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第70話 お昼ご飯はシリアスの香り



――コンコン


「フクシア、入るぞ?」


「はい、大丈夫です!」


ノックをすると、中でもぞもぞと起き上がる気配がした後、元気な返事が聞こえた。


「どうだ、フクシア。気分悪かったりしな……うごッ!?」


部屋に入るとフクシアが獲物を狙う虎のように飛び付いてきて、部屋の外に吹き飛ばされてしまった。ついでに変な呻き声が出た。


「とっても元気です!!」


「みたいだな……」


わかるよ、めっちゃ痛かったもん。ビックリしたよ。


飛び付いてきたフクシアはとても良い笑顔だ。

上目遣いで俺の顔を見つめてくる。

……かわいいじゃねぇか、ちくせう。

会って初日で、犬の尻尾が千切れんばかりに振られているのが幻視できるって、どうよ?

俺は心配だよ、この子の将来が。

誰かに騙されるんじゃないかってな。……既に騙されたから奴隷だったんじゃ?


……よし、自己紹介だ、自己紹介しよう。うん、それが良い。


「フクシア、俺の仲間を連れてきたんだ。紹介しようと思ってな」


「仲間、ですか?」


「おう、そうだ。みんな良い奴等だから、怖がる必要はないぞ?」


「子どもじゃないんですから、怖がったりしないです!」


子ども扱いがお気に召さなかったらしく、頬を膨らませて此方を睨んでくる。

怒っていてもかわいらしいのは変わらないので、膨らんでいるほっぺたをつつきたくなったが、さすがに子ども扱いし過ぎかと思い直し自重する。


「悪い悪い」


「ふへへ~」


フクシアの頭を撫でると許してくれた。……チョロ過ぎませんか?


「ほら、こいつらが俺の仲間だ。右から、ライム、フィラム、サリー、デニスだ」


「ライムだよ!よろしくね、フクシア」


「フィラムだ。よろしく」


「サクリア・バランと申します。サリーと気軽に呼んでください」


「デニス・アゲイルだよ。デニスって呼んでね」


つつがなくライム、フィラム、サリーと自己紹介を終えたのだが、デニスの時に俺の後ろに隠れてしまった。

怖がってんじゃん。


「おっと、どうやら僕は嫌われてしまったようだね」


俺の後ろから少しだけ顔を出しているフクシアの様子に、デニスは苦笑していた。


「……腹黒がばれたんじゃね?」


「なにか言ったかな?」


「んにゃ、なんも」


耳が良いのかデニスに聞き咎められてしまったが、どうやら内容までは聞こえてなかったみたいだ。

危ない危ない。


「ところでフクシア。これからどうするんだ?」


「これから……です?」


「そうだ。解放された訳だから、自由だろ?なんかないのか?」


「私は……、私は――」


――キュルルルル


なにか考え込むように俯いたフクシアが、なにか言おうと顔を上げた時にかわいらしい音が鳴った。

フクシアは此方を見上げたまま口をパクパクさせていたが、ぼふっという音が聞こえそうな程、瞬間的に顔が真っ赤に染まる。

つい笑ってしまった。


「よし、ならまずは昼飯にしようか」


余程恥ずかしかったのか、赤面して俯いたままのフクシアの頭に、ポフポフと手をのせる。


「デニス、良い店に案内してくれよ。奢るって言ったろ?」


「へえ、覚えていたんだね。あれは君からしたら1ヶ月前の事だろう?」


「ついでだ、ついで」


爽やかフェイスから一転、悪どい笑みに変わったデニスを早よ行けと促す。

見ろ、フクシアが更に怖がってんじゃねーか。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「へえ、美味いじゃん『宵闇亭』」


