第74話 お疲れですか?
二つ目です。満を持して奴らが登場。
むしゃくしゃしてやった。後悔……はするかも。
第74話 お疲れですか?
「おめでとうございます、シオン様。無事に冒険者になれたようですね」
「……ありがとうございます。王女様」
俺が真面目な表情をしてお礼をすると、王女様はクスクスと笑いながら
「敬語は使わなくても良いですよ?苦手なんでしょう?それと私の事はリリーと呼んでください」
だそうだ。
……敬語を使わないと不敬罪、言うことを聞かないと不敬罪。そんなことになったりしないよね?
「……分かったリリー。俺も敬語はつけなくて良いから」
「これは地の口調ですので……。ではシオンと呼ばせて貰ってもよろしいでしょうか?」
ちょっと困ったような顔をして代案を出してきたリリー。
「まあ、それで問題ない」
気を使っている訳で無いのなら問題は無いからな。
良かった良かった。どうやら不敬罪にはならなそうだ。
「……紅茶でございます」
「ありがとう、シーラ」
「悪いな」
「ありがと〜」
「すまない」
「あ、ありがとうございます……」
紅茶を持ってきたのは紅い髪を腰まで垂らしたメイドさんだ。
シーラと呼ばれたメイドは見惚れるほどの礼をしてリリーが座っている左後ろに下がった。
そう、現在この部屋に居るのはリリーと俺だけじゃ無い。
先ほどシーラと呼ばれたメイドさんと、ライム、フィラム、フクシア。そして俺が呼ばれた日にもリリーに付き添っていた、眼光鋭い爺さん執事だ。
爺さんは俺を睨んで、メイドさんはなぜかフクシアを凝視している。
当然フクシアは気づいているわけで、オロオロと居心地悪そうにしている。
爺さんは喧嘩売ってんのかな?
ところでで気づいたことがもう1つある。
「リリー……。疲れてるのか?」
「ふふふ、……わかりますか?」
そう、リリーは目の下に薄っすらとだが隈を作り、顔色も若干だが悪い。
状態としては疲れ始めと言った所だろうか。
「実はですね……」
リリーは疲れたように息を吐いて、ゆっくりと話し始めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よし!これで戦闘訓練は終了だ。各々自由にしてくれ」
その声と共に地面に座り込む者、タオルで汗を拭うもの、近くにいる友人と話し出すものと様々だったが、その全てに共通するのは多かれ少なかれ疲労があるということだった。
「はあ~疲れた……。キツすぎんだろ、騎士団長……」
「だよな~」
「まあまあ、死ぬよりはましだろう?」
そんなことを口にしながら、疲れによって座り込んでしまった彼らの側に来たのは、現在クラス内トップクラスの戦闘力を持つ海野拓だ。
「「ああ……そうだな」」
スッと彼らの視線が遠くなる。
現在彼らは8時から12時までの4時間を戦闘訓練に費やし、そこからは自由行動になっている。
それぞれスキルの種類が有りすぎて、自主トレをした方が効率が良いという判断からだ。
そんな彼らだが、自由時間でも自らのスキルを磨くことを止めない。
理由は戦闘訓練を始める前の洗礼にある。
『さて、これから諸君の訓練を担当するドーザ王国騎士団長、ハイデル・ガードナーだ。早速諸君らには訓練をしてもらいたいが、その前に、生存率を著しく高めるため、ここに居るサタナル殿に、我らの騎士団でも行っている洗礼を受けてもらいたい』
『騎士団長。それは危険なものなのてしょうか?』
『む?確か海野拓とか言ったか?安心しろ実害は全く無い。お前らが死ににくい様にするのだ。心配なら俺も同様に受けよう。止めたい、等とは言わせんぞ?』
やはりと言うべきか、洗礼という言葉に反応した海野は、騎士団長に疑問を投げかけるが、ハイデルそれを一蹴してなおも続ける。
『……わかりました。実害が無いのなら』
『よし。ではサタナル殿、始めてくれ』
渋々といった様子で認めた拓を見て満足げに頷いた後、ハイデル騎士団長は横に居たサタナルに場所を譲る。
『只今ご紹介に預かりましたサタナルと申します。皆さんを無理矢理こちらに連れてきた我々としては、最低限生き残れる力をつけてもらうべきだと考えました。よってこの洗礼をを受けてもらうことになりました。……皆さん、壊れないで下さいね?』
――瞬間。
