表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法科学はじめました。  作者: 松代 小介
2/3

女の子召喚しちゃいました。

  聖王暦101年度 魔法学院入学者選抜試験

  

 この年、僕は憧れの魔法学院の入学試験を受けた。

 去年まではその莫大な学費のために諦めていたが今年からなんと試験を設ける代わりに無償化という画期的なシステムが導入されて僕みたいな平民でも入学できる可能性が出てきたのだ。

 もちろん、試験問題は難しいことが予想されるし競争率は熾烈を極めるだろう。

 だけど僕の夢である魔術師の登竜門への切符を誰かに譲る気はない。

 この日のために寝る間も惜しんで勉強してきたんだ。

 自信を持て「アルベルト・ウィン」お前のしてきた努力は他の者の努力を圧倒するはずだ。

 そう自分に言い聞かせて試験会場に向かった。


 その二ヵ月後、合格を報せる通知が僕の家に届き近隣の家まで響くほどの歓喜の雄たけびを上げた。


 

 そして入学式を来週に控えた僕は、再び実家のあるバンエルムから王都ソレイユまで足を運び住むことになる学院寮で入寮手続きをしていた。

 その最中に僕の心は不意打ち的に打ちのめされる。

 それは寮の管理人のおばさんと世間話をしている時のこと。

 「で、アルベルト君は測定会の自信のほどはどうなんだい?」

 「ん、なにそれ?」そう返した僕におばちゃんは開いた口がふさがらない間の抜けた顔で

 「なんだい、あんたもしかして魔法実技測定のこと知らないで今まで過ごしてきたのかい?」

 まるで、この世の終りにのんきにはしゃぐ馬鹿を見るような目でこちらを見ている。

 「え、もしかしてものすごく大事なこと?」無知な僕におばちゃんが簡単に説明してくれた。


 どうやらこの学院の入学式の前日にクラスを決める実力試験があるらしい。

 その試験の内容によってA~Eまで振り分けられて今後の授業カリキュラムが決まる。

 良ければAだし悪ければAから下がっていく。

 年に一度その測定会があり、より上位のクラスに進級できることもあれば逆も然り。

 三回生のおわりに宮廷術師試験を行うのだが、Aクラスであれば試験免除に加えて宮廷術師になった後も優遇される。

 問題はその測定会なんだが二回生と三回生に上がるときのクラス変動はほとんど無いらしい。

 つまり、最初の測定でAをとればよっぽどのことが無い限りBに行くことはないしEをとってしまえば想像を絶する努力をしないとランクアップは難しい。

 数年前の先輩でEクラスの人が、Bクラスの先輩を学園際の催し物の模擬戦で叩きのめしたが残念ながら次の測定会で双方クラスの変動はしなかったとか。

 実力があってそのEクラスの先輩は見事宮廷術師にはなれたが、なった後もEクラス出身というだけで地方に飛ばされて日のあたらない仕事で精神をすり減らしているという。 

 そうならないために、新入生は測定会までの期間に血反吐を吐くような努力をするとか。

 

 その話を聞いて僕は絶句した。自分でも血の気が失せていくのがわかる。

 入学選抜試験を終えた僕は神様に合格を祈り、合格した後は鼻を伸ばしながら嬉々として友人に僕の重ねた努力を語っていた。

 試験終わってからその間なんと半年弱を何もせずただのうのうと過ごしていた僕と、測定会を見据えて努力を重ねていたヤツ。

 測定会でどちらが良い成績を収められるかなんで言わずもがな。

 もはや僕はどこに向かうのかわからない闇列車乗った気持ちだった。

 

 失意に陥る中で僕にはある考えが浮かんだ。

 測定会が完全な実力で決まるのならまだ挽回するチャンスがあるのでは。

 確かに出遅れてはいるが、幸いまだ5日ほどの猶予がある。

 ならばこそ、いまから大魔法の一つでも身に着ければAクラスは無理かも知れないがB,Cぐらいには滑り込める可能性は十分にある。

 そう考えた僕は、おばちゃんに部屋の鍵をもらい荷物を自分の部屋に投げ入れると同時に王都中心部から少し西に在るという国立魔道図書館に走り出した。

 

 「たのむよ、おっちゃん少しでいいから入れてくれよ」

 「だめだ、だめだ。ここには資格をもった魔術師か魔法学院生しか入れないんだよ」

 「だから俺は学院生だってば、入学前だけど」

 国立魔道図書館に魔道書を読みに来たがいいが、どうやら魔術師としての身分証明できるものがないと入れないみたいだ。さっきから入り口に立つ衛兵のおっちゃんに懇願するが入れてくれる気配が無い。


