第28話 迷宮風呂
第28話 迷宮風呂
少し経った後、落ち着いたライムを何とか引き剥がし、俺は質問をしていた。
「なあ、ライム。ここはどこなんだ?」
「……え?ここは……あ、そっか。ご主人は意識が朦朧としていたもんね」
うんうんと一人で納得しているライム。
いや、自己完結しないで教えてくれよ……。
「ここはね、ご主人が造った部屋だよ」
なぜか左手を腰にあて、右手でビシッと指差してくる。
どこで覚えたんだそのポーズ。
あと人は指差しちゃいけません。
人を指差すのがマナー違反であることを伝え、注意する。
改めてライムに話を聞く。
「俺がやったのか?」
「そうだよ。魔物を倒した後、ぼくをポーチから出したことは覚えてる?」
「ああ、覚えているぞ」
あの後の記憶が無いんだよな。
限界突破めっちゃきついんだけど。
「その後、ぼくがご主人を壁の側まで乗せていって、それからご主人が壁に魔法を使ったの」
意識が朦朧としているなか魔法をつかったのか。
だいぶチャレンジャーだな。
失敗したら危ないだろうに。
……まあ俺なんだけど。
「ふんふん、それで?」
「そしたら、ぼくたちが入れるだけの入り口が空いて、部屋が出来たんだよ。入った後、ご主人が『魔物が入ってくると危ないから入り口を閉じる』っていって、小さな穴を残して入り口を塞いだんだよ」
「なるほど」
つまり、ここは魔物から身を隠す為に俺が土魔法で造った部屋で、小さな穴は空気を通すため。
ということは、穴の方に通路があるわけだな。
……意識が朦朧としてるくせになんかしっかりしてるな。
いや、俺のことをなんだけども。
「わかった、ありがとう」
「どういたしまして!」
頭を撫でると嬉しそうにしているライムを見ながら、あることに思い至る。
ダンジョンに入ってからどれくらい時間が経ったんだろうと。
腹が減ったのでアイテムボックスから取り出した、串に刺さっている焼かれた肉を頬張りながら思う。
アイテムボックスに入れていたお陰か、焼きたて熱々の肉だ。
やっぱ時間止まってんのかな。
……何の肉かわからないけど美味いな、何の肉かわからないけど。
ライムにも渡した。
本来スライムは周囲の魔素を吸収すれば良いらしいのだが、俺1人で美味いものを食べるのはどうかと思ったので、一緒に食べることにしたのだ。
「さて……」
焼き串肉を食い終わった俺は、串をアイテムボックスに放り込んで立ち上がる。
「どうしたの……はぐはぐ……、ご主人………もきゅもきゅ」
串肉を食べている姿が小動物みたいでかわいいが、それは置いておこう。
「お風呂に入ろうと思うんだ」
「おふろ?」
ライムが不思議そうな顔をしている。
そうだな、ライムは元々魔物だったんだ。
風呂の事を知らなくても仕方はあるまい。
「そうだ。お風呂だ。お風呂ってのはな、小さな池みたいに、温かい水を入れているところの事だ。で、そこに入る」
「何でそんなことをするの?」
やはり不思議そうなライムが聞いてくる。
「体を洗うことで綺麗にするってのもあるけど、やっぱり疲れを取るためだな」
「へ~、でもここにはおふろ無いよ?」
「無けりゃ作れば良いのさ」
俺が土魔法を使って造った部屋は、風呂を作ることが出来るくらいの広さはある。
部屋と同じように、風呂も魔法で作れば良い。
まず、浴槽を魔法で床に掘る。
次に、側面から土が崩れたりしないように固めた後、水魔法で水を注ぎ込む。
そして、火魔法でちょうどよくなるまで暖めたら完成だ。
いや~、魔法って便利だな。
「よし、出来た。じゃあ入るか」
「オッケー、ご主人」
「ライム、ストップ!」
服を着たままお湯に入ろうとするライムに、待ったを掛ける。
「ライム、風呂ってのはな、服を脱いで入る物なんだ」
「え~、なんだか恥ずかしいな~」
恥ずかしそうに頬を染めて、もじもじしているライム。
いや、俺も恥ずかしいから止めてくれ。
「大丈夫だ、ライム。ライムは別に服を脱がなくても良いんだ」
「……?どういうこと?」
「スライムの姿に戻ってから入れば良いんだよ。そうすれば、服を脱がなくも良いし、一緒に入る事も出来る」
そう、男女が一緒に風呂に入るにはまだ早い。
てか、俺のハードルが高い。
凄まじく恥ずかしい。
気になって、体を癒すどころでは無くなる。
だが、ライムがスライムの姿になるのなら、全ての問題は解決されるのだ。
別々に入る案も考えたが、この迷宮内で別行動は好ましくない。
それに、片方が風呂に入っている間に襲われたら、とっさに助けに行くことが出来ない。
出来たとしても戦闘に集中出来ない。
主に俺が。
と言うか俺が。
それぐらいなら風呂に入るなと思うかも知れないが、そこは生粋の日本人。
入りたくなるものなのだよ。
「そっか……。そうだね、そうしよう!……ご主人と一緒に………ふふふ……」
最後の方は良く聞き取れなかったが、了承してもらえたし、嬉しそうに喜んでいるのだから良いのだろう。
では、早速入ろうか。
新名物、迷宮風呂の誕生だ。
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…………カポーン…………(不思議なことにどこからともなく聞こえてくる風呂っぽい音)
「ふぁ~」
自然に声が漏れる。
暖かいお湯に包まれ、体の芯から温まってくる。
極楽である。
『気持ちいいね、ご主人』
「ああ、そうだな~」
スライムの姿に戻ったらライムは俺の側に浮いている。
ライムの姿が変わるときは不思議だった。
姿が変化し出したと思ったら、だんだん小さくなって服も吸収されたのだ。
…どこから服を持ってきたのか不思議だったのだが、人化するときに勝手に出てきたらしい。
うん、ファンタジー。
「ここが迷宮だなんて信じられないよな~」
『そうだね~、今は危なくないもんね~』
声が間延びする。
これは風呂の効果か?
今ここは72層。
他の冒険者が立ち入ったこともない場所。
今から俺たちはここから上層を目指し、脱出をしなければならない。
少し前までは不可能に思えた。
だが虎を倒し、レベルも上がった俺たちなら出来ないことでは無いと思っている。
最大の難関である70層のボスを倒せば、後は食料が尽きるまでに脱出出来るかだけだ。
大丈夫。
何とかなる。
「ライム、絶対に二人で脱出しような」
『うん!勿論だよ、ご主人』
この、意図せずして手にいれたパートナーを、失わない為にも頑張らないとな。
絶対に脱出して自由に生きてやる!
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総合評価が、500を越えました。
ありがとうございます。
累計10万が目下の目標です。
まだまだ若輩ですが、これからもよろしくお願いします。




