第35話 取り合えず風呂だ!
第35話 取り合えず風呂だ!
『ところで……』
「ん……?どうした?」
突然、蜘蛛が物言いたげな視線でこちらを見つめてきた。
いったいどうしたのだろうか?
『そこにいるライムは人の姿をしているが……魔物だな?』
「へえ、よくわかったな」
驚いた。
今のライムはどっからどうみても人なのだ。
可愛いとか、美少女って形容詞が付いてくるけどな。
「参考までにどうしてわかったのか教えてくれるか?」
さりげなく言ったつもりだがこの情報は押さえておきたい。
どうしても、だ。
聞き出せるかどうか、もっと言えば聞き出した情報で、迷宮を脱出出来たときの身の振り方が変わる。
方法によっては、ライムの事が人にばれるかもしれない。
人と言うのは時に残酷な生き物なのだ。
ガザル達と反応が同じとは限らない。
『簡単だ。私が魔物だからだ』
「魔物……だから……?」
構えていたのがバカらしくなる程あっさりと話した蜘蛛。
魔物が情報戦を繰り広げたりすることも無いだろうから当たり前か……。
情報の力と言うものをまだ知らないのだろう。
側でライムが真剣に話を聞いている。
やはり、人間社会に興味があるんだな。
『そうだ。私達魔物は大まかに、魔物とそれ以外を何となく区別できる。何故かは知らないが……』
その答えにほっとする。
人には真似できない技術だからだ。
他にも方法はあるかも知れないが、取り合えず脅威は去ったと考えて良いだろう。
ライムには面倒なこと無く人間社会を楽しんで欲しい。
勿論、邪魔は排除する。
当たり前だ。
そうそう、魔物と言えば……
「なあ、倒された魔物がすぐに消えていなかったんだがどう言うことだ?」
部屋に入ったときに倒されていた蜘蛛達は、中々姿を消すことは無かった。
恐竜と戦い始めて少し経ってから魔石と素材に変化していた。
俺達が倒した魔物はすぐに変化したのに、だ。
その理由も知っておきたい。
『倒した魔物がすぐに消える……?どう言うことだ?』
「うん?ほら、魔物を倒すと魔石と素材に変わるだろ?それが遅かったなって」
『魔石と素材に……?いや、一度もそんなことは無かったが』
蜘蛛は少し考える素振りを見せたが、思い当たらなかったようだ。
しきりに体(首がないので)をかしげている。
あらら?
ここで意見の食い違いか。
思っても見ないタイミングだな……。
何故だ……?
俺達と蜘蛛では何が違う……?
種族?時間?……状況?
「なあ、お前が他の魔物を倒したのはどんな時だ?」
『腹が減って、食べる時だ』
食べる時……?
魔物は飯を食わないんじゃ…………!!そうか、ライムが特別なんだ。
俺はいつの間にかライムを基準に考えていた。
ライムはご飯を食べなくても良いと言っていたが、それは周囲から魔素を吸収しているからだと言っていた。
だがそれはスライムの特性だ。
他の魔物は違う。
食べなければ生きていけない。
「……わかった。恐らく、元々迷宮で生まれた魔物が迷宮の魔物を倒したときだけ、魔物が残るんだ。倒した相手を食べるために。それで、外から来た冒険者や魔物が倒したときは魔石と素材になる。」
予測を立てて2人に説明する。
するとライムが疑問を口にする。
「何で外の魔物が倒したときもそうなるってわかるの?」
「それはライムが倒したときもそうなったからだ。」
「あっ、そっか」
気付いてなかったライムが、えへへと照れくさそうに笑う。
なにこれかわいい。
『外の生き物が迷宮内の魔物を倒すとすぐに消えるのか……?』
純真無垢の可愛いライムをほんわかしながら眺めていると、疑問が飛んできた。
いままで倒した魔物がすぐに消えることなど無かったのだろう。
ここはまだ未到達階層だから、冒険者がやってくる事もない。
知らなくて当然か。
寧ろ、この反応こそが予測が正しいことを証明してくれるようなものだ。
「そうだ」
『………………』
俺の答えに沈黙を下ろした蜘蛛。
俺にはわからないが、何か思うところがあったのだろうか。
いいさ、自分で考えることは重要だ。
「さて、色々考えて疲れたな。作戦とかも練らなきゃいけないが……取り合えず風呂に入ろう!そして明日考えよう!」
『その風呂と言うのは良くわからないが……作戦を考えたくないだけなんじゃ無いのか?』
物思いから戻ってきたのか、蜘蛛が指摘をしてきた。
「そんなことはないぞ。ただ考えるのが面倒くさいだけだ」
『それは考えたくない事と同意だ!やはり考えたくないだけだろう!?』
「まあ待て。人間と言うのは疲れると考えが鈍る生き物でな?万全な状態で作戦を考えて、お前が必ず勝てるようにしたいだけなんだ」
『……さっきは面倒くさいと言っていたじゃないか』
「言葉のあやさ。お前の為なんだ。そんなこと思うわけ無いだろう?」
『………………本当に?』
「本当さ」
『……………………』
「……………………」
暫しの沈黙。
そして蜘蛛が再び言葉を紡ぐ。
『……本当は考えたくないだけなんだろう?』
「その通りだ!!」
『全否定か!?ここまでの会話を全否定するのか!?』
何故か自信満々に答える紫苑につっこむ蜘蛛。
横で楽しげに笑っているライム。
そこは迷宮とは思えないほど平和であった。
――――――――――――――――
…………カポーン…………(不思議なことにどこからともなく聞こえてくる風呂っぽい音)
カオスだ……。
風呂に入りながら紫苑は思う。
青いスライムが水面に浮き、いじった為か拗ねて暗いオーラを出す、これまた大きな蜘蛛が浮かんでいる。
世にも奇妙な混浴がそこには存在していた。
カオスだ……。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「なあ、悪かったって。機嫌直せよ。作戦はもう考えてあるって言っただろ?」
そう、既に作戦は考えてあったのだが、少しふざけてみたのだ。
『ふん。私の事などどうでも良いのだろう?ほっといてくれ』
本格的に拗ねているな。
どう機嫌を取ったものか……。
『そんなこと無いよ。本当にどうでも良いって思うんなら、蜘蛛さんの事だって助けなかったと思うよ』
スライム形態のライムから意外な助け船が入った。
ナイス!
『……本当か?』
「ああ、その通りだ」
不思議なことにすんなりと言葉が出た。
そこで自身の言葉が嘘で無いと気付く。
いつの間にか絆されていたようだ。
蜘蛛、恐ろしい子……!!
超リアルバージョンになった俺の顔を、ライムが不思議そうに見ていた。
『そうか……』
蜘蛛は納得はしていないが、信じてはくれたようだ。
今は暗いオーラもなくプカプカと浮いている。
『なあ、お前は……』
「うん?」
『ライムの事をどういう風に捉えているんだ?』
『ぼくのこと?』
『そうだ』
体の芯からほっとするような温かいお湯の中で、俺は答えを探し始めた。




