第25話 戦闘狂は絶望しない
第25話 戦闘狂は絶望しない
…しつこい!
いつまで追って来るんだ。
「くそっ!」
そろそろ限界突破が時間切れになる。
そうなったらおしまいだ。
手も足も出ないまま、体中の剣?でズタズタにされるだろう
……いっそのこと戦うか?
今現在のスピードはほぼ互角。
となれば、身体能力的にも、強化中の今と同じくらいかもしれない。
だが、既に制限時間の大半を使ってしまっているため、途中で負ける可能性の方が大きい。
最初から戦うことを選択していれば……いや、それでも危険だった。
「グルアウウゥゥ」
後ろで剣虎が苛立ったような唸り声をあげている。
このままではじり貧だ。
それどころかすぐに勝負がつくだろう。
何か打開策を……
額に汗を滲ませながら考えていると、不意に。
危機察知が反応した。
己の勘とスキルが促すままに、全力で身を伏せる。
すると、さっきまで俺の頭があった場所を、大きな物体が通過した。
(あ、危ねー)
通過したのは言うまでもなく虎だ。
虎は前足の刃を使って、俺の首を刈り取りに来た。
驚くべきはその刃の長さだ。
最後に見たときは、せいぜい小ぶりなナイフ程度の物だったのだが、今は普通の剣や、刀等と変わらない長さを持っている。
恐らく、俺が左右に避けていれば、頭と体は永遠のお別れをしていたことだろう。
俺の回避は本当に紙一重だったわけだ。
もしかしたら、スキルの回避も役にたったのかもな。
そんなことを考えながらも俺は冷や汗が止まらない。
俺の上を通過したと言うことは、進路を塞がれたと言うことだ。
それに、伏せたと言うことは、止まったと言うことでもある。
零から加速しては逃げられない。
そう感じた。
今、向き直った虎と相対しているが、正直ちびりそうだ。
虎としては、まだ全力を出していなかったと言うのが正直な所だろう。
さっきの加速から見ても、恐らく逃げ切れない。
背を向けた瞬間にバサリと殺られるのは目に見えてる。
まさに絶望的状況。
しかし、俺はどこかで楽しんでいる。
そう感じた。
自覚すると共に冷や汗は止まり、大きな恐怖もおさまった。
勿論恐怖はある…いや、この場合は違う。
スリルと言った方が正しいような気がする。
失敗すれば死が待ち構えている。
それなのに、こんな状況で楽しんでいる自分は、正直救いようがないと思う。
まあ、恐怖で動けなくなるよりましだから良いとするか。
さて、どうやってこの状況から生き残るか。
……あれに賭けるか。
しかしあれに頼ると負けたような気がするが、生き残るためだ。
致し方ない。
それに、こいつに効くかどうかもわからないしな。
まあ、最後の手段と言うことで。
方針は決まった。
覚悟はもとより決まっている。
後はこいつと遊ぶだけ。
「さあ、殺ろうぜ。ネコちゃんよぉ!」
「グルアアアアァァァァァァァァアアアウ!」
残り時間、約3分。
絶望的な戦いが始まった。
まず、虎が動いた。
俺めがけて、凄まじい速度で飛びかかってくる。
「〈土壁〉!」
あらかじめ用意しておいた魔法を展開し、突進を止めるも、分厚い土の壁は所々崩れ、その突進の威力を物語っている。
食らえばただでは済まない。
俺もここからは全力だ。
この世界の魔法は、イメージによるところが大きい。
だから、その力を存分に使わせて貰う。
土壁によって通路は塞いだ。
壁を飛び越えて上から来るしかない。
その時に合わせて魔法発動させる。
……来た!
正直確率は五分五分だった。
虎にある程度の知能が備わっていれば、もう一度突進して壁を壊して目眩ましに使い、俺に攻撃していただろう。
俺の誘導に乗って、飛び越えてきた虎に全力の魔法を打ち込む。
「〈蒼炎の槍〉!」
俺が発動したのは、ガスバーナー等でよく見る青い炎で型どった槍。
火槍に、しっかりと空気を送り込んだもの。
簡単に言うと完全燃焼だったかな?
いくら素早い虎でもスキル無しで空中の移動は出来ない。
蒼炎の槍がその体に当たり、周囲に蒼を撒き散らす。
吹き飛ばされ、飛び越えた壁に当たる。
土壁はそれで限界を迎えた様で、崩れ落ちた。
「グアッ!」
流石に痛かったようで苦痛の声を上げる。
先手は貰った。
まだまだ!
