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第89話 愚かさの代償


追撃を仕掛けようとした俺と魔族の間に割って入った冒険者達に問いかける。


「なあ、今の割とチャンスだったんだけど」


「ハッ、そうかよ。俺達もあいつを狙ったんだが邪魔になっちまったようだな」


そうか、今度はそう来るか。

どうやら魔族を攻撃しつつ、俺の邪魔をするために他の冒険者達で結託するらしい。

周りの冒険者は大きく分けて俺を妨害するチームと魔族を攻撃するチームに分かれたようだった。

さっきまでは各々勝手に突撃しては吹き飛ばされていた癖に、手のひら返しが早いことで。

……いや、仲間のために我を忘れるほどだからこそ、このチームワークと言うべきか。

まあ今はそんなことは関係ない。

目標は魔族をさっさとぶちのめすことだ。どのような状況になろうともこれだけは変わらない。

だからこそ邪魔をするのなら容赦もしない。


「後悔するなよ」


とりあえず魔族に近づくのに邪魔だからお退きいただこうか。


「〈爆風エアバースト〉」


「うおっ!?」


「きゃあ!?」


自分を中心にして風を吹き散らす。大の大人が軽々と吹き飛んでいく程の風を受けて、俺を遮る物はなくなった。


「じゃあな」


言葉と共に力強く踏み込み、瞬歩を発動して一気に加速する。

先に走っていた冒険者を悠々と抜き去り、魔族を射程圏内に捕らえた。


「「「〈岩壁ロックウォール〉!!」」」


牽制に魔法を発動しようとしたところで、魔族の目の前に壁を作られてしまった。

このまま魔法を使ったところで大した効果は望めない。

魔法の発動を取りやめ、速度を落とさないまま接近していく。

冒険者達は俺の速度を潰すために壁を作ったのだろう。避けるか飛び越えるか。どちらにしろ俺の速度は落ちる。

だとするならば。

――わざわざ俺がその思惑に乗ってやる意味があるのか?


否だ。


「震撃」


「「「「「なッ!!?」」」」」


拳から伝わった拡散性の振動が魔法で作られた岩の壁を問答無用でぶち抜いた。

魔族の方もこの対処は予想外だったようで、思わず飛んでくる岩から顔をかばっている。

なにせ、砕けた岩がかなりの速度で飛来してくるのだから。たとえ障壁で遮られているから自分を傷つけることがないと分かっていても、人は反射的に防ごうとしてしまう生き物だ。

克服もできるが……どうやらこの魔族はできていないらしい。


だから仕方ないのだ。その隙に俺が懐に潜り込めたとしても。


「マジか……ッ!?」


「振撃……!!」


地を這うような姿勢からすくい上げるようにして拳を抉り込む。

今更失敗に気づいたところでもう遅い。

俺の拳はまたしても障壁に阻まれ、しかしながらそれの三枚を砕いて魔族もろともカチ上げた。


転がる魔族を尻目に、口角をつり上げ冒険者達に言葉を贈る。


()()()()()()()()()()。」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「グアアあアぁァァァ!!!」


光の差し込まない林の中、獣じみた悲痛な絶叫が小動物たちを怯えさせていた。


「お前……!!騙したなア!!」


苦し気な様子で目の前の男を睨みつけるのは、冒険者資格を剥奪され、行方不明になったアルノーだった。


「ふむ、別に騙してはいないのだがね」


そう答えたローブの男はかぶっていたフードをゆっくりとはずした。

フードの奥から現れたのは、くたびれたような顔でメガネをかけた、ただそれだけの特徴のない顔だった。だが、その眼だけは狂気に濡れているように見え、アルノーは一瞬言葉を詰まらせた。


「ッ……!シラを切るつもりか!!……グゥッ!?」


苦しげに呻くアルノーの体はボコボコと歪に蠢いていた。

それは服の上からもわかり、ある種の嫌悪感を抱かせてしまうほどであった。

それを見ていた男は心底興味がなさそうに告げる。


「力は得られるさ。力はね。最もそれが人の姿のままであるという保証はした覚えはないが。まあそれも君次第だったんだが……」


そこで言葉を切った男はゆっくりと首を横に振る。


「残念だよ」


「ふッ、ふザケルなアアあァァァぁぁァ!!!」


男の得体の知れなさから手を出すことはなかったが、理性すらも消え去っていき、ついにこらえきれなくなった。

激情に身を任せ、考えなしの拳を突き出すが男は気負った風もなくスルリと躱す。

拳を振り抜いた勢いを殺すこともできずに正面にあった木々をなぎ倒していく。それは確かに今までの彼ではなしえなかったことであり、強化はされたと言えるだろう。ただ、その結果を見て納得したかは最早本人にすら分からない。


「実験結果をありがとう。それでは私は失礼させて貰う」


そうして男はその場で忽然と消え去り、アルノーであった物だけが残された。


それは体が変化した直後で弱っていた。

だからこそ求めた。自分の命を回復させるための他の命を。そして見つけた。

大量の命と命が戦っている場所を。

だからこそ必然だった。そこへ向かうのは。




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