二話 見えたり参拝者
神様は、初詣に来る人たちをこのように見ているのかもしれませんね。
流れ星に人は願う。神にもまた、人は願う。都合よく、窮地には何かに願い、助けを請う。人は弱いのだ。そういう生き物である、と私は思っていた。
私は、神として祀られている。何のご利益があるかは、私自身の個人情報が特定される恐れがあるため、伏せておくとしよう。
現代の人間社会と同様、現代の神社会においても情報化が進み、人間社会でいうSNSサービスが普及している。特に、神々は遷都、遷宮、社の移転等で土地が動いたり、神無月で出向くことがない限り、自分の社の外へと頻繁に出かけることがないため、簡単に他の神々とつながることのできるサービスは、あっという間に広がり、賑わいを見せている。その反面、使い魔の仕事が減り、失業が増えていることが神社会の問題になり始めている。
私も数年前から、そのネットサービスを利用し始め、人間社会でいうところの、簡易情報発信アプリケーションである青い鳥に似た「預言」、緑色がメインカラーのトークアプリに似た「線」と呼ばれるものをメインとして利用している。ちなみに、人間社会でいうところの、スマートフォンや、パソコン、タブレットは使用しておらず、神社会で独自に開発、製造された「神器」と呼ばれる媒体を用いている。
「神器」と言えば、古代の神々の戦、事象においては戦を制したり、鍵となるものを指すことが一般的だったが、現代ではそのような通信媒体を指す言葉に取って代わっている。むしろ、若い神々は、そちらの使い方しか知らないのだろうか。神として恥ずかしいものだ。
・・・話がそれてしまった。それでは話題に戻ろう。時は、元日午前零時。年明け前から徐々に参拝客が増え、社の中からも、参拝、お祓いにやってきた老若男女が見えた。
この年末年始にかけ、我々のソーシャルネットワーク内で毎年話題に上がってくるのが、「人間たちの願い事」についてだ。毎年の傾向で行くと、人気の神社、神宮にやってくる人間ほど、欲張って幾つも願い事を願う人間が多く、一方で過疎地では、洗練された願い事をする人間が多いのだという。確かに、私の神宮の参拝客でも、その傾向が見られる。
黒い鋼で出来た長方形のフレーム、これが神器だ。触れると、フレームの枠内に画面が現れ、様々な機能を利用することができる。例えるなら、人間世界のタブレット端末のディスプレイ部分が光の映像に取って代わっているようなものだ。
神器の「線」を開く。グループ「われら、商売繁盛神」のトークが更新されている。
熊本の第二商売神:おいおい、うちは豊作は対応してないぜ、毎年来てくれるおじいちゃんよ…
長野ラブ:そういうの、どこかで言ってあげないと可哀想だよ!
熊本の第二商売神:そうだな。夢に出て言っておくわ
埼玉の商売繁盛:そうしなよ。毎年来てもらってるなら、なおさらダメでしょ
おおきに:せやで、そんなんかわいそうや。ワシ、そのじいちゃんに金流すわ。情報送ってくれ
熊本の第二商売神:個通で送るぞ、おおきに。
・・・どこもこの時期はトラブルや年末年始の移行行事等で忙しいようだ。また神無月までは顔を合わせられないということを考えると、神器が栄えるのもわかる。
自分の社にやってくる参拝者たちの心の声に耳をかたむける。基本的に、こちらから干渉しすぎるということは、神々の組合で制限されているため、誰もを、すべての人々を救うということはできない。そのため、普段は聞き流し、耳に留まったものに対して、少しばかりのご利益を与えることとしている。
『どうか、今年も一年健康でいられますように』
『希望の学校に合格できますように』
うんうん、願う神が違えど、君たちの願いはきっと君たちの努力が叶えてくれるだろう。そのまま頑張ってくれ。こういう人間は応援したくなるものだ。
そんな時だった。珍しい人間が現れる。
『あんまり、考えてこなかったんですけど、受験生になります。この一年間は自分で切り開いていきます。見ていてください ・・・あーもう少し言葉まとめてこよ、オレ。夕方また来ます』
友人と参拝しに来たらしい、苦笑いを浮かべた一人の少年の所信表明。頭の中で自問自答しながらも、自分の願いではなく、意思を見せたその少年に、私の心にくるものがあった。
名前はなんと言うのだろうか。好奇心から、彼に神器を向け、スキャン機能を起動した。名前は、本城 揺戯。よい名前だ。どうやら、近所の高校生のようだ。個人情報はさておき、もう一度来た時の表明を楽しみに待とう。
そして、夕刻。少年は姿を現した。今度はひとりのようだ。・・・そういえば、顔を見て思い出した。確か、毎年元日に朝夕と二回訪れる珍しい少年だ。確か、前に神々の中の話題で出した少年だ。
少年は礼をし、打ち手をし、心の口を開いた。
『さっきはアレでしたけど、言葉がまとまりました。ことしから、進路に向けて動き出しますが、何事にも動じず、真っ直ぐ乗り越えていきます』
・・・綺麗にまとまったな、少年よ。気に入った。できることなら、話をしたいものだが、どうやらこの後お祓いをしていくようだし、少し近くで見てみるとしよう。
玉串を携える神主に寄り添い、少年が祓われる番を待った。そして、少年の番が来た時だった。少年の視線と私の視線が交差した。
『えっ?』
彼の心の声が聞こえた。
『私が見えるのか、少年よ』
ジェスチャーを加えつつ、語りかけるが少年は首をひねった。存在は認知できるが、声は聞こえないのか。
『私が見えるのか?』
彼は頷く。しかし、私たちの『会話』は神主に憚られることとなった。
これは、逸材かもしれない。私は直感的にそう思った。彼のまっすぐで純粋な心が、私を認識するにいったっているのだろう、私はそう判断し、すぐに行動に移した。
すぐに神器を通じ、私は柚凪に語りかけた。
このシーン、神様からの視点ですが、実は前に即興小説で書いたところから持ってきてます。
次回に続きます。