面接/出会い
カフェに入った俺を待っていたのは、適度に冷えた部屋、漂う珈琲の香り、そして一人の客だった。
「いらっしゃい」と声が掛けられ、声の方に顔を向けるとそこには、いかにも「カフェのマスター」という感じの白髪で、少しばかり髭を生やした初老の紳士が居た。
「君が今回の『適合者』かな?」とマスターはいきなりそんな言葉を俺に言ってきた。
「いえ」と咄嗟に何のことか判らず否定した俺にマスターは「いや、君はあの広告を見てここに来た。そうだろう、『菊川 玲』君」と優しく、諭すように言ってきた。
「なんでこの人俺の名前を⁉︎」と内心思い、「とりあえず何か言わなきゃ」と、何かを言おうとした俺の声は「ちょっとマスター、面接始められないでしょー、早く終わらせてー、あと珈琲早く持ってきてー」という、能天気そうだが、少しばかり怒ったかのような声に遮られた。
それまでマスターとの話に夢中になっていた俺は目的の面接を忘れていたことに気付き、そのタイミングでマスターも、「おお、すまない。彼との話を楽しんでいてすっかり忘れてしまっていたよ。」と俺との話を切り上げ、奥に引っ込んでいった。
慌てて女の人の座っているテーブルに座って、そこで一息付きつつ、目の前の女の人を見ることになった。
その女の人は先程の声の通り、少しばかり天然のような感じを醸し出しつつも、ふわふわとした感じではなく、凛とした花のように見え、ショートヘアが似合い
切れ長の目と、腕に付けている数珠のようなブレスレットが印象的だった。
「あのー、そろそろいいですかー。」と彼女に声を掛けられ、俺は「はい」と短く答え、履歴書を彼女に「遅れてすいません」と言いながら渡した。
その様子を彼女は何故か少し笑いながら見ており、
「何か変でしたか?」と、いった俺に彼女は「いえ、何でもないです。」と言い、履歴書を受け取った。
彼女が履歴書を確認している間、暫くは時間を確認していたりしたが、無言の空気に耐えられなくなった俺は、「あの」と目の前の女の人に声を掛けた。するとそのタイミングで丁度読み終えたのか、女の人は俺に履歴書を返してきた。それを俺が受け取ったのを確認し、女の人は「いい名前だねー。ああ、申し遅れたけど私の名前は『鈴白 雪音』。年は君の一つ上だよー
ちゃんとさん付けしてくれよー」と言ってきた。
俺は思わず鈴白さんに「あのー、面接を始めないんですか?」と言ったが鈴白さんの口からは「ああ、あと1つ質問をしたら終わりだよー」という衝撃の言葉を聞き、俺は「はぁ、そうですか」と我ながら間抜けな声を発してしまった。俺はそんなことを言いつつ、「まぁ、あの仕事内容についてどう思ったかとかだろう」なんて軽く考えていた。
しかし鈴白さんから来た最後の質問はそんな俺の予想をはるかに上回っていた。
「君は必要な場合、人を殺せるかしら」その言葉は今まで話した鈴白さんの口調とは違う、丁寧な口調だった。