あの世
目を覚ますと真っ白い蓋が見えた、正確には影が落ちているせいでグレーに見えるのだが、きっと光が差し込めば雪のように白く見えるであろう。
そう、空に蓋がしてあった、そして視線を少し横にずらせば、その蓋には穴があけられ、そこからは大質量の水が流れ出ていた。
なんというか、表現に困るんだが、空から滝が流れているというんだろうか。
いやそもそもあれは滝なんだろうか。
「滝ってレベルじゃないな、川だ、川」
そして自分の発した声に違和感、え、なにこの幼女じみた声は。
「もしもし?うぇ!?なんだこれ!?」
みみに届く声は、長年のど仏からひりだしてた愛声とは違い、ヘリウムでも吸ったかのように幼かった。
どういうことだ一体、というか此処はどこだ?なんで俺こんな石畳に寝っ転がってんの。
背中には石の感触、しかも肌越しにダイレクトにだ、ってか嫌に開放的だと思えば俺は真っ裸だった。
「服!服がない!ってかなんだこの幼い手は!?いやそんな事よりも」
石畳から慌てて飛び起きた俺は自分の視界に映る自分の小さな手に驚く、俺の手はこんなに小さくもないし、もっと骨ばっていた。
だがそんな事よりも、俺は自分の下半身を見て思わず立ちくらみがした。
「ない!俺の俺がない!杜若 燕路の燕路君がいない!」
そこにあるはずの自分の分身が突如として姿を消していた。
「俺、女になってんだけど!」
つるつ…いやなんでもない、これは予想するにだが、年端もいかないような年齢の女子の身体だ。なんでこんなことになってんだ。
空に蓋と河あることだけでもだいぶ変なのに、24歳男が目が覚めたら推定年齢10歳くらいの女子に変身している。
そこまで分析できたところで、俺は全裸であることが今更ながらに非常に恥ずかしく思えてきた。立ち上がって周りを見渡すと、空以外にも周りの風景が見えてくる。
石でできた建物の数々、すぐ脇を流れる水路、集合住宅と思わしき近くの石作の建物のベランダには洗濯物が干してあり、人の生活がうかがえた。
街の建造物のどれもに日本臭さは感じず、どちらかというとヨーロッパの街並みのようだが、それとも根本は違うようだ。
そして幸いここは人通りの少ない路地裏のようだが、いつだれが通るとも限らない。
「…でさー」
建物の向こうから話声が聞こえて思わず肩が跳ねる。
どどどうしよう絶対こっちくるぞコレ!どうすんだコレ!俺現在露出狂でしかねぇよ!?幼女だからロリ出狂か?いやそんなことどうでもいいし!
俺は近くの建物のベランダに干してあったシーツと思わしき布を引っ掴んでその場から逃走した。
走りながらその布を体に巻き付けて、長すぎる布に足をとられながらも声から遠ざかるように一歩でも先に進む。