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第101話 勇者で魔王だけど旅に出ます



――スタンピード当夜――



王都の住民がスタンピード攻略に湧く傍ら、鬱蒼と生い茂る木々の中にサクサクと木の葉を踏みしめる音が響く。

足音とともに闇夜の中から現れたのは仮面に黒のマントをまとった男。人類最強と称されるサタナルだった。

夜の闇をものともせずに歩くサタナルは何かを探すような素振りを見せていたが、迷いなく一直線に進み出し、やがて足を止めた。


「これか……」


呟いた仮面の先には倒れた木と、それを喰らいウゾウゾと蠢く肉塊があった。サイズとしては人の腰辺りまではあるだろうか。よくよく観察してみると少しずつだが大きくなっているようにも見える。恐らく成長、いや回復しているのだろう。このまま回復を続ければ、とある少年が黒肉団子と称した存在となり、再び王都に襲いかかることになるだろう。

人類最強がおもむろに手を伸ばすとそれは光の膜に包まれた。

肉塊を包み込んだ光の球体は徐々に小さくなり、点となり、そして僅かな肉片すら残さず消え去った。


「これで5つ目……」


人類最強は何も見えない暗闇の中、小さな、しかし誰もが威を感じさせられるような声を放った。


「このまま捜索を続けろ。お前達は手を出すなよ。見つけたら必ず俺に知らせろ。行け」


夜の森から反応はなく、しかし人類最強は満足げに頷いた。


「七星紫苑……」


呟かれたのは肉塊の元となった存在を消し飛ばしたはずの少年の名前だった。

少年は傷つけてもすぐさま回復するという難敵を前に一歩も引かず、激闘の末に細胞の一片すら残さずに焼き払うことに成功した。


ならば何故ここにその残りが居るのか。答えは簡単。それ以前にこぼれ落ちた肉片だからだ。

イビルクリーチャーはスタンピートの戦場に引き寄せられ、森の中から現れた。そこに至るまでに木々をものともせずに倒しながらやって来た。そのさなか僅かに傷ついた際にこぼれ落ちた肉片がさっきの肉塊の正体だ。本人はすぐさま回復するので外傷も見られず、気づけるはずもない。


「……甘いな」


だが人類最強からもたらされたのは厳しい言葉だった。何を思ったのかため息を一つこぼすと、現れたときと同じように木の葉を踏みしめながら木々の闇に消えていった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




翌朝、紫苑一行とそれを見送りにきた者は西の門に集まっていた。城下町をぐるりと囲った壁にある東西南北のある門の内西の門である。


この場に居るのは、サリー、デニス、フェイ、そして何故かいる王女様。何故いるし。


「すみませんシオンさん、ギルドマスターは現在訓練場の清掃中でして……」


「あぁ、そういう……」


部屋中氷まみれにして放置してきたからな。ガザルのせいで地面はボコボコだろうし、まあ無理矢理喧嘩ふっかけてきた罰だと思ってくれ。ポーションで回復したとはいえ、まだ結構キツいし。


「遂に行ってしまわれるのですね」


「まあ、これでも結構伸びたしな」


そもそも初日からここを離れる気だったしな。結果的にギルドに行って訓練したり、ダンジョンに行ったり、スタンピードまで待ったりと悉く出発時期が延びてしまった。そのおかげで皆と知り合えたわけだけど。

そう考える初日で王都を立っていた場合、ここにいるリリーを除いた全員と知り合っていないことになるんだよな。それは嫌だなぁ。


「また会えるよリリー!」


「まあ、うれしいですライム。そうですね、また会いましょう」


そんなことを考えている内にライムが王女様にイケメンムーブをかましていた。

不思議なことにライムとリリー王女は結構仲良しだ。いつの間に仲良くなったんだろうか。王城にいた時間は結構短かった筈なんだけど。

今も掌を合わせてキャピキャピ話している。


「ライムが言ったようにまた会えるさ。それまでのさよならだな」


「おや、乗っかりましたねシオン」


「わかってるなら流せよサリー」


ケモミミをピコピコさせながらからかってくるサリーに、こちらも軽口を帰す。

思えばこの世界に来てから、彼女との付き合いはかなりのものだ。召喚二日目から顔を合わせているだけ合って、かなり気が置けない仲になっている。

最近は何かにつけて燃やそうとする悪癖が解禁されてきたらしくそれが玉に瑕だが。


「そして付き合いが長い奴その2。デニスだ」


「その言われ方はかなり心外なんだけどなぁ」


サリーと同じく付き合いはかなりのもの。その穏やかな気質と冷静な判断で助けられたことは幾度となくある。強さ以前に頼りになる奴だ。まあ、腹黒さが見え隠れするときがあるけどな。

デニスにも挨拶を終え、お世話になった受付嬢に向き直る。


「いやぁ、フェイには迷惑掛けたなぁ」


「ホントですよ、もう……」


彼女には色々と心労をかけた。ギルドでの出会いは平凡だったものの、迷宮帰還時のギルドマスター室に直行。実はあれ、俺も気が急いでいた。一ヶ月近く顔を見てなかったから、早く顔が見たくてさ。

それとドロップアイテムの換金。あのときは大して考えることなく、金が手に入ることしか頭になかった。

その他細々したことでも困らせてしまった。いつか戻ってきたときにでもお詫びをしよう。


「ごめんごめん。じゃあ、ガザルによろしく言っといてくれ」


「ええ、それは良いんですがこれからあなたが行くギルドのことを考えると頭が痛くなりそうです……」


「あはは、まあ諦めてくれ」


「ちょっとは自重してください!!」


憤慨しながら頭を抱えるという器用な真似をするフェイ。そんなことを言われてもなるようになるだけだからね。しょうがないね。何より俺は自分から何かをしたことはほとんどないし。俺は悪くない……筈だ。


「じゃあ、あいつらのことは頼んだ」


「はい、頼まれました」


リリーに頼むのは一言だけ。

彼女は強い。それも訳がわからないほどに。そして頭の回転だってすこぶる速い。

だが彼女は王女だ。王女だからこそできないこともある。それを彼女にやれというのは酷だろう。

とは言えあいつらに何かあったら絶対に許すことはしないが。

まあ、あいつらだってもうガキじゃないんだ。そこら辺は自分でどうにかするだろう。

殺しても死なない奴らだって腐るほど居るんだ。これ以上は野暮ってもんだ。

お詫びに帰還方法でもぶら下げて帰れば十分だろう。


「よし、行こうか」


「うん!」 「ああ」 「はい!」


それぞれ話し終わり、ライム達も戻ってきた。

王都に別れを告げて背を向ける。短いようで長かった。


ようやく俺達は旅に出る。

勇者で魔王だとかいう訳のわからない境遇だけどな。





最初は宵闇亭のおっちゃんも居たのですが途中でめんどくなったのでカットしましたw

挨拶は宿出るときにしてますw

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