ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ④
(=ↀωↀ=)<ギリギリで書き終わった!
(=ↀωↀ=)<15巻&漫画版8巻発売日前更新!
(=ↀωↀ=)<という訳で明日の新刊よろしくね!
( ꒪|勅|꒪)<まぁ、作者が本屋行ったら文庫の方はもう並んでたけどナ
(=ↀωↀ=)<文庫換算80ページの大ボリューム短編が読める
(=ↀωↀ=)<Twitterキャンペーンもよろしくね!
〈Infinite Dendrogram〉公式ツイッター
https://twitter.com/Dendro_hj
( ꒪|勅|꒪)(担当Kさん大変そうだな)
□■<自然都市ニッサ>
ニッサは自然都市という名が示すように、周囲を豊かな自然に囲まれている。
無論、ドライフやカルディナ、グランバロアといった国々を除けば地球よりも余程に自然に恵まれた環境ではある。
だが、ニッサはレジェンダリアに近く、それでいてレジェンダリアほど苛烈な自然ではないため、王国における観光・保養地の候補にもなる。北東のカルチェラタン、南西のニッサだ。
それゆえ、都市の外壁に沿って数ヶ所に展望台も設けられている。
「何があったんだば?」
ロボータを連れてきた商人の宿の近くにも展望台はあり、彼はそこに上がって何が起きているかを確かめようとしていた。
同じことを考えているものは他にもおり、展望台には数十人の人々が集まっている。
あるいはここがニッサではなくギデオンであれば、彼らは既に何かを察して避難していたかもしれない。
しかし、民に大きなトラブルもなかったニッサであり、戦争もフィールドでしか発生しないと考えていたからこそ、彼らは悪く言えば危機感が足りていなかった。
「あれは……何だぁ?」
そんな彼らがニッサに最寄りの山……<スリーブ山>に見たものは『白』だった。
山の中腹が、季節外れの雪景色のように白く染まっている。
しかも、その領域は少しずつ広がっていた。
それは、【凍竜王】の戦闘の余波。
《銀施戒》の外でも【凍竜王】の放つ凍気によって空気中・土中の水分が凍結し、徐々に山の風景を凍れる白へと塗り替えていく。
それを目撃したものは何かの天変地異が起きていると察し、また多少勘の良いものは『王国と皇国の戦争の影響か』とも気づいた。
だが、流石に<神話級UBM>同士の激突というレアケース中のレアケースに気づいた人間はこの場にはいない。
『…………ぶるぶるぶるぶる』
商人に抱えられた白いポメラニアン……【群狼王 ロボータ】は気づいてしまったが。
(え? え? これ、どういうことである? なんか、やばそーな臭いがここまで来てるのである? ていうか、メチャクチャ格上の気配がするのであるが!?)
空気を伝って来た二体の気配に……ロボータの中の雀の涙ほどの野性が警鐘を鳴らしていた。
(こここ、これはギデオンで遭遇したドラゴンよりずっと強いのでは?)
