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第75話 人間魔境

三つ目です。

第75話 人間魔境



−−ピシリ


「「「「「おお!!」」」」」


様々な色の光を放った花火によってもたらされた結果に、差異はあれど見ていた全員が驚きを露わにする。

何せ今まで傷を付けることすらできなかった障壁に、小さくともヒビを入れることが出来たのだから。

この結果に気を良くした襲撃班は、追撃を仕掛けようとする。


「よし!このままC4花火ばくだんを追k……」


しかし、それは無理やり眠りから覚まされた少女によって成し得ることはできなかった。


「……眩しかった。邪魔しないで。〈羊数え歌(シープ・スリープ)〉」


寝占が魔法を発動し、花火を除いた襲撃班全員が崩れ落ちる。

傷もなく、苦しそうな様子も無いことからただ眠っているだけのようだ。


「くっ、お前ら!?……だが俺には効かな「お前は別。主犯め。〈羊の戯れ(シープ・ストライク)〉」ぶべらっ!?」


どうやら割と頭にきていたらしく、花火だけは報復をされた。

寝占の魔法が発動し、魔力で作られた羊が「メ~」とばかりに突進、花火を上空に突き上げた。

その時誰かが言った。


「たーまやー」と。


「「「誰が上手いこと言えと(笑)」」」


そんな事を言っている間にも花火は落下。

ベシャリと音を立て動かなくなる。

寝占は満足したのか再び眠りに入っており、僅かに入っていたヒビもいつの間にか無くなっていた。


「あの硬さに自動修復とかどう壊すんだよ」


「無理ゲーですな」


「チートですね。ありがとうございます」


高みの見物をしていた者たちがそんな会話を繰り広げていた。


「たいへんだー。花火が息してないぞー(棒)」


すると倒れた花火にいつの間にか近づいていた1人が妙に嘘くさい口調で大声をあげた。

その声を聞きつけた1人の女子生徒がすぐさま駆け寄ってくる。


「はいは~い、このア・タ・シ・が助けに来たよ~」


彼女は日高 千暁(ひたか ちあき)

日本にいるときはナースを目指していた、ザ・ギャルである。

なぜ彼女がナースを目指しているのかは誰も知らない。

ただいえるのは知識は確かにあると言うことだ。


「今から心肺蘇生を始めま~す。AEDを使うからみんな離れるし」


彼女の指示に従い距離を取る。……十歩くらいだろうか。

確かに彼女には知識がある。しかし、経験とその他諸々が足りていなかったりする。

現に今も呼吸の有無を確認していない。忘れているのだろう。

そして彼女はそれだけにとどまらない。

ここは異世界だ。AEDなどあるわけがない。

――つまり


「いくし~。〈AED〉!」


ズドン!という音とともに電撃が走り、花火から「アバババババババ!?」という声が漏れる。

彼女は言ったそうだ。機械がないなら魔法でやれば良いじゃない、と。

彼女は練習に練習を重ね、2つの救護用の魔法が使えるようになった。

それが心肺蘇生電撃魔法〈AED〉だ。


「もういっちょ!〈AED〉!」


もう一度言おう。彼女は知識はあるがその他諸々が足りていない。

本物のAEDの電圧が1200~2000Vであることは知っている。

しかし彼女にそれがどれほどの量か正確にわかるわけもない。そうすると必然「これぐらいかな~」となるわけで。

それは料理初心者の人がはかりを使わずに「10g?こんなもん?」とするのと同じような悲劇が起こる。

しかし彼女の得たスキル『ナース☆』の効果により、救えない事はあれど〈AED〉の影響で死ぬことはない。

つまり――無限に続く責め苦となる。


「だめ押しだし!〈AED〉」


「アバババババババ――」


「治療でのだめ押しとは一体……」


「AED、つまりアサルトエレクトリックデストロイヤーですねわかります」


「じゃあ次行くし」


そう、この責め苦(ちりょう)はまだ終わっていない。

日高は、手際よく花火の顔を上に向け気道を確保。空気が漏れないように鼻を摘まむ。

彼女は少し顔を赤らめて――呟いた。


「……〈人工呼吸エアロプレス〉」


――ボン!

