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第91話 お助け (めちゃつよ)


オーガを喰い終わった黒肉団子が遂に動いた。


「あれは……触手か?」


黒肉団子は次の獲物を求めて移動……することなく、その場に留まったまま体からズルリと触手のような物を伸ばして次々に魔物を捕まえると、自らの元に引き寄せ凄まじい速度で喰らって言った。


魔族の妨害も俺の攻撃もものともすることなく、周囲の魔物を粗方喰らい尽くすと遂に攻撃の方向が魔族に移った。


さっきまで振り払う程度にしか相手していなかった魔族を本格的に狙いだしたのだ。

しかし魔族の方も一度接触してからかなり警戒して行動しているので、回避を主体に行い隙を縫って攻撃を当てていく。とは言えやはり回復している量の方が多く、結果には結びついていない。

俺も様子を見ながら攻撃を当てているがそれも回復速度を弱める程度に留まっている。


いくら回復量が勝っていても、うっとうしく感じたのだろうか。

苛ただしげに魔族を襲っていた黒肉団子が、奇妙な行動を取り始めた。

ゆっくりと座り込むと天を高く仰ぎそして――腐った果実のように潰れた。


「ウボオオオォォォォ……」


潰れた体か黒の奔流あふれ出し、生理的な嫌悪を以て周囲を蹂躙していく。


それは圧倒的な触手の群れだった。黒の濁流だと錯覚するほどの密度の触手の群れ。

黒肉団子を中心に伸びたそれは周囲にある物を全て絡め取っていった。


「嘘だろ!!!」


勿論それは俺の元にもやって来た。警戒して距離を取っていたおかげで中心部ほどの密度はなかったが、誰かを助けられる余裕もまたなかった。

感知能力を全開にした俺でもギリギリの状況。

周りは黒、黒、黒。何処を見てもそれ以外の色は目に映らなかった。

迫り来る触手をかいくぐり、魔法で弾き、全力で距離を取る。

あと少し運が悪ければ捕まっていた。距離を取っていてもこれだ。近くに居た者達は言うべくもない。


捕まったものは魔物も冒険者も植物も何もかもが引き寄せられ、目の前に並べられた。あたかもまるで晩餐のように。

引き寄せられた者達は今自分が生きている幸運に感謝し、そして目の前の光景を見て絶望した。

大口を開ける黒肉団子を見て一様に皆が悟った。これから何が行われるかを。自分の身に何が起こるのかを。


「クソォッ……!間に合え!!!《風門〈エアロゲート〉》!!」


何も捕まえることができなかった触手が諦めた様に引き返し行くのを見て、次の瞬間には全力で前に掛けだした。

だがその彼我の距離はあまりにも遠すぎた。絶対に間に合わないと思えるほどに。

既にその身には『限界突破』の蒼の光を纏っている。触手から逃げるためには使わざるをえなかったからだ。

そしてその強化状態で瞬歩を使ってなお速さが足りない。


黒肉団子の元にはあの魔族の姿もあった。

だがそれは苦しげに地に膝をついた非常に弱々しい物であり、反撃も防御も期待できそうにもなかった。

おそらくは捕まったときに何かをされたのだろう。


つまりあそこには反撃が可能な人物がいないと言うことだ。

このまま行けば確実に死人が出る。


俺は――馬鹿か!

様子見なんてせずにさっさと殺しておけば良かった。


「やめろォッ!!」


叫んだところで伸ばした手は届かない。

後悔したところで過去が変わることはない。


俺はまた――


――ピシッ


何かが俺の中で音を立てた気がした。

だがそれが何かを為すことはなかった。


『〈反勢はんせい〉』


恐れていた事が現実になりかけたその瞬間、飲み込まんと迫る黒肉団子の間に巨大な障壁が生み出されたからだ。

凄まじい魔力だった。

俺や魔族の魔力がちっぽけに思えるほどの圧倒的魔力。

それは脅威であったはずの黒肉団子を軽々と受け止め、はじき返した。


「なんだあれ……!?」


「あら、シオン。あなたは無事だったのですね」


地響きを立てて倒れ伏す黒肉団子に目を見開いていた俺にそんな言葉が掛けられた。


「リリー!?なんでここに!?」


そう、そこにはこの国の王女様本人が笑顔でたたずんでいた。


「あら。私がここに居ていけませんか?」


心外ですと言わんばかりの表情だが、居てはいけない人物だと言いたいこの気持ち。


「……なんでここに?」


「いえ、流石に死人が出そうだったので飛んできました」


ひとまずもう一度ここに居る理由を聞いてみると「スルーされてしまいましたか……」としょんぼりした王女様はそのな事をのたまった。

あまりに自然に言われた言葉に一瞬理解が及ばなかった。


死人が出そうだったから飛んできた、つまり助けるために一瞬でここにやって来たと言うことだ。遙かに離れている筈の王都内にある救護班本陣から。

それは一体どれほどの速さなのだろうか。

そして黒肉団子の質量を押し返し、なおかつ弾き飛ばす何らかの能力と圧倒的魔力。

確実にただの王女様ではない。

一応強いとは話に聞いたことはあったけれども、ここまでとは予想できなかった。


「ともかく彼らを助けましょう。話はそれからです」


「賛成だ」


とは言え救助は時間との勝負になるだろう。今は倒れたままの黒肉団子だが、いつまた動き出すとも分からない。

そのときはもう一度さっきのをやって貰うか?


「てい」


「は?」


そんな俺の考えは王女様の気合いの抜けるかけ声と共に吹き飛ばされていった。

黒肉団子も一緒に。


あっれれ~、おっかしいぞ~。ただの掌打であの巨体が吹き飛んでいったぞ~。


あまりの光景に頭脳と体が伴っていない某眼鏡の少年みたいな話し方になってしまったが許して欲しい。

だって仕方ないだろ!?美少女が掌打を「てい」ってしたら、「ドンッ」って飛んでって触手が届かない後方まで「ズシャー」ってしてったんだぞ!?

ヤバい。何がヤバいってヤバすぎて俺の語彙力もヤバい。ヤバいしか言ってねえよ。落ち着け俺。


とりあえず余裕はできた。

今は目の前のびっくり映像よりも救助が先決だ。

問題はこの数をどうやって運ぶかだ。風で飛ばすか?それとも土と水で流すか?

だがそんな俺の思考も意味のないものだった。


「救護班!!やっておしまいなさい!」


「「「「「アイアイマム」」」」」


号令と共に救護班は動けなくなっている全員をかっさらっていった。

あれ?俺やることなかった?いらない子だった?


自分の存在の無意味さに呆然としていると横から声をかけられた。もちろん王女様である。


「それで手伝いますか?」


何をとは聞くまでもない。再起動し始めた黒肉団子のことだ。


「一人でやらせてください」


じゃないと冒険者を引っかき回した挙句に何もできず、王女様にお助けされただけのヒモになっちゃうでしょ!?

そんな評価は召喚直後の事故だけで十分すぎるから遠慮しておきたいんだよ!


それに……目の前で助けられないと、また思わされたんだ。

憂さ晴らしくらいしても良いだろ?

つきあって貰うぜ、クソ野郎。




シリアスさんはな、旅立ったんや……

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