プロローグ
第四話 気まぐれ?
鼻腔をくすぐる紅茶の香りとともに、サクサクのクッキーを口に運ぶ。
俺は今、ソファーに座って目の前の机にある紅茶とクッキーを前にくつろいでいた。
ソファーに机、紅茶とクッキーはどこから出てきたって?
気づいたらすでにあった。
シェリーがゆっくり話したいから座ってくれって言うから、「どこに?」と聞いたら俺を指さして「後ろ」と答えられた。
直前までほんとに何もなかったからな?
魔法なのか、はたまた他の力なのか……。手品では無いと思うが。
流石は神だな。
いきなりニックネームで呼べっていう、めちゃくちゃフランクな神様だけどな……。
まあ、呼んだ俺も大概かもしれないが。
クッキーを粗方食べ終わったところでシェリーが話し始める。
「え~と、なんだ。まあお前をここに呼んだのは気まぐれってところだぞ」
なんだか気まずそうに頬を掻きながらそう告げるシェリー。
「はあ、気まぐれね……」
それに対して俺は要領を得ない返事をするしかなかった。
相手が気まぐれで呼んだとしても俺には帰ることもできないしな。
今更だが俺はシェリーに敬語を使っていない。
本人も気にしないって言ってるしな。
「そうだぞ。お前がそのまま召喚されたら苦労しそうだからな。少し手助けしてやろうと思ったんだ」
シェリーは心底楽しそうにニヤリと笑う。
あれだ、神ってのは暇なんだろう。
暇人ならぬ暇神だな。
この時点で疑問がたくさん浮上してきたが、一つづつ解決していこう。
一度に聞いても答えられないだろうからな。
俺は紳士(自称)……-以下略。
「じゃあ最初の質問だ。まず、俺が苦労しそうってどういうことだ?」
一番重要な疑問であり、厄介そうな事だ。
異世界を楽しむ上で聞いておかなければならない。
「それは向こうに行って自分で確認してくれ。その方が面白いだろう?」
再びニヤリとこちらに笑いかける。
面白さ重視かよ、と思ったが俺は口にしない。
俺は紳……―以下略
と言うのは冗談だが実際不安だ。
相手は自称とは言え神なんだし、残念ながら現状俺にはどうしようも無い。
さすがに介入されて悪い方に行くことはないだろうと思い、俺は諦めて続きを聞く事にした。
「それなら次だ。手助けって具体的にどうしてくれるんだ?」
「ふむ。それならこれから行く世界について少し説明しようか」
顎に手を当てて思案するシェリー。
うん、こうして見ると子供が背伸びしているみたいだな……。
今度はきちんと答えてくれるんだな。
彼女いわく、これから行く世界はゲームのようにステータスのあるところらしい。
レベルとスキルがあり、魔物もいる。
俺達はそんな世界のドーザ王国という所へ勇者として召喚されるそうだ。
「具体的な手助けとしては、便利なスキルを渡すつもりだ」
おおー!これはチートスキルイベントか!?
しかしシェリーは俺の歓喜の感情をぶった切った。
「期待させといてなんだが、俗に言うチートでは無いぞ。運が良かったり、鍛えたりすれば手に入るものばかりだ。悪いな」
頬を掻きながらシェリーはきまり悪そうにしていた。
「そうか……。まあただでもらえるだけでも十分ありがたいよ。ありがとな」
少し残念に思ったのは事実だが、俺は気にしない!そう、なぜならお……―以下略
「そうか。それは良かった。……まあ、お前にはチートなんてもの必要ないだろうがな」
「ん?」
シェリーは何か呟いていたようだが最後のほうは聞き取れなかった。
「あぁ、なんでもないぞ。それよりそろそろお前の精神を体に戻すぞ。まあ、向こうでうっかり死なないように頑張るんだな」
満面の笑みで告げられても困る。
うっかりで死ぬとか不安しか生み出さない言葉です。
誠にありがとうございます。
まあ、死ぬ気は毛頭ない。
せいぜい、異世界での生活を楽しませてもらうとしよう。
魔法とかありそうだし。
「そうか……いろいろとありがとうシェリー。また会えるか?」
「そうだな……金輪際会えないってことは無いぞ。またすぐに会える」
ニッコリと笑って頷いたシェリー。
そうか。なら、挨拶はさよならじゃないな。
「それじゃあ、送るぞ」
「ああ、またなシェリー」
そう言って俺の視界は再びブラックアウトした。
……最後に見えた真っ黒い影と、それを見て驚愕するシェリーの顔が脳裏から中々消えてはくれなかった。