表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神遣いのユラギ!  作者: Atsu
一章 初遣い
11/18

七話 推測、探走

少女がいよいよ今日動く。そう分かったことにより、主人公揺戯ゆらぎ柚凪ゆなとともに、少女の特定に急ぐ。

 寒さにうち震えながらも布団から体を起こす。学習机のライトを灯し、適当なコピー用紙を置いた。昨日、スサノオさまが告げた、少女のヒントを羅列していく。

《同じ制服、学校用カバン、球体型キーホルダー》

キーホルダーと言っているが、鍵に携えているわけではなく、単純なアクセサリーとして使われているのだろう。しかし、この情報だけでは校内から少女を特定することは不可能に近い。アクセサリーをしている女子の方が圧倒的多数だからだ。

 では、球形であることから何か絞ることはできないだろうか。ここでひとつ、思い当たることがあり、スサノオさまに神器を用いて連絡を入れる。直ぐに繋がった。

「おはようございます、スサノオさま」

『おはよう。何かわかったか?』

「いいえ。ただ、ひとつお聞きしたいことがありまして」

『ああ。なんでも聞いてくれてかまわない』

「あのですね。キーホルダーの件なんですが、材質ってなんとなくわかったりしませんかね?」

『うーむ…』

少し、考えるような声が聞こえたので、ニュアンスを変えた。

「簡単に言えは、柔らかそうだったか、それとも、プレートのように、硬そうな材質だったか、そのくらいで結構です」

『そうだな。なんとなく柔らかそうだったかもしれない。なぜかというと、少女のキーホルダーがカバンの持ち手の一番下に垂れ下がるようについていたのだが、カバンの側面に接していた部分が、少し凹んでいたような気がするからだ。つまり、カバンの材質で変形するほど、球体キーホルダーの表面は柔らかいということだ』

「なるほど。ありがとうございます。では、何かわかったら、また連絡させていただきます」

通話を切り、先ほどのコピー用紙に柔らかいとメモした。

 ということは、材質は布地など、一般にワッペンなどに使われるような裁縫向けに使われる材料で作られている可能性が高い。ここまでのワードからパッと浮かんだのが、運動部員がアクセサリーとして下げている、内に綿をつめることで立体的にしたアップリケのようなものだ。それが球形だったのであれば、ボールとして捉えることができ、運動部の中でもボールを扱うような部に所属する女子部員という推測ができる。しかし、あくまでもボールであればの話であるので、まだ確証は得られない。

 考えている内に、時間は進む。早朝から奏邨かなむらさんと落ち合うことになってため、登校する支度を始める。自分の考えをある程度紙にまとめ、カバンにしまう。奏邨さんを待たせるのも悪いし、先に待ってる方が賢明だろう。一月の朝は体にこたえるが、体に鞭を打ち、すぐに家を出た。

 まだ人気のない学校。教室の照明は灯っておらず、まだ暖房の入っていない校舎は、いつにも増して冷たく感じ、氷でできているようにも思えた。白く登る自分の息を見つめたり、雲のない澄んだ空を見上げたりし生徒玄関で待つ。しばらくすると、しっかりと防寒をした奏邨さんが現れ、手を振ってくれた。

「おはよ、ゆらくん」

チェックのマフラーで覆われた、奏邨さんの口元から白い息がふわふわと立ち込める。

「おはよ。寒いし、中で」

「うん。場所はどうしようか?」

「この上はどう? 一応空き教室だし」

生徒玄関口の真上を俺は指差す。そこは選択教室になっており、施錠はされていなかったはずだ。玄関に入ってくる人間を見ることができるため、都合もいいだろうと提案した。

「なるほどね。そうしよっか」


 教室に到着すると、まずは自分が朝方に考えていたことを奏邨さんと共有した。話しているうちに時間が経ち、校門付近に登校してくる生徒が見え始めてきた。

 早速、えびすさまから教えて貰った神器の機能、神の福耳を使うことにした。神器を開き、起動させて耳に装着する。相変わらず、耳に吸着していく感覚が妙に残り、くすぐったいというか、気持ち悪いというか。

