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第一話 謁見の間

第一話 謁見の間


今俺達は、先導するリリーの後ろにつ付いて、王座とやらがある方へ歩いている。

俺は体に精神が戻って来る直前の黒い影について考えていた。


シェリーが驚いていた所を見るとイレギュラーであるのは間違い無いだろう。

まあ、今のところ何も起こってないし考えても仕方がない、か……。


「どうしたの?七星くん」


紫苑の横からのぞき込むような形で不思議そうな表情をした真琴が見上げて来た。


「……ちょっと考え事をな」


考え込んでいたので答えるのが少し遅れてしまったが、笑って誤魔化した。

無駄に心配をかける必要は無いからな。


「大丈夫だよ!あのリリーって人も優しそうだしきっとなんとかなるよ」


どうやらそれを俺が不安そうにしていると解釈されたらしく励まされてしまった。

見当違いではあるのだが、心配してくれるのは控えめに言ってもうれしいものだ。

どこかのアホはお上りさんみたいにキョロキョロしてるだけで何の役にも立っていないからな。

全く嘆かわしい「おいこらなんで俺に飛び火してんだちょっと無視すんなよ待てやァァァァァ!!」

ここは素直に感謝を――


「それにしても流石の七星君もこんな時は不安になるんだね」


「はいぃぃぃ?だーれが不安がってるって?もし俺のことなんだとしたら見当違いも甚だしいですな、はっはっはっはっは」


そう言って、新しい玩具を見つけた子供のように、ニヤニヤとうれしそうに笑っているものだからつい言い返してしまった。

……言ってから気づいたんだが、本当は不安がってたのに虚勢張ってる奴の台詞みたいだな。

まずい。ありもしないことでこれから二人にいじられるとか屈辱以外のなにものでもないんですけど。


「皆様。この扉の先に、この国の王がいます。くれぐれも粗相のないように……」


リリーの横に付いて歩いていた老人が扉の前で振り返り、俺達を見渡してそう言った。

老人といっても老け込んでる訳でもないし、背筋ものびている。

おまけに眼光も鋭いような気がする。

ナイスシルバーって感じだな。

んでその爺さんが俺を睨んでる気がするんですけど。

うるさかったですかそうですか、誠に申し訳ありませんねあ゛あ゛ん?


「謝るのか文句言うのかどっちかにしろよ?」


――スゥ、バチン。

今のは俺が息を吸い込み、その俺の口を優が思いっきり押さえた音だ。痛いんだが。


「なんでそこで文句言う方を選択すんだよ!?」


「売られた喧嘩は買わないと失礼だろうが」


「なんたる常識の欠如!?」


うるさいな優。俺はこの場で騒げるお前の方が常識無いと思うぞ?


「ぐふっ!?」


どうやら俺より常識が無いと言われたことが余程ショックらしく胸を押さえて黙り込んでしまった。

……殴るぞ?


「それでは参りましょう」


静かになったのを見計らい、微笑んでそう言ったリリーに着いていき、開かれた扉をくぐった。


そこは、きらびやかな装飾がなされた部屋だった。

ごてごてと悪趣味に飾り付けられているのではなく、飾り付けさせた人の気品をうかがわせる。

そんな雰囲気だな。


部屋の左右にはたくさんの人が立ち、視線はまるでこちらを品定めしているようだ。

風もないのに少し肌寒くなったような気さえする。


正面には二つの豪華な椅子が鎮座し、そこにはこれまた豪華な服装の男性と女性が座っていた。


揃った俺達を見渡して、豪華な椅子に座った男性が、おもむろに口を開く。


「勇者達よ。ようこそ我らがドーザ王国へ。私が国王マリオス・ナージュである。まずは、こちらの都合で召喚したことを謝罪させてほしい。すまなかった」


どうやら国王らしいその男性は、言い終わると同時にこちらに頭を下げる。

その姿すらも、どこか統治者としての風格を窺わせるものがある。

すごいな。


機先を制して謝ってくる人に対しては人間なかなか非難しづらいものがある。

非難の声を抑える方法としては非常に上手い方法だと思う。


それに王が頭を下げるってのはこの上ない誠意の示し方でもある。

仮にも一国の王だしな。


「頭を上げてください。そこまで考えていて俺達を呼んだってことは、何かしらの事態が切迫しているってことでしょう?俺に出来ることなら手伝います」


いきなり頭を下げられたので驚いたのだろう、こちらから慌てたように声が上がる。


こいつ、勝手に決めやがった。

マリオスに言葉を投げ掛けたのは海野だ。

正義感が強いのは良いことだが周りの迷惑も考えてほしいものだ。

こいつの性格は周知の事実なので、皆諦めて、仕方ないな……みたいな顔をしている。

それでいいのかお前ら。


「そうか。すまぬ」


王サマもすっかりその気のようだ。

クソ、俺も手伝う羽目になるのかね。


「おい、どうするんだ?紫苑」


「そりゃあ手伝うしかねぇだろ。雰囲気的に……」


俺に聞いていながらも、優は半ば諦めたような表情だ。

さすがに今更「あ、やっぱなしで」などと言うことはできない。


そこからは今の状況について説明を受けた。

魔族は数こそ人より少ないが、個々の能力が高いらしい。

王サマが言うには、五年前から魔族とやらの動きが活発になり、三年前には襲撃を受けたそうだ。

その襲撃が今も続き、国の資源は枯渇状態。

他の国も襲撃を受け、自国で手一杯か、我関せずという感じだ。

数百年前から、和平を保ってきたらしいがいきなりだったらしい。

その原因と思われる魔王を討伐、もしくは捕縛してほしいとのこと。

しかし原因が人族にあるなら、早急に対処し、和平に再び持ち込みたいと。


話を聞き終わったクラスメイト達は割と乗り気な様子。

こいつらは自分勝手なのに変に優しいんだよな。

まあ終わったら帰れるかもしれないってのが大きいかもしれないけど。

そんな俺を現実に引き戻したのは、とあるバカの一言だった。


「そうか、やってくれるか。勇者達よすまない。それではリリー、あそこへ案内してさしあげろ。終わり次第客間へ……」


「客間?ふかふかのベッドはある?」


客間と聞いた瞬間、今まで船を漕いでいた奴が目を見開いた。

それはもう、カッ!という効果音が付きそうな勢いで。


「あ、ああ、あるぞ。勿論最高品質の物だが」


いきなり声をかけられたので驚いている王サマ。

今まで寝てた奴が急に起きて声をかけてきたら驚くわな。


「そう……。楽しみ」


楽しみ。じゃねーよ!?

寝てたくせになんでピンポイントに布団の話題で目ぇ覚ましてんだよ。

話を遮った上、いきなり話しかけるとか不敬罪になんないよね!?


どうやらあまり気にしていないらしく王サマも苦笑しているだけだった。

良かったな首はねられなくて!


「……わかりました。勇者様方、こちらへ」


何もなかったかのように微笑んで次に進む王女サマ。

リリーさんは遂にスルースキルを手に入れてしまったようだ。

いちいち真に受けてたら、こいつら相手だと身が持たん。

正しい判断だと思うよ。


リリーが先ほどの扉から出ていこうとするので俺達も着いていく。


直前で「頑張ってくださいね」と、王妃サマがにっこりと微笑み、柔らかな声で言ってきた。

人見知りなのかと思ったが、違うのだろうか。

俺は雰囲気と通りの声だな、割とどうでも良いことを考えながら、扉をくぐった。




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