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“神殺し” ②

(=○ω○=)←白目作業中


(=○ω○=)<12巻とクロレコ9話とSSの仕事とあれやこれやがラッシュなので


(=○ω○=)<今回は前回より短めです



○追記(2023/08/26)

(=ↀωↀ=)<書籍に合わせてスキル名を変更しました


《見敵必殺》→《奇醜殺し(アンチ・ステルス)

 ■小国家メイヘム・首都メイヘム 三時間前


 メイヘムは小さな国だ。

 アルター王国の基準で言えば中規模の都市が一つと周辺にある片手で数えられる程度の農村が国土の全て。

 王国の一部に過ぎないギデオン領よりも小さいだろう。

 それでも、温暖な気候に恵まれたことで昔からティアンが多く住み、暮らしていた。

 周辺を大国に囲まれ、強力なモンスターの生息域に阻まれていることで国土の拡大は出来なかったが、それでも三強時代が終わってからの数百年、平和に時を重ねてきた。

 日々を堅実に、懸命に生き、外界の騒動とは無縁にそれがいつまでも続く。

 メイヘムは王から民に至るまで、誰もがそう考えていた。


 だから誰も――こんな終わり(・・・・・・)を迎えるとは思わなかった。


「……コホッ」


 その日、新聞社に勤める男性は、夜半に自宅で起床したときから喉に違和感を覚えていた。

 念のために病気への耐性を上げる薬を飲んでから出社したが、そのときになっても薬が効果を発揮した気配はなく、むしろ悪化していく。

 見れば、出社している人間も本来の半数を下回っており、出社した人間は例外なく彼と同じように体調の不良を訴えていた。


「これは……、まさか<流行病>、か?」


 最初に考えたのは、<流行病>。前触れもなく沸き起こる病の蔓延であり、ステータスや耐性に関係なく人々を苛むモノ。

 症状は時々で千差万別だが、この病は比較的重い部類のようだと考えた。


「コホッ。<流行病>の発生、一面記事の差し替え間に合うか?」


 朝刊のために【書記】が印刷作業を進めているが、<流行病>の恐れは記事にした方が良いのではないかと考えた。


(紙面に追加で挟む形で……)


 そのように告知手段を考えていると、窓の外から日が昇った。


「……しまった。間に合わなかったか」


 新聞社所属の【従魔師】でもある彼は、夜明け前に新聞配達のモンスターを飛ばすはずだったが……病による出社人数の減少で印刷作業が間に合わなかったのだ。

 これでは朝刊の遅れは免れない。お詫びの文言も入れる必要があるだろう。


 そう考えていた彼の喉の奥から、溢れるように血が零れた。


「…………ぇ?」


 デスクの新聞を真っ赤に染めていく自分の血を、彼は茫然と見下ろしていた。

 彼だけではない。新聞社にいた全員が血を吐いている。

 いや、新聞社だけではない。

 窓の外から見える少ない通行人さえも、例外なく血を吐いて倒れていた。


「これ、は……致死性の……!?」


 それまでは喉の違和感と少しの咳程度だった症状が、日が昇った途端に明確に悪化している。

 自分が考えていたよりも遥かに危険な病であると、彼は遅まきながらに悟った。


(せ、せめて……周辺の村落には、この、危機を……!)


 彼は、『首都に致死性の病が蔓延、危険』と殴り書いた紙を新聞配達の鞄に詰める。

 そして【ジュエル】から自らのテイムモンスターを呼び出し、鞄を持たせて村落へと飛び立たせた。

 せめて周辺の村落の人間が首都に近づくことは避けなければ、と。

 報道する者の使命感で、彼は最後の力を振り絞ってダイイングメッセージを村落へと飛ばした。


 それが誰に届くのか。

 そもそも……間に合う(・・・・)のかも分からぬまま。


 ◇◇◇


 □メイヘム・村落


 眼前で息絶えた鳥と、鞄の中の一文。

 病の蔓延という言葉と、この夥しい量の血が意味するものを察して刀理は青ざめる。


(まずい! コレから感染する……!)


