プロローグ
第三話 只今召喚中
教室の窓から見える外が暗い。
いつの間にか教室のドアと窓が全て閉じてしまっていた。
開けようとしている人もいるが、どうやら固く閉じられているらしくピクリともしていない。
「七星くん、何が起こってるんだろう。大丈夫かな?」
この異常事態を流石に不安に思ったのか、近くまで来ていた真琴が声をかけて来た。
俺は安心させようと言葉をさがしていたのだが……
「まさか、ドラゴン〇ールが実在していたのか!」
「今日たまたま花火持ってきてるんだけど、ドア空いたらやろうぜ!いや、……もういっそ教室で!せっかく暗いんだからな!」
「……もう夜?お休み」
何だろうか。シリアスを壊さないで欲しい。
なんだか真剣に考えるのが馬鹿らしくなって来た。
いやね?こいつら見てると危機感とか湧かないから。
「……大丈夫じゃないか?」
「……そうだね」
思わずそう言うと真琴も苦笑しながら頷いた。
空が暗くなったからと言って、ドラ〇ンボールとは限らないだろうが。
例えそうだったとしてどうすんの?
探すの?レーダー無いから無理でしょ。
お前はなぜ偶然で花火持って来てるんだ。
しかも今冬だぞ?
と言うよりも嘘は言わなくて良い。
クラス全員がお前がいつも花火を携帯している事は知っているから。
流石に密室空間での火は危険だと思ったのか、周りにいた奴らが取り押さえている。
酸欠になったらどうすんだよ。
それから寝ようとした奴。
お前は昼夜関係なくいつも寝てるだろうが。
なんだ、夜だから更にぐっすりってか?
……起きろ。
「……痛い」
見た所普通に不安がっているのは一部の人だけであり、逆説的にこのクラスにまともな奴がいない事の証明となった。
こんな非常事態でこのクラスの異常性を再確認したくなかった。
まあ逆に、冷静さを失ってないって事で頼りになると言えなくも無いか?
その時教室の中心に幾何学的な模様が現れた。
見た目で言えばまさに魔方陣。
いきなりの光の出現だったのであまりの光量に目が眩んだ。
それでもクラスメイト《バカ》の反応はいつも通りで。
「これは……バ〇スか!」
「目が!目が!目があぁああ~!」
「……もう朝?お休み」
バル〇じゃねーよ。
お前ら絶対楽しんでるだろ?
怒らないから俺に教えてごらん?
それからお前は軽くアウトだから。
ムス〇の真似しなくて良いから。
お前はなんで二度寝してんだよ。
やっぱり夜とか関係なく寝てんじゃねぇか。
朝だって認識できるなら起きろよ。
魔法陣(仮)はわちゃわちゃと遊んでいる事も御構い無しにどんどん光が強くなっていく。
それと同時に周囲の音も離れていき、意識も遠退いていく。
そんな中で聞こえたのはこんな声だった。
「眩しい。眠れない」
……もうこいつの事ソンケイするわ。
という思考を最後に俺の視界がブラックアウトした。
「……ん?」
気がつくと、俺は周囲が白一辺倒の場所にたっていた。
ここは……どこだ?
確か俺は教室で魔法陣っぽい物を見た後……気を失ったのか。
あれが本物の魔法陣だと仮定すると……もしかして召喚されたのか?
周りを見渡してみるが何もないし誰もいない。
召喚じゃ無いのか?
いや、例え転移だとしてもクラスの奴らが居ないのは変だし、他に思いつかない。
教室に居たのに場所が変わっているのだから、夢じゃ無い限りどちらかだと思うのだが……。
そこで俺は恐ろしい考えに行き当たる。
「まさか俺だけここに取り残された……!?」
「違うぞ」
そんな声が俺の後ろから聞こえた。
驚いて振り返ると、太陽を彷彿とさせる艶のある真っ赤な髪に、勝ち気な顔立ちの……
幼女が立っていた。
俺は内心驚いていた。
が、どうにか気持ちを持ち直す。
そして、ホッと胸をなでおろし、幼女に話しかける。
人がいることに安心したのだ。
……たとえ相手が小3ぐらいの幼女だとしても……。
これは俺がビビりな訳ではない。断じて無い。
いきなり真っ白な世界に放り出されて、人がいる確証もなく一人で立っていたら……?狼狽えない奴がいるだろうか?いや、いない。
「俺は七星紫苑。君が俺をここに召喚したのか?」
名前を告げ、俺はなるべく優しく声をかける。
俺は紳士(自称)だからな。しかし彼女は……
「それも違うぞ。ここは精神世界だ。お前がこっちの世界に召喚される途中で、精神だけ引っ張ってきたんだ。安心しろ、後遺症なんかは無いぞ。あと私はミルシェリーだ。シェリーと呼んでくれ」
無い胸を張ってシェリーは言ってくる。
が俺はつっこまない。俺は紳士(自称)だからな。
「わかった、シェリー。俺の事は紫苑って呼んでくれ」と、なるべく怖がられないように、微笑む事を意識しながら言った。
なんだろう。俺が笑顔を浮かべた途端シェリーの顔が引きつった様な気がするんだが。
上手くいったよね?上手くいっただろ?上手くいったって言えやゴラ。
以上三段活用でした。
っていうかさっきまで周りには誰もいなかった筈だし、精神だけ引っ張ってきたってどう言う事だよ。
俺は浮かんで来た疑問を変に考ることなく、ストレートにぶつけてみた。
「君は何者かな?」
「私は神だぞ?まだ言ってなかったか?」
と、首をコテンと傾げて、さも当たり前のようにいってくる。
端から見ると、かわいらしい仕草なのだが。
「おぉふ……」
俺はそう来たか……と空を仰いでいた。
……空なんて無いけどね。
お先真っ白!
ははは……笑えない。