「え、なにそれ?」

奏邨さんは俺の耳を興味深そうに見ている。

「えびすさまに教えてもらったんだ。人の心から発せられる声を聞くことができる」

例のごとく、開始の詞を言う。

『福耳、はじめ。風の向くまま。声を聴かせよ』

『承る』

心地よい筝の音が響くと、遠くから生徒たちの声が近づいてきた。きっと、玄関口に向かう生徒たちの言葉だろう。

「へぇ。なんだか便利そうね。何か聞こえる?」

そう尋ねる奏邨さんの心の声が早速聞こえた。

『いいなぁ〜 たのしそう。私もつけてみたいなぁ』

「奏邨さん、つけてみたいの?」

俺の言葉に少しどきりとさせつつ、ワクワクとした声色で奏邨さんは頷いた。

「すごい! よくわかったね」

「こんな感じで、心の声が聞こえるんだ。これを使って、俺の方は情報収集するよ。奏邨さんは目視で不審な人物がいないか見張ってもらっていい?」

「わかった!」

「時間いっぱい見積もって、授業の始まる5分前ぐらいまでだ」

玄関口に向かってくる学生たちが徐々に増え始めた。早朝練習をおこなう部活の部員、早く登校してくる生徒。中にはクラスメイトの姿も見えた。いろんな人たちの発する言葉が神器を通じて聞こえてくる。

『明日から試験準備期間かぁ。明日から学習室混むよねぇ』

『あ、図書室。意外と穴場なんだっけ』

『へぇーラグビー部、新しいマネ入ったんだ』

『明日から部活禁止期間かぁ』

『え〜つまんな。んじゃ、どっかで遊ぼ!』

『と思ったら、赤点取ったら、今回補習あるだった…』

『サッカー部、今日から休みらしいね』

『うちの部はまだ部活できるんだった、ラッキー』

流れてくる言葉から、明日から期末テスト期間に入るということで、多くの部活が部停止になること、教科日程が発表されることが主だった。そういえば、提出課題やテスト範囲が発表され始めるんだった。最近の出来事で、学校のことへの注意力が落ちていることを改めて気づかされた。そのため、自分のテスト対策に憂いでしまいそうになったが、今はそれどころではないと意識を流れてくる生徒たちに戻す。


『声しかと受け止めた』

 授業五分前となり、神器を外し、荷物を纏める。教室を移動しながら奏邨さんとお互いの結果を話す。

「ゆらくん、どうだった? 私の方は特に変な様子の子もみつからなかった。でも、カバンに丸いキーホルダーつけてる子なら、何人か見かけたよ」

「流れてくる情報の大半が期末試験の期間に関することだったよ」

流れてきた内容を大まかに話した。

「確か、呪いの子は『明日の授業が終わった後』って言ってたよね? それって、期末試験に何か関わりがあるのかな?」

「確か、今日の放課後は、教科日程とか諸々が発表されるはずだね」

「ってことは、それに関係するのかな?」

「明日からテスト期間ということは、今日でなければダメってことかもしれない」

「うん。となると、今日じゃないとダメな理由ってなんだろう…」

「…明日からは部活がないから」

「確かに。部活が絡んでくるかもしれないね。例のキーホルダーも部活に所属している子なら、そのことが絡んできそう」

「じゃあ、奏邨さん。部活がないとどうなると思う?」

「うーん。部活でだけ会っていた部員には会わなくなるかも。特に、ほかのクラスだと、ますます接点がなくなるわけだし」


 昼食を即座に食べ終え、奏邨さんと再び合流した矢先のことだった。同時にふたりの神器に連絡が入る。

『二人とも。また一つ、思いだしたぞ。付けていたのはは、二色の柄のキーホルダーだ。暗闇だから、白と黒にしか見えなかったが、球体のキーホルダーは二色だった。すまない! 急遽ほかの神との打ち合わせが入った。続きはまた放課後の時間に!』

