ロボータの冒険 超獣・竜王・ポメラニアン 地上最悪の決戦編 ③
(=ↀωↀ=)<今週金曜日に漫画版40話が更新予定です
(=ↀωↀ=)<単行本8巻も二月一日に書籍15巻と同時発売ですよ
(=ↀωↀ=)<8巻にも書き下ろしたロボータの冒険があるのでよろしくね!
〇余談
(=ↀωↀ=)<なぜ更新ペースがあいて活動報告も更新しないのか
(=ↀωↀ=)<それは作者がまだ15巻のTwitterキャンペーンを書いてる最中だからです
(=ↀωↀ=)<文庫換算で50ページ超えてもまだ書き終わりませぬ……
(=ↀωↀ=)<……ページ数の壁に阻まれた分をそっちに詰めていくスタイル
(=ↀωↀ=)<なので今月は活動報告なしで
(=ↀωↀ=)<来月に二ヶ月分から抽出したコメント返しを行うことになりそうです
□■<トライ・フラッグス>一日目・日没・<自然都市ニッサ>
(んー。今日も日が暮れるであるなー……)
ニッサの街にいくつもある宿屋。
その中でも中の上に位置する<森の番犬亭>の一階食堂で、ロボータは寝ころんでいた。
適当な毛皮を敷いて設えられた犬用の寝床で、まったりしている。
この店はロボータが潜り込んだ竜車の商人が泊まる宿であり、商人がニッサで商談をしている間は事情を話して預かってもらっている。
「おーい、ワンコ。これも食うか」
『ワンワン♪』
なお、宿屋の客は物珍しいロボータを可愛がり、餌もくれるので腹も満ち足りていた。
今も寝転がりながら、カットされた林檎をシャクシャクと味わっている。
しかし不意に、覚えのある臭いが宿屋の外から漂ってきたので寝床から起き上がる。
そのまま扉まで駆け寄って、尻尾を振る。
「おぉ、待ってただば?」
『ワフン♪』
それはあの竜車の商人であり、彼の手にはおみやげらしきチーズビスケットがあった。
ロボータの視線と口元のよだれに気づき、商人はすぐにそれを与えた。
ロボータは尻尾を振りながらビスケットを齧りだす。
「昼間の様子はどうだっただば?」
商人は食堂の席に着きながら、馴染みの女将に話しかける。
「どこかいいところで飼われてたんだろうね。フンやおしっこのときは外にある従魔用のトイレでしてるしさ」
「ほはぁ、ちゃんと躾けられてるんだばなぁ」
ロボータは野生なので躾けられてはいないが、それでも頭は――モンスターとしては――良い方だ。
ギデオンで愛され犬としてエサにありつくために、そういうマナーも学んだのである。
「お客にも喜ばれてるし、うちの看板犬にしたいくらいだよ」
「オラも愛着がわいてなぁ……。だども、この子が家族もいるからなぁ。戦争が終わったら、返してやらんと……」
「そうだねぇ……。戦争、何事もなく終わればいいんだけど……」
「大丈夫だぁ。街の中は安全って話だば。この子の家族もきっと無事で、この子を待っとるはずだ。そうでないと、この子がかわいそうだぁ……」
商人と宿屋の女将は神妙な顔で、顔も知らぬロボータの飼い主の身を案じていた。
なお、当のロボータはチーズビスケットに夢中で話を聞いていなかった。
食べ終わると、追加をねだるように商人に尻尾を振る。
これが<UBM>である。
「おお、よしよし」
『わふわふ』
商人は追加のビスケットはくれなかったが、ロボータを抱きかかえて撫で始めてる。
それも悪い気分ではないのでロボータはされるがままだった。
これは完全に飼い犬である。
「そういえば、あそこの山でも<マスター>同士が戦ってるって話だよ」
「あっこに見える山だば?」
「そうさ。まぁ、流石にここまでは飛び火してこないと思うけど……なんだか胸騒ぎがしてねぇ……」
宿の女将は客から伝わってきた話で不安そうにしていた。
食堂内の他の客もそれを知っているのか、どこか雰囲気は暗い。
そんな折、宿の外……街の路地を何人もの人間が急いで駆けていく気配があった。
「何か騒がしいだば?」
「外で領兵の人達が走ってるみたいだけど……」
