第73話 強国
お久しぶりです。少し長めです。
第73話
ガザルとの話が終わった俺たちは、デニス達と別れ王城の私室に戻ってきていた。
ベットに身を投げ出し、柔らかな感触に包まれる。
「スタンピード……ね」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「スタンピードってなんだ?」
そう言った瞬間3人が一斉に振り向き、揃って呆れたような表情になる。
仲良いなお前ら。
ていうか仕方ないだろ。こっちのことは全然知らないんだからさ。
俺をそっちのけで3人は見つめ合っていたのだが、やがてため息をついたデニスが説明を始めた。
なに?目で会話してんのお前ら。てか俺に説明するのがそんなに嫌か。
「スタンピードって言うのは、要するに何らかの要因で大量発生した魔物が押し寄せてくることだよ。現在多くの国家がこれに苦しめられている。冒険者ギルドも奔走してるよ」
「なるほど。ところで何らかの要因ってなんだ?」
「ほとんどが自然発生だよ。ダンジョンからの大発生とか生態系が崩れた結果逃げてきたとか。
極稀に人為的なものになるけど……まあ今回は後者だろうね。
昔はスタンピードなんて自然のものだったんだけどね、最近起こっているほとんどのスタンピードが魔族のものだと思って貰っても良いよ。これを使って各種族に攻撃しているから。
そして十中八九今回も魔族が先導しているだろうね」
魔族ね。
「それでスタンピード?が起こったときの被害はどれくらいなんだ?」
「……」
ガザルは黙ったまま何も言わない。
まさかシャレにならないレベルの被害が……?
そんな自分の考えに行き着いたときガザルがなにか呟いた。
「――んだ」
「なんだって?」
「被害は……無いんだ」
「「「……は?」」」
3人の声がハモった。
ふむ、俺達の仲も十分良好のようだな。
……いや、現実逃避している場合じゃない。
「一応聞いておこうか。それは俺の知らないナインダーとか言う単位だったりするか?」
「んな訳あるか!本当に被害が無いんだよ。頭にほとんどってつくがな」
「マジか?」
「マジだ」
「それは……」
おかしいだろう。
一番に紫苑の頭に浮かび上がってきたのはその言葉だった。
だってそうだろう。
召喚の間で言われたのだから。
魔族の被害を受けている。だから勇者達に助けて欲しいと。
だが次のガザルの言葉でその疑問も氷解する。
「その分属国に支援を回しているから、現状は他の国とどっこいってところだがな」
なるほど、そういうことか。
おかげで自分のなかにあった疑念は無くなった。だが……
「被害が無い理由はわからないんだが」
自分の中に生まれた新しい疑問は無くなっていない。
それはまだ解消されてない。
「ああ、そうだな……。どこから話したものか」
余程難しい話なのか、頭を抱えて唸っているガザル。
「まずはうちのギルドの現状からだな。今この国にいる最高ランクの冒険者はCだ」
「そいつがスタンピードの切り札なのか?」
「いや、違う」
「じゃあ何なんだよ!」
煮え切らない話につい勢い余って両足で地団駄を踏んでしまう。
「逆ギレすんな!最後まで聞け!そしてそれはただのジャンプだ!」
俺が渋々頷くと、ガザルは頭痛でもあるのか、こめかみを押さえて話を続ける。
心配だな。
「ギルドは世界中にあるが、だいたいのギルドではBランクが大勢とは言わないがそれなりにいる。Aも珍しく無いし、Sも稀に見かける。……黙れ」
それって逆にまずいんじゃ無いのと言おうとしたが、先んじて止められた俺は目を逸らして間抜けに「あー……」と口をぱくぱくさせていた。
「残念ながら王都に高位の冒険者が集まりにくい」
そこで言葉を切ってジロリとこちらを睨み付けてきた。
大丈夫、何も言ってないよ。
目を逸らして「あー……」って漏らしてるだけだから。
「もちろんそれには理由がある。王都の周りでは上位の冒険者にとって稼ぎが悪いんだ。強い魔物を狩ることができないことが原因だ。彼らからすると、稼ぎの悪い雑魚ばかりを狩ることになる。理由は……うちの姫さんと王子だ」
そこまで言ったガザルの視線がフッと遠くへ。
その姿からはどこか哀愁が漂ってくる。
何があったのかわからないがそれなりのことがあるのだろう。
「あいつらはな、時間を見つけては暇つぶしとばかりに、出現した端から大物を狩っていくんだ。そのせいで王都周辺からランクの高い冒険者が減っていった。安全なのは良いことだがな?その分高位冒険者向けの討伐以外の依頼がたまっていくんだよ……」
なるほど。それの処理に追われていると。
ガザルは書類を処理できているっぽいが、別にそれが得意というわけではなさそうだからな。
きっと大変なんだろう。
勉強とかめんどくさいからな。
それにしても……あの二人も強かったんだな。
正直驚いた。
ハドルスはサタナルに守られているのかと思っていた。
リリーは言わずもがな。少し会っただけだったが戦えるとは思わなかった。
まあこの世界にはステータスなんてものがあるんだ。見た目で判断したら痛い目をみるな。
気を付けないといけない。
「それではその二人が対処するから被害が無いのでしょうか?」
「いや、あいつらは直接関わってはこないんだ。スタンピードの対処は、ギルドからの依頼という形で知らせて参加者を集うことになるが、そこに王国の騎士団が追加される。人類最強の一角といわれているサタナルが鍛えている騎士団だ。かなりの戦力になる」
ここまでに何度か強者だと聞いたサタナル。
王子と王女が言っていたから無条件に信じていたが……。
今こんなことを考えている場合じゃ無いのだろうが、強いと聞くと気になるのが俺だ。
「なあ、本当にサタナルってのは強いのか?」
「知らないんですか!?あの人を」
「魔法は超一流。身体能力は人外レベル。正真正銘の化けもんだよ、あいつは」
「万の軍勢を追い払ったとも聞いているよ」
どんなやつだよ。聞く限りじゃチートじゃないですか。
と言うか……。
「『あいつ』ってサタナルのことを知り合いなのか?ガザル」
「ああ、何度も会う機会はあったからな。で、評価はさっき言ったとおりだ」
ゲンナリとした表情で言ったのは、先の二人に対してと同じで、何かあるからなのか。
だがそれでも、どこか認めているような風であった。
ガザルに掛け値なしで認めてるってのはすごいと思う。まあ、今じゃ俺の方がステータスでは勝ってるからな。
どうなんだろうか、と考え始めた紫苑は、そのときの自分を見ていたガザルの目元がぴくりと動いたことに気づけない。
「話を戻すぞ?王国の騎士団が出張ってくるって言ったがそれだけじゃない。後方支援も充実している。ポーションの類いを惜しみなく使ってくれるから、怪我をしても後ろに下がればすぐに復帰できるし、最悪即死じゃ無きゃ姫さんが直す。魔法師団もあるし、姫さん直属の回復に特化した部隊もある。とりあえず負ける要素が無い。だめ押しだが、万が一都市を覆う城壁を突破されたらサタナルが出る。……負ける要素が無いんだ」
大事なことだから二回言いましたってか?
