第83話 様々な思惑
第73話 強国 にスタンピードが魔族の物である理由を追記しました。
詳しくは後書きにて。
――ガッ!!
暗い路地の裏、一つの影が拳を壁に打ち付けた姿を浮かび上がらせる。
アルノーだ。
冒険者資格を剥奪され、その性格故に今では働く場所さえなくなった彼は自分勝手な感情をはき出していた。
「くそッ……!!なんで僕がこんな目に……!!これも全部あいつのせいだ」
腹ただしい!どいつもこいつも見下して。
一度負けたぐらいでこれまで助けてきてやった恩を忘れやがったクズ共が!!
それよりも腹が立つのはあいつだ!!
路傍の石ころでも相手にしているような目を向けやがって!
必ず後悔させてやらなければ……!!
だが分かってしまう。
なまじ自分が強いためにあいつに勝てないと言うことが。
あの戦いで思い知れされてしまった。今でも思い出すだけで恐怖に身が震えるほどだ。
「クソッ!クソッ!……クソォッ!!」
だから仕返しをすることもできず、こうしてみっともなく不満を吐き出すことしかできない。
「……ふむ。なあ君」
「誰だッ!!」
そんな彼に話しかけてくる人物がいた。
体をすっぽり覆うローブに目深いフードをして、これでもかと怪しい雰囲気を醸し出している。
声から予測するに男性か……?
「……ふむ。私のことは別に良いのだよ。それよりも君のことだ」
「僕の……?」
「そうだ。少し君の様子を見ていたのだがね、どうにも憤懣やるせないと言った様子だ。そこでだ、君に良い話がある。……強くなりたくはないか?」
「……話を聞こうか」
――良い話がある。流石に彼もそれだけで飛びつく程の馬鹿ではない。
姿が分からないような相手の話など警戒してしかるべきだ。
だがそれでも警戒心を復讐心が上回ってしまった。
「では着いて来たまえ」
「……」
「どうしたのかね?……ふむ。別に信用できないと言うのならそれはそれで良いだろう。これはただ私の好奇心によって提案しただけに過ぎない。君が臆病風に吹かれて断るというのなら私はこの場を去るだけだ。
……どうするかね?」
しばしの逡巡の後答えを決めた。
「……わかった。着いていこう」
そうして路地には静寂だけが残された。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――というわけだ。調査のために斥候を送ったところスタンピードであることは確定だ。時間にしておおよそ三時間でここ、王都に到着する」
ギルドマスターであるガザルが直接出てきて、現状で確認できた情報を冒険者に伝えている。
普段は騒がしいくせに静かに聞いている様子を見ると、この問題を全員が真剣に考えていることが伺える。
ただ、彼らの目からはそれ以外の何かが有るようにも見えるが……。
「おそらくダンジョンでの出来事が関係していると思います」
「ダンジョンの?」
俺の表情から考えていることがわかったのか、サリーが補足してくる。そんなにわかりやすいかな……?
「そうです。ここにいる冒険者の中には、仲間が転移の罠によって行方不明になった者達もいます」
「そしてその原因が魔族だという調査報告がされた所に、スタンピードが来るとどうなるか……」
サリーの言葉をデニスが引き継ぐ。
「復讐心、もしくは鬱憤を晴らそうと燃えるわけか」
「そういうことです」
なるほどな。だから視線だけで切り裂くことができるんじゃないかってくらいの目付きがヤツが多いのか。
じゅーしーみーとの連中は違ったみたいだったが。
ちなみにリーダーは無類のかわいいもの好きだった。
いやあんたマジで色々ミスマッチだから。
「――いいか!不足の自体故に準備は万全とは言いがたい!だが俺は、お前達ならば何ら問題は無いと思っている!お前達ならば何事もなく帰ってくると思っている!