商人は外の様子が気に掛かり、ロボータを抱えたまま宿の外に出る。
(……んー、何かあったのであるかなー。まぁ、吾輩には関係ないのであるー)
ロボータはマイペースだった。近隣の山で激突する神話級の気配に気づくこともなく、飽食と惰眠を貪るのだった。
そうしていられる時間が、終わるまで。
◇◆◇
□■<ニッサ辺境伯領>
神話級がなぜ神話級と呼ばれるか。
それは文字通り、『神話に語られてもおかしくない』ほどの力を持つからだ。
地球の存在で例を挙げれば、ギリシャ神話のヒュドラやメドゥーサなどが当たるだろう。
地球人から見た、ヒュドラやメドゥーサと同レベルということ。
神話級は――ジョブシステムが存在する<Infinite Dendrogram>の人間基準だ。
ジョブの恩恵を受けた超人達から見ても、なお神話。
その意味を、目撃した<編纂部>の面々は理解することになる。
『KIIIIILLLLL!!』
先刻の対人戦とは異なる咆哮と共に、【キル・キル・バ】が地を駆ける。
鎧袖一触で進路上の生物をバラバラにしながら、氷の竜王へと疾走する。
人間の限界である五〇〇レベルカンストまで上げた肉体の強度も意味はない。
『触れれば斬殺』という単純な法則が、獣の形で動いている。
『ホホホホホ』
笑声と共に、【凍竜王】を中心とした凍結空間が拡大する。
血が凍る、炎が凍る、命が凍る。凍って止まる。
光や音でさえも、【凍竜王】が「そうあれかし」と望めば止まるだろう。
静止という現象が、他の物理法則を圧殺していた。
これが古代伝説級の上、神話級の領域。
生物の形をした超常法則の具現。
この二体はそれが分かりやすく発露した存在と言えるだろう。
『理不尽』という言葉を体現した生物なのだ。
だからこそ、この場にいる人間は自分達が『蚊帳の外』だと悟る。
アレに対抗するには、人間もまた『理不尽』が……<超級エンブリオ>が必要だ。
そうでなければ、奇跡的な相性差に恵まれる以外に勝つ目はない。
今は、その『理不尽』同士が激突する。
疾走する【キル・キル・バ】の、【凍竜王】の凍結空間への突入。
【凍竜王】と保護されたパレード以外の全てを凍結させた空間に侵入した【キル・キル・バ】は……。
――凍ることなく、駆け続けた。
「えぇ!?」
パレードの驚愕の声は、アットの心中の言葉と一致しただろう。
『LuuuAAAA!!』
【キル・キル・バ】も全身を霜に覆われ、超低温によるダメージは受けている。
だが、他の生物や現象のように静止してはいなかった。
『――資格ありだな。そうでなければ、喰らう意味もない』
【凍竜王】はその結果に驚くことなく、むしろ喜ばしいような声音だ。
全身を極低温に晒しながらも駆ける【キル・キル・バ】、その進路上にはパレードの姿がある。
「ひぃいいい!?」
接触すればバラバラになる。
それを理解しているパレードが悲鳴を上げて……。
『よせよせ。こやつを殺されると、帰るのが面倒になるらしいのでな』
【凍竜王】が彼を護るように、壁役を創造した。
それは氷で出来た四足のドラゴンの彫刻だった。
「……【パルマフロスト】!?」
アットには、それが自分の用いる【パルマフロスト・ゴーレム】と同質のものであると理解できた。
より詳しく言えば、【氷王】である彼の創るものよりも格段に性能が高い代物だ。
それらはパレードと【キル・キル・バ】の間に三体出現し、【キル・キル・バ】と激突する。
「うわ、うわわわわ!?」
《致命創》によって数秒のラグで細断されるが、稼いだ数秒の間にパレードは【キル・キル・バ】の進路上から逸れている。
そして、【キル・キル・バ】の方は最初からパレードを見ておらず、【凍竜王】へと突撃を再開する。
『ホホホホ』
【凍竜王】は身振り一つで無数の氷槍を発生させ、【キル・キル・バ】へと叩きつける。
【キル・キル・バ】はそれを回避し、あるいは牙で砕きながら、【凍竜王】へと躍りかかった。