……まあ確かに、話が本当なら負けそうに無いのは確かだ。
「王女様は戦闘だけでなく回復魔法も得意なのか?」
「逆だ。そっちの方が得意なんだよ。まあ、三人の中では戦闘能力は低いが、それでも十分強い。それに回復魔法では無く癒術って言うらしい。実は回復魔法にも差があってな、水の回復魔法は自己回復能力の強化、光の回復魔法は純然たる再生。それに対する癒術はHPへの回復行為によるフィードバックにより傷が治るとか言ってたけど俺にはよくわからん」
へえ、回復魔法に棲み分けがあったんだな。
回復魔法が説明された通りなら、筋肉痛の時回復は使わない方が良いな。
修復ってことはせっかくの努力が、鍛える前に戻ってパアだからな。
代わりに治癒を使えば、トレーニングで壊れた筋肉の再生を早められて、かなりの筋力アップが見込めそうだな。
それから、癒術のHP回復によるフィードバックってのはおそらく、HPがこれだけあるんだからこの傷があるのはおかしい。だからこの傷は存在しない、とかそんなところじゃないか?
まあRPGのゲームなんかを知っていると普通に行き着く結論だよな。
ともかく王城の連中が勇者いらないんじゃ無いかってレベルで強いのはわかった。
これに関してはいろいろと疑問が尽きないがとりあえず置いとこう。
後で聞けば良いしな。
「とりあえず言いたかったのはのはスタンピードの恐れがあるって事と、たとえそうだったとしても大げさに心配する必要はないってことだ」
「まあ、今の話を聞いたら不安はかなりなくなるな」
「それどころか冒険者にとってはお祭り騒ぎになる。死ぬ恐れが少なく、大量の魔物が狩れるからかなり稼げるうえに、昇格のためのポイントも貯まる」
そりゃあ、お祭り騒ぎになるわな。ボーナスタイムみたいなもんだからな。
「とまあ、これで話も終わりだ。実質明日から冒険者としての活動を始めるお前らだが、冒険者は自由に行動できることがウリだ。だがそれにも実力が必要になる。確かな形としてな。そこでだ、予定がないなら一か月位、この国に留まったらどうだ?まだ未確定だがスタンピードがあるかもしれないからな」
「……考えとくよ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
スタンピード。
ガザルは未確定なんて言っていたが、あの口ぶりだと、ほぼ起こることを確信しているのだろう。
となると一ヶ月待ってみるか、少ししたら出て行くか。
「――ま……――さま、――シオン様!!」
迷うな、などと考えていると、いきなりフクシアのかわいらしい顔がドアップで視界に入ってきた。
「うおっ!?」
思わず驚いて奇妙な声とともにのけぞってしまった。
「……酷いのです、シオン様。乙女の顔を目にしてうおっ、などとは」
「悪い悪い、ちょっと考え事しててさ」
「ご主人、かなり集中してたんだね。何回もフクシアが呼んでたのに気づかないんだもん」
口をとがらせてすねたように言うフクシアに、頭をかきながら謝ると、ライムが笑いながら言った。
「そうだぞ、主よ。わたわたして、かなりかわいかっ――ゴホン、かなりかわいそうだった」
うんうんと頷きながらフィラムが苦言を呈してくるが……今なんて言おうとした?
「それよりシオン様」
くいくいと紫苑の袖を引っ張って注意を引くフクシア。
オドオドと、周囲に何か恐ろしいものでもあるかのように首をせわしなく動かしている。
小動物みたいだな。
「偉い人に怒られる前に出て行くのですよ。まだ間に合うのです。ここってお城ですよね?早くするのですよ」
ん?ああ、フクシアには説明してなかったか。
「大丈夫だ。ここ、俺の部屋だから」
「え……?」
「明日、その偉い人に会うから」
「ええぇぇ〜〜!?」
「あ、もちろんフクシアも強制参加な」
「ええええぇぇぇ〜〜〜!?」
フクシアの絶叫が偉い人の城の中に響き渡った。
気付いたフクシアが涙目だったが、城の人怒られる事は無かった。
よかったな、フクシア。
え?なんでそんな非難がましい目で見てくるの?
驚く下りまで持って行こうとしたらかなり伸びました。後悔は……してるかもしれないし、してないかもしれない。