ロボータはかつてギデオンを巻き込んだ二体の【竜王】の抗争……ガイリュウオウ事件で【竜王】とニアミスしたことがある。
だが、今感じている気配……【凍竜王】のプレッシャーはそれらと比べても存在の格が違う。遭遇すれば死ぬしかないと、ロボータに確信させる。
『ぷるぷるぷるぷる……』
「おぉ? 震えてどした? 寒いだばか?」
ロボータはおしっこを漏らしそうなほどに怖がり、小刻みに震えだす。
抱えている商人は「確かに今日はなんだか寒いだばなぁ。あの季節外れの雪のせいだべか?」と首を傾げている。
(ま、まぁあそこに何かトンデモナイのがいるのは分かったのである。で、でもこの街に居れば関係ないのである。い、い、いつもの街でもメチャクチャでかいドラゴン虫っぽい機械とか、ドカンドカン大砲撃つ機械が戦っても、街の中は危険じゃ……それより危険じゃなかったのである)
以前に居合わせたギデオンでのフランクリン事件の顛末を思い出し、ロボータは『街の中は安全』と自分に言い聞かせる。
(うん、うん、きっと今回も何事もなく無事に終わるので……)
――ほぅ。街にもいるな。
『――――ひゅい』
ロボータは、自分の息の根が止まったかと錯覚した。
言葉が聞こえた。
それは幻聴である。
しかし、視界の先にある山から伝わるプレッシャーの変化が、ロボータの心に聴かせた言葉でもある。
これまで、戦いの余波でしか伝わってこなかった気配がいつしか、明確にロボータへと向けられていた。
それは人間から視線を向けられたことに、犬猫が気づくのに近い現象だ。
自分よりも巨大な存在が、自分を自分として見定めた気配。
『…………きゅぅ』
極度の恐怖と緊張で、ロボータは気絶した。
◇◆◇
□■<ニッサ辺境伯領>・<スリーブ山>
二体の神話級。
二組のクラン。
それぞれの対決は拮抗しているようで、少しずつ【凍竜王】と<皇国支部>に傾いていた。
【キル・キル・バ】は己の刃で【凍竜王】を刻んでいるが、幾度攻め込んでもその度に形成される腕を絶つに留まり、ダメージらしいダメージを与えられていない。
その間も、《銀施戒》の凍気が継続ダメージを与え、【凍竜王】の駆使する氷塊も着実に【キル・キル・バ】を削っている。
<王国支部>と<皇国支部>の戦いは開始時点ではほぼ互角。
その後は共に<UBM>の介入で大きく削られていたものの、<厳冬山脈>から呼んだモンスターの分だけ僅かに<皇国支部>が優位に立っている。
獣も人も、このままでは王国サイドの敗北で幕を閉じるだろうと思われた。
だが、それでいいわけではない。
(こちらの戦況を打開する手は……一つ)
今は《銀施戒》の中に退避しているパレードを、アット達が倒すことだ。
勝利条件を満たせば、<皇国支部>は<王国支部>の傘下に加わる。
一か八かになるが、超級職である自分と状態異常を防ぐティエンレンウーシュァイの力ならば、あるいは《銀施戒》内部に突入し、パレードを討つこともできるとアットは考えている。
だが、それにブレーキを掛けるのが神話級同士の戦いだ。
パレードの撃破が【凍竜王】を野放しにすることに繋がり、近隣都市の崩壊に至るのではないかという懸念がある。
アットではパレードを倒すことはできても、【凍竜王】討伐は不可能だ。
【キル・キル・バ】が【凍竜王】を倒してくれなければ、せめて優位に立ってくれなければ決断は難しい。
(それも難し、……?)
応戦しながら二体の戦いを見ていたアットは気づく。
いつしか、【凍竜王】の首が【キル・キル・バ】以外を見ていることに。
その視線は……眼下の自然都市ニッサに向けられていた。
『――ほぅ。街にもいるな』
「!」
その呟きと共に、周囲のプレッシャーが和らぐ。
否、その方向が街へと向いたのだ。
アット達には分からない理由で、【凍竜王】の興味が街へと移ったらしい。
『ふむ、やはり白い、な。リソース総量は小さく見えるが……偽装の痕跡がある。次は街へと動こうか……』
もしもこのまま【凍竜王】が街へと移動し、二体の戦いが市街戦になれば……かつてのギデオンや王都の事件を上回る大惨事となるだろう。
アット達にしてみれば最悪のパターンであり、決して許容できない展開だ。
だが、それを許容しなかったのはアット達だけではない。
『――KIIIILLEERRRR!!』
死闘の最中に自分から注意を逸らした【凍竜王】に対し、【キル・キル・バ】が怒りの咆哮をあげる。
全身の金属毛が波打ち、そして……。
『――《KIIILLL・ZOOOOOONE》!』
――《銀施戒》を切り刻んだ。
止まった空気が、迫る氷塊が、凍てつく大地が、【凍竜王】の複腕が寸断される。
それこそは【磨刃超獣 キル・キル・バ】の絶技、《KILL・ZONE》。
