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第二話 仮面に黒ローブ

第二話 仮面に黒ローブ


それは、部屋に行く途中の廊下でのことだった。


「サタナル!お兄様!」


前を歩いていたリリーが急にうれしそうな声をあげる。

どうしたのかと前に目を向けて見ると、豪華な服装の男と、仮面を着け黒いローブを纏った見るからに怪しい人が歩いてきた。

おそらく仮面の方がサタナルで、もう一人がお兄様、王子なのだろう。

いや、逆だったら普通に王族に引くわ。


「二人とも帰っていらしたのですね」


「ああ、先程な。ところでそちらの方々は?」


嬉しそうに微笑んでいた王女サマに笑い返して、こちらの事について聞いていた。


「あっ…すみません。こちらの方々は勇者様です」


「なんと!ということは召喚に成功したのだな?」


「はい!皆様の手伝いもあってなんとか成功致しました」


「そうか。良くやったな」


「ありがとうございます」


「勇者様たちが困っておられますよ」


すると仮面の男(?)が口を開いて二人に諭すような口調で伝える。

声的には、男だな。


「おお、すまんな。我がこの国の王子である……ああ……まどろっこしいな。やっと帰ってきたのに国内でもこの話し方は勘弁して欲しい。悪いな、勇者達。普通に話させてもらう」


そう言って王子はトパーズのような黄金こがね色の頭をがしがしと掻く。

今まで見たこの国の王族は、皆金髪碧眼だな。

そばでリリーがクスクスと、笑っている。


「俺はハドルス・ナージュ。この国の王子だ。何か困ったことがあったら。遠慮なく言ってくれ」


自身をハドルスと名乗った男は二カッと破顔する。

……少なくともこの国の王族は俗に言う悪人とは違う様だ。

一応俺達に拉致まがいのことをしているし、まだ完全に信用はできないがな。


「私はサタナルと申します。以後お見知りおきを。実は、訳あって顔を明かせないのです。どうかお許し下さい」


仮面黒ローブが、お辞儀をしながら名前をいう。

胡散臭い。ものっそ胡散臭い。

仮面の理由は気になるがここは聞かない方が良いのか。

デリケートな問題かもしれない。それに好奇心は猫をも殺すと言うからな。……何で猫?


なぜかハドルスはサタナルの挨拶を聞いて、うへぇという顔をしているが。

こちらの視線に気づいたのか咳払いをしたあと、ハドルスは気を取り直して言った。


「こいつは俺の幼なじみでな。俺は一番信用している。更に強い。少なくともこの国では、一番強いだろう」


「いえいえ、人族ではもちろん、他の種族でも勝てるものはほぼいないと思われますよ?」


どうやらリリーも、彼を信用しているようだ。

しかもとても強いそうだ。

……へえ、人は見かけによらないと言うがこれはなかなか極端だな。


「そのような。私などが滅相もない」


サタナルの言葉を聞いてハドルスどころかリリーも、うへぇという顔をしている。

王女のうへぇは見たくなかったな。


「……どうかいたしましたか?」


二人の表情に気づいたのかサタナルが顔を上げて質問した。

2人はさっと視線をそらして言った。


「何でもないぞ」


「何でもないですよ」


「「別におあなたの言葉遣いが気持ち悪いなんて思ってない(いませんよ)」」


いや、隠す気無いだろ。


「そうですか。後でゆっくり3人で話をしましょう」


おそらく仮面の下で青筋でも浮かべているのだろう。

イラッとしているのがわかる口調でそう告げた。


「ちょっ!?それは洒落にならん!」


「私は勇者様方の案内がありますので失礼します」


「なっ!?逃げるのかリリー!」


王子が慌てている中、さらっとリリーは逃げるようだ。

何とも涙ぐましい兄妹愛だな。


やはり幼なじみというのが大きいのか、本人達にしかわかりにくい会話だったが、聞く限りだと今は言葉遣いを変えて話していると言うことだろうか?

そんなことを考えているとサタナルがハドルスの襟首をガシッと掴んだ。

どうやら逃げようとしていたらしい。


「くっ、逃げられんか……それでは、俺は父上に今回の報告をしてくる。後でな(・・・)リリー。勇者達も後で会おう」


「失礼します」


「はい、また今度(・・・・)。時間を取らせてしまって申し訳ございません。では、行きましょうか。勇者様方」


何故か笑顔でにらみ合っている兄と妹。

そしてにらみ合ったままハドルスは引きずられていった。……すごくシュールだ。

真琴はその様子ににっこりと笑って言った。


「すごく仲が良さそうだよね。私たちみたいじゃない?」


「そうか?俺達はあんなに仲が良いか?紫苑は変なこと言うし……」


はっはっは、優は空気が読めないようだな。

真琴が再びニッコリと笑いかける。


「どうしたの?そう思うよね?」


……なぜだろう、さっきと同じなのに圧迫感がすごい。

あまりの圧力に優が頭を高速で縦に振り、それが速すぎて残像が見えるほどだ。


「そ、そうだな……」


俺も頷いておく。

とりえず賛同しておけば大丈夫!怖くないよ?


「それにしても……」


俺は、あの仮面黒ローブに不思議な感覚を抱いていた。

なんとも形容しがたいが……そう言うなれば――


「皆様着きました。この部屋です」


そんな俺の考えはまとまることなくリリーの言葉で霧散した。





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