第39話 悪い気はしない
第39話 悪い気はしない
「属性魔装:雷」
フィラムが手にした糸の鞭から黄金色のスパークがうねり、弾ける。
断続的にバチバチと音を立てる電気が鞭にまとわりつき、周囲を明るく照らす。
「行くぞ、恐竜よ!」
「ゴガアアアアアアァァァァァァァ!!」
フィラムの声に答えるように咆哮を上げる恐竜。
恐竜に向かってフィラムが駆け出す。
「当たらんぞ!」
駆け出したフィラムの足元から、金属柱が飛び出すも危なげなく避ける。
走り、近付いていく彼女の足元から次々と金属柱が飛び出すが、どれ1つとして彼女を捉えることは出来ず、その姿を晒すのみに留まる。
軽やかな動きで金属柱を避け続け、着実に距離を縮ていく。
「〈蒼炎の槍〉!」
3本の槍を放ち、フィラムの接近を楽なものにするため援護をする。
恐竜も学んだのか、地面から壁状の金属を出し、内2本を防ぐが1本が命中する。
距離が縮まり、射程圏内に恐竜を捉えたフィラムが鞭を振るう。
バリッと言う音と共に鞭が接触した。
「ギャアアアアァァァァッッ!!」
先程鞭で打ったときよりも大きな悲鳴。
当たり前か。
鞭のダメージも少しは通っているだろうが、やはり雷だ。
金属で出来た天然の鎧などものともせずに本体に電撃を届かせるのだ。
耐久に能力が大きく割かれているこの恐竜には、大きなアドバンテージとなる。
「まだまだ!」
怯んだ隙に更に鞭を振るい、衝撃と共に電撃を何度も流し込むフィラム。
少しずつ、だが確実にダメージを与えて行っている。
それも、倒すのが難しくない速度で、だ。
魔装を覚えさせたのは正解だったな。
ガザルにも少しは感謝しとくか。
ここで魔装について少し詳しく説明しておこうか。
魔装とは武器に魔力を流し込み、表面に漏れ出た魔力により武器を強化するスキルだ。
ここで重要なのが武器に1度魔力を通すこと。
これをせずにただ魔力を纏わせるだけだと、すぐに拡散し霧散する。
魔力を通すことによって、武器との親和性が高まり、拡散が防げるのだそうだ。
別に魔力操作が上手い者は纏わせるだけでも大丈夫だそうだが、やるものは少ない。
わざわざ疲れる方をとる物好きは、早々居ないだろうからな。
……まあこれは全部ガザルの受け売りだが。
そして属性魔装。
これの概念をガザルに話したら、『武器がすぐにぶっ壊れるじゃねえか』とのダメ出しを貰った。
当たり前だ。
1度魔力を通し、それを武器に纏わせると言う方法なのだ。
漫画やゲームのように、剣に炎を直接纏わせて使えば悪くなるのは必然と言える。
例外として魔力を流すだけで炎が吹き出たりする武器があるそうだが、そもそもが人の力による魔装ではなく、武器の性能に依るものだ。
高性能な武器に頼れば無理矢理の属性魔装が使えるだろうが、やはり武器には悪いだろう。
そこで、出てくるのが俺考案の属性魔装だ。
至ってシンプルで簡単な方法だ。
武器に纏わせるから武器が壊れやすくなる。
ならーーー直接纏わせなければいい。
意味わかんないって?
簡単さ。
普通の魔装の上に、属性がある魔力を纏わせれば良い。
お手軽にして簡単、だろ?