【キル・キル・バ】の牙が【凍竜王】に接触する寸前、【凍竜王】の氷の身体に――腕が生える。
それは、氷のドラゴン彫刻と同種だったが……攻撃力に偏って調整されていた。
巨大な右腕は【キル・キル・バ】を殴りつけ、結界の端にまで弾き飛ばす。
強烈な一撃を受けても、【キル・キル・バ】は空中で受け身を取り、四足で氷の大地を踏みしめる。
数秒のラグで【凍竜王】の氷腕は砕けるが、今度は同じ腕を左右二対形成し、【キル・キル・バ】を迎え撃つ構えを見せている。
【キル・キル・バ】と【凍竜王】。
両者の激突は、戦いだった。
超常の生物同士の、対等な戦いの形になっている。
それはいっそ、美しいとさえ言える死闘だった。
「「…………」」
その光景に、人は魅入られる。
元より、この場にいる者はいずれも<編纂部>のメンバー。
<Infinite Dendrogram>の中で探求を旨とする者達。
ゆえに、<神話級UBM>同士の激突という未知の光景に、心惹かれるのだ。
中にはカメラを回し……それに夢中になって流れ氷槍で死ぬ者もいた。
(……なぜ、【キル・キル・バ】は凍らなかった?)
オーナーであるアットもまた、両者の戦いに目を奪われ……そして考察してしまう。
だが、無理からぬことだ。
人もモンスターも、魔法さえも一瞬で凍らせ、静止させてしまう【凍竜王】。
その法則からなぜ【キル・キル・バ】が逃れられたのか、その理由を知ることは……あるいはこの状況を打破する切っ掛けになるかもしれないのだから。
(純粋に凍気に耐えただけか? だが、炎さえも凍るあの空間であそこまで自在に動けるのは道理が……)
加えて、王国でも南方にある山に住まう【キル・キル・バ】は、<厳冬山脈>に生息するモンスターと比べて冷気耐性は低いはずだ。
それらが一瞬で凍結して砕けているのに、【キル・キル・バ】が表面を霜に覆われただけで済んでいるのは奇妙だった。
ステータスの差で圧するとしても、凍りついた<編纂部>の壁役とそこまで防御力の差はなかったように思える……。
凍気による被害の差があまりにも大きい。
まるで、一定の領域で……選別しているかのように。
「…………選別?」
そのように考えを進め……アットは類似例を思い出した。
かつての苦い記憶。屈指の大敗北の一つ。
挑み、瞬殺された悪夢の如きとある<UBM>の特性。
それは……。
「そうか、【凍竜王】は……【グローリア】と同じタイプか!」
かつて王国を襲撃した最強の<SUBM>、【三極竜 グローリア】だった。
多様な能力を持っていた大魔竜だが、最も恐れられたスキルは《絶死結界》というものだ。
《絶死結界》は、内部に入った五〇〇レベル未満の人間、一〇〇レベル未満のモンスターを即死させる。
その上で、結界外からの攻撃の一切を無効化してしまう。
【凍竜王】が展開している結界もそれに近いものなのだと……かつて【グローリア】と戦った者の一人でもあるアットは理解した。
(区別は、レベルではない……。人間はレベルカンストでも死んでいるが、あの【キル・キル・バ】は一〇〇レベルに到達していない。恐らく……合計ステータスか)
ステータスの合計値が一定以下である場合、問答無用で【凍結】させる。
そのようなスキルなのだろうと、アットは察した。
◇◆
アットの推測は正しい。
【凍竜王】の凍結空間は人間ならばステータスの合計値が二〇万以下、モンスターならば二〇〇万以下の相手を……即時凍結、粉砕、即死させる。
ステータスが条件をクリアしていても、極低温下での戦闘を強制して消耗を強いる。
また、与ダメージ量が一〇万以下の遠距離攻撃も凍結し、無効化される。
無論……戦闘で消耗した場合でも数値を下回れば凍る。
それこそが【凍竜王】の固有スキルの一つ、《銀施戒》。
【グローリア】と同様、戦うに値する者のみが生存できる絶死圏である。
◇◆
(推測通りだとすれば……私は、どうだ?)