 わざわざ国立魔道図書館に来た理由は簡単だ。

 この世界で魔法を使うためには何個かやり方がある。

 その中で一番スタンダードなやり方が「万物の原理(アルケー)」を知りそれに基づいて自分の魔力を事象変換に必要なエネルギーへと変化させるという方法。

 これは基礎魔法として有名だが空気中に水を作り出す魔法の原理は空気中にある水素(ハイドロ)を二つと酸素(オキシ)一つを魔力で融合させると水が作れる。

 それが魔力の使い方でありそういった現象を故意に引き起こすこと魔法と呼ぶ。

 そしてそういった智識を詰め込んだ先人たちの遺産を魔道書と呼ぶ。

 魔力の使い方を知り、魔道書を読んで「万物の原理(アルケー)」を理解そしてコツをつかめば誰だって魔法を使えるのだ。

 しかし、問題になってくるのは、個々人の魔力保有量と理解力だ。魔力が少なければ先ほどの水だって少ししか作れないし、そもそも頭が悪いと原理を理解できない。

 だからこそ魔術師になるのは難しい。

 

 おそらく、入学のための選抜試験は理解力を測るいわば適正検査のような役割だったのだろう。

 そして魔力保有量は数値化できないから実技で測ろうというのが測定会の魂胆だと考えれば合点がいく。しかし、同時に本人たちの魔法のセンスも視ている。

 だから、課題の魔法とかを指定していないのだ。

 どの魔法を選びどれだけそれを自分で効率的に使えるかを試している。

 

 本来なら、質よりも量で勝負するのが測定会の趣旨としては得策なのだが

 もはや時間がない。

 一週間で覚えられる魔法があるかもわからないのに複数に同時に手を出すのは愚策としか思えない。

 ならば、起死回生を図り高難易度の魔法に一か八か賭けてみよう。

 そう考えて、重力制御とかの魔道書を探そうと決めていた。

 金さえあれば魔道書の複製くらい買えるんだが、高額すぎて俺には手が出せないし。

 だからこそ魔道図書館にきたのに門前払いをくらうとは。

 他にも図書館はあるのだが高額な魔道書を置いているかは疑問だ。


 そんな時、王都に入るために通ってきた東門のはずれに古い館があったことを思い出した。

 あれはたしか旧国立魔道図書館だったはず。

 数十年前に隣国から攻め入られて燃えた魔道図書館。

 そこになら、運よく燃え残った魔道書があるかも。

 可能性は限りなく低いが、淡い希望を抱いて東門へ向かう。

 そのとき既に太陽が沈み月の明かりが王都を照らし始めていた。


 


 僕が、件の旧魔道図書館に着いたとき辺りはもう完全に夜の帳が下りていた。

 幸い月明かりが出ていたので、天井がステンドグラスのこの図書館なら本を探すことはできそうだ。

 しかし、大方予想はついていたが中は埃まみれで少し息がしにくいうえにレンガ式の壁、机や本棚だったであろう木細工に木の蔦などが絡まり図書館の全容を把握することもできない。

 「うーん、やっぱり火事で燃え尽きちゃったのかな~」

 魔道書どころか紙片ひとつ見当たらないために諦めかけていた。

 深い溜息をもらしながら近くの机らしきものに腰をかける。

 当時この国の智識の宝庫だったであろうこの場所がススと埃の被ったレンガの堆積物へと成り果てたことに呆然としていた。 

 智識によって文明を手に入れた人類が、文明進化のためにその智識を燃やすなどなんとも皮肉な話だ。

 そういったことを考えながら月の光りを拝む。

 月の光りをを浴びて光り輝くステンドグラスに心洗われるような気持ちになる。

 そのステンドグラスは神の子と謳われたこの国に生きる者なら誰しも知っている伝説の聖女様を象ったものだった。聖女様は黒い衣も纏い両手を広げ傅く者たちを祝福している。

 それを眺めていて1分ほど経った時、ある違和感に気づく。

 「なんで、あのステンドグラスは割れてないんだ?この場所は火事で燃え果てたはず。なら、ガラスなんて簡単に割れちまうだろ。」その証拠に壁に付いている窓枠付近には窓ガラスが割れた形跡としてガラスの破片が散らばっている。

 熱された空気は常温の空気より密度が低いから上がっていく。

 だったら、あのステンドグラスだって熱にやられているのが自然だ。

 おかしい、何かがおかしい。

 そう思った時には図書館の外壁を登ってステンドグラスに近づくため外に出ていた。


 レンガを伝いステンドグラスに触れられる位置まで来ると中からは見えなかった小さな箱型の金属がステンドグラスの聖女の胸辺りにあるくぼみにはまっていることに気づいた。どうやら服の色と被らせて隠していたみたいだ。

 箱を取ろう右手を伸ばしたときだ。箱に触れられることを拒むかのようにどこからか電撃が放たれ右手を襲った。

 「あぢっ!!」なんだこれは!