そう告げると、スサノオさまが一方的に会話を切った。

「二色か」

「二色。何かあったかなぁ」

スサノオさまの残した言葉を反芻し、イメージを膨らませていると、後ろから声がかかった。

「あれ、本条くん。それに奏邨さんじゃない」

振り向くと、そこにはクラスの委員長、穂村ほむらさんが立っていた。

「あら、珍しい組み合わせね。というか、接点あったんだ。もしかして付き合ってたり?」

男女が人気のないところに二人で居るなら、そう思われても仕方ない。いいもの見ちゃったと言わんばかりに、穂村さんはニコニコとしている。

「いやいや、そんなことないよ? ただの友達だよ! ね、ゆらくん?」

奏邨さんは大慌てで腕を振り、否定する。女子のネットワークを考えると、強く否定するのもしかたないだろう。俺もそれに合わせる形で適当な理由を並べた。

「ああ。実はさ、塾が一緒なんだ。問題教えてもらってたんだよ」

「そうそう。実はそれで最近しゃべるようになったの!」

「あぁ〜。なるほどね」

穂村さんは、俺たちを交互に見定め、ニヤリとはしている。なんとか、言いくるめることができたようではあるが、誤解が解けているかは定かではない。とにかく、話を変えたほうがよさそうだ。ついでに、穂村さんにも、キーホルダーについてのことを尋ねてみた。

「そうだ。穂村さんにも聞きたいんだけど、二色の柄のキーホルダーといったら、どんなものが思い浮かぶ?」

「そうね。ぱっと浮かんだのがパンダ柄だね。黒白の二色だし。でも、二色の柄なんて色々あるからなぁ。斑点模様。ストライプ、チェック、ボーダー…」

次々と穂村さんが模様の名前を挙げていった。

「なるほどね。じゃあ、もしもその持ち主が女の子だったとして、ボールを扱う運動部とかだったら、どの部活が当てはまると思う?」

ボールといったのは、普通の人が考えるであろう球形のキーホルダーのイメージだからだ。

「うちの高校の球技だと、そうねぇ…。バレー、ソフトテニス、テニス、女バス…こんなところ?」

指を下りながら穂村さんは言う。

「そういうのってさ、どういう女子が作ってる?」

「まぁ、裁縫が得意な子よね。あと、マネの子とか」

マネージャー。なるほど。その線は考えていなかった。可能性としてはあり得る。

「今、あげた部活は二色だね」

奏邨さんの言葉に違和感を覚えたため、俺は異論を唱えた。

「待って、奏邨さん。二色とは言ったけど。今上がった部活の大半は違うんじゃない? もし、それらの部活ならば…、スサノオさまは縫い目が入っているとか、ラインが入っていると言うはずだよ。二色なんて表現するのはおかしい」

つまり、線や縫い目の入っていない球を使う部活。

「となると、バレー部?」

「バレー部か。確かに、青と黄色だけのものもあったような…」

「バレー部は部のキーホルダー、つけてなかったと思うよ」

と穂村さんは言う。

「っていうかさ、なんでそんな話が出たの? あと、スサノオさまって誰?」

二人の会話になっていたため、遣い以外にはわからない事を話してしまっていた。ごまかすために即座に言い訳をする。今回は奏邨さんの方が機転が効いたようだ。それに付随する形で、俺も言葉を続けた。

「あぁ、実は塾で忘れ物があったの」

「そうそう。あと、スサノオさまじゃなくて、スガワラさまね。勉強ができる子なんだけど、学問の神、菅原道真すがわらのみちざねを略したあだ名。彼にアドバイスをもらってんだ」