アットは『一定のステータス以下の対象を即死させる』と読んだ結界を睨み、自分のステータスがその条件をクリアしているかを思案する。
それは、今のアットには分からない。
なぜなら凍っている者達と凍らない【キル・キル・バ】の格差が大きすぎて、分水嶺となる数値が彼の目では分からないも同然だからだ。
だが、必要とあらば踏み込んで賭けに出る必要がある。
超級職である自分が結界に侵入し……結界に守られているパレードを仕留めるために。
理不尽な神話級同士の戦いは、理不尽ならぬ人間達に介入できるものではない。
だからこそ、人間は自分達がすべきことをする。
『相手のクランオーナーを倒す』という、この戦いの本来の勝利条件を果たすために。
(だが……、その決断自体も賭けか)
パレードの撃破、それが<王国支部>の勝利条件だ。
しかしそれが達成されたときの神話級達の状況次第で、話がまるで変わってしまう。
【キル・キル・バ】が勝つならばいい。それは<王国支部>の予定通りだ。
だが、【凍竜王】が勝った場合は、最悪だ。
パレードが死んだ場合、本来は<厳冬山脈>にいるはずの神話級最上位の怪物がこの地に残されることになる。
生態を観察し続けた【キル・キル・バ】と違い、被害をコントロールできる保証などない。
否、ほぼ確実に……重大な被害が出ると考えるべきだ。
(どちらにせよ、日が変わるまではこちらに残るとはいえ……)
ビフロストは一日に一方向しか移動できない。
ゆえに、【凍竜王】が<厳冬山脈>にまで移動するには、パレードが生存した上で日付が変わるのを待たねばならない。
先ほどから【凍竜王】がパレードを保護しているのもそのためだ。
(こんな形で、こちらの行動にブレーキを掛けてくるとはな……!)
【凍竜王】とある程度のコミュニケーションが取れているパレードを残し、敗北か。
【キル・キル・バ】の勝利に賭けて、パレードを倒すか。
パレードを倒した上で、居残った【凍竜王】が王国で惨事を巻き起こすか。
最悪のギャンブルになりかねず、そんなものを強要してくるパレードに苛立った。
(流石は【凍竜王】! これなら、あの神話級にだって勝てる! <王国支部>との勝負もこちらの勝利だ!)
無論、パレードの方は自分が生存した上での【凍竜王】勝利を確信していた……。
そしてアットと違い、パレードの選択は決まっている。
「総員攻撃ですよぉ! 【凍竜王】殿下があの虎を倒してくれている間に! アットさんを倒して勝利を掴むんですよぉ!!」
<皇国支部>に指示を出し、アットの撃破に動き出した。
ビフロストが《銀施戒》の圏内にあるために追加のモンスターを呼びよせることはできないが、残っている<マスター>の数は<皇国支部>が多い。
神話級の激突に意識を向けていた者達も、それで自身のすべきことを理解する。
「くっ! 応戦!」
アットもまた<王国支部>に指示を出し、迫る<皇国支部>との戦闘に突入する。
そうして、結界内で戦う神話級達と、結界外で戦う人間達。
二つの戦場が並行で存在することになった。
人間達は、自分達の戦いは神話級達の決着がつくまでのものだと理解していた。
泡沫のように儚い戦場だと半ば予感しながら、それでも勝利の可能性を高めるために戦わずにはいられなかった。
◇◆◇
□■<自然都市ニッサ>・ニッサ辺境伯邸
「うぅ……つらいよぉ……」
その晩、現在のニッサ辺境伯であるキュオン・ニッサは、辺境伯邸の食堂で泣き言を漏らしながらワインを飲んでいた。
先祖に犬人種の血が入っている彼女の耳と尾だが、今はしょんぼりと垂れている。
「何でまた戦争なんかにぃ~……」
キュオンは当年二〇才の女辺境伯であり、双子の兄が先の戦争で亡くなったがために若くして辺境伯家を継ぐことになった気の毒な身の上である。
より気の毒なことは……<トライ・フラッグス>の開戦日が彼女の誕生日だったことだろう。
まぁ、流石に両国の上層部も王国貴族の誕生日に配慮して開戦日を変えたりはしない。