さあ!魔族共に目に物見せてやれ!!」
「「「「「「「「ウオオオオォォォォォォォォ!!!!」」」」」」」」
お、ガザルの演説が終わったみたいだ。
凄いな。ギルドにいる冒険者がやる気に満ちあふれている様に見える。
「よし、じゃあ俺達も行くか」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――わかった。報告感謝する。下がって良い」
情報を持ってきた兵士を労い、その兵士が王城の執務室から出て行ったところでハドルスはゆっくりと息を吐き出した。
「どうやらお疲れの様ですね」
「ああ、サタナルか。今スタンピードの報告があったのだがな、最近の傾向からして一週間ほど早いらしいのだ。おかげで準備は完全とは言いがたい状況だ。他の都市に向かわせていた部隊も帰還していないうえに、物資の確保も七割程だ」
「そうなのですか。……勇者達は出すんですか?」
「いや、今回は見送ろうと思っている。訓練はまだ終わっていないし、実戦経験もまだないのでな。さすがに危険だと判断した」
「なるほど。……では私が出ましょうか?」
「いや、良い。お前がやったのでは意味が無いからな。お前の力に頼りきってしまったのではいずれ国として何もできなくなる。少なくとも進歩はできまいよ。
それに大きな損害が出ないくらいの戦力は確保してある。魔族が直接出てきたりでもせん限り問題はない。
それと……」
言葉を句切った王子は歯の奥にものが詰まったような顔をしていた。
「敬語やめんか?正直……キモいぞ」
「おい……」
「おお、それだそれ」
「チッ」
スッキリしたような王子の表情に、サタナルはどうやら苛立った様子だったが舌打ちをするにとどめたようだ。
「お前が何を思って慣れもしない敬語を使い始めたのかは分からんが詳しくは聞かんでおく」
「……助かる。いつか必ず話す」
「ああ、わかった」
王子は優しく笑って頷いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
大量の魔物が跋扈し、進行する後方に楽しげな笑う、人の姿があった。
紫の髪に黒羽の翼をもった魔族である。
「開始を一週間も早めてやったが、予定が狂って慌てふためく人間共の様子が今から楽しみでならないぜ。しかし……」
不思議でならなかった。
昔は期間など気にすることもなく人の町を襲っていたと言うのに、最近では付近に生息することのない魔物を放って、しばらく立ってから襲いはじめる今の体制が。
それではいつまで経っても成果は出てこない。
それならばと指示された事を無視し、さらに効率的な計画を立てれば良い。
まあそれに気がついたのは魔物を放った後だったのだが。
それもさしたる問題ではない。
なぜなら――
「この俺様!三黒輝が1人!重撃(の部下が頼まれた仕事を投げられたヤツから押しつけられた下っ端)が出るんだからな!」
自慢げに言い放つと寒々しい風が吹き抜けていった。
心なしか周囲の魔物の視線のも寒いものを感じる。
「ヤベ、なんか虚しい……」
端から見ると遊んでいるように見えるが実は内心相当ビビっている。
それは今回のスタンピードにある大きな問題が原因だ。
さっきも言ったがこのスタンピード、命令を無視して進めている。魔王の。
気づいてからは冷や汗が止まらなかった。ガクブルである。
それに気づいたのは進行し始めてからだった。つまり手遅れというわけだ。
命令を無視して失敗などすればどうなるのか。考えただけでも恐ろしい。
もしも強い人間が出てきてスタンピートが潰されでもしたら……。
「そのときは俺様が出れば良いだけだしな!それにしても……」
なぜ俺様にこの任務を渡してきたヤツは「もう無理!お願い変わってください!!」等と頼み込んできたのだろうか。
「ははーん、遂に俺様の事を認めたのか?」
その考えに至り楽しげに笑いはじめる。さっきまでの恐怖を忘れて。
彼は知らない。この先の王都に何があるのかを……。
第73話 強国 の話の内容の運び方が不自然だったので修正しました。
具体的には今回のスタンピードが魔族由来である理由の追加です。
通常はスタンピードは自然発生であり、人為的なものは極稀であること。
が、最近は魔族が人為的にスタンピードを起こし、襲撃していること。
これが王様が言っていた各種族への襲撃に当たります。
そして今回も魔族の仕業であるだろうと言うこと。




