく首を垂れた。
「【塊竜王 ドラグランプ】。真名ヴィジャボリオン。御身の前に参上仕りました」
『呼んではおらぬし、堅苦しい』
黒い氷晶の姿であるが、まるでため息を吐くように【凍竜王】は述べた。
【塊竜王】は【凍竜王】の目付け役であり、執事のような存在だからだ。
『面倒な奴が来た』と言いたげな【凍竜王】の様子は、齢を重ねた竜にはあまり似つかわしくなかった。
「おひい様。人間を利用するとは聞いておりましたが、まさか人界の戦争にまで関わるおつもりですかな?」
『さてな。我は奴の進言を聞き、下手人と思しき白き獣を追ってきただけのことよ。人界の戦争がどうなるかなど、我が賜った勅命の結果に過ぎぬ。母上も許されよう。……しかし』
【凍竜王】は、声音に笑みの気配を混ぜながら続きを述べる。
『その結果、人と地竜の諍いが大きくなり、相対する強者が増えるのは楽しみではある』
「最初からそのおつもりでしょうに」
【塊竜王】はやれやれと言いたげに首を振った。
『止めるか?』
「止められませぬ。私は所詮、古代伝説級で頭打ちになった程度の才。何より、【地竜王】陛下の王統ならぬ一介の【竜王】に過ぎませぬゆえ」
『つまらぬ謙遜を。貴様は母上よりも年嵩の竜であろうが』
【凍竜王】は平身低頭する【塊竜王】に対して、半ば呆れたようにそう言った。
彼女の言葉通り、アルマジロにしか見えない【塊竜王】は地竜の中でも古きものだ。
先々期文明崩壊後の動乱期……仕様変更による飢餓の時代を生き抜き、力を蓄え、<厳冬山脈>でも一角の実力者として名を馳せていた。
しかし、今は違う。
先代【色欲魔王】の最期のスキルで絶大な力を獲得し、その後も成長を続けた【地竜王】。
その実力を理解し、配下として名乗り出たのだ。
なお、そうしなかった<厳冬山脈>の【竜王】は……全て滅びた。
「長く生きただけですとも。おひい様の足元にも及びませぬ」
『ふん。それで、小言のためだけに渡ってきたのではあるまい?』
「左様にございます。おひい様を止められず、戦をなさるのであれば、おひい様の家臣として私も助力するのが当然でございます。そのために参りました」
『……助力、なぁ。お前も獲物に飢えているだけでは?』
「否定はいたしませぬ。<厳冬山脈>、我らにはいささか狭くなりもうした」
【凍竜王】の言葉に、【塊竜王】は口角を曲げる笑みで答えた。
自らの力を高める、あるいはぶつけるための敵の存在。
怪鳥種はいるがそれにも限りはあり、<厳冬山脈>では強者ほどリソースに飢えていた。
【凍竜王】に限った話ではない。
『あの神話級は我の獲物だ。手出しや助力も許さぬ。人間相手でも食い足りんだろう』
【凍竜王】は『だが……』と言葉を区切り、
『お前にも手頃な獲物……容疑者がいる』
「ふむ?」
【凍竜王】は言葉と共に“氷晶宮”の一部を操り、壁の一面をレンズのように変形させた。
レンズに映し出されたのは、街の中で人の手に抱かれて気絶している一匹の白犬だった。
「これは……<UBM>ですか」
『ああ、推定で伝説級。偽装能力を持った、白い、獣の、<UBM>だ』
行方を追う下手人の条件と重なる白い犬……ロボータを見ながら、二体の【竜王】が言葉を交わす。
『明らかに脆弱な見た目だが、油断はするまいな?』
「ええ。<UBM>であれば巨体を矮小な衣で隠すことも、その逆も可能でありましょう」
『お前のようにな』
「おひい様のようにですな」
二体はクツクツと笑いながら意見を交わし……。
『我は神話級の相手に集中する。お前はこれを担当しろ』
「畏まりました」
容疑者であるロボータの生殺与奪をあっさりと決定した。
「さて、あそこにいるのであれば人里を潰すことになりますな」
『ああ。問題はなかろう?』
「勿論です。あの様子、容疑者を匿う人間ならば共犯者。その人間がいる街ならば、諸共潰しても支障はないかと」
『その通りだ』
それは人の法ではなく竜の法。