全身の金属毛を広範囲に散布し、それらを起点に《致命創》を連鎖起爆させる荒業。
自らの防御力を低下させる行為を代償に発動する、殲滅スキル。
それによって、【凍竜王】もまた防御手段を一時的に喪失した。
『おや?』
街……ロボータに気を取られ、形成していた氷を一瞬にして切り砕かれ、無防備となった【凍竜王】は……。
『――GUUULLUUOOOOAAA!』
――飛び掛かってきた【キル・キル・バ】によってその頭部を切り裂かれた。
咄嗟に身を捻ったがため、負った傷は極僅か。
頬にかすり傷ができた程度。
しかし、【キル・キル・バ】の刃を受けたのならば、それは致命傷。
頬の傷は一瞬で広がり、――【凍竜王】の頭部を両断した。
「なぁ!?」
悲鳴を上げるパレードの眼前に、【凍竜王】の頭部の上半分が落ちてくる。
それはもう、微動だにしなかった。
「と、【凍竜王】殿下!? な、何で死んでるんで……!?」
【今だ……! 突入するぞ!】
パレードと<皇国支部>は混乱し、アットと<王国支部>が動き出す。
アットは【テレパシーカフス】で指示を出し、自らの<エンブリオ>のスキルの効果圏に含まれるパーティメンバーと共に凍れる空間へと突入する。
しかし、まだ【凍竜王】の死は確定ではない。
光の塵にもなっていない。
そもそも、あれだけ氷の腕を好きに生やせるのだ。頭部が再生しても不思議はない。
コアを持つタイプの<UBM>ならば、頭部を砕かれても死なない例はいくらでもある。
現に、【キル・キル・バ】も警戒を解かずに再攻撃の体勢に入っている。
それでも、決着のついていない状況でアットが動き出したのは……もう行動するしかないからだ。
【凍竜王】は明らかに自然都市をターゲットに見定めていた。
仮にパレードとビフロストが健在でも、自然都市は危険に晒されるだろう。
両者の関係を見るに、パレードも【凍竜王】の行動の制御はできない。
(ならば、今だけが好機)
【凍竜王】が生きていたとしても頭部を失った今、短時間でも対応能力は落ちている。
結界内部に突入し、パレードを討ち取り、クラン間の抗争に勝利する好機は今しかない。
そうして人間の戦いを決着させ、<皇国支部>の指揮権と戦力も得た上で、事態の収拾にあたるほかない。
あるいは【キル・キル・バ】も含めて合力すれば、この理不尽な【凍竜王】に勝つ目もあるかもしれない。
自然都市に被害を出さないまま、ただのクラン抗争で終わらせられる目もある。
そこまで考えての、アットの決断だった。
「アッ……」
だが、飛び込んだ仲間の一人が即座に凍結し、砕かれる。
状態異常を無効化するはずのアットの<エンブリオ>が機能していない。
他のパーティメンバーも、《銀施戒》の縁で踏みとどまる。
それでも、先頭に立つアットだけは止まらず……凍らなかった。
魔法系超級職である彼だけは、《銀施戒》の課すステータス条件をクリアしていたからだ。
そして、【氷王】であるがゆえに持ち合わせた凍気への耐性が、この空間での生存と行動を可能としていた。
「ッ……」
アットは凍てつく死の世界を、独り駆ける。
頭を失くした【凍竜王】も、その【凍竜王】に食らいつく【キル・キル・バ】も、今は思考に含めない。
「え? こ、これじゃあ【凍竜王】の死の責任までこっちにおっ被さって……!?」
目指すは【凍竜王】の頭部の前で気が動転しているパレードのみ。
「…………」
無言のまま右手の魔力式銃器にMPを込め、照準を合わせ、撃ち放つ。
パレードが《危険察知》で反応するが、状況ゆえに対応が遅れた彼の眉間には魔力弾丸が直撃する。
「ィッ!?」
だが頭部が弾けることはなく、代わりに【ブローチ】が砕けて落ちる。
「次……!」
アットはすかさず左手の魔力式銃器を構え、トドメの一撃を発砲し……。
『――《晶永冷瓏》、“氷晶宮”』
――魔力弾は突如として空間に広がった透き通る壁に阻まれた。
「!?」
ほんの一秒前と、世界が一変していた。
緑あふれる山景を氷の世界へと変えた【凍竜王】。
だが、今はそこから更なる変貌を遂げている。
それは、部屋だった。
透き通る氷でできた部屋があり、アットはその一室に閉じ込められている。
パレードは透明な壁一枚を挟んだ向こう側……別の部屋にいる。
彼との間にあるガラスのような薄い氷は、アットの魔力弾を徹さなかった。
「へ? は?」
パレードも、何が起きたか分からないと言った表情をしていた。
『『『『ホホホホ、ホホホホホホホ……』』』』
四方を囲う氷の壁の全てから、先刻も聞いた【凍竜王】の笑声が聞こえる。
まるで氷の壁全てが、【凍竜王】の喉であるかのように。
(何が、起きた……!)
