第92話 麗しき、敵との共闘(強制)
「わかりました。それでは私は後方に戻って治療の手伝いをしていますね。それと……」
頷いた王女様は黒肉団子の方へと目を向けた。
「先ほど触れた際に体力が奪われるような感覚を覚えました。引き寄せられた後に誰も何もできなかったのはそれが原因だと思います。接近戦は避けた方が無難かと」
そう言い残して王女様は戻っていった。
そうして残ったのは俺と黒肉団子……と何故か残っていた魔族だ。もちろん動けない。
……え?
なんで残ってんの?邪魔なんだけど。足手まといなんだけど!?
驚きのあまり思わず二度見してしまった。
「オイィィィ!?なんでいるんだよ!?」
「俺様に聞くなよ!?動けないんだから仕方ないだろ!?」
嘘でしょ?誰も連れてってくれなかったの?
言い争っている内に完全にこちらを認識した黒肉団子が触手のようなものをこちらに叩きつけてきた。
魔族は――まともに動けていない。
「ああ……クソッ!」
襟首を掴んで強引に離脱する。「グエッ」というカエルのつぶれるような声が聞こえたが気にしてはいけないのだ。
「ゲホッ!テメェ……なんで……」
「うっせぇだまってろ!」
次々と振るわれる触手を避けつつも付かず離れずの距離を保つ。もちろん魔法もスキルも使ってだ。
一度離れると容易には近づけない。お荷物も抱えている。触れても大丈夫だとは思わない方が良いだろう。
ハンデ盛りすぎだろ。
「おい!お前のバリアみたいなのはどれくらいある?」
「バリア?……ああ、魔力障壁のことか。残りは6枚だ。お前に付けても良いが意味無いぜ?障壁の上から生命力を吸い取ってきやがる。おかげで俺様はまともに動けやしない」
リリーがいってたヤツか。やっかいだな。
障壁は付け替え可能だが変えてもあいつには効果はないときてる。
いや……触れたらアウト、ならば触れなければ良いのでは?
となれば障壁は俺には無意味だな。
襲い来る触手を避けながら魔族に声をかける。
「おい、今障壁とやらは俺に付けてるのか?」
「いや、まだ付けてないぜ。付けようか?」
「いらん。お前に付いてるのならそのままにしとけ。俺に付けても無駄だからな」
いやに魔族が協力的だ。一蓮托生だから俺に協力する以外に道がないからだろうか。
変に勘ぐる必要はないか……。
よし、やってみよう。
触手の回避を最優先にして散発的に魔法を放っていく。
火、水、風、土、あと氷、雷。
闇はそもそもダメージソースとして望めないので論外。
光は目立つのでなるべく隠しておく為に使わない。
魔法を乱射して黒肉団子の様子を探っていく。
すると火魔法の傷だけ他より再生が遅いことが分かった。次点で雷。傷が焼けているのが原因だろうか。定番だな。
となれば使うのは火で決まりだ。
「おい。今からあいつを一撃で倒すために集中して魔力を溜める。確実に当てるために距離を取るのはなしだ。しかも魔法なしで防ぎ続けるから無茶な事をするかもしれない」
「それはいいが……何故一撃なんだ?」
「見ていて分かると思うがあいつは強力な再生力がある」
触手の追撃を避けながら一撃で決める考えに至った理由を手短に説明した。
「なるほどな。通りで俺様の魔法が効かねえわけだ」
「あ、それは違う。あいつ闇だけ耐性が凄まじいから」
「なん……だと……!?」
愕然とする魔族は安定のスルーで。
「いくぞ。『限界突破』」
限界突破を再び使い、揺らめく蒼を身にまとう。
俺達を絡め取ろうとする触手の群れを紙一重で避け続けていく。
もちろん魔法なしだ。
俺自身の速度が速くなったとはいえ、さっきまでは魔法で触手自体を弾いたり、視界を阻害したりと妨害でなんとか避けられていた。それが今はない。
今から使う魔法を外すとおそらく次はない。少しでも体力を残せば倒すのは絶望的だ
限界突破を使っての全力の一撃だ。体力的にも魔力的にも二度目は使えないと見た方が良い。
確実を期すためにも離れることはできない。
かなり厳しい。が厳しいだけだ。無理ではない。当てれば勝てる。それだけだ。
やってやるよ。
それから俺は避けた、避けて避けて、避け続けた。
あと少しだ。あと少しで魔力が溜まりきる。
「ウボオオオォォォォ……」
そんな時黒肉団子が吠えた。
触手の数が倍になった。
「ッ!!??」
視界を埋め尽くす触手の群れ。全力で横に飛ぶ。
先ほどの触手爆発のように大勢を引っ張っていったほどの数はない。
だが距離はあのときより近く、魔法は使えず、後ろに逃げる選択肢はない。
むしろ状況はさっきより悪いと言える。
「こなくそ……!!」
横に飛んだ俺は地面に足が付く前に天駆で空中を全力で蹴りつけた。直後、俺が居た場所を触手が轟音を立てて通り抜けていった。
間一髪だ。
俺はそれを見ることもなく、空中を乱回転しながら強化した能力で以てして空を蹴りつける。
空間認識の負荷のせいか、頭が熱い。
上へ下へ右へ左へ。息つく暇もない。
なんとか掠ることなく全ての触手を避けきることができた。
だが迫り来る次の触手を感知して分かってしまった。
次は避けられない。
戦闘の高揚によるものか、アドレナリンか、それともスキルか。
理由は分からないが避けられないことはだけは分かった。
だからこれは賭けだ。一世一代の大勝負。――覚悟を決めた。
「奥義・人間ガードォォォ!!」
「おい、ちょ、まて、うそ、やめ……ア゛ッッッ!!!?」
魔族を盾にして触手の直撃を避ける。
かくして俺は賭けに勝った。引き寄せられることもなく、遠くに吹き飛ばされることもなく、間接的に俺の生命力が吸われることもなかった。
魔族を盾にして触手の一撃をいなし、俺は横にずれるだけですんだ。盾は吹き飛んでいったが。
そしてちょうど魔力も溜まり終わった。注意も空高く飛ぶ盾の方に向いた。
いける……!!
「喰らえ!あいつの仇だ!〈大噴火〉!!!」
「ウボオオオォォォォァァァァァアアアアアア!!?!?」
それはヤツが上げたそれだとわかる明確な苦痛の悲鳴だった。
轟音と共に地面から炎が吹き上がった。天高く貫いた火柱は易々と黒肉団子を飲み込み、焼き焦がす。
触手は速くても本体は鈍重だ。少なくとも移動速度は遅い。
全力の魔法を爆心地で受けた黒肉団子は逃げる暇すらなく焼き尽くしていく。
今俺が出せる最高火力だ。限界突破を使った上、全力の魔法。さらに振動操作で補助し、物理的にも熱量を上げている。
再生する暇は与えない。やがて抵抗は小さなものとなり、ついに炎が消えた。
焼け焦げた地面には何も残っていない。
再生する様子は無い。終わったのだ。
だがこれは貴い犠牲の上に成り立った勝利だ。
「お前のことは忘れない……」
「生きてるよクソ人間がアアァァァァァアア!!!!」
魔族が吠えた。
生きてた。




