第95話 祝宴
あの後冒険者達に穴掘り土下座をきめさせると、他の冒険者にも謝るために散っていた。
そしてあちこちで穴ができたせいで冒険者ギルドに苦情が来たらしい。
他の場所でもやったのか。
別に強制はしてない。
だから俺は悪くないはずだ、たぶん。
「シオン様ぁ~、聞いてるんですか~?」
そこで俺の思考は腰への衝撃で中断された。
フクシアだ。しかも酒臭い。
王城での仕事が終わるとすぐさますっ飛んできて無事を確認された。
どうやらスタンピードの情報が王城の方にも回ったらしい。
そして現在はもう夕方。
無事スタンピードが終わったことに対する祝宴みたいなものをやっているところだ。
「フクシア、お前酔ってるのか?」
「全然酔ってないですよ~」
「古今東西酔ってるヤツはそう言うんだよ」
誰だよこいつに酒勧めたの。多分年齢的にアウトだろ。
それともこの世界的にはオッケーなのだろうか。
「サリー、酒っていくつから飲めたっけ」
「15ですよ」
「あんがと。フクシア、お前今いくつだっけ」
「14です!」
薄い胸を張ってそう主張する。なんで大丈夫です!みたいな顔してんの?アウトだからね、分かってる?
誰だよ酒を勧めたの。
……いた、多分あれだ。女性なら誰彼かまわず酒を勧めている集団が居る。
ご丁寧に下心満載の笑顔まで浮かべているときた。ただ何か行動に移すような素振りはないので様子見で良いかな。おごって貰った方はそこには喜んでるし、わざわざ水を差すのも野暮だろう。
まあ後で締めるが。
ちなみに酔ってライム達に絡む馬鹿は一定量いたので、全員としっかりみっちりOHANASIしました。
いや~、話せばわかるもんだよな。ちゃんと皆さん納得してくれたようで良かった良かった。
凄く納得してくれたのか首がガクガクしていたからな。
そもそもお前らにうちの娘はやらん。
最低でも俺に勝てるようになってから出直してこい。
それから経済力。最低でも一軒家で楽々過ごせるくらいな。貧乏にうちの娘を預けられるわけないだろ。
……あれ?俺まだ16だよな。なんでこの年で父性に目覚めているんだろうか。
あ、なんか目からしょっぱい汁が。
しばらく祝宴を楽しんでいると女性冒険者達がライム達を引っ張っていった。
最初は戸惑っていたようだが今は楽しそうに話している。
座ってドリンクを飲みながら眺めているといきなり後ろからガシッと肩を組まれた。なにやつ。
「こんな所にいたのか坊主!」
振り向いた視線の先にいたのは、俺が今止まっている宵闇亭の店主であるおっちゃんだった。
例に漏れず酒臭い。顔も赤い。
「あん?おっちゃんか。せっかくの稼ぎ時なのに食堂は放置してて良いのか?」
「宿屋だから!俺の店は宿屋だからな!?飯食いに来る奴しかいなくて、客室がガラガラでも宿屋だからな!?」
おっちゃんは自滅するタイプか……。
「あー、そうだったな。忘れてたよ。閑古鳥が鳴いてる宿屋だったな。悪い悪い」
ちなみに俺は死体蹴りするタイプだ。
「なあお前謝る気無いだろ?実は謝るふりして煽ってんだろ?仕舞いにゃキレるを通り越して泣くぞ?」
「おっとそれは勘弁だ。おっちゃんの泣き顔なんてむさくてみれたもんじゃないからな。ここら辺で許してやろう」
あまりの寛大さにおっちゃんがプルプル震えている。感動したんだな当然だ。
震えるのを突然やめると、おっちゃんは疲れたようにため息をついた。
「カマキリ野郎を一瞬でのしたときも驚いたが、あの化けもんを消し飛ばしたときはおったまげたぜ。なんか常識にも疎いところがあるし、ただのクソガキかと思ったらあの強さだ。お前何もんだよ」
しみじみと言ったおっちゃんの言葉に乗っかるように後ろから影が差した。
ってかクソガキ……。
「そうそう。最近冒険者ギルドに登録したようだし、新人としては破格の戦闘力だ。僕にも聞かせて欲しいな」
「しかも情にも厚いときてる。最近の若ェ奴らはそこら辺がなってないのもいるからな。気に入ったぜ『暴威』。俺にもちぃと聞かせてはくんねえか?」
おっちゃんの疑問に首を突っ込んできたのは、ダンジョン内でぶっ飛ばしてしまった優男風の槍使いクルトと、名前と一致しないヤクザのドンのような顔をしたポワンだった。
「確かクルトとポワンだったか。よろしくな」
「これは光栄だね。期待の新人クンに覚えられていたとはうれしい限りだよ」
「俺達の名前も捨てたもんじゃないって事だろ」
いや、どっちも強烈だったから覚えていたとはさすがに言わないけれども。
ところで気になったんだが……
「その『暴威』ってなんだよ?」
「あん?知らねぇのか?」
ぐりんと首を傾げたポワンが驚いたように聞き返す。
「コテン」じゃなく「ぐりん」な。ここ重要。オプションで人を射殺せそうな目つきも付いています、はい。
「今回の活躍と暴れ具合から着いた君の二つ名だよ。冒険者は期待と畏怖から二つ名が付けられる。そして二つ名が付けられた冒険者は大体出世する。良かったじゃないか」
「良くない。なんだよ『暴威』って。俺が危ない奴みたいじゃねえか」
全く、と心外そうにこぼした姿に、聞いてた者が全員こう思った。
『『『『その通りだよ!』』』』と。
「ところで3人は知り合いなのか?」
「あん?まあ、たまに依頼で顔を合わせる程度の中ではあるか?」
「僕もそうだね」「俺もだ」
「って言うかそんなことはどうでも良いんだよ。ほら、早くさっきの質問に答えろって」
ああ、俺が何者か、ね。
そうだな……。
「最近こっちに来たんだが、住んでた所ではここの情報なんか丸っきり入らなくてな。それで常識に疎いように見えるんだろ」
嘘は言ってないぞ。
住んでた場所がこの世界じゃないってことを言ってないだけで。
「じゃあ強さに関しては?あの化け物を消し飛ばしていたし、そこで誰かに師事でもしたのか?」
日本では特に訓練みたいなことはしていないな。あれに勝つのは無理だ。
強いて言うなら……
「故郷での経験を活かしただけだ」
「「「どんな場所だよ」」」
登下校中にDQNに絡まれる場所ですが何か?
その後宴のテンションもあって、意気投合した俺達はしばらく話し込んだ。
「ちょっと良いかシオン」
そこに新たな影が現れた。
声を掛けてきたのは腕を組んで瞠目したガザルだった。
しかも宴にふさわしくないピリピリした雰囲気をしている。
どうしたんだ。
「着いてきてくれ」
「……わかった。じゃあ、俺は行ってくるから」
おっちゃん達に一言断った俺は、ガザルに連れられて歩いて行った。
遂にストックが切れました。
王都編もうちょっとなんだけどなぁ。
明日も上げられるように頑張ります。