懸命に状況を把握しようと、『自分が囚われている』以上の状況を探ろうとアットが考えを巡らせる。
そんな折、仲間から【テレパシーカフス】を通しての念話があった。
【アット! まずいぞ! 城だ!】
「城?」
【いきなり、城ができたんだよ! お前もその中にいる!】
「!?」
仲間の説明に、そしてついさっき聞こえた【凍竜王】のものらしき声に、理解する。
分かってしまう。
理解できてしまう。
これは【凍竜王】の身体だ、と。
先刻まで曲がりなりにもドラゴンの形をしていた氷の身体が、今はこの山中の巨大な城として再構成されているのだ。
言わば、今のアットとパレードは【凍竜王】の腹の中にいるも同然。
(やはり、あの身体は全て……氷魔法で形成していたのか……!)
これが、【凍竜王】の次なる一手。
あの竜としての姿は、まだ様子見だったということだ。
いや、この城の姿でさえ、本当の姿かは分からない。
実力の底が知れない。
(これが、神話級最上位……!)
かつて王国に襲来した最強の魔竜、【グローリア】。
あれと【凍竜王】が戦えば、確実に【グローリア】が勝つだろう。
だが、自らの力を練磨した時間で言えば……【グローリア】は【凍竜王】の十分の一にも満たない。<SUBM>になった時点で回収され、保管されていたからだ。
そうした実戦経験の不足ゆえに【グローリア】は<マスター>達との戦闘で経験を積み、ゼクスとの戦いではスキル圧縮や拡散など成長する余地さえも見せた。
対して、【凍竜王】の技術は既に完成されている。
リソースの不足ゆえにレベル限界の壁こそ超えていなかったが……自らの力の全てを使いこなす術を既に会得している。
力の総量でこそ【グローリア】に劣るが、技術では数段上。
そして、未だ手札の半分も晒してはいない。
それこそが【凍竜王】と、既に切り札まで晒した【キル・キル・バ】との最大の差異である。
『『『『“氷晶蛇”の首を落とされるなど、久しぶりよ。神話級と分かってはいたが、まだ少し甘く見ていたらしい。すまぬなぁ……母と兄以外は格下ばかりの環境で生きてきたゆえの悪癖よ』』』』
響く【凍竜王】の声。
だが、それに破壊音と獣の咆哮が重なっている。
アットはそれが【キル・キル・バ】によるものだと察した。
『『『『ゆえに逃がさず、余さず、倒し切ってやろう』』』』
続いた言葉で確信する。
今この城のどこかで、【キル・キル・バ】が抗っているのだ、と。
そして、【凍竜王】がこちらを気にしている様子も、言葉もない。
(……そうか。これはパレードを護るためではなく、【キル・キル・バ】を捉えるために展開したもの。予めプリセットされた構造の内部に、俺達は巻き込まれて閉じ込められたに過ぎないのか)
恐らく、【凍竜王】はもはやパレードのことを気に留めていない。
安全も何も、眼中にないのだ。
だが、自らの頭を破壊した【キル・キル・バ】は別だ。
【キル・キル・バ】への敵手としての評価を修正した結果、【凍竜王】は戦いに集中するためにこの城を形成した。
「…………」
魔力式銃器で破れない壁。
壁を隔てて閉じ込められたパレード。
徐々に体力を削っていく極低温。
今も取り込んだ人間を蚊帳の外に戦う神話級の怪物達。
その中で、アットは今の自分に何ができるかを考えていた。
今このときが、都市一つ滅びるかどうかの瀬戸際だったからだ。
◇◆◇
□■五分前 <自然都市ニッサ>・ニッサ辺境伯邸
自然都市ニッサとニッサ辺境伯領を治めるキュオン・ニッサ辺境伯の邸宅。
「…………ひゅい」