 反射運動ですぐに手を引っ込める。幸い火傷も負っていないが一体何が。

 まさか、封印されてんのか?

 そう仮定すれば火事でステンドグラスが割れなかったのも頷ける。

 なにせ封印魔法は高等魔法だ。原理は知らないが物にかければそれを解かない限りは触ることも時が経ち風化することもないという。しっかりと封印すれば100年以上は守り続けるとか聞いたこともある。

 しかし、幸運にももうすでに効力は弱っているみたいだな。火傷すら負わなかったのがその証拠。

 弱っているなら強引に取り出せるかもしれない。

 意を決して右手を再び伸ばす。電撃が襲ってこないぎりぎりのところまで伸ばし、痛みに耐える心構えをつくり勢いよく箱をつかむ。

 「いぢぢぢい!くそぉお!」電撃による痛みと戦いながら箱をつかむ。箱の大きさは手に持ってわかったが本一冊入るぐらいの大きさで重さは思ったよりも軽い、とはいっても手ごたえを感じるぐらいにはあった。

 勢いよくひっぱたのが悪かった。この図書館の天井は丸型だ。つまりバランスがとりにくい。

 バランスを崩して、そこから転がり落ちたのは想像に易いだろう。

 


 頭が痛い。何をどうしたのかまったく思い出せない。

 あれ?綺麗な女の人が人が見える。

 どこかで見たことある気がする。

 その女の人は白い世界で漆黒の衣を纏い、僕に彼女の胸へ飛び込んでこいといわんばかりに両腕を広げている。

 ああ、あの胸に飛び込みやさしく抱擁されたらさぞや気持ちいいだろうな。

 そっか、ここは天国なんだ。彼女はきっと女神さまに違いない。

 ならば、そのたおやかなあなたの胸に飛び込みにに行きます!!

 そして颯爽と駆け出す。

 もう一歩で快楽へたどり着く。

 「ああ、めがみさまぁ!」そう叫び彼女の胸に飛び込んだ。そして彼女は死の淵にたつ病人すら救えそうな笑顔で僕にささやく。

 「気持ちわるいんじゃ、小僧。いい年こいておっ〇いでも吸いたいのか?」

 「・・・は?」え、今なんて?