傲慢極まりないが、絶大な力を持つ生物に許された理屈だった。
『――何より、我ら地竜の王統以外をいくら殺しても問題あるまい?』
「――ハハァ。全くでございますな、おひい様」
――そして【竜王】により、自然都市ニッサの壊滅が決定された。
『往け。そして殺せ』
『承知仕りました』
【塊竜王】は最後にもう一度深く礼をして、その場から去った。
“氷晶宮”の壁に穴を空けて、歩み去ったのだ。
【凍竜王】によるものではなく、【塊竜王】が壁の氷晶に干渉して道を作ったのだ。
『まだまだ物質操作の技術は大したものだな』
自らの基本スキルである《晶永冷瓏》、その基礎を教えた師でもある古き【竜王】の手際に、【凍竜王】は感心しながらそう述べた。
『……ん?』
そうして【塊竜王】を送り出した【凍竜王】だが、“氷晶宮”内部で起きている微細な変化に気づいた。
【塊竜王】が道を作って外に向っているからこそ、他の変化も気に留めた。
それはアットとパレードを閉じ込めたエリアだ。
アットが手持ちのアイテムまでも駆使して壁を破ろうとしている。
透き通った壁の向こうでそれを見ているパレードは泣きながら反対の壁に縋り、「ここで負けたら全部台無しなんですよ殿下ぁぁぁ!?」と【凍竜王】に泣きついている。
……【凍竜王】は今の今までその訴えに気づいていなかったが。
『……帰路の都合もある。助け舟の一つも出してやろうか』
そうして、《晶永冷瓏》でアットの部屋に三体の肉食竜型【パルマフロスト・ゴーレム】を形成する。
壁破壊の準備を進めていたアットの不意を突くようにゴーレムは襲い掛かる。
部屋の壁が血の色に染まった。
『これでよかろう。さて、【キル・キル・バ】とやらもそろそろ……!』
瞬間、【凍竜王】は一つのことを察し、警戒を強める。
正確には、緩めていた警戒を一気に引き戻した。
【キル・キル・バ】ではない。
神話級への対応力を削るほど、【凍竜王】は油断していない。一挙手一投足を把握し、その体力を削り続けていた。
しかし、余剰分の処理能力……外部警戒に向けていた力を、今しがたアットへの対応に回した。
言うなれば僅かに外から目を離した隙に――ソレは飛来したのだ。
ソレは、蒼い影。
空中に軌跡を描きながら、超音速で一直線に“氷晶宮”へと飛来する蒼い流星。
『――《ブラッディ・インパクト》』
飛来した蒼い影の蹴りが、“氷晶宮”の防壁に激突する。
その衝撃は凄まじく、防壁には巨大な亀裂が走った。
“氷晶宮”に亀裂を作る時点で凄まじい攻撃力と言えるが、それでも防壁は砕けず、亀裂も即座に修復されていく。
(人型……<マスター>か? だが、それにしては人間離れした……)
壁に蹴りを叩き込んだ状態で、僅かに動きが止まった乱入者を【凍竜王】が見る。
目に留めれば、それがどれほどの力を持つのかも推し量れる。
『……無粋だが面白い乱入者だ。この地は、随分と豊作だな』
【凍竜王】の目算が正しければその乱入者の実力は――【キル・キル・バ】と同等以上。
つまりは、神話級クラスの強者だった。
『…………』
乱入者の蹴りは“氷晶宮”の防御を砕くに至らなかった。
反動で右足の骨は砕け、傷口からは夥しい出血が起きている。
乱入者は自らの蹴りが壁を砕くに至らないと悟ると、その壁を左足で蹴って真上に跳ぶ。
【凍竜王】は【キル・キル・バ】に回していた処理能力もこの乱入者への対応に回し、対空火器のように無数の氷槍を展開する。
そして空中で身動きの取れない相手に、向けて集中砲火を繰り出した。
瞬く間に乱入者は蜂の巣となる、
『――《装紅》』
――はずだった。
乱入者の体色が紅に染まり、細身だったシルエットが変わる。
そして、変化した体は直後に接触した氷の槍を全て弾き飛ばした。
その身には、傷の一つも負ってはいない。
『《ブラッディ・チェーン》』
第一波を防ぎ切った乱入者は、第二波の到達前に更なる動きを見せる。
右足の傷口から流れ出た血が――鎖となって“氷晶宮”へと延びていた。