 この血液そのものが病原菌のキャリアになりうる可能性を考えた刀理は、咄嗟に火属性魔法を起動。

 火球によって病原である鞄を焼却する。

 その動作は素早く、文字を目に入れた瞬間には鞄の周囲を焼き払って消毒していた。


「これで……」


 感染拡大を防げたのか、それを確かめるために刀理は別のスキルを発動する。

 かつて人助けに役立つと取得した【病術師】のジョブスキル、《検疫眼》。

 人体に害をなす病原菌を、赤色の濃淡で察知するというアクティブスキル。

 それによって、焼き払った鞄の周囲は完全に焼却消毒されていることを確認した。


「――――ッ!」

 ――しかし、それ以外の景色(・・・・・・・)が赤に染まっていた。


「……これ、は!」


 地平線の果てから血で世界を染め上げるように病の群れが地を這っていく。

 爆発的な増殖を繰り返し、メイヘムという国そのものを呑み込んでいく。

 既に彼の足元は赤く、振り向けば病の波は村の丘を九割方登り、今も進んでいた。

 そこで理解する。

 鞄を運んでいたモンスターは、鞄の中の微量の病原菌に感染したのではないかもしれない、と。

 地上に近づいた時点で、首都から地を這ってきた大量の細菌に捕捉されたのだ。

 そして、それが意味することは――。


「げほっ、ごほっ……」

「っ! 村長!」


 刀理の背後で、村長が血を吐きながら倒れ伏した。

 口から血を滝のように流し、焦点の合わない目で、空を掻く手で、救いを求めるように何かを、誰かを捜す。

 助けてくれる者を……刀理を捜している。

 刀理はすぐに彼を助けるべく駆け寄る。即座に【快癒万能霊薬】を彼に振りかけ、二本目を彼の喉へと流し込む。回復魔法もその体に施していく。


「……!!」


 しかし、間に合わない。

 【快癒万能霊薬】さえも効果を発揮せず、回復魔法での回復よりも激しく傷つき、血を吐いている。

 彼が持ちうる回復手段を費やしても、僅かなブレーキにもならない。

 そうして、ほんの十数秒で……村長は息絶えた。

 だが、彼の死はそこで終わらない。

 息絶えてすぐに分解されるモンスターと違い、ティアンは遺体が遺る。

 遺る……はずだった。

 しかし村長の遺体はまるで無数の小動物に食い千切られるように、分解されていく。

 瞬く間に彼の遺体の肉が消え失せて……血と骨と髪だけが遺った。


「こんな……こんな……!」


 刀理が目の前の光景に呻いたとき、村長の家の中からも同じ音が聞こえる。

 家族も又、村長と同様にこの病で息絶えたのだろう。

 村長の家だけではない。

 《検疫眼》で赤く染まって視える村のそこかしこから、苦悶の声が響く。

 これら音源の全てが、眼前の死と同じ光景であるならば……それは地獄というほかない世界だった。


「……ッ」


 刀理自身も病に感染したのか、口の端から血を流す。

 刀理は軽傷だが、それは《病毒耐性》のスキルと一〇〇〇レベルオーバーの膨大なHPがあるからだ。

 でなければ、彼らと同様にこの病によって息絶えていただろう。


「……違う」

 否、これは――ただの病ではない。


 これは、何者かによる攻撃だ。

 かつて天地で……修羅の国と呼ばれた地で、十数年を生きた刀理だから分かる。


「……リソースが、動いている(・・・・・)