その食堂で、当の辺境伯は家令から伝えられた神話級襲来の報に気を失っていた。
「おっと」
「キュオン様……!」
倒れるキュオンを傍にいた青年が支えると、家令も心配そうに駆け寄ってくる。
「ショックが強かったんだろう。安静にする必要がある。それと……」
「はい。その間、私が代行として避難指示を発令いたします」
若く未熟なキュオンに代わって実務を取り仕切っているのがこの家令であり、その判断は正しい。
「避難先は街の中ではなく、北のフィールドだ。壁外ゆえ、モンスターの警戒を。だが、戦争中は各国ランカー以外の<マスター>は戦場である都市外に出られない。ティアンの領軍や冒険者に民衆の集団護衛を依頼した方が良い」
青年も自らが気づいた点について家令に伝える。
今回の一件は単なるモンスターの襲来ではなく、戦争という状況が重なった異常事態だ。
「<マスター>を戦力として使う場合は、自然都市の南ブロックを戦場にするしかない。避難が済み次第、バリケードの構築を指示しろ」
だが、指示を下す言葉はまるで……家令に対して正当な指揮権を持つ者から発せられているようだった。
「承知いたしました。オー陛下」
そして、家令もまた忠誠を誓う部下のように敬礼する。
陛下と呼ばれた青年……オーに対して。
「……キュオン様をお願いいたします」
「ああ。分かっている。彼女は私の友人だ」
そうして顔色の悪い……血の気がなく犬歯が長い家令が去り、食堂には再びオーとキュオンのみが残される。
オーはキュオンを横抱きで彼女の部屋まで運びながら、耳に装備した通信魔法のアクセサリーを起動させる。
『ハッ! 陛下! 何用でしょうか!』
答えたのは、彼の領地にいる家臣の一人だった。
「例の処理、まだ有効だな」
『はい! レジェンダリアには気づかれておりませぬ!』
彼は、レジェンダリアのランカークランに属している。
だからこそ、戦域である王国のフィールドマップに入ることができた。
だが、彼は本来それができない。
なぜなら……彼は指名手配されているからだ。
彼が利用したのは、一種の抜け道だ。
レジェンダリアのランカークランの一つを、彼の家臣であるティアンが運営している。
そのクランのメンバーリストの端に、彼の名前が載っている。
彼の領地で受理され、担当職員のティアンも家臣であり、グル。
領地ぐるみの不正だが、その都市が彼の領地であると国にはまだバレていない。
だからこそ、指名手配であるはずの彼もランカークランの一員として、戦争中の他国で活動できる。
彼がやったトリックは一種の不正行為であり、彼に従う大人数のティアンがいなければ実現不可能な手だった。
「私はこれから<神話級UBM>の戦闘に介入する」
『ッ! では、援軍を……』
「戦闘の状況次第で、私がこちらにいるとレジェンダリアが気づく。そうなれば、今回の抜け道も潰されるだろう。場合によっては人を迎えに来てもらう必要がある。準備は進めろ」
『承知いたしました!』
そうして家臣との通信を終えたときには、キュオンの部屋に辿り着いていた。
勝手知ったる様子で彼女の部屋に入り、ベッドの上に彼女を優しく横たえる。
「うぅん……ううぅん……」
「…………」
オーは気を失ったキュオンの顔を見下ろし、先刻の彼女の言葉を思い出した。
『婚約破棄されるし……兄上死んじゃうし……家督争いで叔父上に殺されかけるし……レジェンダリアとの内通を疑われるし……誕生日が開戦日だし……』
彼女が自ら述べた不幸の羅列。
そして今、神話級同士の戦いに所領が巻き込まれようとしている。
