第30話 迷宮の思惑
第30話 迷宮の思惑
……怪しい。
物凄く怪しい。
迷宮からの脱出が難しくなったので、ライムだけでもと思っていた。
そこで突如として背後に現れた宝箱。
そこはさっき通った通路であり、何もなかった筈の場所。
通路の真ん中に宝箱があると言うのも怪しさに拍車をかけている。
これが通路の突き当たりにある部屋等ならまだ普通なのだが、通路にいきなり宝箱が現れたとあっては些か怪しすぎる。
「ご主人、宝箱だよ。開けてみようよ。」
「あっ、ちょっと待て!」
怪しげな宝箱に近づこうとするライムを慌てて諌める。
「ライム、宝箱を開けるのは安全を確保してからだ。それに宝箱自体が危険かもしれない。ましてやここは深い層だ。油断が命取りになる。気を付けてくれ」
「わかった。ごめんなさい」
ライムが少しシュンとしているので更に言葉を続ける。
「大切なパートナーが傷つくのは嫌だからな。気にするな」
そう言いながら頭を撫でると、少しは感情が上向きになったようなので安心した。
それを確認した後、宝箱について考える。
現状としては八方塞がり。
食料に関する具体的な案もなし。
これからの階層に、食料を落とす魔物がいることに期待するのも確実性がない。
迷宮を高速で攻略する手段も思い付かない。
少し迷った後、宝箱を開ける方向で結論を出す。
「ライム、今から宝箱を開けるから、準備を整えてくれ」
「もうできてるよ!」
「おお、すごいじゃないか」
褒めたことでライムは嬉しそうだ。
ライムが優秀で、俺も嬉しい。
「〈氷壁・匣〉」
宝箱自体に何かあっても良いように、氷で周囲を囲む。
まだ確認はしてないが、ミミックのような存在がいるかもしれない。
あくまで保険だが、あって困ることは無いので実行した。
このままでは開けられないので魔法で開ける。
危険なものにわざわざ近づく必要は無いのだ!
…既に近づいているか。
「〈土腕〉」
地面から2本の土の腕が生え、箱の蓋に手を添える。
周囲に緊張が走る。
すぐさま、凍結の処女を発動できるように準備をした後、ライムに声をかける。
「開けるぞ」
「わかった……」
そのまま〈土腕〉を操作して蓋を持つ手に力を込める。
そして、蓋を開け、待機する。
1秒、2秒、と過ぎ、30秒を過ぎた辺りで警戒を少し緩める。
「何も起きないな……」
「そうだね。どうする?」
「……中身を確認してみよう。ただ、警戒は怠るなよ」
「わかった」
そのままゆっくりと近づいていき、〈氷壁〉の外から宝箱の中身を確認する。
「バックだな……」
「バックだね……」
宝箱の中には、肩からかけるタイプの小柄なバックが入っていた。
攻略速度が上がる装備品等が入っていると良かったのだが、そう都合良くは無いようだ。
見た目的に道具を入れる袋だろうか?
アイテムボックスで間に合っているんだが。
「さて、これは一体何だろうな。鑑定」
鑑定
『ドキドキ☆ランチバック』―1日に3回、使用者が知っている食べ物をランダムで出すことができる。食べ物を出すためには魔力が必用。使用回数は個別に適応される。
はい、一気に問題が解決しました。
都合が良いことあったよ。
もう、都合よすぎてビックリだよ。
……コンビニに置いてそうな道具だな。
まあいい。
少し冷静に考えてみよう。
これが、元からあった宝箱の中から表れたのなら、まだ、運が良いで済むかも知れない。
だが、今回は違う。
ボス部屋の扉が開かず、食料も尽き、事態は困窮していた。
そこに現れた宝箱の中には、根本の問題を解決する超レアアイテム。
…これは出来すぎだろう。
恐らく何者かが、俺たちを迷宮の奥へ誘っていると考えるのが妥当だ。
しかし、その思惑に乗るしかないのもまた事実。
「どうしたの?ご主人」
心配してくれたのかライムが顔を覗きこんできた。
考え込んでいたようだ。
「いや、大丈夫だ。良い道具だったから嬉しかったんだ」
そう言いながら、氷壁を解除して、宝箱の中からバックを取る。
一応、罠を警戒していたが何も起こらなかった。
「今日はこれまでにして休もうか。このバックの確認もしたいし」
「わかった!早くしよう!」
ライムは新しく道具が手に入った為か、好奇心に目を輝かせている。
「わかったわかった。そう急かすなって」
俺は苦笑してライムに言った。
壁に近寄り、魔法を発動する。
「〈壁中部屋作成〉」
この2日間でお世話になった魔法だ。
土魔法で壁の中の土を動かし、部屋を造り出す超簡単魔法だ。
これのお陰で、1日の終わりにぐっすり眠ることが出来た。
安心安全の休息所である。
部屋を造り終わって中央に腰かける。
勿論、壁は穴を残して塞いだ。
「じゃあ確認をしようか」
「それは何なの?」
「これは食べ物を出す事が出来る道具だな。魔力を使って、ランダムに知っている食べ物を出せるみたいだ」
「へ~。使ってみようよ」
「わかった、俺から使うぞ」
俺から使うのには勿論理由がある。
知っている食べ物を出すとのことなので、ライムが先に使うと串焼き肉が出てくることになる。
それではあまりにも可哀想だろう。
バックに魔力を流し、口から手を入れる。
少し探ると、手に何か触れたので掴んで引っ張る。
出してみると、オムライスだった。
皿とスプーンも一緒だ。
「おお~。それはなに?」
「これはオムライスって言うんだ。ライムも使って見てくれ」
ライムにバックを渡して、使ってもらう。
すると、やはりオムライスが出てきた。
俺が出す食べ物が増えれば、ライムの出せる食べ物のバリエーションも増えるだろう。
「ご主人と一緒だよ!」
「そうだな、じゃあ食べようか。いただきます」
「いただきます」
俺はオムライスを食べながらこれからの事について考えていた。
恐らく迷宮が俺たちを奥まで誘っているのはほぼ間違いない。
罠かもしれないと分かっていても、結局は進むことしか出来ないのでどうしょうもない。
まあいい。
その思惑とやらに乗ってやろうじゃないか。
邪魔をするなら正面から突破するまで。
全力で相手をしてやろうじゃないか。
つり上がりそうになる口元を慌てて戻す。
「美味しいね。ご主人」
「そうだな。これからは種類がもっと増えるから、楽しみにしとけよ」
「うん!」
輝くような笑顔で返事をするライム。
少なくともこの笑顔は守りたいな。
そのためにももっと強くならなくては。
嬉しそうにオムライスをパクつくライムを見ながら、そう思った。
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守護さんに感想をいただきました。
ありがとうございます。




