第37話 幕開け
第37話 幕開け
以前にも話したが、微睡みの途中は筆舌に尽くしがたい。
雲に揺られる様でもあり、波に弄ばれる様でもある。
睡眠と覚醒の狭間を揺れ動くのは、至福の時間だ。
うん、ぶっちゃけ朝辛い。
早起きは苦手。
そんな瞬間に――
「主!朝だぞ。さあ、起きるんだ」
――目の前に美少女がいたらびっくりしても仕方ないだろ?
「ん~…………ぬおッ!」
ゴチンと鈍い音が周囲に響く。
デジャブだ……。
未だ回転速度の上がらない頭でそんなことを考える。
「っっっ!痛いぞ、主!何をするのだ!」
俺が頭を押さえている後ろで美少女が怒っている。
「痛~~!…………すまない」
「二人とも大丈夫?」
ここで呆れずに気遣ってくれるライムは、流石だと思う。
「大丈夫だ……」
右手で頭を押さえたまま、左手を軽く挙げて答える。
「私も問題ない」
そう答えたのは、先ほど頭をぶつけてしまった相手。
既に少女と言うより、女性の領域に入りかけつつある。
しかし、どこかあどけなさが残るその顔は、頭をぶつけた痛みのせいか少し涙目だ。
シルクのような白髪に、これまたシルクのような白い肌。
髪は腰元まで流れ、ミルクの流れのよう。
こちらをにらむ双眸は深い緑。
純白の中に2つの碧玉が覗き、どこか気品が漂う。
かわいいと言うよりも、綺麗の方が似合うだろう。
いきなりの少女の出現だが、以前にも同じ様なことがあった。
予想のままに問いかける。
「おそらく……どころじゃなくほぼ確定だが……お前フィラムか?」
「そうだ。朝一で頭突きとは酷いではないか」
恨みがましい視線を向けてくる。
睨んでいても綺麗なんだから美形は得だな、等とくだらない事が思考の隅に浮かんだ。
「悪かったって。びっくりしたんだよ」
フィラムはまだ不満そうだったが、許してくれたようだ。
言い訳をさせて貰えるなら、昨日確認したときには人化のスキルは無かった。
「フィラム、どうやって人の姿に為ったんだ?」
「ライムに人化のスキルを教えて貰ったのだ。私だけ人の姿で無いのは寂しいからな」
寂しいからって理由で人の姿になれるのは凄いと思う。
いや、だからこそか?
強い意志が可能にしたのか?
……どこの少年マンガだよ。
「凄いじゃないか。ライムもお疲れ様」
遅くまで頑張ったのだろう2人を労った。
恐らく徹夜はしてないと思うが……大丈夫だよな?
フィラムは満足そうに頷き、ライムは笑顔を弾けさせた。
それじゃあ、作戦に関わるかもしれない重要なことを聞こうか。
「フィラム、その姿で糸は出せるのか?」
「む?確認していなかったな……。少し待ってくれ」
確認してないのか……と思ったが俺達とお揃い(?)に為ったせいで、はしゃいだのだろう。
言葉で繕っているが精神年齢は見た目相応かな。
確認を始めた彼女を待つ。
迷宮突入時に用意しておいた水筒に魔法で氷と水を入れ、良い具合に冷えた水を飲んでいると、フィラムがこちらにやって来た。
しばらく色々と試していたフィラムだったが、終わったようだ。
「主よ、確認が終わったぞ。どうやら手から出るようだ」
「手?細かく言うと何処だ?」
「それぞれの指の腹に手首のつけね、それと手のひらだな」
「計14箇所か」
フィラムはこちらに手のひらを向け、実践して見せた。
それぞれの指の腹、手首、手のひらをから白い糸が伸びる。
手首の所は、ビルに引っ付いて街中を飛び回る某全身タイツさんと同じか。
それならもっと良い作戦を……
「あと尻からも出るぞ」
「ぶふぅーーっ!」
いきなりの発言に驚いて水を吹き出してしまった。
女の子が尻とか言っちゃいけません。
そんなことを考えていると、これも実践しようとしてきたので慌てて止めた。
ライムと一緒に常識の勉強をするべきだな。
少し変更した、重金属恐竜を倒す為の作戦を伝えながらそんなことを考えた。
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あれから5日は経った。
フィラムの技術の向上とレベルアップを兼ねて、魔物を倒していたのだ。
……勿論常識も教えている。
〈魔力反響〉を使い恐竜を避けつつ、他の魔物を狩っていた。
今日もまた〈魔力反響〉を使う。
いままでとは真逆の理由。
恐竜を狩るために。
「見つけた。ここから30分程離れた部屋にいる。着くまでに準備をしろよ」
「問題ない。作戦もしっかり頭に入れた。抜かりはない」
「そうだよ。ぼくたちなら、問題ないよ」
言うまでもなく準備を終えていた様子の2人。
気負った様子もなく程よい緊張感だ。
油断もない。
恐竜の2体や3体、楽に倒せそうだ。
「良し、行くぞ。気配察知の範囲に入ったら、また伝える」
「「わかった」」
それじゃあ、行こうか……。
恐竜狩りだ……!!
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恐竜は変わらない姿でそこにいた。
部屋の中を我が物顔で歩いている。
そこに垣間見えるのは、獲物を捕食する者としての余裕。
だが今回は…………お前が獲物だ。
通路から部屋を覗き、恐竜の位置を確認する。
「さあ、作戦通りにやるぞ。心の準備は……?」
作戦といっても難しい物じゃない。
戦闘に関する順番と、してはいけない事を伝えただけだ。
側の2人はコクリと頷く。
「〈蒼炎の竜巻〉!」
視界を埋め尽くす蒼で、闘いの――――幕が上がった。




