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第93話 終決

誤字報告を頂いていたので適用させていただきました。

感謝です!


黒肉団子に吹き飛ばされた魔族が額に青筋を立てて突っかかってきた。心なしか足下がふらついている様だが無事で良かったよ。うんうん。


「オイコラクソ人間!これは一体どういうつもりだ!!良くも俺様を盾にしやがったな!!」


「いや悪い悪い。肉壁ご苦労。最後のはどうしても避けられそうになかったからな。五体満足で生きてるんだし問題ないだろ?」


「あるに決まってんだろうが!!これで文句ないヤツがいたら頭のねじが吹っ飛んでんだろ!ってか肉壁っつってんじゃねえよ!」


「それにしてもお前を見つけた後、肉壁にすることを考えてすぐさま連れて逃げたのは正解だったな」


「最初も最初じゃねえか!?え、なにお前そんな最初から俺を盾にすること考えてたのか!?実はお前悪魔なんだろ!!そうなんだろ!!?」


「そんなに褒めても何もでねえぞ?」


「褒めてるんじゃねえよ貶してるんだよ!わかれよ!!」


何故か魔族が疲れた表情になっている。いや、黒肉団子はやっかいだったからな。疲れるのは仕方ない。


「おい、肉壁……」


「おい、ちょっと待て。ナチュラルに肉壁っての呼ぶのやめろ。俺様にはゼームって名前があんだよ」


「悪い悪い名前を知らなかったからな。俺は紫苑だ」


ニッコリ笑って俺は続けた。


「よろしくな肉壁」


「よろしくねーよ!!今名前教えたんだぞ!?聞こえなかったのかな!?その歳で耳が遠いんですか!!?」


「聞きたいことがあるんだが……」


「無視ですかそうですか」


自らをゼームと名乗ったこの男はため息を吐いた後、なにかを諦めた様な表情になった。

そんなことはお構いなしとばかりに話を進める。


「お前なんで誰も殺してないんだ?」


こいつはあの大量の冒険者を相手にして大立ち回りしていたのに、一人の死人も出していない。

魔族に関して悪い話しか聞いてこなかっただけに、実物との違いが気になっていた。

魔物を引き連れて襲いかかるくせに、こいつは誰も殺していない。だからって襲撃が許されるって訳じゃないが、このちぐはぐさがどうしても気にかかる。


「……そんなの魔王様の指示に決まってるだろうが。知らないのか?戦争じゃ死人より怪我人の方が足引っ張るって話。ここじゃあんま関係なかったみたいだが」


「……そうか」


「もう良いか?俺様はもう帰るぞ。体調も戻ってきたし、わざわざお前につきあってやる理由もねえ。今日は散々だったからな。さっさとおさらばしたいんだよ」


あからさまにうんざりした表情のゼームはそう吐き捨てた。

流石にそれは見逃せない。

たとえ一緒に触手から逃げ回った仲だとしてもだ。……嫌な関係だな。


「このまま逃がすと思ってんのか?わざわざ無傷で弱体化させたんだ。飛んでも無駄だぞ?こっちは追いかける手段を持ってるんだからな」


「ハッ、馬鹿が。誰がそんな手段で帰るっつったよ」


ニヤリと笑ったゼームは懐に手を入れると何かを取り出した。


「なんじゃそりゃ。……石?そんな物でなにするってんだよ」


取り出されたそれは手のひらサイズの石のような物だった。……いや、魔力を感じるから魔石か?


「こうすんだよ。じゃあな」


言い終わると同時に石を握りつぶすと魔力が溢れると共にゼームの姿が消え去った。


「は?」


見えなくなった?だが魔力察知に気配察知だけでなく振動操作によるソナーにもマップにも表示されていない。

まさか瞬間移動でもしたのか?


「……少々遅かったようですね」


声が聞こえたので振り返ると、後方にいて絶対に前に出てはいけないはずの王女様であるリリーがいた。

強いから問題ないのか?まあそれは良いか。


「悪い、どうやら魔族を逃がしたみたいだ」


「いえ、こちらこそ申し訳ありません。余り知られていない情報なんですが、魔族は追い詰められると魔王が作った転移の魔石を使って逃げ出してしまうのですよ。伝え忘れていました」


「じゃああれが転移の魔石だったのか」


「それにしても驚きました。魔族を事を忘れて置いていった事に気づいたときは戻ろうかと思ったのですが、あのまま倒してしまうなんて」


「へぇ、忘れていたのかー。荷物が増えたせいで大変だったなー」


思わずといった様子で手を合わせて喜んでいた王女様にジト目をプレゼント。

だって大変だったんだぞ?ステータスが上がってたから、重さとして大した問題ではなかったけれど、凄く動きづらかったんだからな。


「うっ」


王女様は視線を横に逸らした!

紫苑はジト目を送り続けている!


「そ、それにしてもシオンはいきなり強くなりましたね。まるで最初のステータスが嘘のようです」


あからさまな方向転換。だがそれは俺には効く。

つい俺もスッと視線を逸らしてしまった。

色々しょうがないとは言え騙していたわけだし?


「シオンの事をマコトとユウが気に掛けていたようなんですが良い報告ができそうですね」


おっと、風向きがあやしいぞ?

王女様はたたみかけるように言葉を続ける。


「そういえば王城から通っていたときには会うことを避けていたようでしたね。お話くらいしていけば良かったのに。どうです?今からでも会っていきませんか?」


まるで世間話でもしているかのようにニコニコ話しているがこれはわかってる。

わかって言ってるぞこの王女様。

自分が弱いからって言って、出てったのにどないな顔して会えっちゅうねん。

戦慄の余り思わず関西弁になってしまったじゃないか。


「あの、その件は内密にしていただけると……」


「はい?」


「ごめんなさい!秘密にしておいてください!」


「そうですか……。残念ですがこのお話は終わりにしておきましょう」


くっ。

おうじょつよい。


「それはそうとして……」


さっきまでの緩かった空気が存在しなかったかのように真剣な表情をしたリリーがこちらを見つめて言った。


「戻ってくる気はありませんか?」


どこになんて聞くまでもない。王城にだろう。

なら答えは決まっている。ノーだ。


「いや、やりたいことができたから」


魔王を倒すのとは別口で帰る方法を探すつもりだからな。話を聞く限りでは帰れる保証は無いのだし。


「そうですか、わかりました」


おや?


「どうしました?無理矢理連れ戻すとでも思いました?」


クスクスと笑うリリーにばつが悪くなってつい頬を掻いた。

顔に出てたか?


「いや、そこまでじゃない。ただもう少しねばられるかなと」


「いえいえ、一度決定したのにそれを簡単に覆すのは外聞が悪いんですよ」


「そんなものか」


「そんなものです」


心底感慨深そうに頷くのを見てつい笑ってしまった。





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