デニスに連れてこられたのは、大通りから外れた道にある店だった。

外装はボロッちいが、飯を食ってみるととても旨かった。

フクシアには腹に優しいものを用意してもらった。

彼女はいままでろくな物を口にしていなかったのだろう。

注文したものが出てきた時には、余所様には見せられないような表情をしていたのでガッつかないように言い含めておいた。


「胡散臭い名前に、余り立ち入らない場所、ボロい店に――」


言葉を切ってちらりと目を厨房の方に目を向けると、俺を睨み殺そうとしているのか、恐ろしい形相のおっちゃんが此方を見ている。聞こえていたようだ。


「厳つい形相の店主」


「おいこら」


「見た目通りじゃないっていう典型例だな」


「貶してんのか、褒めてんのかどっちだ!?」


「言わせんな……、貶してんだよ」


紫苑は鼻で笑っている。楽しそうだ。

勿論これに店主は青筋を浮かべる。


「ほう、良い度胸じゃねぇかテメェ。こうなったら――」


「おっちゃん!こなふんわりボアのシチューっての追加で」


「話の途中なんだが!?……くそっ、なんて客だ」


店主はブツブツ言いながらも注文を片付けに行った。

どうやら真面目らしい。


「どうだ、フクシア。美味いか?」


「はい、とっても美味しいです!」


「そりゃあ良かった。おい店主!誉めてやるよ」


「どこまでも偉そうだなお前は!?」


紫苑はニヤニヤしている。とても楽しそうだ。


「腹も膨れたところで話を戻すけど……フクシアはこれからどうしたい?」


「……」


ギルドでの話の続きを持ち出すと、フクシアは俯いたまま黙ってしまった。

あのときはなにか言いそうだったんだが……。

んー、これはあのまま話を聞いていた方が良かったか?


「良い考えが無いのなら俺たちと一緒に来ないか?もう少ししたら旅に出るつもりなんだが、それでも良いならって事になるけど」


「良いと思うよ、ご主人!フィラムもそう思うでしょ?」


「ああ、良いと思うぞ。どうだフクシア、私達と一緒に来ないか?」


どうせならと思って誘ってみたると、ライムとフィラムにも好評な様で賛同してくれた。

その声にフクシアは一瞬顔を上げたのだが、再び俯いてしまった。

これはあれだな。恐らく赤黒い霧で俺たちを傷つけないかを気にしているんだと思うんだが……。


「あー、フクシア?多分だが、今お前が感じている懸念はそのブレスレットが解決してくれると思うんだが、どうだ?」


これで違ったら俺はただの自意識過剰野郎だな。

恐らく鑑定を使ったのだろう、最初はきょとんとしていたのだが、徐々にその表情が驚愕に彩られていく。

どうやら呪いを外に漏らさないための物だと気づいた様だ。

そして、フクシアの能力に俺が気づいていることにも。


「なん……で……?」


投げ掛けられた疑問には答えず、こう返した。


「まだ俺しか知らないから安心しろ。もちろん言いふらすつもりもない」


「どういうことかな、シオン?」


「プライベートな事だからな。俺の口からは言えないよ」


「そうか……」


デニスも気にはなっている様だが、フクシアに直接聞くような事はしなかった。彼女の顔を見れば言いたくない類いの話だとわかるし、何より怯えられている。


「フクシアも言いたくないのなら言わなくて良い」


「はい……」


「そうそう、良い忘れていたことがあった」


今、さまざまな感情が心の中をうごめいているのだろう。

複雑な表情をしたフクシアをまっすぐに見つめて続ける。


「あれくらいじゃ、俺は死なない。これは事実だ」


ニヤリと笑って告げる。事実と絶対的な自信を見せて。


その言葉が信じられないのか、フクシアは俺の言葉に目を丸くさせて驚いている。


フクシアの過去は知らない。

それでもあの黒い霧の力に苦しめられてきただろう事は予想できる。

悪夢で暴走させたりしてるからな。


だから不安になる必要が無いように。苦しむ必要が無いように。

1人になる必要が無いように。俺が味方だと、伝わるように。


そんな願いを込めてフクシアに伝える。


「どうだフクシア。俺と一緒に来ないか?」


目の前に手を差しのべ、もう一度誘う。


「本当に良いんです?」


「ああ」


「迷惑じゃ……ないです?」


「問題ない」


「夢じゃ……ないんです?」


「良くも悪くも、ここは現実だ」


恐れているのかもしれない。

信じられないのかもしれない。

疑っているのかもしれない。

諦めるのを待っているのかもしれない。


――それでも俺は、彼女が拒否するまで手を引っ込めることはしない。


重たい沈黙が2人の間に落ちる。

彼女が何を考え、何を思ったのかは知らない。

だがやがて、彼女は顔を上げてると同時に言葉を口にした。


「不束者ですがよろしくお願いするです!」


彼女はまるで、花が咲いたかのような笑顔だった。







難しい……シリアス難しい。


『ふんわりボア』

ふんわりしたお肉が特長の猪。とっても美味しい。


必殺技:ふんわり突進→相手はふんわり死ぬ


この世界で迎えてみたい死に形ランキング1位に君臨する恐ろしいマモノ。

あまりのふんわりした突進のため逃げることを忘れた冒険者がよく被害に会う。

1度でも当たるともう逃げられない。

あまりのふんわりさ加減に全てを忘れて身を委ねてしまう。

実は敵が餓死するまで続ける程ふんわり好戦的である。

ランクはふんわりA。



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