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第51話 失敗

第51話 失敗



6日目


ギルドの中は大きな喧騒に包まれていた。

理由は簡単。

多くの冒険者が転移の罠によって消えたからだ。


「おい!消えた奴等、まだ誰も帰ってきていないのか!?」


「前触れだよぅ!きっと不吉なことが起きる前触れなんだよぅ!」


「何であんな上層に罠があるのよ!うちのリーダーが帰って来ないんだけど、どう責任とってくれるの!?」


声を荒げ、安否を確認する者。

不安に顔を青ざめさせる者。

怒りに身を任せる者。

反応は様々であった。


ダンジョン内にあり得ないほどの転移の罠が発生したのが昨日のこと。

それにかかってしまった冒険者は未だに帰還していない。

しかも、今まで転移の罠が確認されていなかった上層でもだ。

これは確実に異常事態であった。

ギルドでは多くの職員がその対応に追われ、右往左往していた。

勿論、危険であると判断されダンジョンは封鎖している。


「ちくしょう!」


だん!と言う鈍い音と共に、後悔の念を滲ませた声が上の部屋から響くと共に、人々は上を見て一瞬静まり返る。

だが、すぐに元の喧騒を取り戻し、記憶からは薄れていった。

今は目の前のことに忙しいのだ。

音の発生源はギルドマスタールーム。

そこには3つの人影があった。


「落ち着いて下さい、教官」


「そうですよ、そんなことをしても何も始まりません」


握り込んだ拳を机に叩きつけた格好の男に、少年と少女が落ち着くように促す。


「ああ、すまん。俺が一番しっかりしていないといけないのにな」


自嘲げな笑みを浮かべて言葉を吐き出す。

そこには色濃い後悔の念が滲んでいた。


「そうだ。俺がもっとしっかりしていれば………」


そう言い、思わずといった様子でギリッと歯を食い縛る。

そうしないとまた机を殴ってしまいそうだから。

自らの不甲斐なさに叫んでしまいそうだから。


「それは違いますよ」


しかし少年はその言葉をすっぱりと切り捨てる。

有無を言わせぬように、反論を許さないように。

それはもうすっぱりと。


そしてその続きを少女が口にする。


「その通りです。私達は『冒険者』。自分の命は自分で守る。その覚悟があるから冒険者になったんです。助けられて礼を尽くすことはあっても、助けないからといって憤るような権利はありません。私達は『自由』なんですから」


人を助けるも助けないも個人の判断の自由。

そこで助けられなかったからと言って責められる謂れはない。

彼女は暗にそう言っているのだ。


「とは言っても、それで割りきれるかと言ったらそうではないんですけどね」


そう言って悲しげに微笑む。

彼女もまた、仲間が消えたのだ。

平然としているように見えるが悲しみは既に受けている。

今はただ、彼の存命を祈るばかりだ。


なにもできなかった自分を責めているのはガザルだけではない。

ここにいる3人が皆、目の前で仲間が消えていくのを何もできずに眺めていることしかできなかったのだから。


「すまないな。俺が慰められるような形になっちまった。これじゃあ、あいつに呆れられちまう」


脳裏に浮かぶのはとある青年の姿。

昔からの馴染みで自分よりも若い筈なのに何度も助けられた。

まあ、同じくらい迷惑をかけられたが。

………助けられるような事態になったのもほとんどあいつのせいじゃなかったか?