 人が人を殺したときには、モンスターのときよりも多くのリソース(経験値)が動く。

 刀理に限らず、天地の中でも超一流の武芸者ならば……その動きを察知できる。

 そして今、刀理は感じた。

 目の前で死んだ村長から、リソースがどこか遠方へと……彼を殺した者の下へと流れていく感覚を。


「《瞬間装着》」


 刀理の宣言と共に、彼の頭部に一つの装備が――兜が装着される。

 兜の銘は、【試製滅丸星兜】。

 かつて、天地と大陸の狭間の海にて遭遇した鎧武者と戦い、打ち倒した際に刀理が獲得した武具。

 『己の敵を見る』という不可思議な(スキル)、《奇醜殺し(アンチ・ステルス)》を宿した兜。

 刀理はその力を発動し、己の敵の姿を確りと捉えていた。



 ――メイヘムの首都で愉快そうに嗤う一人の少年の姿を。



 “敵”の姿が視えたならば――これは人為的な殺戮だった。


「……敵手、確認」


 彼は視た。己を温かく迎えてくれた人々を殺した者の姿を。

 仇を討たねばならないと、刀理は思う。

 それは彼が未だ囚われている天地の理。

 彼はかつて、その理の中で生きていた。

 強者……【勇者】であるという理由で己の命を狙った者を返り討ちにした。

 その者の親族が仇討ちとして彼を狙った。

 それらを返り討てば、その仲間が彼を狙った。

 どこまでもどこまでも、火の粉を払うだけで彼の人生は血に染まっていった。

 血に染まった道しかない未来に嫌気がさして、天地を飛び出しもした。

 けれど今、刀理は「結局は自分も天地の人間なのだ」と悟っていた。


 ――彼らを殺した者を生かしておかぬと、魂が吼えている。


 心優しき【勇者】は、修羅の形相で彼方の首都を……仕留めるべき悪を視る。

 そして両足に力を籠め、超音速の脚力で首都へと駆けだそうとしたとき……。


「!」


 彼の足を止めるものがあった。

 それは、瞼の裏に浮かんだマールの……この村で彼と心を通わせた一人の少年の姿。

 彼の家はあの丘の向こうにあったはずだと、刀理の記憶が告げている。


「……間に合ってくれ!!」


 彼は踵を返し、丘の向こうへと走り出す。

 村長は、丘のこちら側の人々は間に合わなかった。

 だが、もしかしたらまだ助けられる人々がいるのかもしれないと……祈るように足を動かしている。

 音よりも速く動いて、瞬く間に丘を越える。


 だが、赤い波も既に丘を越えていた。


 そして、丘の麓にある牧場と併設された民家を……マールの家を呑み込んでいた。

 民家の中からは、幾つもの液体音と苦悶の声が聞こえた。


「…………ッ」


 言葉もない絶望に、刀理の足が揺れる。

 だが、膝を着く前に気づいた。

 音が少ない。

 牧場にまでも病が蔓延したというのに、多数の牧畜の鳴き声が聞こえない。

 もしかしたらという希望と共に、更に遠方へと目を凝らす。


 そして、赤い波よりもさらに先に、多数の牧畜を放牧しているマールの姿を見た.