彼女は邸宅に引き籠り、怯えながら今日一日を過ごしたのだ。
その間、領内は信用できる家臣達に任せている。
元々若い上に領を継ぐ予定もなく、帝王学も学んでいなかった彼女だ。領地運営の能力は然程なかったので、普段から家臣任せにはなっているのだが。
彼女自身、爵位を継ぎたくはなかったのである。兄が死んでいなければ嫁入りしていただろう。
……いや、それも難しかったかもしれない。
「うぅ……ここ数年、不幸が止まらないよぉ……。婚約破棄されるし……兄上死んじゃうし……家督争いで叔父上に殺されかけるし……レジェンダリアとの内通を疑われるし……誕生日が開戦日だし……」
不幸、あるいは不憫。彼女の特徴はその単語で説明できてしまう。
そんな訳で二十歳の誕生日に飲む人生で初めての酒が、自棄酒になりかけている。
この日のために北方からワインを取り寄せたが、味が分かっているかも定かではない。
「……なぐさめてくださいよぉ……」
「掛ける言葉が気休めしか見つかりません」
キュオンがついているのは貴族の会食用の長大なテーブルではなく、より親しい相手と二人で食事をするのに丁度いい丸テーブルだ。
その用途が示すように、彼女の対面には一人の青年が座っている。
犬人族の血で肌色が濃いキュオンとは対照的に、色白で血の気の薄い男だった。
髪までも生気が抜け落ちたように白い。
しかし逆に両の目は色素が薄いために血が映えるのか、紅く見える。
男は仕立てのいい貴族服を着ており、所作からもそのような立場の人間であると察せられる。
今、この食堂には二人以外に誰もいない。
「気休めでいいですからぁ……」
「不幸よりも、楽しいことに目を向けましょう。このワイン、美味しいですよ」
「くぴくぴ……」
本当に気休めのような言葉だったが、キュオンは泣きながら酒を飲んだ。
「……これ、ルニングスのワインなんです……。我が家は代々、子供の二十歳の誕生日に生まれた年のワインを贈る習慣があって……」
「…………」
「父上は、私と兄上が生まれたとき、ワインを予約しておいてくれて……。ルニングスは滅んじゃったけど、ワイン蔵のある村は【グローリア】の進路から逸れてたから大丈夫で……」
「…………」
「……領主だった兄上と、二十歳の誕生日になったら飲もうねって。……兄上、前の戦争で死んじゃいましたけど……。ワインはここに二本あって……ぐす……」
「…………」
重い。
重すぎて、青年は掛ける言葉が見つからない。
ルニングスも父も兄も既にないのだ。悲惨すぎる。
それでも青年は言葉を捜して、キュオンを慰めようとする。
「……兄君の代わりになるかはわかりませんが、私でよければ付き合いますよ」
「えへへ……やさしい……」
青年が差し出したハンカチで涙を拭いながら、キュオンは泣き笑っている。
「ワイン以外にも良いことはあったでしょう?」
「そうですねぇ……。叔父上に殺されそうなときにあなたと会って、守ってもらって、お友達にまでなってくれました……。えへへ……」
「……ああ、それ、『良いこと』にカウントされるんですね。貴女の立場では微妙な話かと思いますが……。というか、レジェンダリアとの内通疑惑は私のせいではありませんか?」
酔いながら、にへらと笑うキュオンとは対照的に、青年は少し難しい顔をしていた。
彼は目の前で酔い潰れている友人の、体調と現状を心配している。
だが、キュオンの方はそんな視線に気づかず、嬉しそうな表情を見せる。
「それに、私の誕生日にお祝いに来てくれましたし……。このアクセサリー、ありがとうございますぅ……」
そう言うキュオンの右手首には、青年から贈られたブレスレットがあった。
青年が生産職に依頼して作ったものであり幾つかの装備スキルと……ブレスレットに嵌った血のように紅い宝石が目を惹く。
「喜んでいただけたなら幸いです」
「時期が時期だから、お祝いに来てくれるお友達もあなただけで…………あれ? そういえば、どうやってニッサまで……? 今は戦争中だからピリピリしてるし、戦争結界も……?」