今更ながら気付いてイラッとしたが、今はそれどころではないので押さえ込む。

次に会ったら一発殴ろうと決意して。


「現在、高ランクの冒険者にダンジョンの調査をしてもらっている。

それが済み次第、可能な限り、転移した冒険者を探しに行く。お前たちも付いてくるか?」


「勿論です!ね?デニス」


「僕も異論は無いよ、サリー。彼とは一時的ながらもパーティーを組む予定なんだから、消えてもらっては困るからね」


少し黒い笑みを浮かべて答えるデニス。

実はこっちが素顔だったりする。


「おいおい、いったい誰が消えたって?」


「えと……マスター。お客様です」


どこか楽しげな声が聞こえ、遅れて事後報告がくる。


「なっ!」


「あっ!」


「へぇ」


マスタールームでは3人がそれぞれ反応を示す。


「驚いてくれたかな?」


喜色が混ざった声でそう告げる。

受付嬢の申し訳なさそうな表情を見るに、この為だけに協力させたか何かしたのだろう。

人が心配をしているのにはた迷惑なものだ。


「シオン!」


「よう、皆おひさ!ってのは俺だけか」


右手を挙げて挨拶をして、その感覚が自分のだけのものだと気付き、苦笑した。




時間は少し前に遡る。




ジーバに五階層に送られた紫苑達は、1ヶ月ほど前の記憶を頼りに進んでいた。


「う~む。右であってるかな?」


「違うよ、左のはずだよ」


「おお、ありがとう。助かるよ」


「えへへへ」


頭を撫でると嬉しそうにはにかむライム。

喜んでくれるから撫でがいがあるってもんだな。


俺とは違い、道をしっかり覚えているライムの指示に従って進むとすぐに二層までついた。

何でも、1度見たこと、あったことは大体覚えているらしい。

ライムさんマジハイスペック。

あれか?暴食の力か?

あらゆる物を取り入れるってぐらいだからな。

記憶もなんとかできたりするんだろうか。


あ、現在フィラムは空気です。

道を知らないもんね。

仕方ないよ。


「主、何だか失礼な事を考えてないか?」


「いやいや、そんなことはないよ」


全力でしらばっくれる。

俺の周りの人、鋭くない?


そんなことを考えていると気配察知に何かが引っ掛かった。

どうやら人のようだ。


「おい、2人とも。人化を解いて小型化、俺の肩に乗ってくれ」


理由も聞かず頷いてくれる。

信頼してくれてるってことかな。

なんだかこそばゆい。

2人がそれぞれ、スライム、蜘蛛の姿になって肩に乗ったのを確認してスキルを発動する。


「隠密、偽装、隠蔽」


隠密で気配を隠し、偽装で認識をすり替え、隠蔽でそれすらも隠す。

更に


「〈消音ロストノイズ〉」


自分達から出る振動、つまり音を振動操作で消す。

これで完了。

相手からの音は聞こえるようにしてある。

振動操作マジ便利。


ジーバの話が真実なら冒険者の多くが罠によって強制的に転移させられているはずだ。

となれば原因やこれからの対策を取るために下調べをしているのだろう。

そこに俺がのこのこ現れればどうなるか。

質問攻めにあうならまだ良い方だ。

下手したら俺がこの事態を引き起こしたと思われるかもしれない。

そうなれば後から真実を話しても信じては貰えまい。

証拠も無いしな。


ここは静かに通りすぎる方が無難だ。


「おい、ほんとにこっちから人の気配がしたのか?」


「ああ、その通りだ。ついさっきまでな」


「ついさっきまで?どう言うことだ」


「気配が消えたんだよ。完全にな」


「マジかよ。それが本当ならかなりの隠密持ちだな」


あぶね――!!

気配を全力で隠して良かった。


「確かこっちから気配がしたんだが………」


「気を付けろよ。敵かもしれない」


「ああ、わかってる」


冒険者の集団が少しずつ近づいて来ている。

さっさと離れよう。


「あ……」


カッ!と足元にあった石を意図せず蹴っ飛ばす俺氏。

しかし音は発生しなかった。


消音ロストノイズ〉掛けといて良かった~。

助かったぜ!


その時俺は油断していた。

確かに俺は自分達の周囲に〈消音ロストノイズ〉をかけている。

しかし、少し離れればそれは範囲外だ。

よって蹴っ飛ばした音は聞こえなくても石が転がっていく音が途中から(・・・・)発生するのだ。


「誰だ!」


ぬあ!やっちまった~。


爪が甘い。

どこまでもアホである。


『アホ主』


言われてしまった。


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