ソレに引き寄せられるように乱入者は急加速し、続く集中砲火を潜り抜ける。
そして……。
『――《暴緑》』
――その姿を更に変貌させる。
紅は緑に変色し、体躯はまるで大鬼の如き筋骨隆々のシルエットへと変貌する。
『《ブラッディ・インパクト》』
緑の巨影は頭上で両手を組み合わせ――鉄槌の如く“氷晶宮”へと振り下ろす。
乱入者の一撃が再び“氷晶宮”に触れた瞬間、周囲から音が消えた。
インパクトの衝撃で周囲の空気が吹き飛んだためだ。
そして、一拍の遅れの後、
――“氷晶宮”の五割が微細な氷の粒になって砕け散った。
◇◆
目まぐるしい状況の変化を、二つの<編纂部>の人間は受け止め切れていなかった。
【凍竜王】の頭部切断、両クランのオーナーと【キル・キル・バ】を取り込んだ城、飛来した乱入者、城の破壊。
状況を完全に理解できた者などおらず、あまりの状況にお互いに戦う手すらも止めて、砕けた氷片が月明かりを反射する様に見入っていた。
「《貴白》」
そんな中、静かな声が雪景色の中に流れる。
「……騒々しい夜だとは思わないか?」
この場に居合わせたクランの人間達に……そして“氷晶宮”の内部にいた者達に声がかけられる。
【凍竜王】はコアの周囲に再び“氷晶蛇”の身体を纏い、【キル・キル・バ】は全身を傷だらけにしながらも自らの四肢で氷上に立っている。
パレードは砕けた氷の瓦礫の上に半ば埋まっていたが命に別状はなく……アットの姿は見えない。
「今宵は、私の友人の誕生祝いだった」
彼らに語りかける声の主は、ビフロストの上に立っていた。
月を背負い、紅い霧を纏い、端正な顔を晒している。
白髪と真っ赤な目。口から覗く不自然に長い犬歯。
正に、『吸血鬼』というイメージをそのまま形にしたような男だった。
そんな男の顔を見ながら、パレードだけは「どこかで……」と何かを思い出そうとしている。
「しかし戦争が起きて、更にはこの騒動だ。友人の心はいたく傷つき、私も大変に迷惑している」
本当に迷惑そうな口調であり、さらに言えば怯えていない言葉遣いだった。
【凍竜王】と【キル・キル・バ】という神話級がいるこの場においても、存在感が揺らがない。
「だから、騒動の原因を消しに来た」
それは、『神話級を倒す』と述べたときも変わらず。
神話級最上位を敵に回しても、臆する心は欠片もない。
ゆえに、その場にいた生物達は戦慄する。
――これは危険なモノだ、と。
だが、【凍竜王】の考えは少し違う。
『ふむ。我に対してその態度、不遜だが面白い。我は【凍竜王 ドラグフリーズ】、真名グランヴァイシア・サリオン・フォルトロン。汝は……何者だ?』
男がこの戦いによって呼びこまれた新たな強者であると悟り、楽しみが増えたと喜悦の心で問いかけたのだ。
「……王族に名乗られたのならば返すのが礼儀だな。私は……」
真名までも名乗った【凍竜王】の問いに、男が答えようとしたとき……。
「あ、“性欲”のブラッド・O!?」
それよりも先に、パレードが男の名を叫んでいた。
そのとき、周囲の空気が凍った。
無論、【凍竜王】の仕業ではなかった。
To be continued
(=ↀωↀ=)<はい
(=ↀωↀ=)<オー陛下が“性欲”です
(=ↀωↀ=)<何でそんな二つ名になったのかは次回以降
(=ↀωↀ=)<次の更新日は更新か活動報告かまだ決まっていませんが
〇ブラッド・O
(=ↀωↀ=)<名前はブラッドだったのですが
(=ↀωↀ=)<ジョブ名と被るなど様々な理由があり、今はオーの方を名前のように使ってます
(=ↀωↀ=)<ややこしいからね
(=ↀωↀ=)<友人や家臣には天地や黄河みたいな『名前が後にくる』文化圏の人だと思われてる
〇《ブラッディ・インパクト》
(=ↀωↀ=)<【血戦騎】の奥義
(=ↀωↀ=)<HP削って次撃の攻撃力を上げるスキル
(=ↀωↀ=)<いわゆるデメリットアタッカー