魔装の2層構造と言うわけだ。
普通の魔装のでコーティングし、武器を守り、更に魔装を重ねる。
それに属性を持たせるだけのこと。
それで問題は解決した。
魔装はそう簡単に他の魔法を通さないからな。
フィラムの糸鞭が燃えないのもこれのお陰だ。
「雷纒飛刃」
フィラムの左手首から、硬化した刃状の糸に雷を纏わせた物が発射される。
蜘蛛糸の秘伝により、糸の硬度もある程度は操れる。
弾かれ、刺さることはないが、着実にダメージを重ねていっている。
遠距離の攻撃もバッチリだ。
「グラアアアァァァァァァァァアアアアアア!!!!!」
ダメージと共に怒りも積み重ねて居たのだろう。
恐竜がフィラム目掛けて突進を開始した。
顔の金属に変化が起こり、角ののようなものが左右から発生する。
ライムが魔法で気を逸らそうとするが、効果が無いようだ。
作戦通り俺は魔法を発動する。
……手順の効率が少し悪くなるが致し方ない。
「〈凍結する床〉」
今回は範囲を絞り、進行方向に凍結する床を発生させる。
恐竜が転けた後は鞭で天井に上り、巻き添えから逃れる手はずになっている。
たが、得てして常に作戦通りになることはないのだ。
「なにっ!?進めているのか!?」
前回はあんなに簡単に転けていた恐竜だが、今はしっかりと地面を踏みしめ、滑ること無く走っている。
この場合の一番の懸念事項である、体重による氷の破壊を疑ったが、微妙に外れていた。
恐竜は足の裏の金属を変化させ、スパイクのようにして滑ることの無いようにしていた。
完全に想定外だ。
フィラムも驚愕し、体が硬直している。
このままではまずい。
今のフィラムの耐久では危険だ。
その考えが浮かんだ瞬間に、俺は動いていた。
瞬歩を行使し、フィラムの元へ急ぐ。
これからしようとすることに自分ながら驚きつつも、間に合え、と思う。
後悔は……ないな。
かくして、俺はフィラムを助けることに成功した。
瞬歩でフィラムの元に着いた俺は、彼女を突飛ばし、少々乱暴なことを頭の中で謝りながら、自らの身を守るために剣を抜こうとした瞬間、視界がぶれた。
次々と視界が移り変わるなか、景色の変化が止まった。
どうやら壁にぶつかったらしい。
左手の感覚が無い。
やらかしてないと良いが。
壁に寄りかかりながら人心地つく。
「主!」
顔を真っ青にしたフィラムが俺の側まで飛んできた。
「主………左腕が……」
「あん?」
まさか千切れたりしてないよな、と恐る恐る腕を見ると腕は繋がっていた。
ただし、大きな穴が空いていたが。
恐らく、作り出した角が運悪く刺さったのだろう。
いや、心臓等の急所に刺さって居ないだけましか。
生きてるし、この程度なら魔法で回復できる。
麻痺しているのか痛みもそんなにない。
「脅かすなよ。繋がってるなら治せる。それと突き飛ばしたとき、怪我は無かったか?」
「それは問題ない……。だが、私のせいで主は……本当に申し訳ない…………謝るのは私の方なのに」
……謝るのは私の方?
ああ、突き飛ばす直前の考えが伝心で漏れたりしたのかもな。
「気にすんなって、俺のせいでもあるんだし。俺は大丈夫だからあいつの相手をしてこい。このままだとライムが倒しちまうぞ」
そうです。
ライムさんは現在ちょっとキレてます。
「よくもご主人をぉぉぉ!!」
修羅もかくやと言う様子で、恐竜をぶん殴っている。
両腕をスライム特有の粘液状の物に戻し、それを伸び縮みさせて殴っているのだ。
ドパンっ、とかすごい音がして、恐竜の顔が横にぶれている。
あ、顔の金属が少し溶けてるから酸撃も入ってるな。
まさに惨劇のような顔!!
…………なんだよ!!
「だが、ご主人を置いては行けない……」
ふむ。
こいつは変なところで頑固だからな。
無理矢理の行かせるのは無理だろうし……。
よし、これでいこう。
「なら、俺が回復する時間を稼いできてくれ。すぐにそっちに向かうからさ」
「たが……」
「ほら、行った行った。俺のために時間を稼いできてくれ」
「…………わかった」
「…………ふう」
不満そうだったが、フィラムが恐竜の元に戻って一息つく。
俺のためにってことで誘導したら何とか上手く行ったな。
根本的な所にある『俺のために』って事は変えずに、目的を与えるのが重要だな。
……でもまあ。
向こうではこんな風になって、心配されることも無かったからな。
……喧嘩は負けたこと無かったし、大怪我もしたこともない。
悪い気はしないかな。
「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」ゴパンっ!!!
……ライムさん、性格変わりすぎじゃありませんかね?