およそ人工呼吸ではあり得ない音が炸裂した。

人工呼吸エアロプレス〉。それは口の真上に空気の筒を形成。そして空気を漏らさないように打ち込む、もう一つの救護魔法である。

その場を見ていた全員が思った。

なぜ顔を赤らめたのかと。そして絶対に気絶はしないようにしようと。


だが、まだ誰も知らない。これのおかげで将来戦闘中気絶する者が極端に少なくなることを。それは生きるか死ぬかの面で大きな差となる。確かに彼女は人を救っているのだ!

――だがそれは未来の話。


――ボン!――ボン!

「アガガガガ!?オボボボボ!?……ガクッ」


「あれ?失敗したし?」


遂に花火が白目をむいて力尽きた。


「クッ、花火……。お前はよく頑張った」


「ああそうだ。お前は真の勇者(笑)だった」


「お前のことは忘れない」


煽るだけ煽って彼は死んだ事にされた。酷い連中だ。

そんななんともいえない空気の中に駆け寄る影が2つ。


「リリーさん連れてきたよ!」


「もう!今度はどこですか!?」


「真琴……。もう手遅れだ」


「止めなかったの!?」


「……無理だろ。他の奴が近づいて止めようとしたら初撃のAEDで巻き込まれて、ついでに人工呼吸されるの、前に見ただろ。お前止められるのか?」


「……」


スッと視線を逸らした真琴が悲しげに呟いた。


「私たち惜しい人を亡くしたね……」


「まだ彼死んでませんからね!?」


リリーを連れてきた真琴が、優と仕事を終えたとばかりに通常運転に戻る。

王女様は声を荒げながらも癒術での治療を開始する。ちなみに日高はすでにいない。彼女はナース。助けを待っている者がいるのなら立ち止まることはない。今日も要救護者ぎせいしゃを求めてさまようのだ。


「〈手当エイド〉!」


リリーの魔法が発動し、優しい光が花火を包み込み、やがてうっすらと目を開けた。


「大丈夫ですか!?」


「あぁ、ばあちゃん。きれいな川だな……」


「……」


死にかけだった。どうやら三途の川とばあちゃんが見えているらしい。

そして……リリーは無表情だった。見ている全員が恐怖を覚えるほどの無表情だった。

当たり前だ。話しかけたら婆ちゃんと言われたのだ。うら若き乙女には決して言ってはいけない言葉だった。

治療を中止し静かに立ち上がり、ニッコリと微笑んで――掌打を放った。


「「「「「あ……」」」」」


花火の下にクレータができあがる。

ほぼ確実に今日一番のダメージだろう。


「じい、彼は余裕そうですので治療は他の方に任せます」


「わかりました」


リリーは微笑みを絶やさないまま、側に付いていた執事に指示を出す。


「ふふ……。個性的ですね……。この人達は……」


ゆっくりと息を漏らし、乾いた声でそうこぼした。心なしか、彼女の目からハイライトが薄れているように見えた。


日本にいた彼らは、自由奔放と言ってもまだ足りないくらいの人物が集まってできたクラスだ。

数々の事件を起こし、付いた名前が人間魔境。人の身でありながら魔境となった彼らのフリーダムさは、とどまることを知らない。それが異世界で力を得たのだ。どうなるかはもはや神ですらわからない。

分けると対処ができないからと、一年生の時と同じメンバーしかいないのも当然だといえるだろう。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「こんな事がすでに何回もあったのです。私はどうしたら良いのでしょうか?」


話し終えたリリーは儚げに微笑んで言った。


「あ~うん」


とりあえずそこには近寄りたくねぇ。

紫苑は切実にそう思った。



この投稿の後に17.5話を割り込みしています。

皆さんは海野拓がクラス内トップだと思っていたでしょうが、トップクラスでしかありません。

理由はまた奴らが出たときの楽しみにしててください。

ヤバいのは小出しにする予定です。

ちなみに閑話で紹介したのは奴らを考えているときにできた副産物だったりします。

それでは~

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