「ちょっとした抜け道を使いましたので」
「あー、なるほど。抜け道ですかー……」
キュオンは酔っぱらった頭で疑問を口にするが、酔っぱらっているので青年の回答にも深く考えることなく納得した。
「でも、遠路はるばるありがとうございます……」
「お気になさらず。ニッサに来た理由は他にもありますから。一種の休暇ですよ」
「休暇?」
青年の言葉に、キュオンが首をこてんと傾げた。
「実は、妙な闖入者のせいでレジェンダリアも聊か騒がしくなってきまして」
「ちんにゅーしゃ?」
「彼らのせいで表も裏も勢力図が変わり続けている。仲間内でも対応がバラバラです。一番の穏健派だった者が被害を受け、今は他の仲間が支配する邪妖精の禁足地を行軍中です。今頃、防衛戦の最中かもしれません」
「だ、大丈夫なんですか? その、あなたの領地は……」
「恐らくは大丈夫です。彼らは大回りで南東に移動しているらしい。北西にある私の領地は彼らの進行ルートから外れている。今は静観だ」
そこまで言って、青年は溜息を吐く。
「逆に、私がいることで厄介事を招くかもしれない。という訳で領地を離れ、キュオンの誕生祝いも兼ねてニッサまで休暇に来たわけです」
「……休暇で戦時中の国に来ます?」
「ハハハ」
キュオンは青年をジト目で見て、見られた青年は何がおかしいのか笑っている。
「我々は普段から戦争をしているようなものですから。<超級>と対面するのでもなければ、休暇ですよ。闖入者……【犯罪王】一党を相手取るより余程良い」
「はぇー……」
「…………」
青年の口ぶりに、キュオンは『なんだかすごいこと言ってそうだけどよく分からないなぁ。大丈夫かなぁ』と酔った頭で心配している。
彼は彼で、『……初めての飲酒でここまで酔うのは危ないのでは? リアルと違って薬もあるけど、ここら辺で止めておくべきか?』と彼女を心配していた。
そんな折、食堂の扉が勢いよく開かれた。
「ひゃあ!?」
驚いたキュオンが、椅子から慌てて立ち上がる。
「キュオン様! 大変です!」
「ひゃ、ひゃい!? 何ですか!?」
扉を開いて入ってきたのは辺境伯家の家令を務める初老の男性だ。
顔色は悪いが真面目で沈着冷静、父や兄が信頼し、キュオンも普段から頼っている人物だったが……今は彼女の兄が死んだときと同じくらいに慌てている様子だった。
「領軍の観測手が、戦闘発生を確認しました。南方の<スリーブ山>で、王国と皇国の戦闘が起き……」
「あ、ああ、戦争ですもんね。で、でも、街は戦域外のはずで……皇国もこっちには……」
ニッサ辺境伯領での戦闘発生の報にキュオンの心臓が跳ね、冷や汗が流れた。
キュオンは事前に聞いていた戦争のルールを思い出し、何とか落ち着こうとする。
だが……。
「……その最中、二体の<神話級UBM>が出現。現在、山中で交戦中です……。二体の争いがこの街にまで拡大する可能性が……」
「…………ひゅい」
齎された絶望的な情報に、酔いも緊張も何もかもフッ飛ばして……キュオンは気絶した。
青年は倒れる彼女が頭をぶつけないように支えながら、『……本当に、彼女はどういう星の下に生まれたのだろう』と、心から気の毒に思った。
To be continued
○【キル・キル・バ】VS【凍竜王】
(=ↀωↀ=)<見ていた<編纂部>達の気分は
(=ↀωↀ=)<MHWで初めて『縄張り争い』見たハンターに近かったです
(=ↀωↀ=)<「一区切りつくまで観戦したい……」みたいな
(=ↀωↀ=)<ちなみに《銀施戒》は素のステータスではなく装備やスキルでの補正後で計算
〇不幸……もといキュオン
(=ↀωↀ=)<今回はプライベートと飲酒でポヤポヤしていましたが
(=ↀωↀ=)<公式の場ではもっとちゃんとレディしています
〇青年
(=ↀωↀ=)<レジェンダリアの人だけど
(=ↀωↀ=)<HENTAI紳士じゃない方の紳士
(=ↀωↀ=)<はたして彼の正体は……