 「おお、気持ちわるいのう。まったく、こんなヤツに拾われるなんてわしもついとらんな」

 僕が飛び込んだはず麗しい女神様はいつの間にか齢70くらいのおじいちゃんに代わっていた。 



 「だれだ!てめぇ!!」そう叫ぶとそこは先ほどまでいた旧国立魔道図書館だった。

 夢か。なんて夢だ。というか夢ならもっと僕に都合の良い夢を見させてくれよ。そんなことを思いながら立ち上がる。

 「えっと、さっき箱をとろうとして落っこちたんだっけか」結構高いところから落ちたからな、気を失っただけで済んだのは僥倖だった。

 周囲を見渡し箱を探す。

 「あった」箱を見つけてそれを拾うと落下の衝撃のせいか金属の箱は壊れて中に入っている本が顔を覗かせていた。

 「こいつは何の本だ?」表紙に書かれた題名を読もうとするが古代語のような言語で書かれていて読めない。

 魔道書であるかは不明だが、なにか異様な雰囲気が漂うそれはおそらくただの本ってことはないだろう。

 封印されていたことを考えてもなにか曰く付きに違いない。

 「よし、持って帰って調べてみるか。案外高く売れるかもしれないし」そんな独り言を呟いていると

 「コラ!この世界最高の魔導書を売るやつがあるか!!」 と怒られた。冗談だよ、売るわけないだろこんなレアそうなもの。

 「は?ていうか僕はいま誰に怒られた」周りを見渡すが人の気配はない。

 「下じゃ下。おまえさんの右手に捕まれとるだろうが」

 「なんだおまえか。びっくりさせ・・・る、な・・・よぉおお!!」どうやら僕は頭がおかしくなったらしい。

 冷静に考えてみた。確かに、気絶するくらい強さで頭を打ったのだからナニが起こってもおかしくない。だからきっと本とだって会話できるんだ。

 「そんなはずねぇだろう!!」自分で思ったことに自分でツッコむ。

 さすがに本と会話できるほどイカれちゃいないはずだ。

 「騒がしい小僧じゃのう。もうちっと静かにできんのかい」右手の本が俺に忌々しそうな口調で語りかけてくる。

 「つかお前ナニモンだよ!」考えても埒が明かないので気になっていること聞いてみることにした。 

 「わしか?わしは創造の書っちゅうもんじゃ」と軽い口調で返してきた。

 俺が聞きたいのはそこじゃないので改めて聞きなおすことに。

 「いやいや、なんで本であるアナタ様がしゃべっちゃってるのかを聞きたいんだが」

 「わしは魔導書じゃからの」

 「なるほど、いまどきの魔道書はしゃべれるのか。知らなかったよ」これで学院で喋る魔道書とで会っても驚かないで済みそうだ。 

 「そんあわけあるかぁああ!」また自分でツッコんでしまった。駄目だ、こいつといるとペースが乱れる。

 落ち着けアルベルト。相手のペースに飲まれるな。

 深呼吸して落ち着こうと深く息を吸い込んでいるとヤツはこう続けてきた。

 「おまえさん、勘違いしとりゃせんか?わしは魔術師を導く書であって、魔術師が道を示した書ではないぞ。導く書であるわしはしゃべることなんて朝飯前じゃ」

 どうやら、こいつは俺の知っている魔道書とは似て非なるものらしい。

 その後もこいつの話は続きいろいろとわかってきた。


 こいつは自称、神と世界を作った魔導書「創造の書」であるらしい。

 その後、神の命令で教育係として人間に知恵を与えてきたのがこの「創造の書」様であるとか。

 いろいろあって人間が増えて争いが耐えぬ世界になってしまい、力を求めた人間たちによる「創造の書」争奪合戦が始まったと。

 「創造の書」を手に入れた人間の愚かな行動を危惧した一人の人間が「創造の書」を封印。

 封印されたこいつは、封印した人間の一族によって封印された場所がバレそうになる度に違うところに隠されてきたという。

 そしていつしか封印した一族も絶えて長年放置されて、俺と出会うにいたる。


 ぶっちゃけ怪しい。世界を作った魔導書の話なんて聞いたことも無いし。

 嘘ついているようにもみえないが、はいそうですかと信じれるほど僕の心は純粋じゃない。

 「知らぬのも無理は無い。わしは人間にとってもはや毒に等しい存在じゃからのぅ、良識ある人間たちがわしの存在を歴史から抹消しててもおかしくないわい。そしてそんな話を信じろという方が難しいのもわかるんじゃが」

 「いや別に信じないって言ってんじゃなくて、なにか証拠がほしいなぁって。たとえば魔法使えるようにしてくれるとかさ」ついつい願望が口からこぼれてしまった。

 だがもし本当に魔導書とやらが嘘偽りで無いならそれぐらい出来てもおかしくはないだろう。

 「なんじゃ、そんなことでいいのか」まるでもっと大きい要求をされると思っていたみたいに答える。

 「え、マジでできるの?」もし本当に出来るのならば当初の目的である魔道書の獲得以上の成果が手に入る。これは期待に胸を膨らませざるを得ない回答が帰ってきたな。

 「どんな魔法を使いたいんじゃ?」と問われ、僕は即答できなかった。どんなといわれてもな。

 測定会でAクラス入りが出来るような魔法、と言っても通じないだろう。ならばこちらで勝手に希望を出させてもらった方が都合がよさそうだ。

 雷を操る魔法とかか?いやでも、原理を教えてもらっても習得に時間がかかってしまっては意味が無い。

 原理を理解するのが難しいけど簡単に覚えられる魔法がいい。おそらく原理についてはこの万能の御本さまが懇切丁寧に教えてくれるに違いない。

 ならばこの際原理の理解にかかる時間は微々たるものとして考慮しなくていいだろう。

 