「!」


 まだ間に合う。

 そう考えた瞬間に、彼は渾身の力を込めて……赤い波の先へと跳んだ。

 数多のスキルとステータスを連動させた【勇者】の踏み込み。

 天地においては、若き【抜刀神】を除けば最速だった縮地法。

 それを以て、彼はついに赤い波を追い越した。

 赤い波とマールの中間に、刀理は降り立つ。


「え!?」


 マールは突如として出現した刀理に、完全装備の臨戦態勢の彼に驚いた。

 だが、そんなマールに構わず、刀理は空を見上げる。


「……よし」


 刀理は一つのことを確認し、右手の【ジュエル】を掲げる。

 そして、【ジュエル】の中にいる者に語りかける。


「友よ。君を解放する。私と君の旅はここで終わりだ」

『…………そうか』


 【ジュエル】の内部にいる者は、何かを強く悔やむような声で刀理に返答した。


「最期に頼みたい……」

『皆まで言うな。理解している。……王国で良いな』

「ああ。――《解放》」


 遣り取りの後、刀理は空中へと【ジュエル】の中にいたモンスターを解放した。


 それは、一頭の雷竜だった。

 【ハイエンド・ライトニング・ドラゴン】という種の竜であり、旅する刀理が出会った友。

 彼と共に旅をする過程で、あえてテイムされた変わり者の竜。


「え? え……?」


 刀理の突然の出現と、雷竜の解放。

 マールは何が起きているのか理解できなかった。

 だが、マールに説明する時間は……刀理には既にない。

 彼の背後まで赤い波は迫っている。

 そして、既に感染した彼自身の肉体からも少しずつ病が広がっている。

 だから、彼はマールを連れては逃げられない。

 それができるのは、【ジュエル】の中にいたために感染せず、そして今も圏外に解放された雷竜だけだ。

 だから、刀理は雷竜に託すしかない。

 託せる者だと知っているがゆえに、不安はないが。


「…………」


 刀理は、風属性魔法で遠距離からマールの体を空へと浮かび上げる。

 まるで風船のように、優しくマールの体が空へと上がる。


「わ、わぁっ!?」


 宙に浮いたマールの体を、雷竜の手がゆっくりと掴んだ。


「と、刀理様! こ、これ……!?」


 混乱の中で、マールは何を言おうとしたのだろう。

 赤い波は、既に刀理の足元を超えている。

 多くの牧畜や、牧羊犬代わりの【デミドラグハウンド】も病に感染し、苦悶の声と共に血を吐きながら消えていく。

 突然の事態に恐怖するマールに、刀理は宥めたかったし、まだ話したいこともあった。

 しかし、今の彼らには……もはや全てを話す時間は残されていなかった。


「さようなら、マール。君のことは忘れない。私と違う、けれど同じ痛みを持った君を、私はきっと……忘れない」


 だから、刀理は自分が伝えたい言葉を、


「だからどうか……君も、私を忘れないでほしい」

 遺したい(・・・・)言葉を、彼に託した。


「刀理さ……!」


 刀理の言葉を最後に、マールの言葉を言いかけに、雷竜が強く羽ばたいた。

 汚染された地上を離れ、大空の彼方へと飛び立とうとする。

 雷竜は、最後に刀理を見下ろした。


『――さらば刀理、我が友よ』

『――さようなら、アルクァル。私の、もう一柱の友』


 【勇者】と雷竜は言葉を交わし――そして永遠に再会することのない別れを終えた。


 雷竜は飛ぶ。

 電磁の結界でマールを保護しながら、地上の全てを置き去りにして。




 そうして、村の中の音は二つだけになった。

 朝の草原を風が吹き抜ける音と、刀理が零す血の雫音。

 それ以外には、もう何もない。

 この地で生きているものは刀理を除けば、草木と蠢く病原菌しか存在しない。

 結局、刀理が守れたのはただ一人のみ。

 それを助ける間に、既に彼の命数(HP)も大きく削れていた。

 【快癒万能霊薬】が効かず、回復魔法も焼け石に水である致命の病。

 きっと、回復魔法を駆使しても、あと一時間も経たずに彼の命は尽きる。マールの救出は、そんな彼の寿命を大きく削った。

 だが、マールを助けることができたことに、一片の後悔もない。

 これから、マールの前には辛く苦しい未来があるだろう。

 故郷を失くし、家族を亡くし、どう生きればいいのかも分からないかもしれない。

 けれど、生きていれば……まだ未来は選べる。踏み出せる。


 自分にはもう選べないから、せめて彼には未来を選んでほしいと……刀理は願った。


「……さぁ、逝こうか。これが私の……最期の旅路だ」


 そして、【勇者】は動く。

 雷竜が飛ぶよりも速く、地平線の彼方の仇を討つために。


 修羅となった【勇者】が、裁きの矢となって駆け出した。


 To be continued


○《全連結(フルリンク)


【勇者】のジョブスキル。

サブジョブのスキルを、系統に関係なく自由に使用できる。

また、取得した経験値をメインジョブの【勇者】ではなく、指定したサブジョブ一つに流すように設定できる。

そのため、ジョブの切り替えなしに全ジョブスキルの行使とレベル上げが可能になっている。


(=ↀωↀ=)<この話の内に入れられなかった【勇者】のもう一つのスキルの説明


(=ↀωↀ=)<多分、次回あたりで文中にも入るけど


(=ↀωↀ=)<このスキルがあるために【勇者】はほぼ【超闘士】の上位互換です


(=ↀωↀ=)<しかし装備枠拡張のスキルレベルEXのみ【超闘士】が勝っていて


(=ↀωↀ=)<フィガロの場合はそれが何より重要でシナジーする



○アルクァル


自分を鍛え直す修行の旅で刀理と出会った雷竜。

彼の人柄を好み、信頼し、修行と竜生経験も兼ねて一時彼のテイムモンスターになる。

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