それは泣きたくなるほどの不幸の連鎖だった。
言葉に困って苦笑してしまうというもの。
「だけど、幸運なこともある」
だが、オーの苦笑は……微笑に変わる。
『そうですねぇ……。叔父上に殺されそうなときにあなたと会って、守ってもらって、お友達にまでなってくれました……。えへへ……』
『それに、私の誕生日にお祝いに来てくれましたし……。このアクセサリー、ありがとうございますぅ……』
食堂での二人きりの誕生会で、彼女自身が述べた言葉。
「ああ、君の言う通りだ」
オーは眠るキュオンの顏に掛かった髪を、撫でて除ける。
「今、君の傍には……俺がいる」
彼女を労りながら言葉を発する彼の口には鋭い犬歯があり、
――左手の甲には『顔のない人間』を象る紋章があった。
「だから、君の幸運が……君を苛む不幸を晴らしてみせよう」
オーはキュオンに背を向け、南に面した窓へと歩み寄る。
押し開いた窓から見える景色は、常とは違う。
遥か遠方の山の一角が、季節外れの雪――冬の世界に包まれていた。
その中心には、人工物には見えない氷の城が形成されている。
幽かな凍気と他の生物を圧するプレッシャーはここまでも届いている。
山中にて何者か……もう一方の神話級と戦う余波でこれほど影響を及ぼしているのだと、オーは悟っている。
そのプレッシャーが先刻からこの自然都市にも向けられていたことにも。
「……やはり、この都市を見逃す気はないらしいな」
オーは目を細め、山中の氷の中心を睨む。
「しかし、これが神話級か。交戦したことはなかったが……“食欲”は、よくもこんなバケモノを平らげたものだ」
同盟者の武勇伝を思い出しながら、貴族らしい仕立ての上着を脱いで窓辺の椅子に被せる。
次いで、自らの両手の爪……人間のそれより長く鋭い爪をシャツの肩口に突き立てる。
自らの爪で、自らに傷をつける。
「全力戦闘は、【超力士】を倒して以来だ」
両肩から滴る血。
それは次第に、蒸気のように霧へと変わる。
オーは赤色の霧に包まれ、霧の内側で少しずつ……その容姿を変化させていく。
『――《疾蒼》』
言葉と共に、彼を包む霧が赤から蒼へと色を変える。
蒼い血霧の中、オーは眠るキュオンを振り返り……。
『君が怖がるだろうから……目覚める前に終わらせよう』
その言葉と共に、オーの姿は室内から消失した。
後には窓の開け放たれた部屋と彼の上着、そして先刻より少しだけ安らいだような顔で眠るキュオンだけが残された。
To be continued
(=ↀωↀ=)<このエピソードのタイトルは往年の怪獣映画風ですが
(=ↀωↀ=)<そういうのってモゲラとかスーパーXが分かりやすい例だけど
(=ↀωↀ=)<人間側の戦力って表記しませんよね(※メカゴジラ除く)
〇《晶永冷瓏》
【凍竜王 ドラグフリーズ】の基本スキル。
氷を操作し、自由自在に形を成す。
攻撃に使う氷槍だけでなく普段見せている蛇のような姿も含めてこのスキルによるもの。
容姿に関しては下記の四形態を持つ。
通常形態:“氷晶蛇”
制圧形態:“氷晶宮”
殲滅形態:“???”
決戦形態:“???”
(=ↀωↀ=)<【凍竜王】はあと二回変身を残している……
( ꒪|勅|꒪)<……分かったゾ
( ꒪|勅|꒪)<これ本編で更新しなかったのって
( ꒪|勅|꒪)<中ボスで出すには格が高すぎるからだロ
(=ↀωↀ=)<うん。ぶっちゃけ章ボスにしてもかなり強い方だよ
(=ↀωↀ=)<戦力的には<神話級UBM>≒<超級>だから
(=ↀωↀ=)<神話級最上位って要するに<超級>最上位クラスだね




