プロローグ
第一話 どうやら召喚されました
目が覚めると知らない天井が広がっていた。
「知っている、ちゃうちゃう、天井」
「なんでおまえは、起きて速攻でふざけてんだ??」
傍にいた男子生徒が俺に対して呆れたように呟く。
髪を乱雑に切り揃えたせいか、粗野な印象を受けるその容姿を端的に述べるのならワイルド、と言うべきだろうか。
「え!?知り合いのチャウチャウ(犬種)を天丼にしちゃったの?」
「待て待て待て待て!ふざけた俺が悪かったけど、天井と天丼は字が似てるけど聞き間違えることないよな!?」
わずかに赤みがかった茶髪をショートカットに切り揃えた女子が心底驚いたという風に声をかけてきた。
しかし驚いている風なのは声だけで、その表情は輝かんばかりにニッコニコしている。そんなに楽しいか。
「それに俺は犬を、しかも知り合いを調理するような人間じゃねーよ!?」
「「ダウト!!」」
「俺って即否定されるほどひどいの!?」
「「うん」」
「グハッ!?」
知らない天井だ……、をユーモラスに言ってみただけなのに心に多大なるダメージを受けてしまった。解せぬ。
「大丈夫?七星くん」
2人はこの俺、七星紫苑の幼なじみ。
物心つく前からのつきあいで、現在クラスメイトの須郷優と水戸真琴だ。
「ああ……、これはやばいかもしれん。だが明日提出の数学の宿題をやってくれたら持ち直すはずだ」
「大丈夫そうだね」
……つれない。俺の迫真の演技はスルーされた。つらい。人間とはかくも悲しき生き物か。
人の無情さについて考えていると、周りの声が聞こえてきた。
「これってテレビの撮影か何かか?」
「いきなり場所が変わったな。新しい技術か?」
「……?おやすみ」
こんな不思議な状況なのに取り乱している者が居ない。
状況の把握に努めているのが半数、いつも通りマイペースなのが半数、寝ているのが一人。
「……いや、なんで寝てんだよ。それに布団と枕はどっから出したんだよ」
「……布団は鞄から。……枕は標準装備」
「いや確かにいつも枕出して寝てるけども」
こいつは、授業中も枕を出して寝ている猛者だ。教員も起こすのは既に諦めている。
てか、なんかバリアみたいなの出てきたんだけど。近づけないし、起こせないじゃん。どうすんのこれ。
……いいや、放置しとこ。
……なんか頭が痛くなってきた。
「勇者様方、ようこそドーザ王国へ。どうやら皆様、目が覚めたようですね」
突然の声に振り返って見ると、若く整った顔立ちの女性が立っていた。
金髪碧眼で優しげな雰囲気が滲み出ている。
こちらに礼をしたときに流れ落ちた髪がまるで黄金色の川のようだ。
木製のドアの前に立っており、杖のようなものを両手で持っている。
周りにも囲むように同じような杖を持ち、白いローブをまとった人達が見えるが、服装がその女性だけ豪華なので位が高い人なのだろう。
テンプレ通りなら王女だな。
ちなみに発言の「目が覚めた」については、一回起きてもう一回寝た奴をノーカンにする。
女性は流れた髪を嫌みにならない自然な動作で後ろへ戻し、話を続ける。
「はじめまして。私は勇者様方を召喚したリリー・ナージュです。皆様を召喚したのは現在私たちを困らせている魔王を倒してもらいたいがためなのです」
彼女が真剣な表情で言っている所を見るとあながち嘘では無さそうだ。
現代日本であれば普通なら頭の愉快な奴か、残念な子扱いになるはずなのだが……
「魔王ってあの魔王?」
「てか、ここって俗に言う異世界ってやつなの?」
「ねーねー、お腹減ったんだけど~」
微塵も気にしていない。
それどころか話半分にしか聞いてない。
それにしても魔王を倒すね……。
ありふれているというかなんと言うか。
「ここは勇者様方が住んでいた世界とは違います。私たちは、皆様をお帰しすることはできません。方法を存じ上げていないのです。しかし伝承によると魔王を倒すことができれば帰ることができるらしいのです。どうか、私どもを助けると思って魔王を倒してはくれませんか?」
召喚で無理やり連れてきたためか申し訳なさそうに告げる。
ちょっと頬がひきつっているが。
あまりに自由すぎるこいつらを見て、少し引いたのでは無いだろうか。
まあこいつらを初めて見たら仕方ない反応だな。
「皆、静かにしてくれ!すみません、リリーさん。今の話だけでは判断することはできません。責任者に会わせてもらうことはできませんか?」
集団の中から良く通る声が周囲に響く。
まとまりのない皆を落ち着かせようとしたのは海野拓だ。
このクラスの中では比較的まともな方。
こいつはスポーツ万能で勉強もでき、おまけにイケメンときている。
ちっ、爆ぜろ。
「わかりました。それではお父様の所へお連れしますね。どうかこちらについてきて下さい」
ほっとしたように微笑み、扉の方へ歩き出す。
まあ、まとめられそうな奴が居て安心したんだろうな。
でも俺はこんな奴らが勇者だったらいやだ。
追い返すと思う。
クラスの奴らはそれぞれどうするか考えていたようだが、とりあえず着いていくことに決めたようだ。
話ぐらいはくらいは聞いてもいいかな。決めるのはそれからでも遅くはない。
あと、予想通り彼女は王女らしいな。
「じゃあ俺達も行くか」と二人に声をかける。
頷きを返した2人と一緒に、先に行った皆に着いていく。
3人で歩きながら、俺はここに来るまでのことを思い返していた。
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初投稿です。拙い文章ですが、どうかあたたかい目で見守ってくださったら幸いです。