なんとか繕った感があるけども、筋の通る説明すると、穂村さんは納得してくれたようだ。

「ああ、なるほどね。納得。で、二人が忘れ物の主を探していると」

「そうそう。そんな感じ」

「へぇ、頑張ってね。じゃあ、私。選択授業だから」

これで行ってしまわれれば、穂村さんは嘘だと思い、逢瀬をしていたのだと思われるかもしれないので、また質問したいとして、事実であると認識させることにした。

「あ、そうだ。今日の放課後は残ってる? またアドバイス聞きたいんだけど、いいかな?」

「いいけど、多分図書室にいるかも。テスト勉する予定だし」

「わかった。穂村さんありがとうね」

「ええ。じゃ、またね」

穂村さんは去っていく。情報網の中心にいるような人間だけに、変な風に取られていないかが不安だ。

 再び二人だけになったので、話を再開する。

「ゆらくん、マネージャーって話が出たけど、男子の球技って何があったっけ?」

「そうだな、野球、サッカー、テニス、卓球、ラグビー、男子バレー、そんなところか」

「その中で二色だと…」

「サッカー部、か」

サッカー部であれば、球形のアップリケでかつ、黒と白の二色であること可能性が高い。

「そうとわかれば、今日はさらに急がないとね?」

「どうしてそんなに?」

「忘れたの、ゆらくん。朝の会話でサッカー部は今日から休みだって言ってたじゃない」

「学校に残る可能性は低いのか」

「しかも、確かサッカー部のマネージャーは各学年3人から4人いる大所帯なのよ」

ということは、単純計算で十人以上のマネージャーがいるということになる。その全員に話を聞こうとするのは厳しい。

「それはまずいな」

「とにかく、放課後まで手を打っておこうよ」


 放課後になり、再び奏邨さんと決めた集合場所に向かおうとすると、広也ひろやが松葉杖で、こちらに向かってきた。

「いいタイミングで試験期間に入ったぜ。来週頭にはキプスが取れるんだ。ちょうど、テストが終わった頃から、部活に復帰できるぜ」

「そうか。不幸中の幸いだったな」

「まぁ、とは言いつつ、冬場は体幹とか、室内トレーニングがメインになるから地味なめにゅーなんだよな。どうせなら、外でサッカーしたかったぜ。でも今回、改めて俺にとっての部活の大切さが再実感てきた。その点では、いい経験だった」

「そっか。まぁ、とりあえずは進級できるように頑張れよ」

「痛いところ突いてくるなぁ。みとけよ、お前にだけはテスト負けねぇから」

「そうだな。じゃあ、俺も用事あるし行くわ」

よく見ると、広也の背中にはバッグがなかった。

「あれ、帰らないのか?」

「ちょっと呼び出されてな」

「先生か?」

「まーいい報告ができればいいが。じゃあな、邪魔して悪かった」

そういうと、広也は松葉杖を軽々と動かし、立ち去っていった。

 ロスを取り戻すべく、急いで奏邨さんと合流した矢先、再びスサノオさまに神器で呼び出された。

『さっきはすまなかった。続きだ。球体の表側にひらがなが書かれていたのがみえた』

「ひらがな、ですか?」

『そうだ。暗闇だから、暗い方の色に少し重なっていたために、二色という中途半端な形容を伝えてしまっていた。その、ひらがなの部分を除くと、黒と白の六角形と五角形が均等にならんでいたんだ」

「それはつまり、サッカーボール、ですね?」

『ああ。間違いないはずだ。そして、問題のひらがなだが、部分的に見えた。つけられていたのは『かん』という文字だ』

「つまり、名前に『かん』、が入る女子ですか」

その言葉を聞いた瞬間、俺は奏邨さんの柔らかな手に引かれて、走っていた。

「ゆらくん、教室、行くよ!」

サッカー部のマネージャー、かんが、名前につく人物…。まさか。急激に絞り込まれた二人の容疑者。俺のクラスにたどり着くと、やはり、俺たちの様子に、クラスメイトからの好奇の視線が注がれた。そんなことすら全く気にしない奏邨さんに手を引かれ、たどり着いた場所は、ある二人の人物の机だ。横に付けられたフックには、カバンが掛けられていた。カバンには、スサノオさまが形容したように、サッカーボールの球体型のアップリケが付けられており、その持ち主の名前がひらがなで縫い付けられていた。…これだ。

全てが一つにつながった。

「奏邨さんは図書室へ! 俺は”もう一人”を探す!」

「わかった!」

張り出された試験日程の掲示に群がるクラスメイトたちの合間を縫い、俺たちはある人物たちの元へと走り出していた。

次に続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