特別な存在。
最初から特に理由は無かったのだ。
誰しも人から特別に見られたいと思う事はあるのだから。
だから手段はきっと何でもよかったのだ。
秀でた才の無かった私はその手段として、小さい頃に見てはいけない物が見えるという設定にしただけなのだ。
子供の悪戯だ、悪ノリでそういう経験をした人だって多いんじゃないかと思う。
しかし、私はやりすぎてしまった。
それをこじらせてしまったのだ。
人から特別に見られたい私は、それを否定するタイミングを失い。
また、そういうキャラクターを演じる事によって得られる愉悦感から抜けられなくなってしまっていたのだ。
「あなた見えるんでしょう?」
「これって何か悪いものなのかな……どう思う?」
「どう……ここって何か見える?」
そういう話題を振られる度に。
私は、私というアイデンティティが確立されているのだと陶酔するのだ。
私は特別な存在だと誤認するのだ。
新しい環境に変わる時、新しい出会いがあるたびに。
この嘘で塗り固められた存在定義が強くなるのだ。
「あなたも見えるの……?」
だからこの言葉が返ってきた時は驚いたのだ。「私も見える」とふざけ半分で相槌を打つ人は何人かいたが、それはその場のノリだ。
私のようにこじらせてはいないのだ。
私のようにこじらせた人は、私のように修正できない域まで踏み込んだ人は初めてだった。
心底嬉しそうに、その人は言ったのだ。
同類と出会えた事に喜びを感じていたのだ。
私は嬉しい反面、同じがいては特別の価値が下がるという思いも少なからずあった。
でも、同類には違い無いのだ。
二人で「あそこにいるね」や「アレは危なそうだね」と話をする事に対して疎ましくも楽しかった。
そして、ある夜。
二人で歩いていた時の事だった。
周囲には誰もいなかった、そういう時に話す話題だった。
「あそこにいるね」
と、その子は言った。
「ほんとだ……ちょっと危ないヤツだね」
と、私は返した。
「うん……あ、こっちに来てる……!」
言った途端に私を突き飛ばした。
同時にその子の肩から上が弾け飛び、四散し、重力に引かれて繋ぎ目を失った両腕が地面に転がった。
私は悲鳴を上げながらその場から逃げた。
あの子は本当に見えていたのだ、あの子は本当に特別な存在だったのだ。
特別な存在という、私が悦に入っていた気持ちを、どう感じていたのだろうか。
同類と出会えたというあの子の喜びは、いかほどだったのだろうか。
特別ではない私にその気持ちが理解できるはずもない。
それを理解できない私だけど、目に見えない恐ろしい何かは確かに存在する事は理解してしまった。
理解してしまった代償として、私は念願の特別な存在になれたのだ。
知っているだけの私。
何の力も持っていない特別な私。
特別で無力な私は死ぬまで恐ろしい何かに怯えながら思うのだ。
見えない、見えない、と。