「〈水球〉」
人の頭程の大きさの水球が、虎目掛けて高速で飛んで行く。
痛みから回復した虎は易々と回避してのける。
俺もそれだけで終わらせる筈もなく。
分割思考を総動員し、複数の水球を連続して作る。
分割思考では今、7つのことを同時に出来るようになっている。
それを総動員して、何とか虎を留められるレベルの弾幕を張れるのだ。
残り約2分。
時間がない!
《熟練度が一定に達しました。『分割思考Lv3』が『分割思考Lv4』になりました。》
よし!良いタイミングだ。
思考の分割量が、七つから十に増えた。
思考の七つでそのまま水球を打ち続け、三つを使って他の魔法を準備する。
「〈蒼炎の槍〉!」
蒼に揺らめく槍を三つ作り出す。
それを虎目掛けて放つ。
虎は苦もなく避けるがそれも想定内だ。
今虎の足元は俺が連続で放った水球のせいで水浸しだ。
そこに高温の炎を三つも投入したらどうなるか。
答えは簡単だ。
足元の水に槍が触れる。
瞬時に。
大爆発。
俺が狙ったのは水蒸気爆発。
確か、水が気体になるときに1700倍の体積になるとかで、そのせいで爆発するらしい。
「グルアアアアァァァァァァァァアアア!」
虎が苦悶の声をあげている。
どうやら効いたようだ。
だがこちらも今は必死。
ここは通路だ。
そんなところで大規模な爆発を起こせばどうなるか。
凄まじい風圧が俺の体を叩く。
勿論最初は土壁で身を守っていた。
一瞬で崩れたが。
今は地面を盛り上げて風を防いでいるが拙い。
今にも吹き飛ばされそうだ。
「ぐうっ!」
風が収まると立ち上がる。
「……やっぱりか」
虎は健在だった。
傷付いた様子だったが、まだ追い詰められてもない。
水蒸気爆発は自然の摂理。
準備は自分の魔力でやったが爆発は別。
いわば、固定ダメージ的な物を狙ったのだが倒しきれなかったようだ。
「グガアアアァァァァッ!」
どうやら虎さんはお怒りのようだ。
さっきまでは先手を取れたからこちらのペースだったが…。
今からは、本当の命懸けだ。
怒りのためか、速度の上がった剣虎がこちらに疾駆する。
「〈氷槍〉!」
近寄らせまいと、複数の〈氷槍〉を発動するも右、左とすべて避けられる。
剣虎は、そのままのスピードで右の前足を振るい、俺を引き裂こうとする。
体を後ろに引くことで、何とか攻撃を避けることが出来た。
その事に安堵する暇もなく、床に小さなクレーターを作っていた右前足が跳ね上がり、横から突き出た刃が俺の喉元に迫る。
「グアァッ」
「ッ!はあッ!」
その刃に向けて俺も全力で剣を降り下ろす。
勿論、魔装を施し、高速振動させたもの。
俺の剣と剣虎の刃がぶつかり火花を散らす。
拮抗は一瞬だった。
俺は剣と共に弾き飛ばされ、コマのようにくるくると回る。
「ぐうっ!」
体勢を建て直したときには既に、目の前に剣虎の拳が迫っていた。
所謂猫パンチ。
それを胸に受け又しても吹き飛ばされ、壁に激突する。
「ぐあああ!」
軽鎧を着ていた為か、爪が体に届くことはなかったが、衝撃で息が詰まる。
「っっっ痛!げほっ、げほっ、はぁ、はぁ……」
虎は俺を吹き飛ばした位置から動かずに、鋭い眼光でこちらを見ている。
これ幸いと、床に膝をついたまま息を整える。
「ふぅ……」
分割思考を使って並列発動した光魔法の〈回復〉で、何とか体力を回復させる。
まともに剣虎の攻撃を食らったのは今回が始めてだが、今までは運が良かっただけ。
これからはもっと増える。
魔力も時間もない。
非常に残念だが……。
残りの約1分。
立ち上がって、油断なく剣を構える。
プランとも言えないような、本当に運任せのプランBで行くしかないか。
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良ければ、変なところをご指摘下されば幸いです。
今回も読んでくださってありがとうございます。