 悩んだ末に導き出した答えは「閃光」の魔法(フラッシュ)だった。

 理由は簡単。光について書かれた魔道書は大変稀少で普通に探しても手に入らない。

 それだけ稀少ならその魔法が使えるというだけで魔術師として箔が付く。

 それに光の原理を理解するのは難しいが、理解さえしてしまえば習得は簡単だという話を聞いたことがある。

 根拠の無い噂話でしかないが、あまり考えすぎて習得時間を削るのは馬鹿馬鹿しい。

 「よし、じゃあ光の原理について教えてくれ!」これで僕はAクラス確実だ。内心で大きな高笑いをしていた。

 「原理?そんなもんわしゃしらんぞ」そう返されて、僕は気づけば駄本を折ろうとしていた。

 「いたたたた!なにをするんじゃ小僧!」

 「うるさい!人をおちょくりやがって!真っ二つにしてくれるわ!」

 「う、うそなどついとらんぞ」

 「まだいうか!」

 「ほ、ほんとじゃ。わしを使えば原理など知らなくとも魔法が使えるぞい」すこし泣きそうな声で物凄いことをカミングアウトしやがった。

 「原理なしで魔法が使える?そんなこと」あるわけが無いと言いかけてやめる。

 いやまてよ、確か昔の偉い魔術師の人たちはたしか原理に縛られない魔法を使ったと聞いたことがある。

 御伽噺のような話だし、そういった話があるだけで誰もその存在を信じていない。

 だが、こいつは確か世界の始まりから生きているわけだし。もしその話が本当ならこいつを使えば僕にも原理に縛られない魔法が使える可能性はある。

 だがとなると、この「創造の書」の存在ってかなりやばいんじゃ。

 実際にこいつの力で原理に縛られない魔法を使えてしまったとして、もしそれがこの魔導書の恩恵であるとバレれば僕はいろいろな人たちから狙われたりするんじゃ。

 保身を考えれば、測定会のような目立つ場所では安易に使わないほうがいい。

 しまった、これでは僕の完璧な未来設計図が崩壊してしまう。

 なにか良い方法はないのかと思案する。

 召喚魔法なら?

 たとえば僕が測定会に(ドラゴン)獅子鳥(グリフォン)とともに現ればたとえ魔法が使えなくとも召喚して契約を結んだ実績としてAクラスには入れる可能性は高い。

 しかし魔導書の力の全容が見えないのではどんな魔法が使えるのかもわからない。

 先ほどと同じように期待するだけして裏切られるのはつらい。一応確認しよう。

 「召喚魔法はつかえるのか?」出来無いといったら真っ二つに折るぞといわんばかりに右手に力を入れる。

 「い、痛いではないか。安心せい。召喚魔法なら使えるぞい」

 よし!もくろみどうりだ。

 「ならドラゴンとかグリフォンとかを召喚したいんだけど。どうすればいい」

 「そんな、凶暴な獣を使役したいのか。あんまりオススメしないのじゃが。まぁなにを言っても聞かんだろうし仕方ないのう」そう言うと突如、創造の書が光りだし勝手にページが捲れていく。

 まぶしい。そう感じて目を閉じる。

 発光がある程度収まり目を開けると、目の前の地面には見たこともない幾何学模様が白い光を放ち輝いている。

 先ほどまでは風など無かったのに今は強い風が吹き荒れている。

 「さぁ、呼ぶが良い小僧!うぬが望むモノを」創造の書が叫ぶ。

 「僕が望むモノ。僕が望むのは僕の道を阻むモノを一掃する力だ!その力を我こそが持つと自負するモノよ、俺の声に応えろ!!」ただただ必死に叫んだ。

 叫ぶ必要があったかはわからないが、これから起こる僕の輝かしい未来を想像したら自然と気持ちが高揚し叫ばずにはいられなかった。

 幾何学模様が僕の声に応えるのかのように強い光を放ち回転して始める。

 そして天空から雲を突き破り光の柱が幾何学模様に降り注ぐ。

 風が一層強く吹き僕は吹き飛ばされた。



 光りが収まり風が止んだ。場は再び暗闇と静寂を取り戻し何事も無かったかのように振舞っている。

 召喚が成功したのか確認するため光の柱が降り注いだ場所に視線を動かす。

 光に目を当てられて暗順応を失った今の状態でよく見えない。

 月明かりも雲によって遮られている。

 だが、僕の気持ちに応えるように雲の切れ目から月が顔を出しこの場を照らした。

 やっと見えた幾何学模様の上にはへたり込むような姿勢で膝をついている女の子がいる。

 夜の闇に溶けてしまいそうな黒髪とそれを美しく飾るかのような漆黒の瞳。

 淡黄白色で美しい肌は生まれたままの姿の彼女をより艶やかにしかし同時に儚くも見せていた。

 しかし、この世界に生きる者に黒い髪や漆黒の瞳を持つ者は存在しない。

 ましてそれら両方を併せ持つ者など。

 その事実は彼女がこの世界の住人でないこと示していた。

 

  

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