圧倒的な重圧がクラスメイト全員を襲った。
だがそれは錯覚。ただの殺気だ。
だがサタナルという圧倒的強者の向けるそれは、錯覚?だから何だと言わんばかりに足を地面に縫い付けた。
全員が鮮烈な死のイメージを叩きつけられ、全ての者がそれに恐怖した。
決して画面越しで味わうことのない本物の死を目前にして、ゲーム感覚だった者達は己の愚かさを悔いた。
ああ、なんてバカだったんだろう。ここは現実なのにと。
そして全員が一瞬を永遠に感じている中、自分が歩んで来た人生を、過去を振り返る。走馬燈だ。
楽しかったこと、悲しかったこと、それぞれが別々のことを思い浮かべた中、最終的にたどり着いた答えは同じだった。
もっと生きたい、と。
そして重圧から解放される。一人を除いて全員が崩れ落ちる中、その唯一はこう告げた。
『それでは皆様、全力で生きて下さい』
その後恐怖で閉じこもる者もいたが、今では全員が出てきている。
自分の人生に後悔を生まないために。
「あれはマジでびびった。本気で死ぬかと思った」
「実害は確かになかったけどさ、限度があると思うんだよ」
「まあおかげでここが現実だと嫌と言うほど認めさせられたからね。甘い認識のままだったら簡単に死者が出たはずだよ」
話を聞いていた全員が神妙に頷く。
自分たちは死の恐怖を味わうことで、ふわふわとしたゲームのような感覚から抜け出すことができた。
もしあれがなかったら。答えは簡単だ。これから先の戦闘で、あの世で後悔する羽目になったのだろう。
歩み寄ってきた死に恐怖し、泣き叫び、何の覚悟もできないままあっけなく死んだだろうと。
その事実に愕然とし、恐れ、同時に教えてくれたことに感謝もした。
正直マッチポンプのようなものだ。自分たちがこの世界に連れてきたのだから。
しかし彼らを責めることをした者は終ぞいなかった。そんなことをするぐらいならと、生きるために力を着けることを選んだのだ。
「これだけなら良かったんだけどね……」
そう、事はそれだけに収まらなかった。
このクラスは実は曲者揃いだ。この前出て行った紫苑にしろ、我が強い傾向にある。
それがよく言えばだが、願望に忠実になるとどうなるか。
答えは簡単だ。
カオス。
その一言に尽きる。
現に今も−−
「寝占ぇ、人が必死こいて訓練してる中スヤスヤ気持ちよさそうに寝てやがって……!今日こそは叩き起こしてやる!お前ら、セットだ!」
「「「「おう!」」」」
寝占 未悠。授業中も散々眠って居た挙句、寝具の事で王様の言葉を中断した恐れ知らずの少女だ。
彼女のスキルは『安眠領域』と言うらしく、自分が安眠できる場所を何処でも作り出す事が出来るらしい。
何処でも寝るなよと言う話だが……。
今も、眠るためだけに強力な障壁を張っている。
訓練初日から毎日寝占は爆睡しているのでこの光景は見慣れた物だが、誰も止めなかった訳ではない。
寝占を起こそうと奮起した者はいたのだが、剣で叩いても壊れず、魔法を当てても効果もない強固な障壁の前にそのほとんどが挫折した。
挫折しなかった一部がヒートアップし、現在何かを仕掛けているのが花火 照生だ。
襲撃犯の中に女子が混じっている事も、このクラスの残念さを物語っていると言えるだろう。
因みに寝占がここにいるのは城のメイドさんが布団ごとカートに乗せてくるからだ。
どうやっているのか聞いても「メイドの嗜みです」と答えるだけで現在クラスメイト全員にとって最大の謎となっている。
「取り付け終わったぞ!」
「クックック、前回の手榴花火は威力が拡散し過ぎて失敗だったからな。今回は貫通力を高めた特製のC4花火だ!」
寝占の周囲に展開された球形の障壁に、等間隔に貼り付けられた8つの花火と言う何か。
そう、何を隠そう彼は学校に花火を常備していたあいつだ。
スキルは『花火師』と言うらしく、花火を作りだすスキルらしい。花火だったら大体なんでも作れるそうだ。恐ろしい。
「お前ら離れたか!?……よし、打ち上げ!」
–-ドンッ!
と低く鈍い音を上げて打ち上げられたらしい花火。
これの何処が打ち上がっているのか、小1時間位問い詰めたいところだが意味を成さないだろう。
効果があったのなら、こいつは既にこんなことをしていないと言うのが全員の認識だった。
諦めの境地である。




