第31話 勘ですが?
第31話 勘ですが?
ガガガッと連続で閃く剣劇。
右側から来る鎌を左下に弾き、左側から来る鎌を右下に弾く。
交差するようにわざと弾いた鎌の交わるポイントに剣を叩きつけることで、最大の武器の動きを封じる。
三角の頭に、突き出た触覚。
両腕はまさに命を刈り取る死神の鎌。
至近距離で膠着するため、嫌でも目に入る姿は蟷螂のそれであった。
暴風刃蟷螂。
最大の武器である鎌を更に強化した凶悪な魔物だ。
鎌に常に風刃を纏い、魔装を施した剣でないとバターのようにいとも簡単に切り裂かれるであろうその威力は、食らえばただではすまない。
「ライム!」
「はぁ!」
掛け声と共に、ライムが蟷螂の足に向かってナイフを振るう。
「キシャアアアアッ!」
節を切りつけ、1本、2本、3本目に掛かろうと言う所で、押さえていた両鎌を無理やり振り上げ、拘束から離脱した蟷螂。
ライムは既に距離を取り、警戒している。
押さえていた俺は後ろに弾き飛ばされる。
その時に、上体がそれ、体が一瞬硬直する。
その隙を逃さず、離れた場所の蟷螂が鎌を振るう。
普通ならば絶対に攻撃が届かない距離。
しかし、俺は硬直を無理やり押さえ込み、横に跳んだ。
直後、俺のいた場所を目に見えないものが通りすぎる気配。
所謂鎌鼬だ。
遭遇した最初に放ってきた技で、当たっていればただではすまなかった。
避けることが出来たのは、ひとえに運と危機察知のお陰だ。
もう少しで真っ二つになるところだった。
危ない危ない。
1度見てしまえば避けることは容易い。
モーションは分かりやすいし、鎌鼬の速度もそこまでない。
警戒していれば当たらない。
「よし、このまま畳み掛けるぞ。ライムは遊撃を頼む」
「わかった!」
左足を2本切り落とした事で、蟷螂は大きく動きが鈍っている。
元々素早くはない蟷螂だ。
側面に回れば付いてこれないはず。
だが、あえて俺は正面に回って攻撃を仕掛ける。
「〈氷槍〉」
蟷螂の正面に氷槍を2つ放つ。
蟷螂は鎌を振って鎌鼬で氷槍を迎撃する。
俺は蟷螂が鎌を振るう前に走り出していた。
鎌を振り終わって硬直した体に、容赦なく斬撃を叩き込む。
左から右に水平切り。
剣を戻して振り下ろす。
そのまま剣を跳ね上げる。
「キイイィィィ」
正面への三連撃はたまらなかったのか悲鳴をあげる。
最後の一撃で軽く体が浮いた蟷螂に追撃を仕掛ける。
「〈岩石突〉」
迷宮の床から鋭い岩の槍が飛び出し、蟷螂を突き上げ天井で挟み込む。
このまま…。
そこで、蟷螂が不穏な動きを見せる。
羽を広げ、震わせ始めたのだ。
不味い。
「〈光矢〉!」
光の矢が蟷螂に殺到し、体ごと羽を天井に縫い付ける。
「ギイイイィィィ!」
あのまま行動を許していたら、広範囲に弱い鎌鼬をばらまかれる攻撃をされていたはずだ。
そうしたら、離れざるをえなかっただろう。
「ナイスだ、ライム!」
身をかがめて足に力をため、一瞬だけ限界突破を発動。
全力で飛び上がると天井ごと切り裂き、首を断ち切った。
普通なら刃こぼれするが、魔装のお陰でそんなことは起きない。
ファンファーレの音で蟷螂を倒したことを確認し、限界突破を解除する。
「ご主人、お疲れ」
「ああ、お疲れ様。ありがとうな」
こちらに走りよってくるライムに返事をする。
現在、82層。
既に何日が経ったかわからない。
時間がわからないので仕方が無いだろう。
少なくとも10回以上は寝起きをしている。
ん?80層のボスか?
特筆すべき事は無いが、あえて言うなら楽勝だった。
ボスはすっげぇ硬い亀で、固定砲台みたいな奴だった。
魔法をバンバン撃ってきたが、ライムが全部吸収して反撃していたら、いつの間にか倒していた。
俺が攻撃してもダメージを与えられなかったからそうするしかなかっんだが……。
恐らく、ライムがいなかったら勝てなかった。
普通に戦っていたら強敵だったんだろうが、運が良かった。
何せ、魔法も強いし、守りも硬い。
倒すのは至難の技だったはずだ。
「じゃあ、魔石と素材を回収したら進もうか」
既に体が消えた暴風刃蟷螂から、魔石と消えずに残っていた鎌のような腕の部分を回収してアイテムボックスにしまう。
これまでに倒してきた魔物の素材もたくさんあるため、外に出て資金に困ることは無いはずだ。
「ねえ、ご主人。あとどのくらいで外に出られるかな?」
「そうだな……。新しく魔法も考えたし、今までより早く進めるようになったはずだ。2週間はかからないくらいで出られると思う」
「そっか。外に出たら人がしていることをしてみたいんだ。楽しみだな」
横を歩いていたライムが、期待をにじませた声で言う。
元々魔物だったライム。
外に出ることが出来たら、人としての生活も出来るだろう。
不自由無いようにしっかりサポートしたいと思う。
「分かれ道だよ」
「よし、俺の魔法の出番だな」
この魔法のお陰で探索が楽になった。
思い付いた自分を褒めてやりたいくらいだ。
「〈魔力反響〉」
この魔法は、俺の魔力を振動操作で高速振動させ、周囲に放出し、反射する具合を魔力察知で確認する事によって、障害物の状況が一時的に感知出来る優れものだ。
今は朧気にしかわからないが、魔力察知のレベルで更に鮮明にわかるようになるだろう。
「ん~。左は特に何もなく道が続いているな。右は少し行った部屋にたくさんの反応があるが、全く動いていない」
「じゃあ、左?右は魔物が眠っているんじゃないのかな?」
「いや、何となく違うんだよな…。それに、状況的には左に行った方が良いのに、右に行った方が良いような気がするんだよな」
「じゃあ、右に行こうよ」
なぜか即決するライム。
「いや、ただの勘なんだが……」
「大丈夫だよ。ご主人の勘だし」
「……何でそう思うんだ?」
「ぼくを見つけたときもそうだったんでしょ?何となく切りたくなかったって言ってたじゃん」
「いや、そうなんだが……」
何だか釈然としないまま、右に行くことが決まった。
そして、しばらくして到達した部屋。
「なんだ……これは」
視界に入った光景。
それは部屋中の地面に倒れ伏す大量の蜘蛛の姿だった。




