第23話 現状確認
第23話 現状確認
「ああ~、これはやらかしたかな……?」
第7層での帰り道、ガザルと話していたらいきなり視界が切り替わった。
直前で、召喚されるときと同じような感覚にも襲われた。
これは確定だろう。
転移の罠、だろうな。
不思議と落ち着いている自分に少し驚いた。
まだ、実感が無いのかもしれない。
ここでパニックになっては生存率が大幅に落ちる。
そこで俺は、罠にかかった他の者にはない大きなアドバンテージであるライムを、手のひらに乗せ撫でる。
ああ~、癒される。
このプニプニ感が堪らん。
ふう……ライムは素晴らしい精神安定剤だな。
聞いた所によると罠により踏んだ者だけが飛ばされるらしい。
が、ライムは俺の頭の上に乗っていたお陰か、一緒に転移している。
少しすまないと思いつつも安堵したのは確かだ。
知り合いが側に一人居るか居ないかで、精神状態は大きく変わる。
ふむ、最初に取り乱さなかったのはライムが居たからか?
「ありがとうなライム」
大切な相棒にお礼を言っておいた。
礼節を軽んじてはいけない。
「きゅ?」
ライムは不思議そうな顔をしていたが……。
さて、落ち着いたところでまずは情報を集めることから始めよう。
無しで動くよりも比較的安全に行動できる。
うん、情報、大事。
周りを見渡してみると、さっきまで居たダンジョンと遜色ない、土の色が広がっていた。
……うん、何も無い。
壁と地面が広がっているだけ。
めぼしいものは何も無い。
初手から潰されるとは……。
恐るべし、ダンジョン。
……遊んでる場合じゃ無いよね。
……そう言えば、ガザルによると7層には転移の罠は無いはずだ。
ダンジョンの方針が変わったのか?
それとも他に何かがあった?
俺の罠察知にも引っ掛からなかったので、罠としてのレベルも高いのではないだろうか。
考えても仕方がない。
それに俺にとって7層での転移はラッキーだった。
多くて10層程を転移するらしいので行って20層だろう。
ボスの蠍のステータスから言っても、そこまで危ない敵は出ない筈だ。
これは何とか帰れるかな。
そこで俺は思い出した。
ガザルが階層がわからなくなった時は壁を鑑定すると、今どこに居るかがわかると言っていた。
これで8層とかだったら笑い話にでもしようか……。
鑑定。
:原初と追憶の迷宮 ― 第73層
……ふっ、どうやら俺は疲れているらしい。
最近頑張って訓練を受けていたからな。
胡座をかく。
深呼吸しながら、瞑想。
更にライムを撫でて精神力を回復する。
ふ~、これで大丈夫だ。
準備は万端、いつでもいけるぜ!
ばっちこい!鑑定!
:原初と追憶の迷宮 ― 第73層
ウソだああああぁぁぁああ!
何でだよ!
おかしいだろ!
さっきまで7層に居た筈だ!
ラッキーセブンじゃねえのかよ!
それともあれですか。
最大踏破階層を大幅に塗り替えてラッキーだったね!
テヘッ、ってか。
ふざけんな!
迷惑極まりない行為だよダンジョンがっ!
帰れなかったら意味無いんだよチクショー!!!
――――――――――――――――
数分後
ライムによって慰められ、何とか紫苑は再始動を果たした。
「取り合えず上層に登って行かないとな。早く帰らないと餓死しちまう」
アイテムボックスにいくらかの食料は入れてあるが、1週間が限界だろう。
しかし、問題がある。
「絶対魔物が強い。会ったら恐らく死ぬレベル」
Aランクパーティーで、やっと61層なのだ。
今の俺だと殺されてしまう。
魔物には会わずに行動する。
まずは72層に行くことからだ。
「いくぞ、ライム」
『オッケー、ご主人』
しばらく歩いていて、あることに気付いた。
(気配が全く無い)
そう、魔物の気配が全くしないのだ。
気配察知を使ってなるべく静かに移動しているのだが、全くと言っても良いほど気配が感じられない。
隠密でも持っているのかと思ったが、姿すら見せていないのだ。
これはおかしい。
やはり、このダンジョンに何かあったのだろうか。
出来れば調べて行きたいところだが、今は帰ることが先決。
そんな余裕は無い。
1時間ほど進んで、階段が現れた。
上に行く階段だ。
下に行く階段で無くて良かったと思いつつも、こんなに簡単に階段を見つける事ができるのだろうかと疑問を抱く。
運150のお陰だろうか……。
でも、幸運なら罠にも掛からない筈なんだが。
階段を登って行って、72層に着いた。
簡単すぎる気がしたが、楽であることに越したことはない。
「よし、第一歩だ。このまま上がっていこうな」
『一緒に頑張ろうね、ご主人!』
そんなライムを撫でつつ、進んでいくと、ゾワリと寒気がした。
危険察知が反応している。
前の十字路からだ。
左の通路から、気配察知に引っ掛かって居ない、何かとても危険な感じがする者がいる。
そう、確信した。
ライムに腰のポーチに入るように指示する。
全力で逃げなければいけないときに、うっかりライムを落としてしまわないための措置だ。
普通に考えればこのまま去るべきだろう。
しかし、俺の場合は好奇心が勝った。
壁に張り付けて、左の通路を慎重に覗きこむ。
あれは、ヤバい。
見た瞬間にそう思った。
正面から戦っては恐らく勝てないであろう相手。
ガザルと同じか、それ以上の圧力を感じさせられた。
そいつは虎だった。
左右それぞれの肩甲骨の辺りから、鋭いナイフのような物が、少し外側に傾いて突き出ている。
腰の辺りで1つになり、尻尾の辺りまで続いている。
触っただけで切れてしまいそうな危険を感じさせる。
尻尾はまるで蛇腹剣のようだった。
左右に振れており、金属が擦れる音が断続的に響いてくる。
こちらに背を向けているため良く見えないが、前足の足首辺りからも、ナイフの様に鋭き物がつき出している。
恐らく反対側もそうなっているのだろう。
あれで切りつけられれば無事では済まないだろう。
そろそろ、ここから離れるか。
本来た通路に引き返そうと、虎の方を見ながら一歩踏み出す。
ジャリッ。
通路に、足の裏で小石を地面に擦り付けた音がこだまする。
しまった。
やっちまった!
だが、後悔してももう遅い。
すでに、虎と目があったのだから。




